ミステリーSS集

神在琉葵(かみありるき)

文字の大きさ
80 / 89
ミステリー・ツアー

しおりを挟む
確かに、おかしな旅だ。
 観光地を巡ってはいるが、ガイドがいるわけでもなければ何か特別な特典があるわけでもない。
ただ、しおりを渡され、観光地にほったらかしにされるのだ。
 宿も食事もたいしたことはない。
だが、僕は旅行を楽しみに来たわけではない。
きっと、内容が良くないから、このツアーは客が集まらないのかもしれない。
でも、そんなことすらも、僕にはどうだって良いことだ。
 僕はいつものように睡眠薬を飲み、眠りに就いた。



 *



 「では、出発します。」

 次の日も、僕は同じ車に乗せられ、そして、眠っている間に次の場所に移動した。
 昨夜は珍しく熟睡したというのに、良く眠れるものだと不思議な気がした。
ここのところ、僕はずっと眠れなかった。
だけど、この旅行で僕はやたらと眠っている。



 「それではまた後でお迎えに参ります。」

やはり、昨日と全く同じだった。
しおりを渡され、僕は観光地に置き去りにされる。



しおりの通りに、観光地を巡り、そして、土産屋でまたキーホルダーを買った。



 昼食を食べている時…
僕の脳裏にふと疑問が浮かんだ。



 昨日いたのは、確か、京都のはずだ。
そして、今いる場所はおそらく長崎。
それにしては、あまり時間が経っていない。
 移動中、僕は眠ってはいたけれど、それほど長時間ではないはずだ。
なんせ、京都を出たのは10時過ぎ…
そして、ここに着いたのは昼前だ。



 (おかしい…)



しかし、そんなことを訊く気にはなれなかった。
 僕は、今、まともだとは言えない。
 何か思い違いをしているのかもしれない。
そう自分に言い聞かせ、それ以上は考えないことにした。




 *



 「では、出発します。」

 三日目もまるで同じ。
だが、僕の気持ちだけは多少違っていた。
 今日連れて行かれる場所がどこかはわからないが、僕はその場所で人生を終わらせるのだから。
そんなことで、その日は、移動中、全く眠れなかった。
 少し走ると、周りは靄に包まれた。



 「靄がすごいけど、大丈夫なんですか?」

 「はい、御心配には及びません。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...