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 忙しいだと?
よくもそんなことを言ったものだ。
 私にどんな用があるというのだ。
 囚われ人であるこの私に…



せいぜい、散歩くらいしか、することはないというのに…




窓際の席に腰掛け、どんよりと曇った空を見上げた。
 昨日もその前もさらにずっと前も…
ここはずっとこんな空の色をしている。
それは、私がそう望んだからなのだが、本当に気の滅入る色合いだ。




(セシリア……)



私は心の中で、愛しい女の名を呼んだ。




いまだ忘れることのない…忘れることの出来ない女の名前…



アラステアはセシリアにフィリスという新しい名を授けた。



だが、そんなことはどうでも良い。
セシリアだろうが、フィリスだろうが、彼女が私の愛しい女であることに変わりはないのだ。



一生をかけて愛した女…




(セシリア……)




その名を思い描くだけで、私の胸はこれほど震える…
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