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しおりを挟む「私には名前なんてないわ。」
本当の名を言うことも出来ず、私がそう応えると、小僧は少し考えて、私に『フィリス』という名前をくれた。
奴との逢瀬は意外にも楽しいものだった。
今まで気の遠くなる程の長い時間を私は誰とも話さずに生きて来たのだから、それも当然のことだ。
女性のふりをして、奴をいたぶってやるのも面白かった。
だが、ある時、私は奴の言葉から悟ったのだ。
奴が見ているのが、誰なのかを…
「君の漆黒の髪…すごく綺麗だね。」
「笑うと子供みたいな顔するんだね。」
「口元のほくろが可愛いよ。」
そう…奴には、私がセシリアに見えているのだ。
それは、私の心の投影だったのか…
それとも、私にはセシリアの魂が宿ってくれているのか…
とにかく、そのことに気付いた時、私は人知れず泣いた。
彼女はいなくなっても、すっかり離れ離れになっても、それでも、私と彼女はまだ強い絆で結ばれていたと思えたのだ。
そのことに気付かせてくれた小僧のことが、私はなんとなく好きになっていた。
しかし、それでも、私はその後もずっと女のふりをして、奴の心を弄んだ。
奴が、フィリスに恋していることを知っていながら、私は、真実を告げなかった。
本当のことを言ったら、奴がここへ来なくなると思ったからだ。
だが、そんな私と奴の秘密の逢瀬を、ある時、奴の親友であるスコットに知られてしまったのだ。
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