35 / 35
あの町へ
4
しおりを挟む
*
僕はその場を離れ、もう一つの場所へ向かった。
千穂が幸せなことはよくわかった。
だけど、それでもやはりあそこには行かなければならない。
(……やっぱり、辛いよ。)
着いたその場所は、あの頃と少しも変っていないように思えた。
(あの時の君は、いつもとは別人みたいだったね……)
横断歩道をなかなか渡れない小さな子供の手を引き、僕は子供の歩調に合わせて歩いた。
歩道の向こう側には君がいて……
確か、あの日は君の家で晩御飯をご馳走になる筈だった。
珍しいことじゃない。
僕はしょっちゅうご馳走になってたから。
だけど、あの日は君が全部おかずを作ったって言ってて……料理は嫌いだって常々言ってた君が……
(でも、食べられなかったね。)
あと少し…本当に少しだったんだ。
なのに、渡り切る少し前に僕達に向かって暴走する車が……
一人だったらきっとよけきれた。
だけど、僕の傍には小さなあの子がいて……
僕はあの子を突き飛ばすのが精一杯で……
何もかもが一瞬の出来事だった……
君は僕に駆け寄り、狂ったように泣き叫び……
いつもの明るい微笑みはすっかり消えていたね。
僕が現実を受け入れられずにいる間にも、僕の体は焼かれ、葬儀が済んで……
君は、その間も毎日泣き続け……
僕のせいだと思った。
君から笑顔を奪い、君を病人のようにさせてしまった事が辛くてたまらなかった。
だから、卑怯にも僕は君の傍から逃げた。
ずっとずっと長い間、君のことを忘れようとそればかり考えていた。
今も君があのままだったら……そんなことを想像しては、何度も躊躇った。
だけど、ようやく向き合うことが出来てこの町に来られて……そして、あの頃と同じく明るく微笑む君を見られた。
(……良かった……)
ありがとう、千穂……
これで僕も安心して帰れそうだよ。
忘れられたみたいでほんの少し切ないけれど……
でも、それよりもずっと……嬉しかった。
これからもどうか幸せに……
僕はその場を離れ、もう一つの場所へ向かった。
千穂が幸せなことはよくわかった。
だけど、それでもやはりあそこには行かなければならない。
(……やっぱり、辛いよ。)
着いたその場所は、あの頃と少しも変っていないように思えた。
(あの時の君は、いつもとは別人みたいだったね……)
横断歩道をなかなか渡れない小さな子供の手を引き、僕は子供の歩調に合わせて歩いた。
歩道の向こう側には君がいて……
確か、あの日は君の家で晩御飯をご馳走になる筈だった。
珍しいことじゃない。
僕はしょっちゅうご馳走になってたから。
だけど、あの日は君が全部おかずを作ったって言ってて……料理は嫌いだって常々言ってた君が……
(でも、食べられなかったね。)
あと少し…本当に少しだったんだ。
なのに、渡り切る少し前に僕達に向かって暴走する車が……
一人だったらきっとよけきれた。
だけど、僕の傍には小さなあの子がいて……
僕はあの子を突き飛ばすのが精一杯で……
何もかもが一瞬の出来事だった……
君は僕に駆け寄り、狂ったように泣き叫び……
いつもの明るい微笑みはすっかり消えていたね。
僕が現実を受け入れられずにいる間にも、僕の体は焼かれ、葬儀が済んで……
君は、その間も毎日泣き続け……
僕のせいだと思った。
君から笑顔を奪い、君を病人のようにさせてしまった事が辛くてたまらなかった。
だから、卑怯にも僕は君の傍から逃げた。
ずっとずっと長い間、君のことを忘れようとそればかり考えていた。
今も君があのままだったら……そんなことを想像しては、何度も躊躇った。
だけど、ようやく向き合うことが出来てこの町に来られて……そして、あの頃と同じく明るく微笑む君を見られた。
(……良かった……)
ありがとう、千穂……
これで僕も安心して帰れそうだよ。
忘れられたみたいでほんの少し切ないけれど……
でも、それよりもずっと……嬉しかった。
これからもどうか幸せに……
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
あなたはだぁれ? 4まで拝読しました。
怖くはないけれど、そこに怖さはちゃんとある。
矛盾しているようですが、その言葉が適切だと感じます。
ストーリーの短さもアクセントになっていて、不思議な余韻がありますね。
ご感想をどうもありがとうございます!
私は実はかなりの怖がりで、怖いお話が苦手です。
それなのに、あえて無理して、ホラーもどきを書いてみました。
『怖さがある』というお言葉が、とても励みになりました。
どうもありがとうございます。