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合わせてはいけない二人
しおりを挟む「……………。」
「ええっ…と。」
「……………。」
「…とてもカッコいいですね。」
褒めるとフイッと顔を逸らした。
横顔はなんともなさそうな顔をしているが耳は赤い。それを見て、そういえばこの人は照れ屋だったなと前と変わらないその反応にちょっとホッとする。
リザードマンに慕われた時も。
私が褒めた時も毎回、ちょっと耳を赤くしながら戸惑い、照れを隠す。ずっとその姿を小さな背で下から見上げていた。でも今は少し上の視点から間近でその顔が見える。
照れ隠しにフンッと鼻を鳴らすと、コタがクルクルと糸を針に巻き付け、ぴゅっと引く。どうやら縫い終わった様子。
桃色の唇で黒い糸を喰む。
ピンッと張った黒い糸がプツリと切れて、前よりもカッコよくなった黒い羽織がぱさりっとコタの太腿の上に落ちる。
やらなければいけない執務すら忘れてただその姿に見惚れていた。
黒い糸を離した唇が浅く開き、赤く艶やかな舌が唇の隙間から覗く。
「そんなにガン飛ばす程、俺が縫いもん出来んのが意外か。」
そう唐突に話し掛けられて、はたと我に帰る。
話し掛けられなかったら唇に吸い付いていたかもしれない。危ない…。
魔力供給とはいえ、やる事やってきてもこれ以上に下手に手を出して、嫌われたくない。
セーフと思うと同時に、急に話し掛けられて慌てる。手を出しそうだった分、不自然な程、わたわたしたのでコタの眉間に皺がより、スッと距離を置かれた。うぅ…。その反応は地味に辛い。
「その…、あのっ。」
「…………。」
「えっと…。」
慌てている上に話し掛けられた事に舞い上がって、会話を続けようと焦り、逆に言葉が出てこない。何か…。何かある筈だ。褒め言葉とか関連した話題とか!! なんで出てこない!?
なんとか絞り出そうと混乱している頭を無理矢理回転させる最中、コンコンッとノックが鳴る。
ノックの音に振り向けば、苦笑を浮かべるラ・モールの姿が目に入った。
「お取り込み中失礼。叶うならば、耳に入れておきたい事があるのだが……。今、貴殿の耳に入れなければならないは気の利いた口説き文句かな? 」
助力しようか? と揶揄われ、「結構です。」と答えれば、「それは残念だ。」とこの友は悪戯っけのある笑みを浮かべた。
そして笑顔のまま黒い鎧をカシャカシャと音を響かせてこちらに近付くと、コタの前で騎士の礼を取った。
「お初にお目に掛かるコタ殿。拙はラ・モール。魔王ミドリの配下にあたり、将軍として、友として陛下に剣を預けている者。お会い出来て光栄だ。」
「ま…おう? 」
ラ・モールの言葉にピクッとコタが反応を見せ、チラリとこちらを見る。そんなコタの姿にラ・モールは一瞬で何かを察したように頷き、「助力しようか? 」と再度揶揄ってくるので、情けなさに思わず顔を覆った。
正直、言うのを忘れてた。
死んで欲しくないとか。嫌われたくないとか。愛おしい気持ちとかでしなければいけない諸々の説明をしていない。
自分の事ばっかりだ…と、自己嫌悪しつつ、覆った手の指の隙間から見る。すると、「へぇ…。」と、何かを納得して数日ずっと居た部屋なのに物珍しそうな感じで部屋を見て、「ドクロの盃とか、禍々しい玉座とかねぇんだな…。」と何故かガッカリされた。
「い、今直ぐにっ…、今直ぐに用意しましょうか!? 」
「そういう問題じゃねぇよ。俺の独り言にいちいち反応すんじゃねぇ。…ほっとけ。」
「……うぅ。」
折角、会話のキャッチボールが出来そうだったのにしくじった。何故、何故、私はドクロの盃と禍々しい玉座を用意しなかった。
フイッと顔をまた背けてしまったコタを前にしてそんな今更どうにも出来ない後悔でシュンとする。
「貴殿が後悔すべきはそこではないと思うがな…。」
何か残念なものを見るような目でラ・モールがこちらを見て、頰を掻く。じゃあ…、じゃあ、一体、何を後悔すれば…。
わたわたと彷徨った手が安心を求めて何かを掴む。温かくて旅立つ前は大きく力強く感じていたそれは今の私の手より一回り小さいがそれでも握っていると安心する…のだけど。
「……………。」
眉間に皺を避けてコタが握られた自身の手を無言でじっと見てる。それを見て、今度は冷や汗が額に滲む。完全に安心を求める相手を間違えている。
振り払われるかなと思ったが、コタは溜息をついて視線をラ・モールに戻して背筋を正す。
「挨拶が送れて悪かった。俺は辻琥太郎。ここじゃねぇ世界の高校っていう学舎で番をはってたツッパリだ。俺もアンタみたいな強そうな奴に出会えて光栄だ。」
ニッと勝気な笑顔を浮かべて握手を求める。
それは社交辞令とかそういうのではなく、本当に言葉の通り、喜んでいる。好戦的に喜んでいるのだ。
ラ・モールもコタの闘争心に触発されたようで凶悪な笑顔を浮かべて、握手に応じる。
彼の根は戦闘狂だ。
実はラ・モールという名も本名ではなく、彼がこれまで屠った者達が死の間際に呼んだ彼の異名。
『《ラ・モール》。死が来た。』
戦場でその黒き鎧を目にしたら最後。
戦う事も逃げる事も赦されず、気づいた時にはもう鎌のように大きく反った剣が命を刈り取る。
断末魔すらあげる事も赦されず、響くは死の笑い声。
ー 魔王より魔王っぽい…。
完全にコタにロックオンした戦闘狂。
握られた手は互いに力が入りギリギリ、ミシミシと嫌な音が部屋に響く。
「是非とも貴殿が全快したら死合いたい。」
「おう。俺もアンタとサシがしてぇ。」
「だ、駄目ですよ!? 百歩譲って喧嘩は良いですけど命懸けは駄目ですって!! ……いや、そもそも療養中の相手の手を全力で握らないで。ラ・モール。」
慌てて手を引き剥がせばコタの白い肌が痛々しい色に染まってる。何してんのッ、ラ・モールッ!!
キッとラ・モールを睨むとラ・モールが完全に戦闘狂モードオンで何時もの紳士的な性格をかなぐり捨ててバンッと自身の胸を叩いて叫ぶ。
「命を掛けて戦う事こそ、相手に対しての最大の礼儀ッ!! その一戦に命を掛けぬなとは貴殿はそれでも漢かッ!!! 」
「そうだな。拳一つにプライドを掛けてこそ男だ。」
「ふっ、貴殿は分かる漢だ。」
「アンタこそ。」
「「貴殿との死合いが楽しみだ。」」
「凄い…。絶妙に噛み合ってない。」
本当の命を掛けて戦いたいラ・モールと命っていうのは比喩で実際は互いのプライドを掛けた喧嘩がしたいコタ。
互いに意図が噛み合ってないのに意気投合して互いに肩を叩き合う。
ラ・モールの方が体格がいいのでコタの身体が肩を叩かれる度、フラフラする。だからそもそも療養中の相手に何やってんのッ、ラ・モールッ!!
ラ・モールからコタを引き剥がし、コタを抱き寄せ、ペタペタと身体に異常がないか調べる。やっぱり、叩かれた肩は真っ赤通り越して紫になっていて焦って治癒魔法をかける。
肌は元のような綺麗な白に戻り、ホッと胸を撫で下ろす。すると眼下で私を少し見上げ、目を丸くしていた。
その眼差しは何処か優しく感じて胸の辺りがギュッとする。
「…ラ・モール。私に用があるのでしょう? 伺いますから行きますよ。」
「だが、拙はこの御仁と死合いに対してもう少し熱く語り…。」
「行きますよ。」
パッとコタを離し、ラ・モールの首根っこを掴む。やめろと言うのにまだギラギラと目を光らせる彼を引き摺って部屋を出た。
パタリと扉を閉めると未練がましくラ・モールは扉をじっと見る。
「貴殿は本当に今、この部屋を出て良かったのか? 」
その問いの意図が分からず、首を傾げると眉を下げ、頰を掻く。その表情が意味する事も全く分からない。
「貴殿はまだまだ未熟で発展途上だな。身体も…心も…。」
「それはどう言う…。」
「拙に友人を甘やかす趣味はない。分かりたいのなら己が心でしっかりと考えて答えを出せばいい。貴殿も…あの御仁も。」
そう大人の顔をしてラ・モールは一歩私の前を歩き出す。そんな彼の言葉がその表情が私にはまだ分からず、首を傾げて彼の後を追う。
「そういえば要件って? 」
「いや、ただ古い約束が砕けてしまうやもしらないということを貴殿の小耳に挟んでおこうと。」
「古い約束? 」
「大昔に秘密裏に交わされた人族と魔族の約束。…勇者と魔王の戦いについての規約だ。」
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