押しかけ花婿は邪竜の贄姫

きっせつ

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人の道理

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「悪い魔王め。俺が成敗してやる」

「へ??」

バシバシっと容赦なく頭に振り下ろされるバルムンクなる枝。
痛い。全く、痛くないけど視覚的に痛い。僕は慌てて、頭を守る為に前足で頭を覆う。

「ほら、どうした。魔王。やり返して来いよ!」

かかって来いとユランは更に枝で僕を叩くが、それだけは出来ない。だって、僕は身体が大きい。下手に抵抗すればユランが怪我をしてしまう可能性がある。

「他の遊びにしないかい? 僕、叩けないよ」

「リーダーの言う事は絶対なんだぞ! 竜は悪い奴だから俺が成敗するんだ」

「ゆ、ユランくん。やっぱり、やめようよ。こ、こんなの可哀想だよ」

「なんだよっ! マークもやりたいって言ったじゃん」

「竜ちゃんをいっぽうてきに叩くなんて、こんなの遊びじゃなくてただのイジメです」

「竜ちゃんをイジメるユランなんてキラーイ」

「なんなんだよっ! 遊びたいって言うから遊んでやったのに何なんだよ!! 竜ちゃん。竜ちゃんって、みんなそればっかりじゃんっ!」

どうして、こうなってしまったのか?
ユランはみんなに責められて泣き叫び、更に僕を叩く。

「みんな大っ嫌いだ。父ちゃんも母ちゃんもッ。ここに来る前はいっぱい友達が居たんた。俺は前の村の方が良かった。竜が偉いのかよっ! なんで、俺ばっかり。俺ばっかりっ!!」

段々と叩く勢いも強くなっていく。
止め方が分からない。僕に怒ってるのか。それとも違う何かに怒っているのか。途方に暮れながら叩かれていると、不意に振り下ろされるバルムンクなる枝を誰かが掴んだ。

その枝をその人物は投げ捨てて、底冷えするような銀色の瞳でユランを睨む。

「ここで何をしている?」

ユランはクライスを見上げ、まるで蛇に睨まれた蛙のように固まった。ミラもマークもルーイもみんな、青い顔で目に大粒の涙を浮かべてガタガタと震えている。

「クライス?」

「ルーベンス。そこにいる三人の不法侵入者を捕らえ、親に引き渡せ」

「御意」

三人の後ろに現れたルーベンスはルーイとマークの肩を掴んだ。二人はビクリッと震えたが、素直に差し出された手を掴み、ミラは涙を堪えながら「ごめんなさい」と僕に謝るとルーベンスの後に続いて去っていった。

「お前は別だ」

地を這うような恐ろしい声に残されたユランはガタガタと震えた。腕を乱暴に掴まれ、恐怖のあまり失禁した。

「ク、クライス待って!」

ズルズルとユランを引き摺りながら去っていくクライスを呼び止めるが、クライスは止まらない。

何かマズイ気がする。
クライスは怒りん坊なので何時も怒っているが、怒り方が何時もと違う。

慌てて追い掛けるが、木が行く手を阻み、クライスとの距離がどんどん離れてしまう。人の姿を取り、屋敷に慌てて走るが、クライスの姿を見失ってしまい、勝手の分からない屋敷でクライスを探すが、見当たらない。

途方に暮れて、メイド達に聞いても渋い顔をして教えてくれない。


「オランジェ様。その姿で裸で歩き回らないでください」
 
探し回っていると後ろからシーツを掛けられて、困り顔のルーベンスがメイド達に服を持ってくるように指示を出す。だが、今は服なんてどうでもいいんだ。

「ミラ達は?」

「あの少女達ならば親元に帰しましたよ」

「ユランとクライスは何処?」

「それはクライス様にお任せください」

「クライスはユランをどうするつもりだい? 話によってはお任せは出来ないよ」

食い下がれば、ルーベンスは困り顔で僕を見る。負けじとじっと見つめれば、ルーベンスは何かを一考して口を開いた。

「クライス様にとって、オランジェ様を掛け替えのない大切なお方です。そんな貴方が暴行を加えられた。それを赦せると思いますか? それに、クライス様は神竜様を守護するエルドラド子爵でもあらせられる。貴方を守る為に裁くのは当然の事かと」

「ユランのした事はそこまで酷い事かい? それに僕は君達の言う神竜というものではないよ。ただ君達とは違う種族というだけで、偉くもなんともない」

「貴方はそう思っていても世間では違います。貴方が違うと言っても世間からしたら神竜様であらせられるように、貴方が暴行ではないといっても、クライス様の目からすれば暴行だった」

「認識の誤差って事かい?? なら、尚の事、誤解を解くべきだよ」

「…私は貴方にこれが人の道理だと大人しく納得して、部屋で待っていて欲しいのですが」

「何故、部屋で大人しく待ってる必要があるんだい??」

不思議だ。何故、ここで道理の話が出てくるのか。眉を下げ、首を傾げれば、ルーベンスは悩ましげに腕を組んだ。

「逆に何故、貴方はユランという少年を庇うのですか?」

「庇う? ルーベンスは変な事を言うね。僕だってクライスがいつも通りなら任せたよ」

「それは…。ですから、貴方が暴力を受けて坊ちゃんはお怒りになられてるのですよ」

「ルーベンスは本当に変だね。なら、何故、冷静じゃないクライスを止めてはダメなんだい?」

ルーベンスは反論しようとして、言葉を詰まらせる。その様子に本当に変だと首を深く傾げた。

「変なの。クライスが必ずしも正しい訳でも、なんでもないのに、何故何時も君はクライスの言葉を優先するんだい?」

ただただ不思議で首を傾げるが、ルーベンスは暗い顔で何もない床を見つめた。

「私には…、私のような罪人が坊ちゃんの言葉に異議を申し立てるなんて出来ませんよ」

僕の言葉に完全に俯いてしまったルーベンスを見て、頰を掻く。

「君が犯した罪は知らないけど。本当にクライスの事を優先したいなら、止める事も大事だと思うけどね」

人の道理とは本当に難しい。
言いたい事も言えないなんて、服よりよっぽど窮屈だ。



「お待ちください。息子の罪は私の罪です。どうか、どうか、息子でなく私をお裁きください」

状況はやはり、芳しくない。
階段下から悲痛な声が聞こえる。その声にルーベンスを見やれば、その目は迷いに揺れる。
その様子に思わず苦笑して、僕はメイドから渡されたローブを着て、階段の手すりを乗り越えた。

「僕はしたいようにするよ。ルーベンスもきっとそうした方がいい。何も言わずに後悔するよりずっと良いに決まってる」

飛び降りた僕に驚き、ルーベンスは目を見開く。
慌てて、階段に駆け寄ったが心配ご無用。
僕は龍。飛ぶのには馴れっこ。魔力で浮力を体に付与して、ゆっくりとクライスの横に降り立った。
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