押しかけ花婿は邪竜の贄姫

きっせつ

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いざ、妙案が火を吹く時

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「よっと」

着地した勢いで、ふわりと広がる白いローブ。
広がるローブのその奥で怖い顔をしていたクライスがギョッとした顔をこちらに向けた。そんなクライスをギュッと抱き寄せ、物申す。

「ストぉップ。僕の話を聞いておくれよ」

「おまっ、何やっ…。ゴホンッ。話し合いの邪魔だ。後にしてくれ」

他人行儀な態度で目を逸らし、腕の中から逃げようとするクライス。だけど、後では意味がないので、逃げようとするクライスの顔が胸に埋まる程抱きしめた。

「わぷっ! お前はっ、お前は恥じらいというものを持てよ!!」

「うん。何時ものクライスの怒り方だね。君はこのくらいが丁度いいよ」

「何の、何の話だ」

いつも通りの怒りん坊なクライスの姿にウンウンと満足して頷き、クライスと向かい合う三人の人間達を見る。

泣き過ぎて目が赤く腫れてしまっているユランと、それを守るように抱き締める女の人と二人を守るように抱き締める無精髭の男の人。

おそらく、二人はユランの父と母。
「その声…、竜?」と呆けながら零したユランの言葉にユランの母は僕の前で平伏した。

「神竜様。神竜様っ。どうか、どうか、息子ユランの代わりに私を罰しください」

平伏するユランの母の隣でユランの父も平伏し、呆けるユランの頭を掴み、地面に擦り付ける様に平伏させる。

「ユランがしでかした事が如何に愚かで度し難い事かは私も妻も分かっております。私達二人の命でユランの命までは勘弁してくださらないでしょうか?」

下げられた三つの頭。そして、ユランを睨むクライス。
ついつい困って眉が下がってしまう。

「思った以上に事が重いね。僕はユランと遊んでいただけだよ。ただユランが提案した勇者ごっこなるチャンバラが僕には不向きだっただけの話なんだよ、クライス」

そう話し掛ければ、クライスは鼻で笑う。

「あれが遊び? 抵抗しない相手を木の棒で袋叩きにして遊びか。とんだ醜悪な遊びだ」

晒し出されるクライスの怒りに三人は震える。
確かに起こるクライスの顔はちょっと怖い。だけど、クライスが三人から庇う為に自身の背後に僕を匿おうとする姿が嬉しくて少し頬が緩む。

「ありがとう、クライス。僕の為に怒ってくれて。でも、ほら。僕、人の力で殴られた所で痛くないんだ。刺されても平気だったでしょ?」

「平気だから、傷付かないから叩かれて良いなんて道理があってたまるかっ。不条理に暴力を振るわれて、やられっぱなしなんて二度と御免だ」

「やられっぱなしじゃないよ? だって、君が怒ってくれたから」

「ね?」と、笑い掛ければ、苦しさを吐き出すように叫んでいたクライスは目を見開き、何かを耐えるように唇を噛んだ。

僕はクライスが自分の家でどんな扱いを受けていたなんて知らない。知らないから同情なんてしない。

そもそもクライスに同情は必要ない。
だって僕の知るクライスは転んでもタダで起きる性格ではないしね。そして、そんなクライスにはこうと決めたら引かない頑固な所がある。

彼はきっと、僕が大丈夫だと言っても、「それはそれ。これはこれ」と言って報復を完遂する。
だが、僕だって無策で彼等の間に割って入っていない。今こそ、ここに来るまでにクライスを止める為に考えた僕の名案が火を吹く時。

「所で話は変わるのだけど、クライスが言ってた欲しいモノを僕は、一つ思い付いたんだ」

「は?」

僕の言葉に素っ頓狂な声を上げるクライスにしめしめと満足して頷く。眉間に皺を寄せ、何を言い出す気だと言わんばかりの顔でこちらを見るクライスに自信たっぷりに僕は言い放つ。

「友達! 友達が欲しいっ。友達と遊んでて喧嘩してしまったのなら、しょうがない事じゃないかい?」

「あ"?」

友達ならば多少喧嘩しても御免なさいで仲直りだという事を僕は知っている。
神竜と平民という身分差が問題なら身分の差を友達で埋めてしまえば良い。不法侵入が問題なら公認の友達として入口から入ってくれば良いだけの話。

解決だねとうんうんと頷いていると脛を思いっきりクライスに蹴られた。

「ひ、酷い。何故、蹴るんだい!?」

「お前は俺に喧嘩売ってんのかっ」

「な、なんでそうなるんだい??」

「こんのッ、お人好しのポヤポヤ竜ッ!! なーにが友達だ。名案だと思ってそうなのがより腹立つっ! 収拾の付け方が余計面倒臭くなっただけじゃ、ボケ」

脛を蹴るだけじゃ飽き足らず、腕に手刀を落とされた。痛いっ。痛くないけど、視覚的に痛い。

ユランより君の方が暴力振るってるじゃないか。そう反論する間もなく、状況について行けず目をぱちくりさせていたユラン達にクライスは鬼の形相を向ける。

「ヒィッ!?」

「いいか。よく聞けっ! お前ら不敬罪は知ってるよな。国王陛下を棒で殴り付けたらどうなる?」

「は、はい。処刑です」

「なら、国王より上の神になんて手を出したらどうなるかくらい分かるよな」

「い、一族郎党処刑ですか?」

「かなり考えが甘いがまぁ妥当の範疇だな。世の中ってのはそうゆうもんだ。聞いてるか、クソガキ」

「ひゃ、ひゃいっ!」

詰め寄るクライスに怖気付く三人。
しかし、もう僕は止めない。だって、彼の今の怒りの矛先は三人ではなく、僕だから。

「お前がやらかしたのは今、お前の母親が言った罰を与えられても仕方ない事だ。覚えておけよ、クソガキ。それが一般常識だ」

誰よりも暴力的なクライスは怯えるユランの前に立つと拳をその頭に振り落とした。
ユランは目にいっぱい涙を溜めて痛がる。殴った拳が痛くてクライスも一瞬泣きそうだったが、ポーカーフェイスをその顔に貼り直した。

「そもそも常識や罰やら言う以前の問題だ。今、殴られた頭は泣く程に痛いんだろ。なら、木の枝はもっと痛いだろうな」

「ぐすっ…。ひっぐ。うん」

「いきなり、殴られて、怖いし。悲しい。なら、竜だって、遊びだといきなり木の枝で殴られて怖いし、悲しかったと思わないのか」

クライスの言葉に涙がこぼれ続ける瞳を大きく見開いて、ユランはクライスの背後にいる僕を見た。その途端、ユランは大声を上げて泣いた。

「ごめん…。ひぐっ、叩いてごめんなさいっ」

わんわんと泣いて謝り続けるユランにクライスは納得いかなそうに盛大にため息をついて、ユランの両親をビシッと指差した。

「自宅謹慎だ。両親にしっかり一ヶ月絞られてこい。話はそれからだ」

ふんっと鼻を鳴らすクライスを前にユランの両親は顔を見合わせ、子供みたいに泣きながらユランを抱き締めた。

その光景を何処か遠くの出来事のようにクライスは暫くぼんやりと眺めていたが、ルーベンスが来ると饒舌に指示を飛ばす。

「他三人は不法侵入で一週間謹慎」

「…よろしいのですか?」

「よろしくないわっ。しょうがないだろう。お前は俺が嫁のおねだりも聞けない甲斐性なしに見えるのか?」

「いえ、滅相も御座いません。ただ…」

ルーベンスはユラン達を複雑そうな顔で見つめて、「何でも御座いません」と三人から目を逸らし、自身の仕事へと戻っていった。

やがて、泣き止んだユラン達家族は何度も何度も僕達に頭を下げ、帰っていった。

そんな三人を手を振って見送る。これで万事解決だねと森へ帰ろうと身を翻すと、ガッと腕をクライスに捕まえた。

「で? なんで、お前は不法侵入者について、俺に報告しなかった?」

なんでだろう。僕を掴むクライスの顔は不自然な程笑顔なのに無茶苦茶怒っている事が何故かヒシヒシと伝わってくる。

「えーと。不法侵入者って言っても子供だからいいかな、と」

「へぇ…。それで俺が居ない間に子供達と楽しく遊んで、まだ俺すら贈った事のないプレゼントをもらって喜んでいた訳だ。へぇ…」

僕は今まで生きて来て、ここまで怖い「へぇ…」を聞いた事はない。
タラタラと冷や汗を掻く僕を見上げて、クライスはドスの聞いた声で恐ろしい事を言う。

「お前への説教は終わってないからな?」

そこからのクライスは長かった。
彼の説教は二時間にも渡り、僕は耳にタコが出来るくらい報連相の大切さを教え込まれた。

怨嗟のようにぶつぶつと「俺より子供か。このショタ好き竜め」と恨み言を吐かれ続けたのだ。

そもそも、ショタ好きってなんだい? 
子供に好意を持つ事はそんなに悪い事なのかい。
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