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来訪者
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不思議だ。
ルーベンス達は何時も驚く程に時間に正確で、皆、屋敷の細かなスケジュールを把握してる。
そんな人達だから、来客の存在を知らないなんて不思議。
「でも、居るよ? 屋敷の正門の前に僕が嗅いだ事のない人達が三人。後、馬が二頭」
「馬…。馬車での来訪者ですか」
ルーベンスは訝しみ、その眉間に皺を寄せる。「クライス様に報告を」と近くに居た使用人を走らせ、自身も状況を確認しようと玄関に向かう。そんなルーベンスの後を僕もついて行く。
「オランジェ様。私が確認致しますので、ダイニングでお待ち頂けないでしょうか?」
「いや、大丈夫だよ。そっと遠くから確認して満足したら森に戻るから」
「大丈夫。君達の邪魔はしないよ」と胸を叩けば、「そういう問題ではないです」と中々と冷ややかな返答が戻って来る。
でも、気になるんだから仕方がない。結局、僕が戻らない事を悟るとルーベンスもそれ以上言わないので僕はルーベンスを邪魔しないように気配を隠してついて行く。
謎の来訪者がどんな相手か。
気になってルーベンスが出る時に開けた玄関の隙間から覗いて思わず、ひくりっと表情が強張る。
慌てて階段を転げ落ちるようにして、こちらにやって来るクライスを見て、僕は困って眉を下げる。
「どうした!?」
「クライス。どうやら彼等は君を拉致するより押し掛ける方が早いと判断したみたいだね」
「は??」
何を言ってるんだとクライスは僕が覗く扉の隙間から来訪者を一緒に覗く。
法衣と呼ばれる白いローブに竜の紋様の首飾り。そんな特徴的な装いの二人が目に入るや否やクライスは盛大に舌打ちした。
「チッ! 断ったら勝手に押し掛けて来やがった」
竜神教神官。四年前、城で何度か会った事あるその特徴的な服装の彼等は竜を祀り、竜に生涯を賭して仕えるとても変わった人達。
そして、今のクライスにとって、是非とも関わりたくない人達。
どうしたものか?
《敵》を認識した眼前のクライスは恐ろしい程完璧に怒りの表情を仕舞い、笑顔を装着する。
「お前はとっとと森に戻ってろ」
ドスの効いた声で僕を脅すと、《敵》を打ち負かす為に笑顔のクライスは迷いなく神官達の元へと突っ込んでいく。
◇
「いやー、突然いらっしゃるので驚きました」
そう和かな笑顔で神官達を門の前で出迎え、クライスは神官が口を開く前に更に言葉で追撃する。
「いやー、それにしてもおかしいですね。貴方がたの来訪の報せはこちらには届いてないと私は記憶しているのですが? ……ルーベンス。手紙の整理を怠ったったのか」
「いえ、今日も朝に手紙の整理をしましたが、そのような手紙を見た記憶は……。ですが、神官様方が報せも無しに来るなどあり得ない話ですから見落としたのやもしれません」
「そうだな。竜神様に仕える徳の高い神官様方が来訪前に一報送るという初歩的な礼儀を欠くなどあり得ない話だ」
一見、こちらに非があるかのようにクライスとルーベンスは深刻そうな顔で話し合う。しかし、クライスもルーベンスも報せなんて来てない事は重々承知の上。自身達が悪者にならないように立ち回りながらの全力の嫌味だ。
相当この嫌味は神官の一人には効いたようで、若い眼鏡をかけた神官は表情が引き攣っている。クライスは勿論、全力の悪意で動いているが、ルーベンスもそれを止める気がない。寧ろ、全力でサポートしてる。
そんなに君達は神官が嫌いなのかい??
眼鏡の神官が言い返そうと口を開くが、その前に隣に居たお爺ちゃん神官が頭を下げた。
「いえ、そちらの不手際では一切御座いません。申し訳ない」
頭を下げたお爺ちゃん神官を見て、「そんなっ! 頭をお上げください」と何故かクライスではなく、眼鏡の神官がそう声を掛けた。クライスは冷めた目でその眼鏡の神官を見たが、すぐに視線をお爺ちゃん神官に戻した。
「本当に突然の事でしたので、こちらは歓迎の用意も出来ておりません」
「いえ、突然押しかけた身で歓迎して頂こうなど烏滸がましい。私はただ一度貴方方と腹を割ってお話しさせて頂きたいだけなのです。エルドラド領、竜神教、双方のこれからの為に」
クライスの遠回しの「帰れ」をかわし、お爺ちゃん神官はクライスの言葉の追撃よりも先に言葉を紡ぐ。
「さて、ご挨拶がまだでしたね。お初にお目に掛かります、エルドラド子爵様。私の名はレヴィアターノ。普段は役職の名をとって大神官と呼ばれる者です。そして、こちらが…」
「神官クルシェと申します」
そのご挨拶にクライスは相手に悟られぬくらいの一瞬、心底嫌そうな顔をした。しかし、負けじと笑顔を再度、貼り付けてルーベンスに指示を出す。
「大神官様方を応接間にお通ししろ。後……」
大神官達と向かい合っていたクライスがくるりと玄関にいる僕を見た。僕は慌てて扉に隠れるが、気になってもう一度隙間から覗くと怖い顔で笑うクライスと目が合ってしまった。
なんてこったい。
クライスは何も言ってないのに「さっさと森に戻れ。のろま竜」と言われてる気がする。
マズイ。このままここに居たら確実に説教三時間コースだ。
説教は嫌なので聞きたくないと耳を押さえながら僕は必死に森へと逃げる。
決めた。僕は今日は絶対森から出ない。絶対出ないったら出ない。
ルーベンス達は何時も驚く程に時間に正確で、皆、屋敷の細かなスケジュールを把握してる。
そんな人達だから、来客の存在を知らないなんて不思議。
「でも、居るよ? 屋敷の正門の前に僕が嗅いだ事のない人達が三人。後、馬が二頭」
「馬…。馬車での来訪者ですか」
ルーベンスは訝しみ、その眉間に皺を寄せる。「クライス様に報告を」と近くに居た使用人を走らせ、自身も状況を確認しようと玄関に向かう。そんなルーベンスの後を僕もついて行く。
「オランジェ様。私が確認致しますので、ダイニングでお待ち頂けないでしょうか?」
「いや、大丈夫だよ。そっと遠くから確認して満足したら森に戻るから」
「大丈夫。君達の邪魔はしないよ」と胸を叩けば、「そういう問題ではないです」と中々と冷ややかな返答が戻って来る。
でも、気になるんだから仕方がない。結局、僕が戻らない事を悟るとルーベンスもそれ以上言わないので僕はルーベンスを邪魔しないように気配を隠してついて行く。
謎の来訪者がどんな相手か。
気になってルーベンスが出る時に開けた玄関の隙間から覗いて思わず、ひくりっと表情が強張る。
慌てて階段を転げ落ちるようにして、こちらにやって来るクライスを見て、僕は困って眉を下げる。
「どうした!?」
「クライス。どうやら彼等は君を拉致するより押し掛ける方が早いと判断したみたいだね」
「は??」
何を言ってるんだとクライスは僕が覗く扉の隙間から来訪者を一緒に覗く。
法衣と呼ばれる白いローブに竜の紋様の首飾り。そんな特徴的な装いの二人が目に入るや否やクライスは盛大に舌打ちした。
「チッ! 断ったら勝手に押し掛けて来やがった」
竜神教神官。四年前、城で何度か会った事あるその特徴的な服装の彼等は竜を祀り、竜に生涯を賭して仕えるとても変わった人達。
そして、今のクライスにとって、是非とも関わりたくない人達。
どうしたものか?
《敵》を認識した眼前のクライスは恐ろしい程完璧に怒りの表情を仕舞い、笑顔を装着する。
「お前はとっとと森に戻ってろ」
ドスの効いた声で僕を脅すと、《敵》を打ち負かす為に笑顔のクライスは迷いなく神官達の元へと突っ込んでいく。
◇
「いやー、突然いらっしゃるので驚きました」
そう和かな笑顔で神官達を門の前で出迎え、クライスは神官が口を開く前に更に言葉で追撃する。
「いやー、それにしてもおかしいですね。貴方がたの来訪の報せはこちらには届いてないと私は記憶しているのですが? ……ルーベンス。手紙の整理を怠ったったのか」
「いえ、今日も朝に手紙の整理をしましたが、そのような手紙を見た記憶は……。ですが、神官様方が報せも無しに来るなどあり得ない話ですから見落としたのやもしれません」
「そうだな。竜神様に仕える徳の高い神官様方が来訪前に一報送るという初歩的な礼儀を欠くなどあり得ない話だ」
一見、こちらに非があるかのようにクライスとルーベンスは深刻そうな顔で話し合う。しかし、クライスもルーベンスも報せなんて来てない事は重々承知の上。自身達が悪者にならないように立ち回りながらの全力の嫌味だ。
相当この嫌味は神官の一人には効いたようで、若い眼鏡をかけた神官は表情が引き攣っている。クライスは勿論、全力の悪意で動いているが、ルーベンスもそれを止める気がない。寧ろ、全力でサポートしてる。
そんなに君達は神官が嫌いなのかい??
眼鏡の神官が言い返そうと口を開くが、その前に隣に居たお爺ちゃん神官が頭を下げた。
「いえ、そちらの不手際では一切御座いません。申し訳ない」
頭を下げたお爺ちゃん神官を見て、「そんなっ! 頭をお上げください」と何故かクライスではなく、眼鏡の神官がそう声を掛けた。クライスは冷めた目でその眼鏡の神官を見たが、すぐに視線をお爺ちゃん神官に戻した。
「本当に突然の事でしたので、こちらは歓迎の用意も出来ておりません」
「いえ、突然押しかけた身で歓迎して頂こうなど烏滸がましい。私はただ一度貴方方と腹を割ってお話しさせて頂きたいだけなのです。エルドラド領、竜神教、双方のこれからの為に」
クライスの遠回しの「帰れ」をかわし、お爺ちゃん神官はクライスの言葉の追撃よりも先に言葉を紡ぐ。
「さて、ご挨拶がまだでしたね。お初にお目に掛かります、エルドラド子爵様。私の名はレヴィアターノ。普段は役職の名をとって大神官と呼ばれる者です。そして、こちらが…」
「神官クルシェと申します」
そのご挨拶にクライスは相手に悟られぬくらいの一瞬、心底嫌そうな顔をした。しかし、負けじと笑顔を再度、貼り付けてルーベンスに指示を出す。
「大神官様方を応接間にお通ししろ。後……」
大神官達と向かい合っていたクライスがくるりと玄関にいる僕を見た。僕は慌てて扉に隠れるが、気になってもう一度隙間から覗くと怖い顔で笑うクライスと目が合ってしまった。
なんてこったい。
クライスは何も言ってないのに「さっさと森に戻れ。のろま竜」と言われてる気がする。
マズイ。このままここに居たら確実に説教三時間コースだ。
説教は嫌なので聞きたくないと耳を押さえながら僕は必死に森へと逃げる。
決めた。僕は今日は絶対森から出ない。絶対出ないったら出ない。
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