押しかけ花婿は邪竜の贄姫

きっせつ

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ただ愛している

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『なんでって…。だって、刺されたら痛いじゃないか』

エレイナの短剣を肩に刺したままそう眉を下げて、あの日のオランジェがクライスを覗き込む。
刺された腹を抑えたクライスはあの日の事をふと思い出して、眉を下げて静かに笑う。

「確かに刺されるのは痛いな」

身体から血が抜けていくのを感じる。近付く死の恐怖に身体がガタガタと情けなく震える。だが、それでもクライスにはやらなければいけない事がある。

「何をっ…くずくずしている。俺に構わず行け!!」

こちらに駆け寄ろうとしたミゲルを睨む。ミゲルは駆け寄ろうとしたその足を止め、睨むクライスを見て、込み上げていた涙を堪えて騎士と共に崖の上へと向かう。

その姿を見送り、クライスは剣を構えるクルシェ神官長と対峙する為、「動くな」と止めるユランの肩を借り、立ち上がる。

「そろそろ、気付いたらどうだ? お前のやってる事に大義はない。お前やってる事はな。人様の嫁の尻を追っ掛けてるのとさして変わらん」

神に仕える神官を指導する立場である神官長が聞いて呆れる。
やれやれとため息を付き、透けて幽鬼のように見える男を鼻で笑う。

「大神官様こそ竜神様の隣に立つべきお方だった」

「隣に立つも何も俺は最初から言っている筈だ。アイツは竜神ではなく、俺の嫁だと。嫁の隣に旦那が立つのは当たり前だろう」

「貴様が邪魔した所為で…」

「それは邪魔するだろうよ。俺の嫁を俺の手から奪おうとするのだから。俺は誰にもアイツを奪わせない。お前にも邪竜にも」

クルシェ神官長の姿はただ陽炎のように揺れる。果たしてこちらの嫌味はどれ程相手に伝わっているのか?

クライスを刺して目的を達成したのか。クルシェ神官長は「やりました」と誰かに報告するように呟き、揺らぎながら誰かを探して彷徨い歩く。


「最悪な終わり方だ」

身体を失ってまで害しようとするその執念に呆れ、クライスはそんなアホに無様に刺され自身に呆れる。何とか、止血しようと試みながらも止まらず、目の前で泣くユランの頭を叩き、空を見上げた。

「利用してる? 誑かしてる? アホか。独占するのも、利用するのも、愛してるからに決まってるだろ」

届かないその手をまだ戦い続けるオランジェに伸ばす。ただまた触れたくて。まだ触れていたくて。もう触れる事すら、言葉を交わす事すら出来やしないのに。

「ただ愛してるんだよ。昔も今もずっと…」








ハラハラと鱗が散っていく。
痛みに耐えながら、必死に噛みついて、身体をぶつけて、ただ僕は願う。

勝たなくてもいい。追い払えればそれでいい。
追い払って、クライスに早く抱き着きたい。
この龍の身体じゃクライスを押し潰してしまうから人の形を取って、叔父さんを追い払ったらクライスに抱き締めてもらうんだ。

龍の時に頭を抱いてくれるのも好きだけど、人の形時の方がクライスが包んでくれるから好き。龍なのに変だよね、僕。そっちの方が一緒になれたみたいで嬉しいんだよ、クライス。



叔父さんに地面に投げつけられて、慌てて僕はもう一度飛ぼうと、折れて痛む翼を羽ばたかせる。すると、叔父さんの前で火花が弾ける。まるで火の花のように叔父さんに当たり咲く花に叔父さんは何事かと少し怯む。
火の花の出所を見れば、ミゲルと領民達が叔父さんに向けて大砲を撃っていた。

何時の間にそんなものを揃えていたんだとクライスの行動力に慄きつつ、僕は気の散った叔父さんに咆哮を放つ。

呼応して植物が叔父さんを覆うように根をは張り、ニョキニョキと天に向けて伸びていく。僕の魔力を一身に受け、大木になったその木は叔父さんの腐食にも負けず、結界となってこの地に根付いた。

「封印…、出来ちゃったよ」

僕も案外やれば出来る。図らずも出来てしまった事に、やったねと喜び、初めての勝利を報告するべくクライスの元に僕は急ぐ。

やったね。これで安心だ。
きっとクライスも喜んでくれるに決まってる。
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