3 / 27
それは徹夜明けのテンションで
しおりを挟む
何故この世に女性は沢山いるのだろうか。
来る日も来る日も宰相直々に持ってくる部屋が埋まりそうな程のお見合いの姿絵。
ぱらりとめくると胃から中身がせり上がり、お見合いの姿絵を慌てて閉めた。
「何故こうなった…。」
俺は今まで出来損ないで王座から最も遠いと評判の第十王子としてなりを潜めていた。
それが突如、第一王子から第九王子までが自爆して失墜。急に舞降ってきた王座にただただ振り回されていた。
そもそも俺は王子の中でも後ろ盾がとっても弱い王子。
母は人口たった九千人の小国の姫。
たまたまバカンスに母の国に来た国王陛下が一目惚れして、口説いて連れてきた十番目の妃。
そんな母にこの国で後ろ盾になってくれる繋がりはなく、唯一あるのは自国の後ろ盾だが、実際ないに等しい。
南国気質で、争いよりもわいわいみんなで酒飲んで騒ぐ事が好き。音楽が流れると踊り出すような緩い国民性で、政権争いなんてあの国は経験した事がない。
だから、助けを求めようものなら「一緒に酒飲んで踊れば大丈夫。仲良くなれるさ。」と言いのけるだろう。
…ね?ないに等しいでしょ。
それで今まで母と俺が王宮で生き残って来れた事自体がそもそも奇跡だ。
それを一応情報として知っている宰相的にはさっさと有力な貴族の令嬢などと結婚して地盤を固めさせたいのだろう。だが……。
「うぅ…。もう女性はいい。顔も見たくない。」
俺は宰相が持ってくる大量のお見合いの姿絵を毎日来る日も来る日も大量に見せられるうちに女性恐怖症を発症していた。
最近では侍女が仕事で俺に近付くたびにビクつく。
何故、候補を絞らずそのまま持ってくるのか?
嫌がらせか? 嫌がらせなのか!?
「はぁ…。今すぐ王太子辞めたい。……いや、王族を辞めたい。」
執務机の上に大量に置かれたお見合いの姿絵を崩すように突っ伏し、溜息をついた。
俺も兄王子達のように国外追放でもされようかな。なんか兄王子達みたいに……。
しかしそもそも俺、婚約者がいないからお見合いの姿絵を毎日毎日拒絶反応起こすまで見せられてんだよなぁ……。
あははと苦笑いを浮かべながら疲れた頭で国外追放までは行かなくても失脚する方法を考えていると、ふと頼んでもいないのに目の前にお茶とお菓子が出てきた。
顔を上げると兄王子が失墜する前に俺付きの侍従として入った青年が少しソワソワしながら立っていた。
「……これは?」
「ツェーン殿下がお疲れの様子でしたので。お菓子さ、お出しして、お疲れさ、とってもらおうと思いまして。」
「そう。でもごめん。俺、甘いの苦手で。」
「だ、大丈夫です。それは、おかきと言って、甘くないお菓子でして。」
「へぇ。甘くないの…。」
勧められてボリッと食べると確かにそのお菓子は甘くなく、しょっぱくて香ばしい。
俺が食べている間もその侍従は席を外す事なく、食べる姿をソワソワと、とっても、褒めて欲しそうにこっちを見ている。
「…美味しい…よ?」
「!! ほんとですか!? 私がこさえた、おかきさ、美味しいですか!!! 」
「こさえた!? 」
「私さ、故郷のお菓子です。お米さ、豊作の時によく皆んなで作ってましたので私の得意料理です。……お口さ、あって良かったです。私さ、故郷はですね……。」
田舎の訛りの抜けない口調で、嬉しそうに自身の故郷の事を話し始める侍従。
この侍従は平民出で、かなり王都から離れた田舎の方から上京してきたばかり。
元第六王子から「お前の侍従なんて田舎者の平民で充分。」と今まで世話してくれた侍従達を分捕られ、押し付けられたのだが……。
今までの侍従より働き者でひたむきで結構、この侍従を俺は気に入っている。…まぁ、まだまだ侍従としては教育が必要だけど。
「料理かぁ…。はぁ…、どうせなら気位の高い貴族令嬢じゃなくて、手料理作って待っててくれる家庭的なお嫁さんがいい。……田舎…かぁ。田舎でのんびりライフとかいいよね。」
だけどそれも無理だよなと思わず、苦い笑みを溢す。
だって、今の俺、女性が怖いんだもん。
例え、万が一に田舎でのんびりライフを送れたとしても女性に声を掛ける前に逃げるかもしれない。
これで妃もらうってどうなんだろう。
俺にとっても妃にとっても地獄かもしれない。
「いっそ。男と結婚するか。」
「は、はい!? 」
完全に考える事も嫌になった俺はそう侍従が居るのも忘れて独り言を漏らした。そして俺の疲れた頭はその投げやりな気持ちで出た独り言を反復し、一つの妙案を打ち出した。
「そうだ。簡単な事じゃないか!! 男と結婚すれば良いんだ。」
「は、はぇ!!? ツェーン殿下!!!? 」
女がダメなら男でいいじゃないか。
後継の産めない男が好きっていう事にすれば、皆んなこの王太子じゃ、王に適さないと判断して俺を王太子から降ろしてくれるかもしれない。…いや、きっと降ろす!!
この時の俺はそう妙な自信があった。
きっとこの時の俺は完全に疲れ果てて、変なテンションになってたんだと思う。徹夜明けのような変なテンションに。
「俺と結婚してくれる? 」
そう目の前の侍従にトチ狂った事を言うくらいには。
来る日も来る日も宰相直々に持ってくる部屋が埋まりそうな程のお見合いの姿絵。
ぱらりとめくると胃から中身がせり上がり、お見合いの姿絵を慌てて閉めた。
「何故こうなった…。」
俺は今まで出来損ないで王座から最も遠いと評判の第十王子としてなりを潜めていた。
それが突如、第一王子から第九王子までが自爆して失墜。急に舞降ってきた王座にただただ振り回されていた。
そもそも俺は王子の中でも後ろ盾がとっても弱い王子。
母は人口たった九千人の小国の姫。
たまたまバカンスに母の国に来た国王陛下が一目惚れして、口説いて連れてきた十番目の妃。
そんな母にこの国で後ろ盾になってくれる繋がりはなく、唯一あるのは自国の後ろ盾だが、実際ないに等しい。
南国気質で、争いよりもわいわいみんなで酒飲んで騒ぐ事が好き。音楽が流れると踊り出すような緩い国民性で、政権争いなんてあの国は経験した事がない。
だから、助けを求めようものなら「一緒に酒飲んで踊れば大丈夫。仲良くなれるさ。」と言いのけるだろう。
…ね?ないに等しいでしょ。
それで今まで母と俺が王宮で生き残って来れた事自体がそもそも奇跡だ。
それを一応情報として知っている宰相的にはさっさと有力な貴族の令嬢などと結婚して地盤を固めさせたいのだろう。だが……。
「うぅ…。もう女性はいい。顔も見たくない。」
俺は宰相が持ってくる大量のお見合いの姿絵を毎日来る日も来る日も大量に見せられるうちに女性恐怖症を発症していた。
最近では侍女が仕事で俺に近付くたびにビクつく。
何故、候補を絞らずそのまま持ってくるのか?
嫌がらせか? 嫌がらせなのか!?
「はぁ…。今すぐ王太子辞めたい。……いや、王族を辞めたい。」
執務机の上に大量に置かれたお見合いの姿絵を崩すように突っ伏し、溜息をついた。
俺も兄王子達のように国外追放でもされようかな。なんか兄王子達みたいに……。
しかしそもそも俺、婚約者がいないからお見合いの姿絵を毎日毎日拒絶反応起こすまで見せられてんだよなぁ……。
あははと苦笑いを浮かべながら疲れた頭で国外追放までは行かなくても失脚する方法を考えていると、ふと頼んでもいないのに目の前にお茶とお菓子が出てきた。
顔を上げると兄王子が失墜する前に俺付きの侍従として入った青年が少しソワソワしながら立っていた。
「……これは?」
「ツェーン殿下がお疲れの様子でしたので。お菓子さ、お出しして、お疲れさ、とってもらおうと思いまして。」
「そう。でもごめん。俺、甘いの苦手で。」
「だ、大丈夫です。それは、おかきと言って、甘くないお菓子でして。」
「へぇ。甘くないの…。」
勧められてボリッと食べると確かにそのお菓子は甘くなく、しょっぱくて香ばしい。
俺が食べている間もその侍従は席を外す事なく、食べる姿をソワソワと、とっても、褒めて欲しそうにこっちを見ている。
「…美味しい…よ?」
「!! ほんとですか!? 私がこさえた、おかきさ、美味しいですか!!! 」
「こさえた!? 」
「私さ、故郷のお菓子です。お米さ、豊作の時によく皆んなで作ってましたので私の得意料理です。……お口さ、あって良かったです。私さ、故郷はですね……。」
田舎の訛りの抜けない口調で、嬉しそうに自身の故郷の事を話し始める侍従。
この侍従は平民出で、かなり王都から離れた田舎の方から上京してきたばかり。
元第六王子から「お前の侍従なんて田舎者の平民で充分。」と今まで世話してくれた侍従達を分捕られ、押し付けられたのだが……。
今までの侍従より働き者でひたむきで結構、この侍従を俺は気に入っている。…まぁ、まだまだ侍従としては教育が必要だけど。
「料理かぁ…。はぁ…、どうせなら気位の高い貴族令嬢じゃなくて、手料理作って待っててくれる家庭的なお嫁さんがいい。……田舎…かぁ。田舎でのんびりライフとかいいよね。」
だけどそれも無理だよなと思わず、苦い笑みを溢す。
だって、今の俺、女性が怖いんだもん。
例え、万が一に田舎でのんびりライフを送れたとしても女性に声を掛ける前に逃げるかもしれない。
これで妃もらうってどうなんだろう。
俺にとっても妃にとっても地獄かもしれない。
「いっそ。男と結婚するか。」
「は、はい!? 」
完全に考える事も嫌になった俺はそう侍従が居るのも忘れて独り言を漏らした。そして俺の疲れた頭はその投げやりな気持ちで出た独り言を反復し、一つの妙案を打ち出した。
「そうだ。簡単な事じゃないか!! 男と結婚すれば良いんだ。」
「は、はぇ!!? ツェーン殿下!!!? 」
女がダメなら男でいいじゃないか。
後継の産めない男が好きっていう事にすれば、皆んなこの王太子じゃ、王に適さないと判断して俺を王太子から降ろしてくれるかもしれない。…いや、きっと降ろす!!
この時の俺はそう妙な自信があった。
きっとこの時の俺は完全に疲れ果てて、変なテンションになってたんだと思う。徹夜明けのような変なテンションに。
「俺と結婚してくれる? 」
そう目の前の侍従にトチ狂った事を言うくらいには。
109
あなたにおすすめの小説
田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
俺の婚約者は悪役令息ですか?
SEKISUI
BL
結婚まで後1年
女性が好きで何とか婚約破棄したい子爵家のウルフロ一レン
ウルフローレンをこよなく愛する婚約者
ウルフローレンを好き好ぎて24時間一緒に居たい
そんな婚約者に振り回されるウルフローレンは突っ込みが止まらない
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる