第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ

文字の大きさ
15 / 27

天地がひっくり返ろうとも

しおりを挟む
「ティモ…。そのっ、俺、疲れてるみたいで。ごめん。アホな事言って。」

グイッと真っ赤なティモの顔が近付き、恥ずかしくて逸らそうとした顔が逸らせず、余計恥ずかしくなり、必死に弁明する。

顔が真っ赤になっているのが自分でも分かるくらい熱い。

うわぁ、恥しッ!! 
なーにがもっとぎゅっとしてだ!? 

自身に毒を吐きながらチラリとティモを確認すると耳まで真っ赤にして何かを呟いている。

「可愛い…。とっても…。とっても。」

「かわっ!? いやいやいやいや、俺、可愛くなんてないから。」

全く何言ってんだティモはと羞恥心が消し飛び、思わずクスクスと笑ってしまったが、ティモの目は何時になく真剣で、ティモの親指が俺の唇を撫で、驚いた。

「ティモ? 」

何時もと違い、熱を孕んでるティモの眼差しにゴクリと喉を鳴らす。
何でか妙に緊張してギュッと自身の手を握った。

俺より背の低いティモが自身の顎をクイッと上げて……。


「ツェーン王子!? ま、まさか、そこにいらっしゃるのはツェーン王子ですか!! 」

醸し出される甘い空気をぶっ壊すように筋肉ダルマの大声がキーンッと鼓膜を揺らした。

そういや、奴がいたんだったと、こちらに嬉しそうに走ってくる奴を一瞥して、ティモを見ると、ティモは固まってしまってる。

「ティ、ティモ? 」

「はわっ…。はわわっ…、その、出来心でして。も、勿論、こういう行為はきちんと誓い合って、同意さ、必要なものでして。…でも、可愛くて…嬉しくて、つい、…つい…。うぅ…、ぐすっ…嫌いさ、ならんでください。」

「えっ、いや、何で泣いてるの!? そもそも今の状況を理解出来てないんだけど。」

「嫌いさ、なられたらおいは…おいは……うぅ。」

「ティモ。嫌いには絶対ならないから、一旦、逃げさしてッ!! なんか捕まったら面倒臭そうッ。」

「ツェーン王子ぃいッ!! 王子自ら出向いて頂けるとは光栄ですっ!!! ついにッ、ついに!! 私を王子専属の護衛騎士になさる決心を…。感激至極です。」

「あぁ、もうっ…。違うッ。俺がお前を護衛にする事なんて天地がひっくり返ろうがないわッ。」

「王子…。…くっ!! ……分かってます。私は分かってますよ。……王子はこの国の為を思い、私に自身よりこの国を守れと仰りたいのですよね。」

「どう思考が転がったらそんな解釈になるんだよ!? …で、ティモはもう泣かないで。大丈夫だから。ね。」

「うぅ…。ぐすんっ…。」

ちょっと様子を見にきただけなのに何でこんな面倒な事になってしまったのか。

場は大混乱。
ティモは泣きじゃくり、筋肉ダルマはひたすらうるさい。

その後、やっと笑いが落ち着いて帰ってきたレナードがこの状況を見て、微笑ましいものを見るような視線を送ってきたので、俺はそんなレナードを睨んだ。

全く、微笑ましくなんてないッ。
俺の疲れた顔が見えないのか!?

やっとレナードが仲裁に入り、なんとかその場は収まったのだが……。


「え? ツェーン。週末さ、出掛けるから居ない?? 」

「うん。ジレーネ公爵と話し合いに。……長くなるみたいでね。一泊してくるから。」

「一日……会えない。」

ジレーネ公爵との泊まり込みの会談の事を伝えるとポロッとまたティモの瞳から涙が溢れた。

寂しいとホロホロ泣くティモを前にレナードがニコニコとこちらを見てくる。その顔はわかってますよと言いたげ。

「週末のティモ様の学習予定はキャンセルしておきますね。用意はお任せください。」

「………何で言いたい事が分かった。まだ俺のとこ来て二日だよな、レナードは。」

「殿下は非常にお優しい方ですから。ティモ様には特別。」

殿下は勝てないでしょ? と、少し苦笑いを浮かべて、ティモの涙を拭うように俺にハンカチを渡してくるレナード。

俺はもうただただ苦笑いを溢すしか出来ない。


ああ、そうだよ…。俺は滅法、この涙に弱い。

その上、涙の理由が寂しいからなんて言われてしまえば、折れるしかないだろうがッ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

俺の婚約者は悪役令息ですか?

SEKISUI
BL
結婚まで後1年 女性が好きで何とか婚約破棄したい子爵家のウルフロ一レン ウルフローレンをこよなく愛する婚約者 ウルフローレンを好き好ぎて24時間一緒に居たい そんな婚約者に振り回されるウルフローレンは突っ込みが止まらない

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

転生聖賢者は、悪女に迷った婚約者の王太子に婚約破棄追放される。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 全五話です。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

処理中です...