第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ

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自覚

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「俺は何の為に……。」

大人しくお縄につき、ツヴァイを担いだ一号に連れてかれる元兄王子達を苦い表情で見送ると、隣ではティモが顔を真っ赤にしてはわはわと慌ててる。

「ツェ、ツェーンさ。そ、その格好…。」

「ああ。……くしゅんっ。…ちょっとね。」

何度も俺を抱き締めようとして手が宙を泳ぐ。
寒くて頭がクラクラして暖を求めてピタリと身体を寄せるとボッと燃えてるんじゃないかってくらいティモの顔が赤くなった。

「はわわわっ。これが…、これが師匠の言ってた『ゆうわく』と『エロかわいい』。……ツェーンさ、助けたらキチンと叱ってやれって言われてさ、いるのに。あわわわ…。」

カチンコチンになって、何かをぶつぶつと呟くティモに小首を傾げると、ガッと肩を掴まれ、ふにっとしたものが唇にあたる。

気付けば、少し背伸びしたティモが唇を必死に重ねていて、目を丸くした。……へ!?

顔が熱くなっていくのが自分でも分かる。
チュッチュッと何かに火がついたように拙くキスしてくる姿が可愛く見えて、不整脈が止まらない。

何が起きてるのか。なんでこんなに自身が動揺しているのか頭が混乱していて、思考が纏まらない。


何度か唇を重ねるとティモは満足げにへにゃりと笑い、その後、プクッと頰をにやけ顔で膨らました。

「危ない事さ、やっちゃダメ!! メッ!! 」

「えっ。……あっ、うん? 」

自身の上着を俺に掛け、何かたかが外れたようにギュウギュウと抱き締めて、我慢の限界の言わんばかりに頭を撫でまくる。

おそらくティモ的には一応叱っているのだろうが、完全に憤りが違う感情に負けてる。
ブンブンと振られる尻尾の幻覚が見える。

「ツェーンさ、苦しんだらおいも苦しいし。ツェーンさ、悲しんだらおいも悲しい。だから、嫌な事、辛い事、理不尽な事、全部受け入れないで。」

ふと尻尾が悲しげに垂れて、ぐすんっとティモが鼻を啜る。
その姿に海に落ちたあの日、俺を助けたティモの姿が重なる。

「もっと周囲さ、頼って。もっと我儘さ、おいに言って。そしたらもっとツェーンの事さ、大事に出来る。ツェーンは一杯さ、もっと甘えて。」

ツヴァイに叩かれた頰や噛まれた首筋をティモの手が優しく撫でる。
自分の怪我でもないのにその表情はとても痛そうで、ツキリッと心が痛む。

俺はこの涙に弱い。
だって、幼い子供をいじめてるような気分になる。
だって、ティモの涙を見ていると、俺のスコンと落ちてしまった感情と対峙しているような気分になる。

ティモはチュッチュッと頰や首筋、額にキスの雨を降らせると、また唇を重ねた。

「一杯さ、ツェーンを大事にしたい。だって折角、想いが通じて伴侶さ、なれるのに。」


そこではたと最初から感じていた違和感の正体に気付いた。

何だか最初からティモと会話が噛み合ってない事は感じていた。
しかし…、しかし、まさか……。

ー ティモはフリのつもりはなかった!?

ティモは最初っからそのつもりで俺の我儘に付き合っていて、今こうしてキスされているのもティモが俺をライクじゃなくてラブの意味で好いていてそれで、それで……。

クラクラとしていた頭がボンッとオーバーヒートする音が聞こえた。

あれ? そうなってくると一緒に寝てたのは周囲の目からじゃなくてもそういう意味で。
こうやって抱き締めてくるのも懐いてるからじゃなくて、イチャついてるって事? 
あれ? あれ??

そうなってくると今まで普通にやってた事が全てそう見えてくる。そしてグルグルと回り限界に近い、視界で自身の今の姿を見た。

下穿きすらも脱がされて下半身は裸。
上半身もシャツで隠されてるだけで、そのシャツすらも濡れて肌が……透けて……。

「ッッツ!!? 」

もう恥ずかしさで言葉にならなかった。

必死にティモにかけられた上着で肌を隠すが、ふわりと上着から香って来るティモの匂いに余計恥ずかしさが増し、熱も不整脈も酷くなっていく。

「ど、どうしたの!? ツェーン。」

挙動不審な俺を心配してティモが覗き込む。
顔が近くて、さっきのキスを鮮明に思い出して、胸が苦しい。

プツンッと何かがオーバーヒートする頭の中で焼き切れて、意識が遠のいていく。

「ツェーンっ!? ツェーンさ、倒れたッ!! 」

「これは…おそらく風邪と過度なストレスですね。」

「まぁ、ティモ様はかなり天然ですが、殿下も結構天然が入ってますからね。今更、色々と気付いたのではないですか? 」

三人の話し声が意識が完全に遠のくまで聞こえた。

ちょっと待って…、レナード。『今更、色々と気付いた』って言った? 

何を?? お前は一体何を何処まで知ってるんだ……。

今すぐレナードを問いただしたい。
そんな想いも虚しく、深い意識の底に落ちていった。
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