偽物勇者は愛を乞う

きっせつ

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「飼っていいの?」

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(落ち着かない)

お菓子の詰まった小さなバスケットの持ち手をギュッと握り、ニルはキョロキョロする。森はニルとフラムしか人は居らず、鳥の囀りや時折、生き物が動き、草木が揺れる音が聞こえる。

鬱蒼と木々が生い茂る森の中。
ビクビクしながら前を進むフラムを追って歩き続けると、不意に拓けた場所に出た。

日差しを遮る木々がなくなり、直接降り注ぐ日光に目が眩む。眩しくて瞑った目を恐る恐る開け、ニルは息を呑んだ。


降り注ぐ明るい日差しの中。花々が青く地面を染めていた。

それはとても小さな花々が集まってできた小さな花園で、その中では白い一角兎達がのんびりと寝そべっている。

その穏やかで美しい光景に見惚れていると、ニルの足にスリッと柔らかい何かが、擦り寄る。
驚いて足元を見ると一匹の一角兎がニルの足にぴっとりとくっ付き、まん丸な黒い瞳でニルを見上げていた。

「えっ…、と」

「餌を与えてみたらどうだ」

「餌? あっ、人参スティック!」

ドキドキしながら小さなバスケットの中から袋を取り出し、人参スティックを一角兎の口元に差し出す。一角兎はスンスンと小さな鼻で人参スティックの匂いを嗅ぐとサクサクと音を立てて、人参スティックに食い付いた。

食べた!、と満面の笑みを浮かべてニルはフラムを見た。敷物を敷いていたフラムがニルと目があった瞬間動きを止める。一瞬驚いたように目を瞬かせて、そして、ふわりっと表情を綻ばせた。

自身に向けられる優しいその笑顔。
胸の辺りがギュッと苦しくて、溜まっていた何かが自身からこぼれ落ちそうになって、ニルは口元をキュッと結んだ。

「ニルっ。避けろ」

「え?」

フラムの言葉にハッと我にかえり、前を向いたが、時既に遅し。餌に飢えた一角兎達が目の色を変えて、我先にとニルに飛び掛かっていた。

「うわっ!?」

群がる一角兎達の勢いに負け、ニルの身体は花園の中へと沈み、散った青い花びらが宙に舞う。身体中に白いモフモフが乗り、餌を寄越せと催促する。

ニルの手から人参スティックを奪い、まだ餌はないかと小さなバスケットに一角兎が鼻を入れる。

「あっ! ダメだって、それは人間用」

ニルは慌てて、小さなバスケットを上に掲げて一角兎の猛攻を防ぐ。
狙ってたバスケットを見上げて、一角兎達は首を傾げ、もっと頂戴と鼻をスリスリとニルにくっ付ける。

「ふはっ。はははっ。食いしん坊だなぁ」

その一角兎達の姿にニルは噴き出し、可笑しくて笑う。

魔物なのに一角兎達はとても人懐っこく、触れても逃げない。抱き上げれば、大人しくその柔らかな身体をニルに撫でさせてくれた。

特に、一匹の一角兎はそこが居場所と言わんばかりにニルのお腹の上から降りない。前足が花の青で染まっているのが特徴的なその一角兎は体を起こせば、ニルの膝の上に移動し、スースーと寝息を立てて、寝始めてしまった。

その一匹を撫でれば、他の一角兎が撫でてと言わんばかりに身を寄せてくるので、ニルは夢中になって一角兎を撫で続けた。昼食を食べて、一角兎と遊んで気付けば、日が暮れ始める。

「帰ろう」

そうフラムに声を掛けられて、ニルはしゅんっと眉を下げた。
まだ遊んでと言わんばかりにニルに身を寄せる一角兎と別れるのが寂しくてギュッと自身の膝に乗っていた青い足の一角兎を抱き締める。

フラムは一つ溜息をつくと、切なげにまだ一角兎を見るニルの頭をまた撫でる。

「別れるのが寂しいならテイムすれば良い」

「テイム? 」

「絆を築いた魔物は名前をつければ従魔として使役できる。ここの一角兎なら人懐っこいし、飼うには問題ないだろう」

「飼っていいの?」

「いいも何もそれはニルが決める事だ」

ニルが決めていい。そう言われてニルは首を傾げる。ニルの今の状況は正直、居候みたいなものだと思っている。

小屋を改築したのはフラムで、あの小屋の持ち主は現時点でフラムだ。ペットを飼うのは家の持ち主であるフラムに決定権がある筈。

戸惑い、抱っこする一角兎を見ると、一角兎は身体を伸ばし、ちょんっと自身の鼻頭をニルの鼻頭にくっ付けた。その可愛さに堪らず、ニルは自身の欲を素直に言葉として紡ぐ。

「俺と一緒に来てくれる? 《アオ》」

前足が青色に染まっているから《アオ》。付けた名を呼ぶと、光の輪がニルとアオを包み、アオの魔力がニルの中に流れる感覚がした。

まるでアオが自分の一部になったかのようなそんな特別な感覚にニルは目を輝かせ、大事で柔らかいアオに頬を寄せた。




「俺もテイムした」

「………えっ!?」

その晩。フラムも魔物をテイムした。
晩食後に急に消えたかと思えば、フラムはそう一言だけ告げ、魔狼の群れを引き連れて帰って来た。

群れごとテイムして何を企んでいる。
やはり、何を考えているか分からない。

少しずつフラムに絆されていたニルの心は一気に疑心に染まるのであった。
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