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そして、魔法使いは眠りに付いた
今思えば、最初から乗った船は泥舟だった。
人間が敵わない身体能力と魔力を持つ相手にたった5人の人間がパーティを組んで挑むという狂気。
魔王戦まで五体満足で魔王軍幹部達相手に連勝出来たのは奇跡だった。
そう確実に勝てそうにない魔王を目の前にして悟った僕はアホなのかもしれない。
ブワリッと鳥肌が止まらない禍々しい魔力が玉座の間を包んでいる。
その魔力の中では息すらも上手くは出来ず、鍵開けや毒薬などの純粋なテクニックだけでここまで来た仲間の盗賊はこの魔力に抵抗出来ずに床に臥せっている。
回復役の聖女も自身を守るのに精一杯。
盗賊の次に魔力耐性の低い騎士も闘う前からノックアウト寸前。
勇者も勇者で意地で目の前の魔王を睨みつけているが、武者震いを隠せていない。
真紅と漆黒を基調とした玉座の間に窓から月明かりが降り注ぐ。
月明かりを受け、黒い玉座が艶やかに光り、魔王の銀糸の髪も天使の輪が何重にも降りていた。そのエメラルド色の瞳はこちらを試すように見つめている。
目の前にいる男はこの世の根源悪だというのに神秘的な美しさを纏い、その美しさとは裏腹に禍々しい圧倒的な魔力を隠しはしない。
格が違い過ぎる。
ここは一旦引くべきだと、魔王に悟られぬよう、転移の魔法を足下で構築する。しかし、武者震いをしつつも一切引く気のない、勇者の強い意志のこもった瞳を見て、溜息をついた。
(この人は死んでも逃げないんだろうな…)
魔王に故郷を焼かれて、魔王を討伐する為だけに生きてきた勇者。
僕がこの泥舟に乗ったのも勇者のその強い意志の乗る瞳に惹かれて、その望みを叶えさせてあげたいと思ってしまったから。
足下で構築していた転移魔法を壊し、新たな魔法を身体の中に宿す。宿した魔法は焼けるように痛く、痛みに耐えながら勇者の肩を叩いた。
「なぁ、アステル。アステルは魔王を討伐したらさ。どう生きたい?」
「マグリット。今は魔王戦に集中してくれっ。アイツは…、アイツは俺の村をッ、家族をッ…」
「僕はまだ読んでない魔法書を読み耽って、ゆっくりみんなとお茶でもしたかったな」
「そんな先の事なんかどうでもいい。俺はアイツさえ倒せればっ…」
「ごめんね、アステル。流石にアレを討伐するのは僕の命を賭けても無理かな」
「お前が諦めても俺は必ずッ!」
「僕はアステルが笑って暮らせる世界が来る事を願ってるよ。例え乗ったのが泥舟だったとしても君との旅は楽しかったから」
やはり、引く気など一切なく、勇者アステルはその命を捨てようとしていた。お前はそういう奴だよなと苦笑し、アステルの肩から手を離した。
後は頼んだと、騎士に目配せすると、僕とアステルより年上でよく気に掛けてくれた彼はキュッと苦しげに口を結び、アステルを押さえつけた。
僕達より少し年下で泣き虫な聖女は僕の覚悟を悟ると泣いていた。
「全く。いい泥舟だったよ」
最期にもう一度、心から笑ったアステルを見てみたかったと、少しの後悔を残しつつ、魔王の前に立つ。
魔王は玉座から身を乗り出し、興味深そうにこちらを見つめていた。
「まさか、貴様一人で我を相手にすると?」
「ええ」
「ハッ、舐められたものだな。貴様ら人間如き、束になろうが我には勝てぬぞ」
「そうでしょうね。今の人類が貴方に勝てる可能性はゼロです」
「ほう? なら、貴様はその命を持って、どう楽しませてくれるのだ? たった、一匹の人間風情で」
「そのたった一匹の人間如きでも出来る悪足掻きをしてみせますよ」
死への恐怖を押し込めて不敵に笑い、身体に宿した魔法を解放した。
その瞬間、白い焔が魔王と僕の身体を包み、魔王の表情に焦りが浮かぶ。
「封印魔法。貴様っ、己を人柱として我を封印する気か」
「所詮、たった一匹の悪足掻きです。付き合ってもらいますよ」
この絶対勝てなさそうな魔王に最期に一矢報いた気がして、身を焦がす白い焔の中、僕は満足して長い眠りについた。
魔法使いマグリット。
享年十六歳。
未来に希望を託す感じで結構、カッコ良く魔王共々遠い未来まで醒めぬ眠りについた筈だった。
「マグリット。我の最愛」
熱に浮かれたあのエメラルドの瞳が引き攣る僕の顔を映す。
上から落ちてくる銀糸の髪がさらりと肌を撫で、柔らかなベッドに沈む僕の身体を長い指がまさぐる。
「ッツ!?魔王ッ??…は??最愛??!」
「やっと、起きたか。我を待たせるとはいけない子だ。その無垢な身体に存分に教え込んでやろう」
「待て待て待て待て!!?何が、何がどうなって…」
二度と世界を映す事のなくなった視界に映るのは真っ裸で僕に覆いかぶさってくる魔王。
「不束な者だが、末永くよろしく頼むぞ、我が最愛」
享年十六歳。魔法使いマグリット。
決死の覚悟で封印した筈の魔王に何故か娶られそうになっています。
人間が敵わない身体能力と魔力を持つ相手にたった5人の人間がパーティを組んで挑むという狂気。
魔王戦まで五体満足で魔王軍幹部達相手に連勝出来たのは奇跡だった。
そう確実に勝てそうにない魔王を目の前にして悟った僕はアホなのかもしれない。
ブワリッと鳥肌が止まらない禍々しい魔力が玉座の間を包んでいる。
その魔力の中では息すらも上手くは出来ず、鍵開けや毒薬などの純粋なテクニックだけでここまで来た仲間の盗賊はこの魔力に抵抗出来ずに床に臥せっている。
回復役の聖女も自身を守るのに精一杯。
盗賊の次に魔力耐性の低い騎士も闘う前からノックアウト寸前。
勇者も勇者で意地で目の前の魔王を睨みつけているが、武者震いを隠せていない。
真紅と漆黒を基調とした玉座の間に窓から月明かりが降り注ぐ。
月明かりを受け、黒い玉座が艶やかに光り、魔王の銀糸の髪も天使の輪が何重にも降りていた。そのエメラルド色の瞳はこちらを試すように見つめている。
目の前にいる男はこの世の根源悪だというのに神秘的な美しさを纏い、その美しさとは裏腹に禍々しい圧倒的な魔力を隠しはしない。
格が違い過ぎる。
ここは一旦引くべきだと、魔王に悟られぬよう、転移の魔法を足下で構築する。しかし、武者震いをしつつも一切引く気のない、勇者の強い意志のこもった瞳を見て、溜息をついた。
(この人は死んでも逃げないんだろうな…)
魔王に故郷を焼かれて、魔王を討伐する為だけに生きてきた勇者。
僕がこの泥舟に乗ったのも勇者のその強い意志の乗る瞳に惹かれて、その望みを叶えさせてあげたいと思ってしまったから。
足下で構築していた転移魔法を壊し、新たな魔法を身体の中に宿す。宿した魔法は焼けるように痛く、痛みに耐えながら勇者の肩を叩いた。
「なぁ、アステル。アステルは魔王を討伐したらさ。どう生きたい?」
「マグリット。今は魔王戦に集中してくれっ。アイツは…、アイツは俺の村をッ、家族をッ…」
「僕はまだ読んでない魔法書を読み耽って、ゆっくりみんなとお茶でもしたかったな」
「そんな先の事なんかどうでもいい。俺はアイツさえ倒せればっ…」
「ごめんね、アステル。流石にアレを討伐するのは僕の命を賭けても無理かな」
「お前が諦めても俺は必ずッ!」
「僕はアステルが笑って暮らせる世界が来る事を願ってるよ。例え乗ったのが泥舟だったとしても君との旅は楽しかったから」
やはり、引く気など一切なく、勇者アステルはその命を捨てようとしていた。お前はそういう奴だよなと苦笑し、アステルの肩から手を離した。
後は頼んだと、騎士に目配せすると、僕とアステルより年上でよく気に掛けてくれた彼はキュッと苦しげに口を結び、アステルを押さえつけた。
僕達より少し年下で泣き虫な聖女は僕の覚悟を悟ると泣いていた。
「全く。いい泥舟だったよ」
最期にもう一度、心から笑ったアステルを見てみたかったと、少しの後悔を残しつつ、魔王の前に立つ。
魔王は玉座から身を乗り出し、興味深そうにこちらを見つめていた。
「まさか、貴様一人で我を相手にすると?」
「ええ」
「ハッ、舐められたものだな。貴様ら人間如き、束になろうが我には勝てぬぞ」
「そうでしょうね。今の人類が貴方に勝てる可能性はゼロです」
「ほう? なら、貴様はその命を持って、どう楽しませてくれるのだ? たった、一匹の人間風情で」
「そのたった一匹の人間如きでも出来る悪足掻きをしてみせますよ」
死への恐怖を押し込めて不敵に笑い、身体に宿した魔法を解放した。
その瞬間、白い焔が魔王と僕の身体を包み、魔王の表情に焦りが浮かぶ。
「封印魔法。貴様っ、己を人柱として我を封印する気か」
「所詮、たった一匹の悪足掻きです。付き合ってもらいますよ」
この絶対勝てなさそうな魔王に最期に一矢報いた気がして、身を焦がす白い焔の中、僕は満足して長い眠りについた。
魔法使いマグリット。
享年十六歳。
未来に希望を託す感じで結構、カッコ良く魔王共々遠い未来まで醒めぬ眠りについた筈だった。
「マグリット。我の最愛」
熱に浮かれたあのエメラルドの瞳が引き攣る僕の顔を映す。
上から落ちてくる銀糸の髪がさらりと肌を撫で、柔らかなベッドに沈む僕の身体を長い指がまさぐる。
「ッツ!?魔王ッ??…は??最愛??!」
「やっと、起きたか。我を待たせるとはいけない子だ。その無垢な身体に存分に教え込んでやろう」
「待て待て待て待て!!?何が、何がどうなって…」
二度と世界を映す事のなくなった視界に映るのは真っ裸で僕に覆いかぶさってくる魔王。
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決死の覚悟で封印した筈の魔王に何故か娶られそうになっています。
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