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そして、魔法使いは叩き起こされた
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衝撃のプロポーズから少し前。
魔王諸共白い焔に身を包まれて、千年の眠りについた筈の僕は、身体全てが白い焔と化し、魔王を包んでいた…と思う。
あの封印魔法は術者の命数を魔力として昇華して、封印するもの。
千年後封印が解け、魔王が復活しても白い焔になった僕は復活しない。燃え尽きるだけ。
白い焔になった時点でマグリットとしての人生は終わった筈なのだが…。
「ん…」
何時からなのか。
白い焔になってから無くなっていた触覚が戻ってきたのは…。
ふわふわと柔らかなものに包まれて、意識を夢に揺蕩わせて、寝転がる。何時の間にか戻ってきた嗅覚がラベンダーの香りを感じ取り、平和な花畑で寝ているような心地のよい夢を見ていた。
「マグリット」
夢の中で花畑に寝転んでいるともう呼ばれる事のない名前を呼ぶ声が聞こえた。
誰かの手が頰を撫で、胸の中で誰かが眠る。
その体温に、その感触に、その声に、白い焔ではなく、自分が自分である事を自覚した。
(起きないと…)
その途端にマグリットの記憶が溢れ出し、苦楽を共にしてきた仲間達の姿が浮かんだ。
『俺には貴方の力が必要だ。俺とともに戦って欲しい』
花畑が消え、アステルと初めて出会った魔法図書館の景色がふわりと浮かぶ。僕に手を差し出すあの日のアステルの姿に手を伸ばした。
「アステル…」
揺蕩う夢から醒め、伸ばした手に誰かの手が添えられて、反射的に握る。
まだ半覚醒の頭でぼんやりと見た天井は星空のように魔石が散りばめられていて、窓から注ぐ月明かりを受け、キラキラと輝いていた。
「綺麗…」
何処かまだ夢心地で、だるく思うように動かない身体をブランケットの中でもぞりと動かす。滑らかなシーツは掻いているとまるで水の中にいるような心地で枕から香るラベンダーはまた心地の良い眠気を誘う。
もう少しだけ眠りたい。
繋いだ手を引き寄せて、丸まる。
すると誰かの手が僕の髪を掻き分け、耳に触れ、なぞるように唇に触れた。
「我が最愛は実に愛らしい。我に添い寝を所望するとは」
耳元で囁くその声が優しく鼓膜を揺らす。擽ったくて肩をすくめると、クスクスと笑う声とともにカプリッと耳を喰まれて、驚き一気に意識が覚醒する。
「だが、却下だ。我は三十年も待ったのだ」
耳を抑えて、バッと顔を上げると魔王のエメラルド色の瞳とかち合い、サッと血の気が引く。
「な、何故!?」
何故、封印が解けている。
何故、僕は生きているんだ。
そう叫びたかったが、流石に絶対強者を前にして取り乱す余裕などなく、距離を取ろうと身体を動かす。しかし、腰にはしっかりと魔王の腕が逃げられないようにまわり、魔王の胸を押して抵抗していた手ごと、引き寄せられる。
意識を手放してしまいたい。
人生一度だって、今日ほどそう願った事はない。
おそらく、僕はこの魔王に拷問の末、消されるのだろう。
封印しようとした僕に復讐する為に。
(痛いのは嫌だ)
魔王討伐の旅で何度も怪我も状態異常も経験したが、痛いのに慣れる事なんてない。痛くないのが一番。五体満足。健康第一。
身体が動かないなら魔法を使ってなんとか逃げたいがあの封印で魔力が枯渇しているのか上手く魔法が使えない。
絶望して、諦めてギュッと目を閉じる。
命が尽きるまで我慢するしかないと覚悟を決めて、痛みを待つが一向に痛みは来ず、代わりに唇に柔らかいものが当たる。
何だと薄目を開けると、息が掛かるほど魔王の顔が近づき、何度も角度を変えて魔王の唇が僕の唇に重な………は???
「そう急かさぬとも三十年分、余す事なく可愛がってやる」
「え…、き、キス??いやいや、そんな筈…」
「何を驚いている?愛らしく目を閉じて口吸い待ちしていたのはお前だろう。…愛い奴め。この程度で狼狽えていては身が持たんぞ」
「は、はい??」
何故、勇者陣営にとってはラスボスの魔王から僕はキスを受けているのか。
起きた最初からもう意味が分からないのに、更に意味が分からなくなり、頭が混乱でぐるぐるする。
しかも、疑問の「はい」を肯定の「はい」だと捉えられて、先程よりも深く唇が重なり、何時の間にかに裸になった魔王に覆い被さられていた。
そして、衝撃のプロポーズに至る。
「マグリット。我の最愛」
熱に浮かれたあのエメラルドの瞳が引き攣る僕の顔を映す。
上から落ちてくる銀糸の髪がさらりと肌を撫で、柔らかなベッドに沈む僕の身体を長い指がまさぐる。
「ッツ!!?魔王ッ??!…は??最愛??!」
「やっと、起きたか。我を待たせるとはいけない子だ。その無垢な身体に存分に教え込んでやろう」
「待て待て待て待て!!?何が、何がどうなって…」
「不束な者だが、末永くよろしく頼むぞ、我が最愛」
下履きを脱がされ、片足を肩に背負われた。
僕を見るそのエメラルドの瞳は獲物を狙う捕食者の目。
あれ?これもしかして、僕は性的な意味で喰われるのかと、悟った時の絶望は拷問の比じゃなかった。しかし、自身が食われる側だと悟った事よりも恐ろしかったのは…。
「ひぇ…。大きい…」
獲物を串刺しにしようとギンギンとそそり立つ、魔王のアレだった。
その長さは「俺、騎士団の中で背もここも長いんだ」と自慢していたパーティメンバーのひとり、騎士のイグニスよりも長く。
「分かってないっすね。イグニスの旦那は長さより太さっすよ」とイグニスと張り合っていた盗賊イヴァンよりも太い。
歴戦の戦士のような風格も持ち合わせた魔王のアレを前にほろりと瞳から涙が溢れる。
「あんまりだっ…」
孤児として施設で育ち。
魔法の才を買われた先で、アステルと出会い、魔族との命を賭けた戦いに明け暮れて…。
「ふっ…。うぅ…、ぐすっ…」
最後の魔王戦で自身を犠牲にして魔王を封印したというのに。まさか、最期は魔王のアレに腹を突き破られて、死ぬなんてっ。
「ひどいっ…。ひぐっ。ぐす…」
恥も何もかも恐怖で捨て去り、魔王のアレの前に泣きじゃくる。
「マグっ…、マグリット!? 何故泣いている??!」
「うぅ。やだっ…、触らないでっ!」
「こ、この我にその身を捧げるのはとても名誉な事なのだぞ? ましてや、人間如きが我の伴侶になれるなど、泣いて喜ぶ事なのだぞ!?」
「やだっ…。助けて、アステルっ!」
止まらない涙を手で乱雑に拭うと、「擦るのはよくないのだぞ」と魔王の手が触れてくるので叩き落とす。
触るなって言ってんだろっ!?
「そんな、そんな我に抱かれるのが嫌なのか…」
ショックを受けたように呟く魔王の声に泣きじゃくりながらも、冷静なもう一人の僕が「なんで、魔王が勇者陣営の魔法使いに拒否されて落ち込んでんの?」と疑問を呈す。
そもそも封印魔法を掛けた相手に求婚されて、抱かれそうになってるのか?
何がどうなったらそうなるのか、僕には全く理解できない。
「三十年だぞ。三十年もおあずけを食らっていたというのに…。クッ!何だ、この胸の痛みは!!泣かれると胸がちくちく痛いから泣き止め」
「ふっ…。うっ…」
「ああ、くそっ!分かった。ほら、服を着たぞ。だから、目を擦るな。目に菌が入って、腐り落ちたらどうするのだ」
魔法で服を着直すと、ぐるぐるとブランケットで僕の身体を包んで自身の膝の上に抱き上げ、何処からともなく取り出したハンカチで涙を拭う。
顔が近づいた一瞬、唇を寄せてこようとしたが、至極残念そうな顔で顔を離した。
「ほら、何もしなかったぞ。何もしない」
なだめるように背を撫でて、あの絶対強者の魔王が優しい笑みを浮かべる。
本当に何もしないのだろうか?と、止まらなかった涙がやっと止まったのも束の間。
グリッ。
「…………」
歴戦の戦士のような魔王のアレがお尻に当たった。サッと血の気が引き、絶望の顔で魔王を見上げた。
「いやっ、これは不可抗力なのだ。そりゃあ、マグリットが受け入れてくれるならば今直ぐにでも挿れたいぞ。だが、我はマグリットを愛しているからな。愛しているから今日は我慢するのだぞ」
「……………」
「疑いの目…。ええい、分かった。一人寂しく、抜いてくるから待っておれ!」
ぐるぐるに巻いたブランケットの上から更にブランケットを重ねて、苦渋の表情でやっと僕を離した。
涙を拭ったハンカチを洗浄魔法で清潔にしたかと思えば、水魔法と氷魔法でハンカチを冷やし、ソッと僕の手の上に置き、ベッドから立つ。
「いいか。痒くても擦るなよ!我が一人寂しく抜いて戻ってくるまでにそのハンカチで目を冷やしておくのだ。戻ったら治癒魔法も掛けるから擦るなよ!」
再三、目を擦らないようにと釘を刺し、去っていく姿に唖然とする。
本当に意味が分からない。
あの人間の村を焼いても罪悪感すら感じない魔王が勇者陣営の魔法使いの目を心配するとはこれ如何に?
「何が…、何が起きているんだ…」
ひんやりと手を冷やす魔王が残していった冷やしハンカチの感触に、改めて自身がこの世界に存在している事を自覚する。
状況が飲み込めずに考えるのも疲れて、ポスンッと身体を柔らかなベッドに沈め、思わず顔を顰めた。
「アイツ…。二回も言った…」
矢鱈と「一人寂しく」を強調して、未練がましく出ていった魔王。
この後、宣言通り一人寂しく抜いて帰ってきた魔王に治癒魔法を施されながら未練がましく同じ言葉を聞かされ、僕は恐怖を忘れて呆れた。
魔王諸共白い焔に身を包まれて、千年の眠りについた筈の僕は、身体全てが白い焔と化し、魔王を包んでいた…と思う。
あの封印魔法は術者の命数を魔力として昇華して、封印するもの。
千年後封印が解け、魔王が復活しても白い焔になった僕は復活しない。燃え尽きるだけ。
白い焔になった時点でマグリットとしての人生は終わった筈なのだが…。
「ん…」
何時からなのか。
白い焔になってから無くなっていた触覚が戻ってきたのは…。
ふわふわと柔らかなものに包まれて、意識を夢に揺蕩わせて、寝転がる。何時の間にか戻ってきた嗅覚がラベンダーの香りを感じ取り、平和な花畑で寝ているような心地のよい夢を見ていた。
「マグリット」
夢の中で花畑に寝転んでいるともう呼ばれる事のない名前を呼ぶ声が聞こえた。
誰かの手が頰を撫で、胸の中で誰かが眠る。
その体温に、その感触に、その声に、白い焔ではなく、自分が自分である事を自覚した。
(起きないと…)
その途端にマグリットの記憶が溢れ出し、苦楽を共にしてきた仲間達の姿が浮かんだ。
『俺には貴方の力が必要だ。俺とともに戦って欲しい』
花畑が消え、アステルと初めて出会った魔法図書館の景色がふわりと浮かぶ。僕に手を差し出すあの日のアステルの姿に手を伸ばした。
「アステル…」
揺蕩う夢から醒め、伸ばした手に誰かの手が添えられて、反射的に握る。
まだ半覚醒の頭でぼんやりと見た天井は星空のように魔石が散りばめられていて、窓から注ぐ月明かりを受け、キラキラと輝いていた。
「綺麗…」
何処かまだ夢心地で、だるく思うように動かない身体をブランケットの中でもぞりと動かす。滑らかなシーツは掻いているとまるで水の中にいるような心地で枕から香るラベンダーはまた心地の良い眠気を誘う。
もう少しだけ眠りたい。
繋いだ手を引き寄せて、丸まる。
すると誰かの手が僕の髪を掻き分け、耳に触れ、なぞるように唇に触れた。
「我が最愛は実に愛らしい。我に添い寝を所望するとは」
耳元で囁くその声が優しく鼓膜を揺らす。擽ったくて肩をすくめると、クスクスと笑う声とともにカプリッと耳を喰まれて、驚き一気に意識が覚醒する。
「だが、却下だ。我は三十年も待ったのだ」
耳を抑えて、バッと顔を上げると魔王のエメラルド色の瞳とかち合い、サッと血の気が引く。
「な、何故!?」
何故、封印が解けている。
何故、僕は生きているんだ。
そう叫びたかったが、流石に絶対強者を前にして取り乱す余裕などなく、距離を取ろうと身体を動かす。しかし、腰にはしっかりと魔王の腕が逃げられないようにまわり、魔王の胸を押して抵抗していた手ごと、引き寄せられる。
意識を手放してしまいたい。
人生一度だって、今日ほどそう願った事はない。
おそらく、僕はこの魔王に拷問の末、消されるのだろう。
封印しようとした僕に復讐する為に。
(痛いのは嫌だ)
魔王討伐の旅で何度も怪我も状態異常も経験したが、痛いのに慣れる事なんてない。痛くないのが一番。五体満足。健康第一。
身体が動かないなら魔法を使ってなんとか逃げたいがあの封印で魔力が枯渇しているのか上手く魔法が使えない。
絶望して、諦めてギュッと目を閉じる。
命が尽きるまで我慢するしかないと覚悟を決めて、痛みを待つが一向に痛みは来ず、代わりに唇に柔らかいものが当たる。
何だと薄目を開けると、息が掛かるほど魔王の顔が近づき、何度も角度を変えて魔王の唇が僕の唇に重な………は???
「そう急かさぬとも三十年分、余す事なく可愛がってやる」
「え…、き、キス??いやいや、そんな筈…」
「何を驚いている?愛らしく目を閉じて口吸い待ちしていたのはお前だろう。…愛い奴め。この程度で狼狽えていては身が持たんぞ」
「は、はい??」
何故、勇者陣営にとってはラスボスの魔王から僕はキスを受けているのか。
起きた最初からもう意味が分からないのに、更に意味が分からなくなり、頭が混乱でぐるぐるする。
しかも、疑問の「はい」を肯定の「はい」だと捉えられて、先程よりも深く唇が重なり、何時の間にかに裸になった魔王に覆い被さられていた。
そして、衝撃のプロポーズに至る。
「マグリット。我の最愛」
熱に浮かれたあのエメラルドの瞳が引き攣る僕の顔を映す。
上から落ちてくる銀糸の髪がさらりと肌を撫で、柔らかなベッドに沈む僕の身体を長い指がまさぐる。
「ッツ!!?魔王ッ??!…は??最愛??!」
「やっと、起きたか。我を待たせるとはいけない子だ。その無垢な身体に存分に教え込んでやろう」
「待て待て待て待て!!?何が、何がどうなって…」
「不束な者だが、末永くよろしく頼むぞ、我が最愛」
下履きを脱がされ、片足を肩に背負われた。
僕を見るそのエメラルドの瞳は獲物を狙う捕食者の目。
あれ?これもしかして、僕は性的な意味で喰われるのかと、悟った時の絶望は拷問の比じゃなかった。しかし、自身が食われる側だと悟った事よりも恐ろしかったのは…。
「ひぇ…。大きい…」
獲物を串刺しにしようとギンギンとそそり立つ、魔王のアレだった。
その長さは「俺、騎士団の中で背もここも長いんだ」と自慢していたパーティメンバーのひとり、騎士のイグニスよりも長く。
「分かってないっすね。イグニスの旦那は長さより太さっすよ」とイグニスと張り合っていた盗賊イヴァンよりも太い。
歴戦の戦士のような風格も持ち合わせた魔王のアレを前にほろりと瞳から涙が溢れる。
「あんまりだっ…」
孤児として施設で育ち。
魔法の才を買われた先で、アステルと出会い、魔族との命を賭けた戦いに明け暮れて…。
「ふっ…。うぅ…、ぐすっ…」
最後の魔王戦で自身を犠牲にして魔王を封印したというのに。まさか、最期は魔王のアレに腹を突き破られて、死ぬなんてっ。
「ひどいっ…。ひぐっ。ぐす…」
恥も何もかも恐怖で捨て去り、魔王のアレの前に泣きじゃくる。
「マグっ…、マグリット!? 何故泣いている??!」
「うぅ。やだっ…、触らないでっ!」
「こ、この我にその身を捧げるのはとても名誉な事なのだぞ? ましてや、人間如きが我の伴侶になれるなど、泣いて喜ぶ事なのだぞ!?」
「やだっ…。助けて、アステルっ!」
止まらない涙を手で乱雑に拭うと、「擦るのはよくないのだぞ」と魔王の手が触れてくるので叩き落とす。
触るなって言ってんだろっ!?
「そんな、そんな我に抱かれるのが嫌なのか…」
ショックを受けたように呟く魔王の声に泣きじゃくりながらも、冷静なもう一人の僕が「なんで、魔王が勇者陣営の魔法使いに拒否されて落ち込んでんの?」と疑問を呈す。
そもそも封印魔法を掛けた相手に求婚されて、抱かれそうになってるのか?
何がどうなったらそうなるのか、僕には全く理解できない。
「三十年だぞ。三十年もおあずけを食らっていたというのに…。クッ!何だ、この胸の痛みは!!泣かれると胸がちくちく痛いから泣き止め」
「ふっ…。うっ…」
「ああ、くそっ!分かった。ほら、服を着たぞ。だから、目を擦るな。目に菌が入って、腐り落ちたらどうするのだ」
魔法で服を着直すと、ぐるぐるとブランケットで僕の身体を包んで自身の膝の上に抱き上げ、何処からともなく取り出したハンカチで涙を拭う。
顔が近づいた一瞬、唇を寄せてこようとしたが、至極残念そうな顔で顔を離した。
「ほら、何もしなかったぞ。何もしない」
なだめるように背を撫でて、あの絶対強者の魔王が優しい笑みを浮かべる。
本当に何もしないのだろうか?と、止まらなかった涙がやっと止まったのも束の間。
グリッ。
「…………」
歴戦の戦士のような魔王のアレがお尻に当たった。サッと血の気が引き、絶望の顔で魔王を見上げた。
「いやっ、これは不可抗力なのだ。そりゃあ、マグリットが受け入れてくれるならば今直ぐにでも挿れたいぞ。だが、我はマグリットを愛しているからな。愛しているから今日は我慢するのだぞ」
「……………」
「疑いの目…。ええい、分かった。一人寂しく、抜いてくるから待っておれ!」
ぐるぐるに巻いたブランケットの上から更にブランケットを重ねて、苦渋の表情でやっと僕を離した。
涙を拭ったハンカチを洗浄魔法で清潔にしたかと思えば、水魔法と氷魔法でハンカチを冷やし、ソッと僕の手の上に置き、ベッドから立つ。
「いいか。痒くても擦るなよ!我が一人寂しく抜いて戻ってくるまでにそのハンカチで目を冷やしておくのだ。戻ったら治癒魔法も掛けるから擦るなよ!」
再三、目を擦らないようにと釘を刺し、去っていく姿に唖然とする。
本当に意味が分からない。
あの人間の村を焼いても罪悪感すら感じない魔王が勇者陣営の魔法使いの目を心配するとはこれ如何に?
「何が…、何が起きているんだ…」
ひんやりと手を冷やす魔王が残していった冷やしハンカチの感触に、改めて自身がこの世界に存在している事を自覚する。
状況が飲み込めずに考えるのも疲れて、ポスンッと身体を柔らかなベッドに沈め、思わず顔を顰めた。
「アイツ…。二回も言った…」
矢鱈と「一人寂しく」を強調して、未練がましく出ていった魔王。
この後、宣言通り一人寂しく抜いて帰ってきた魔王に治癒魔法を施されながら未練がましく同じ言葉を聞かされ、僕は恐怖を忘れて呆れた。
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