不束なラスボスですが、末永くよろしくお願いします

きっせつ

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そして、魔法使いは未来を選ぶ

「心配したぞ、マグリット。お前の思惑は分かっていたが、まさか起きて早々だとは思わなかったぞ」

転移魔法ですっ飛んできた眼前のルシエルは顔を真っ青にして、安定しない魔力での転移魔法の危険性を語る。

「どうする。間違って僻地に飛ばされていたとしたら? 野蛮な雄どもの前に飛ばされていたらどうするというのだ!? 」

「どうにもならないよ。身一つで金目のものすら持ってないのに襲われ訳ないだろ」

「マグリットは何も分かってない。男なら何時もの可憐さに色香まで加わったマグリットに食指が動かぬ訳なかろう! 襲われる光景がありありと目に浮かぶっ。嫌がるマグリットを乱暴に縛り付けて、しっとり触れる手に吸い付くようなやわ肌を堪能して。与えられる暴力的な快楽に啜り泣く姿に征服欲を満たされた男達に無理かり身体をッ…」

「変な妄想はやめろ! 野蛮なのはお前だっ。普通の男なら至って平凡な僕に盛る訳ないだろ! お前が異常なんだって!!」

転移魔法の危険性…というより、恐ろしい妄想を聞かされて僕は震え上がる。絶対に有り得ないというのに、あまりに具体的過ぎて想像してしまったじゃないかッ! マズイ。鳥肌まで立ってきた。

「とにかく、無事で良かった…」

ホッと胸を撫で下ろし、ルシエルが僕の足の甲に口づけを落とす。ローブをたくし上げるようにふくらはぎを撫でて、アステルが高級ポーションをぶっかけたお陰ですっかり綺麗になった太ももを切なそうに見つめていた。

「いい加減にしろ。マグリットから離れろ」

何処からともなく取り出した剣を抜き、殺意剥き出しのアステルの琥珀色の瞳がルシエルを睨む。
ルシエルはムスッと不機嫌な顔でアステルを指差した。

「貴様に、貴様に分かるものか! 朝目覚めたら隣に愛しあった人が居ない寂しさがッ。思惑はあれど身体を許して、我の腕の中で我のモノを受け入れて、可愛くイヤラしく乱れた愛しき人とのピロトークもなし。激しく愛でた身体を労わりイチャイチャ出来なかった寂しさがッ。貴様にっ、貴様にわかる訳なかろう!!」

「分からないし。分かりたくもないし。お前がやった事は強姦だ。愛などカケラも無い」

「いーや。断じて強姦では無い。これは強姦などでは無い」

魔王と勇者がお互い鬼気迫る顔で対峙する。世界の命運でも、国の存亡でもなく、僕との情事が同意か、否かで。

「二人とも落ち着きなさい。それはマグリットお兄様が決める事よ。今は約束のお茶会が先決。そうでしょ?」

エリスが二人をピシャリッと窘める。
アステルは心底嫌そうに席に着く。ルシエルは茶会のテーブルを戻し、僕を抱き上げると僕が座っていた席に座り、僕を膝に抱く。

「…そうだな。不本意だが、こんな下半身だけの馬鹿よりマグリットとの約束が大切だ」

「…そうだな。こんな猪突猛進男より我が愛しいマグリットの可愛い笑顔を見る事が先決だ。ほら、マグリット。マグリットは紅茶によく合うバニラクッキーが好きだろう?」

勇者パーティの茶会に参加する気満々な宿敵魔王ルシエルは気を取り直して僕に餌付けしてくる。

邪気のないダラしない笑顔だ。多少、利用した罪悪感があるので、諦めて受け取って食べれば、僕を抱きしめて、チュッチュッとリップ音を響かせて、首筋に口付けしてくる。

「ちょっ、ちょっと!」

「あー。可愛い。大好きだマグリット。クッキーを小さく割って食べる姿は子リスの様に愛らしい。子リスのように愛らしいその小さな唇に吸い付きたい。ダメか?」

「…………」

「け、軽蔑の目。…分かった。我慢しよう。例え、思惑だったと知っていても、愛し合った初めての朝を過ごして切なかった分、イチャイチャしたかったが、愛故に我慢しよう」

わんこのように、しゅんっと寂しそうにするルシエルだが、一人寂しかった事をここまで強調されると、罪悪感とか不安とかより呆れが勝る。この魔王面倒臭い。

少し身構えていた仲間達も呆れ気味に見つめてる。

「魔王がマグリットさんにホの字って話。ホントだったとは」

「な。マグリットを復活させる約束を結んでアステルが帰ってきた時も眉唾物だったしなー。俺はマグリットまで喪ったアステルがついに狂ったかと思って心配だったんだぞ」

「俺はマグリットが目覚めたら、いの一番で知らせる誓約をさせたのに…。アイツ、いの一番に破りやがった」

「え…。ちょっと、待ってそれはどういう…」

「マグ、マグリット!!! クッキーを食べた後はしっかり水分を取らねば! 人は喉がカサカサだと食べ物を詰まらせてしまうと聞く!」

仲間達のちょっと聞き捨てならない重要なぼやきに食い付けば、ルシエルが話を逸らそうとしてくる。そんなルシエルを睨んで黙らせ、「ま、魔王を尻に敷いてる…」とドン引きするイグニスを目で黙らせた。
目を丸くして驚いているアステルを見やれば、アステルは「ははは」と乾いた笑いを零し、白状するように言葉を紡ぐ。

「俺達と魔王でお前を復活させたんだよ。ただお前にもう一度、会いたかった。会えるなら世界の敵だろうが復讐相手だろうが関係なかった」

「アステル」

「俺が望むのはお前が生きて幸せで居る世界なんだ。……本来なら無傷無償で帰ってくる筈だったんだが、なんでだろうな?」

あの復讐に生きていたアステルが復讐心を捨て、僕を生かす事を選んでくれた。涙が出そうな程、嬉しい。だが、最後の一文が気になり、素直に感動出来ない。

アステルの冷ややかな目線の先ではルシエルはタラタラと冷や汗を掻き、そっと目を逸らした。

「ルシエル…」

「だ、だって、目覚めて直ぐ勇者達の元へ帰したらマグリットは我から離れてしまうではないか。ずっと、目覚ますのを待っていたのだ。ずっと…」

叱られた子供のようにいじけるルシエルは離すまいと僕を抱き締めるが、その腕は震えている。
神殺しも出来るほど強いのに、僕が離れていくのが怖いなんて変な話だ。

「分からないな。そこまで僕に執着するのは運命のツガイだから? また狂うのが怖い?」

「確かにそれもないとは言い切れない。だがそれ以上に愛している」

「愛ね。そこが一番の謎だよ」

さして容姿が良い訳でもない男に利用価値以外に何があるのか? 
首を傾げつつ、震える腕をポンポンと軽く叩けば、ルシエルは肩から力を抜き、安心しきった顔で僕の肩を頭を預けた。

「初めて惚れたのはあの戦いであの笑顔を見た時だった。我は恐れられていたから、笑みを向けられたのなど初めてだったな。俗に言う一目惚れという奴だな」

「ひ、一目惚れ…」

「失う事の怖さも命の儚さも優しさも喜びも、愛おしさも。生き物らしい感情は全部マグリットから知った。マグリットに恋をして知ったのだ」

本当に変な話だ。何故、勇者陣営の僕が魔王に熱烈に口説かれてるのだろう。
しかも、本人には口説いた自覚はなく、まるで息を吐くように自然にその言葉が出てくるのだからタチが悪い。

恥ずかしくて居心地が悪くて、モゾモゾとルシエルの腕の中で悪足掻きをすれば、更に身体を絡め取られて密着する。その様子を生暖かい目でイグニスとイヴァンが見てくるので居た堪れない。

エリスもにこやかに見守るだけで、唯一魔王と険悪な雰囲気のアステルでさえ、無理に助け出そうとはしない。

(どう受け止めるか、決めるのは僕次第…か)

きっと、僕が拒否すれば、彼等はもう一度、一緒に戦ってくれるのだろう。魔王でも、神殺しでも。
でも、僕が本当に望むのは…。


「三十年後って事は魔法図書館の蔵書もさぞ増えた事だろうな。何年通ったら読み終えられるだろう?」

「マ、マグリット!?」

「僕が寝ている間に戦いは終わり、僕の役目は終わった。仲間とのお茶会も叶った今、僕のやりたい事なんてそのくらいだよ。旅立つ前と何も変わらない」

「ふはっ、あははっ! 確かに旅立つ前のお前は世界の未来より魔法書だったな! …懐かしい。お前らしいよ」

そう。戦いは終わった。
世界はもう平和で、仲間達もその平和な世界で新たな人生を生きている。なら、僕がしたい事はそのくらい。望みはそのくらい。

明るく笑うアステルとは対照的に悲壮感漂うルシエルのエメラルドの瞳を見つめて不敵に笑う。

「僕はまだ読んだ事のない魔法書を読み尽くしたい。城に軟禁なんてゴメンだ。アステル達にも逃走なんてせず、普通に会いに行きたい。…最初から逃す気なんてないんだろ? なら、僕が逃げたいなんて考えないくらいの度量を見せてみろよ、魔王」

「そ、それはどういう…」

「あ。きちんと誓約は結ぶからな。破れないような誓約を」

分かってる癖に今の僕にこれ以上を求めるな。誓約なんて、幾ら強力な誓約魔法を編んでも神殺しには効かない事は分かってる。
だけど、その言葉を口にするのは、今の僕には恥ずかしい。

ドロドロに蕩けてしまう程に熱い眼差しから目を逸らさず冗談を言うくらいが精一杯。
それでも少し勇気を出して、遠慮気味にルシエルの指に指を絡めれば、その手は離れないように強く結ばれて、太陽みたいに眩しい笑顔が降り注いだ。

「不束者だがよろしく頼む!」


好きも愛してるもまだはっきり分からない。
それでも、自身が命を懸けて戦ったラスボスのその言葉に彼のエメラルドの瞳に映る自身は恥ずかしそうに幸せそうに微笑んでいた。



end





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ここまで読んでいただきありがとうございます。
魔王視点を二話載せた後、完結とさせて頂きますので、宜しければ最後までお付き合いお願いします。
感想 3

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