不束なラスボスですが、末永くよろしくお願いします

きっせつ

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そして、魔法使いは勇者を想ふ


「ふぅ…。やっと、出ていきやがりましたね」

メイド長がやっとベッドに僕を下ろし、半泣きで魔王が出ていった扉を見て、スッキリした表情を浮かべる。

「初恋で浮かれてらっしゃるのです。三百年求め続けた念願の対が見つかって相当嬉しかったようですからね」

だから、許してあげて下さい、と僕にはにかみ、メイド長はメイドが持ってきた花瓶に魔王が作った氷の花を飾り、苦笑する。

「撫子の花…。ふふっ、本当にマグリット様の事を心の底から想ってらっしゃるのですね。…全て空回ってしまっていますが」

「しょうがないですね」と微笑むメイド長に釣られて、メイド達もニコニコしている。
その和やかな雰囲気に久々に緊張の糸が解れて、つい余計な事を聞く。

「その…対とは? 魔力の相性が良いから魔王は僕をそばに置きたがるのでしょうか?」

別に魔王から逃げるのなら聞かなくても良かった事だ。魔王がいなくなった今、聞くべき事は他にいっぱいあった筈だった。

何時、封印が解けたのか?
今が何年なのか?
アステル達は無事に国に帰れたのか?
戦争は?人類はどうなった?

とても大切な事の筈なのに口から出たのは逃げるのには必要のない魔王の事で軽く混乱する。


そんな僕の様子をメイド長達は微笑ましそうに見つめ、蜂蜜たっぷりのミルクティーを用意する。そんな反応されると、まるで、僕が魔王に気があるみたいで複雑な気持ちになるが、「興味本位です」と否定しても彼女達は変わらず微笑ましそうに見つめるのだろう。

「魔族にとって魔力の相性のいい相手がいる事は大切な事なのです。魔力相性が良い対、つまり伴侶は魔族にとって精神安定剤」

「精神安定剤?」

「ええ。その魔力を感じるだけで心が安らぎ、眠るという概念がない魔族が初めて睡眠という嗜好を味わえるのです。概念がなくとも睡眠を取らなければ、死にはしないものの人と同じで神経質になります」

「……眠る概念がないのに寝不足の概念はあるって事? 睡眠不足でイライラするとか、集中出来ないとか…」

「はい。例として挙げれば、マグリット様に封印される前の陛下の状態ですね。三百年も魔力相性のいい対が見つからず、睡眠不足で人類、魔族かかわらず、極端に攻撃的になっていたあの頃の悪逆非道な陛下ですね」

「睡眠不足が理由で人類は窮地に追いやられていたの? ……なんて、迷惑な」

魔王に村を焼かれたアステルを思い出し、なんともやるせない気持ちになる。
睡眠不足でイラッとして村を焼いたって事?
身勝手すぎるだろ。

やはり、魔王は魔王だとゾッとする。
あははと笑いで誤魔化すメイド長は庇いきれず、スッと目を逸らしながら、蜂蜜入りのミルクティーを手渡した。

半目でそんなメイド長を見つめながら、もらった蜂蜜入りのミルクティーを口にした。芳醇な濃い茶葉の香りを愉しみながらその甘く優しい味にホッとする。

魔王城の紅茶はどれも不自然な程に僕好み。
それがまた複雑だ。起きて四日しか経ってないのに完全に趣味嗜好を把握されてる気がする。

納得いかないと溜息をつき、ベッドの横に飾られた全く溶ける気配のない氷の花に触れる。

あの氷の魔法は綺麗だった。
咲き乱れる氷の花園は夕陽の光を受けて、夕陽色に色付いて、幻想的だった。

(魔王の魔法に見惚れるなんて…)

ポスンッとふかふかのベッドに寝転がるとラベンダーの匂いがふわりと香り、心が少し安らぐ。

匂いも枕もシーツもブランケットも全て、僕の身体にあったもので溢れていて、居心地がいい。…ここが魔王城であるという事を除いて。


「僕が魔王を封印してから何年経っているのですか?」

氷魔法で冷やした濡れタオルを頭に置いてくれたメイドにそう声をかけると、メイドはメイド長をチラリと見てから笑顔で答えた。

「三十年です」

その答えを聞いといて地味に傷つく。
命を掛けて使った千年後まで解けない封印がたった三十年しか効果がなかった。

魔王が矢鱈、『三十年待った』という言葉を口にしていたので分かっていた事だが、事実として知ると切ない。
しかも三十年は僕が目醒めるまでの時間の可能性が高い。魔王は『三十年待った』…と口にしているのだから封印されていない可能性もある。

「…人類はどうなりましたか?」

「マグリット様達の戦いの後、五年後に戦いは人類と魔族の間に友好協定が結ばれた事により完全に終結しました」

「あのっ、アステルは…、勇者達はあの後、どうなりましたか?」

聞きたかった事なのにいざ聞くと、鼓動が早まり、ぎゅっとブランケットを不安で握ってしまう。

人類が滅亡していなかったのは喜ばしいが、正直、大勢の命より僕にとってはたった四人の命の方が大切だ。人類が滅亡していなくてもアステル達が死んでいたら命を掛けた意味すらない。

メイドはまたメイド長に許可を取るように視線を送ると、笑顔でブランケットを握る僕の手を優しく包むように握った。

「大丈夫です。勇者達は無事に国に帰りました。魔王を封じた英雄として迎えられたそうです」

「そう…。良かった…」

封印は上手くいかなくとも、どうやら、僕が命を掛けた意味はあったらしい。

ホッと胸を撫で下ろすと、安堵で気が抜けて瞼が重くなる。
うとうとと夢の世界に意識が引っ張られる中、メイド達がこちらを目を丸くして見ているのが見えた気がした。

「…マグリット様は勇者達の事を随分と気に掛けていらっしゃるのですね」

「一緒に旅してきた仲間だから…ね。アステル。きちん…と約束まもってくれたかな…」

「勇者アステルとはどういう御関係で?」

「どういう…って?」

意識が夢の世界に飛びそうになりながら、そう問われてアステルの事を考える。

旅の誘いを何度も断る僕を「君じゃなきゃだめなんだ」と誘い続け、僕が根気負けして、始まったアステルとの関係。

アステルは何時だって真っ直ぐで、生真面目。
困っている人を見るとほっととけず、金にならない依頼ばっかりもらって来る。いい奴だけど、困った奴。

『マグリットっ! 俺、お前が相棒でよかった』

聖女達が加入するまでは、二人で何度も死にかけながらダンジョンをクリアしていた。街に帰る体力も無くて、そのまま地面に寝そべり、生きている喜びを噛み締めて、満天の星空の下、笑い合った。

『僕もだよ。……ただ、回復魔法の使い手だけは即加入させて欲しい』

『俺は盗賊職が一人欲しい。…宝箱があるのに開けられないのは切ない』

『前衛も充実させたいな』

一緒にいると楽しくて。
でも時折、見せる陰のある表情が心配で。


「ほっとけない人…かな」

もし叶うならアステルの事を好いていた聖女エリスと築き上げた幸せな家庭の中で笑っていて欲しい。復讐も辛い過去も吹き飛ぶくらい幸せに。

思い描いた幸せな夢に思わず、表情を綻ばせ、眠りについた。


「まさか…、マグリット様の想い人はッ……あわわわわ」

「これはっ、これは由々しき事態です。メイド長っ!」

「メイド長っ!!ここは例の作戦の決行を進言致しますっ!」

「許可します。風邪が治り次第決行っ。各自、全力を尽くしなさい」

「「「はい!」」」

メイド長達が頰を紅潮させながら、何かを企んでいた事も寝ている僕は知らなかった。
感想 3

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