不束なラスボスですが、末永くよろしくお願いします

きっせつ

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そして、魔法使いは再開する②

「はぁ? 足の怪我? ヴォルガとはたまたま国からダンジョンに潜る依頼を受けて共闘しただけだ。あの野郎。足を捻った俺を年寄りだの馬鹿にしてたが、なんて事をマグリットに吹き込んでくれたんだ」

ムスッと怒りながらアステルは僕の右隣で紅茶を飲む。そんなアステルの言葉にアステルの対面に座るイヴァンが意見を返す。

「いやぁー。奴さん、アホだから単純に紛らわしい言い方しただけっしょ。アホだから」

その言葉に同意するように僕の左隣に座るエリスが頷く。

「負傷したアステルを担いで戻って来てくれるいい子ではあるのだけれど…。その…、ねぇ?」

三十年越しに開かれたお茶会はヴォルガがアホだという話から始まった。
アステルの足の件も、「あの勇者を助けられる程強いんだぜ!」と自慢したかっただけようだ。なんて、紛らわしい。

…まぁ、この際ヴォルガの件は置いておくとして、僕が白い焔となっている間に随分と世界は様変わりしたようだ。
戦争が終わり、和解しただけでなく、今では友好国として条約を結び、協力し合う仲。国境は行き来自由で魔王国に近い場所では異種間婚も多く、王国に住む魔族もいるらしい。

「驚く程に魔王を失った魔族達の戦後対応は完璧でしたわ。魔王の狂気に蝕まれて狂っていたとはいえ、あそこまで理性的とはと、神官長も驚いていらしたわ」

「なー。魔王国から戦争のお詫びに好条件をポンポン出されて調子に乗った王を諌めんのは大変だったなー」

「あれは酷かったっすね。マグリットさんを神格化しまくって自分の都合のいいマグリットさん像を国民や魔国民に広めて洗脳しようとしたり、実はマグリットさんが自分の隠し子だった設定作って魔王国揺すった時は殺意湧いたわー」

「止める為に俺達もマグリットの像やら物語やら王国、魔王国各地に作ったんだよ」

「……だから、僕の銅像があったの? 正しく伝える為とはいえ、そこは僕だけじゃなくみんなの分も立ててよ。恥ずかしい」

「「「「絶対に無理」」」」

帰ってきたら仲間に国を救った英雄に祭り上げられていた。
理由はあったとはいえ、勘弁して欲しい。僕だって、自分の銅像を見ながら生活するなんて無理だわ。

それでもお茶会は夢を見ているかのように楽しい。
アステルとエリスの薬指に光る結婚指輪に、イグニスの子供達が最近、騎士になった話。イヴァンは未だ未婚で、女遊びで痛い目あった事など。

「いやぁー。いつの間にかに全財産持ってかれた時は肝を冷やしたっすねぇ。まぁ、良い夢見れたんでオールオッケー。あっはは!」

「「何がオールオッケーだ。アホ」」

「何やってんだ、バカ」

「本当に変わらず、お馬鹿さんね」

「ははは。この感じも変わらないっすね。…いや、…ホンっ…ト、久々だな…」

紅茶を飲みながらポロポロと泣き出したイヴァン。イヴァンの涙を見て、エリスも堪らず泣き出して、僕の服の裾を掴む。

イヴァンの女癖の悪さも女運の悪さも旅では見慣れたものだった。何度か女に騙されて身包みを剥がされていたイヴァンに思わずアステルと同時に呆れて、イグニスが叱るという流れ。
感受性豊かなエリスが貰い泣きして、しんしんと泣くのも三十年経って素敵な女性になっても変わらない。

「…そういやぁ。マグリットさんの足は治るんすかね」

「残念ながら私の治癒魔法は効かなかったわ」

「しょうがないよ。これは作り物の足。本物の足は燃え尽きてるから」

「まー。俺達が介助すれば大丈夫だろっ! そういや、行くとこ無いなら俺ん家に来い。嫁さんもマグリットなら大歓迎だってよ」

「抜け駆けっすか? いやいや、そこは独り身のオイラん家でしょ。オイラと二人の方がマグリットさんも気楽っすよね」

「うちも大歓迎よ。ね? アステル」

「ああ。寧ろ、うちにしろ。絶対にアイツを追い返してみせる」

戦いは終わった。みんな、生き残り、それぞれの人生を生きている。魔族との共存を選んだ世界でも生き生きと笑うアステルの姿が本当に全てが終わった事を告げてくれる。

「マグリット。マグリットはこれからどうしたい?」

今度はその言葉をアステルから僕に投げ掛ける。
もう一度見たかったアステルの笑顔も見れて、みんなにまた会えて、やりたかったお茶会は出来た。魔法書もゆっくり楽しめてるし、…あれ? 他に僕は何がしたい??


『愛してる。マグリット。こんなにも誰かを愛おしいと思えたのは初めてなんだ』

不意に頭にルシエルの言葉が蘇る。
何故、今、思い出す? 
あれか。衝撃だったからか。

『こんなにも愛おしくて、想っているだけで幸せになれるのは初めなんだ』

あの強くて太刀打ちできないルシエルが余裕のない顔で僕を求めて、僕を貪る。作り物のような完璧で美しい顔を僕と溶け合う度に幸せな笑みで蕩けさせる。


『きっと、もっと好きになる』

氷の花の咲き乱れる中、毒気の一切ない愛情に満ちた顔で僕だけを見つめて、僕だけを愛して…。

「ッ!」

「マグリット?」

逃げる為だけだったのにな。
身体を重ねたのはアステルの安否を確認する為。助ける為。
それなのに、たかが一回だけなのにお腹の中がじくじくと熱い。身体中痛くて最悪なのに、その痛みすらルシエルが自分の中に居た名残りを感じて胸が高鳴るなんてチョロすぎる。

敵なんだよ。例え、戦いが終わってもルシエルのやった事は消えない。アステルの傷は見えなくなってもその事実は消えない。

神殺しだし。利用した上で幸せそうに寝てるルシエルを放置して逃げてきたし。…うん。やっぱ、なし。

何か狂い始めた僕の心境を見なかった事にして、改めて、これからやりたいことを考えようとした。しかし、僕は忘れていた。奴がしつこいって事を…。


「マグリットッ! 見つけた。探したぞ」

「ヒェッ!」

気付けば、転移魔法ですっ飛んできた魔王ルシエルが、茶会のテーブルを魔法でどかして、僕の前に傅いていた。
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