元悪役令嬢はちびっこ黄金竜に拾われて、まったりスローライフをエンジョイ中

月宮アリス

文字の大きさ
17 / 58

優雅なバスタイムはいずこへ?

しおりを挟む
 なりゆきでちびっこ竜のお守り役になったものの、前途はものすごく多難で。

 遊びたい盛りのわんぱく黄金竜は加減というものを知らない。わたしが谷間の黄金竜夫妻の元に遣ってきて早十日。とりあえず毎日悲鳴を上げている気がする。

 彼らの遊びはマジに突拍子もない。崖から飛び降りたり、山火事を起こしかけたり、付近の精霊を巻き込んでみたり。

 崖から飛び込み(ものっそい高さだったね)ダイブに付き合わされるくらいなら釣りでも教えた方がましかなと思って、釣りをしてみたらフェイルが辺りの岩を魔法で運んで人口ダムを作ってからの素潜り(竜の姿で)。おかげでめちゃくちゃ怒られた。地形を変えるなって。誰にって、その川に住まう水の精霊に。(もちろんちゃんとダムは解体させましたとも)

「リジー様が来てからというもの、フェイル様とファーナ様のいたずらも幾分やわらいできましたねえ」

 わたしのすぐ近くに浮いているティティがそんなことを言うからわたしは驚いて「あれで?」と即座に返した。

「はい。あれで、ですぅ」

 ティティはにこにこと笑顔だ。薄桃色の薄布をまとったティティの衣装は太ももの辺りから大胆なスリットが入っていて生足がちらちらと覗いている。精霊に性別はないのだと知ってはいても、女性を思わせる容姿もあってわたしはいつも目のやり場に困る。口調も声もどちらかというと女性的で、ティティ曰く、性別こそないものの個々の性格や適性によってどちらかの性別に近い言動を取ることが多いらしい。

 ティティからは、わたしのことは女性と思ってくれて構いませんと言われている。

 わたしはほぼ毎日ちびっこ竜たちに付き合って広大な山林の中を行き来している。おかげで毎日疲れ切って熟睡。そりゃ疲れもするよね。

「二人もいるとにぎやかさも抜群よね。もうちょっと言うこと聞いてくれるといいんだけど」
「今が遊びたい盛りですからねぇ」
 ティティもうーんと腕を組む。

「その遊び方が迷惑極まりないのよ」
「魔法の使い方を覚えてきて楽しくて仕方がないんですよねぇ」
「黄金竜なだけにその魔力も半端ないし。ほんっとう質が悪い!」

 人間の扱う魔法なんてまだ可愛い方だよ。

「ほんの二十年前はか弱かったんですよぉ」
「それも信じられないし」

 竜の子供が育ちにくいというのはレイアからも聞いたけれど、今のフェイルとファーナは頑丈そのものだし、それはもう元気に動き回っているから。

 ティティはわたしの後ろに回って髪を梳いてくれる。

「にしてもリジー様の髪の色。わたし、とっても親近感がわきますぅ」

 うっとりと言うティティには悪いけれど、わたしは自分の髪の色があまり好きではない。ストロベリーブロンドって触れ込みだけれど、要するに赤毛。せっかくなら金髪の方がよかったなと小さなころ思ったものだ。

「あら、あまり好きではないですか?」

 わたしの反応からティティがそう伺ってくる。

「人間の世界では、金髪の方が受けがいいのよ。わたしの髪と目の色ってきつい印象を与えちゃうみたいで。この顔立ちも相まって」

 わたしは嘆息する。整ってはいるけれど、柔和とは程遠いきつめの顔立ち。そりゃ悪役令嬢なんだから当然よね、と頭の中で納得するものの実際にこの顔のせいで怖いとかきついとか陰で言われたら多少メンタルはへこむ。

「そうですかぁ? わたしは好きですよリジー様のお顔も髪色も」
 ふふっとなんてことなく受け流すティティにわたしは「ありがとう」とお礼を言う。
「炎の属性みたいで嬉しいですぅ」
「一応一番得意な魔法は炎系ね」

 今は魔法は使っていないけど。
 というかわたしが使わなくてもドルムントやティティがちゃちゃっと何でもやってくれちゃうし。

「あら、ますます嬉しいっ!」
 きゃーんっと彼女はくるくると回りだす。

「そうだ。今日は人の間で流行っているパック? というものを入手したんです。肌荒れにいいそうなんですよ。湯あみの時に使いましょう」

 機嫌のよい声でティティが提案してくれた。
 ティティの最近のブームは人間の女性の間で流行っている美容グッツ関連の情報を仕入れることらしい。人間のお世話をレイアからお願いされて張り切っているらしい。

「へえ、それはちょっと楽しみ」
「人間のお嬢さんは日の光を浴びすぎることを気にされるってグレゴルン著 女性の生活・思考編に書いてありましたぁ」

 だからそのグレゴルンって何者?

 わたしの部屋には浴室もくっついていて、最近の楽しみは夜の入浴の時間だったりする。
 この時間が唯一わんぱく双子竜から解放される時間ていうのも大きい。

 足つきの大きな浴槽は真っ白で、魔法のおかげで湯加減は絶妙。魔法仕掛けのシャワーのおかげで髪を洗うのも簡単快適。しかもティティが甲斐甲斐しくお世話をしてくれるし、今日はパックもあるというし。

 わたしはいそいそと浴室へ。

「あああ幸せ」

 適温のお湯に体を浸したわたしはどこかの親父のように「いい湯だのぉ」とご機嫌に鼻歌を歌いだす。

 前世が日本人なわたしはもちろんお風呂は大好きなわけで。乙女ゲームな世界ということもあってこの世界は美容関連のグッツとかも充実している。足を思い切り伸ばせる大きな浴槽にはアロマオイルが垂らされていて。一日の中で一番の癒しの時間。

 と思っていたのに。
 なにやらどたばたと足音が。

「リジー! お風呂って何するところ~?」
「僕も水遊びする~」
 ばんっと扉を勢いよく開けて人間の姿になったファーナとフェイルが飛び込んできて。

「きゃぁぁっ! 乙女の至福の時間をなんだと思っているのよぉぉぉ! 出て行きなさぁぁぁいっ!」

 わたしは乙女の嗜みとして胸元を隠しつつ大声を出す。
 もちろんそれでひるむ二人ではない。

「僕も水浴び~」
「わたしも~」

「わぁぁぁっ! お二方、人間の女性のお風呂を覗いては駄目ですよぉぉ」

「こぉら! ドルムントぉ~。あんたどさくさに紛れて何入ってきてんの! 出ていけぇぇぇ」

 ティティがドルムントに向かって炎を放つわ、双子たちが嬉しそうに浴槽に服を着たままダイブするは、優雅なバスタイムが一瞬にして騒がしくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...