元悪役令嬢はちびっこ黄金竜に拾われて、まったりスローライフをエンジョイ中

月宮アリス

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よい子のためのお菓子作り教室2

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「まさかこんなレアなものを貸してもらえるとは」

 ほら、わたし悪役令嬢に転生したから。
 そういう、愛されキャラとは無縁だったわけで。だからこちらの世界に転生して、生の精霊からゲームままの魔法石を受け取ったことにちょっと、いやかなり感動。

「お料理に役立ててください」
「ありがとうティティ」

 わたしはティティお礼を言って火の調整を始めた。
 何度か使ってみてコツのようなものを掴んだわたしはパンケーキを焼くのにちょうどいいくらいの火加減にして、フライパンを熱していく。

 熱したフライパンに生地を落として待つこと数分。

「ぷくぷくしてきたよ」

 わたしの傍らで熱心にフライパンを眺めていたファーナとフェイルがそわそわ肩を揺らす。
 パンケーキの生地に泡が浮かんできたところでわたしは生地をひっくり返す。

「うわぁぁ。いいにおい!」

 双子たちが鼻をすんすんとさせる。台所には、ほのかに甘い香りがただよっている。わたしも大好きな、お菓子が出来上がる瞬間の幸せな匂いに自然と口元がほころんでしまう。

「わたしもやるぅ」
「僕も、僕も」

 どこの世界でも子供って大人の真似をしたがるものなのね。そういえば前世で甥っ子と姪っ子にパンケーキ作ってあげたことあったっけ、なんてことをわたしは思い出す。

「はいはい。ちゃっちゃとやらないと焦げちゃうからね。わたしと一緒に、順番に」

 わたしはその場をきりきりと仕切ってパンケーキを焼き上げていった。

 お皿に盛った後は、各自トッピング。
 三段重ねにしたパンケーキの上にクリームをたっぷりと絞り出す。

「最近運動っていうか、動きまくっているからこれくらいは許される……はず(だと信じている)」

 わたしの、自分に言い聞かせるようなつぶやきをティティが不思議そうに眺めている。これはもう、乙女の儀式のようなもの。甘い物の塊を前に罪悪感を押し流すための。

 クリームを盛り盛りした周りにカットフルーツを散らばせて。

「リジーちゃん特製パンケーキの出来上がりです!」

 思わず料理番組風にわたしはでーんと両腕を前に伸ばした。

「うわぁ。人間のお菓子ですですぅ」
 物珍しそうにパンケーキの周りをふよふよ飛ぶのはティティだ。
「われながら美味しそうに出来上がったわ」

 わたしは久しぶりのお菓子作りの達成感を味わうように、額の汗をぬぐう仕草をする。
 さて、自分たちで作ったお菓子を前に、フェイルとファーナはどんなものかと下を見ると、二人とも固まっていた。

 あら、あんまり好きじゃなかったかな、こういうの、と思ったが。

 よおく見ると二人は目を輝かせながらパンケーキに釘付けだった。

「リジー! リジー! 人間のお菓子ができたよ!」
「すごいね。すごいね。このクリームっていうやつわたしが作ったのよ」

「違うよ。僕が作ったんだよ」
「むぅ~わたしも混ぜたもん」

「あー、もう。言い争いしないの。二人が一生懸命泡立てたんでしょう。せっかくだから食堂に運んでみんなで頂きましょう」

 ともすれば喧嘩に発展しそうな言い争いをさくっとぶった切って、三人で出来上がったパンケーキを食堂へ運ぶ。ティティがお茶とジュースを用意してくれた即席ティーパーティの始まり。

「食事の前にはいただきますって言うのよ」

 三人で声を合わせていただきますと言って。
 フェイルとファーナは大きな口をあけてパンケーキを頬張る。

「あまぁい」
「ふわふわ~」

 二人とも上機嫌で目の前のおやつを平らげていく。
 口いっぱいに頬張って、もっきゅもっきゅとパンケーキを食べる双子が可愛すぎてわたしも顔がとろけてしまう。子供がおやつ食べてる仕草って可愛いなぁ。

「んんん~。美味しいっ」
 わたしもつい自画自賛。

「これが美味しいっていうの?」
「美味しいは甘いの?」

「食べて幸せ~って感じるものは等しく美味しいってことよ」

「わかった~」
「わたしいま幸せなの~」

「ああほら、ほっぺたにクリームが付いているわよ」

 ふわふわマシュマロほっぺにクリームをつけたファーナ。わたしは手巾を片手に立ち上がって彼女の頬を拭いてやる。

 二人とも嬉しそうにパンケーキを口に入れて、笑って。
 うんうん。喜んでくれてよかった。

「ねえリジー、また作って」
「わたしも。また食べたい」
「はいはい。ちゃんといい子にしていたらね」
「うん! けど、いい子ってどうやるの?」

 フェイルが首を傾ける。
 ああ、そこからですか。

「他の人に迷惑をかけないってことかな」

「わかった」
「わたしもー」

 わたしの言葉にフェイルとファーナが元気よく頷いた。
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