元悪役令嬢はちびっこ黄金竜に拾われて、まったりスローライフをエンジョイ中

月宮アリス

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レイルもたまによくわからない時があるよね

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 梅雨のないこの世界で、春から夏にかけては気持ちの良い季節でもある。

 森に入れば桃やさくらんぼに似た果物が今が盛りとばかりにたわわに実っている。清流では時折魚の鱗が反射をしているし、まるっと太った魚の香草焼きが美味しいことに気が付いたのは最近のこと。
 双子が竜の姿で川で大騒ぎをして釣りどころじゃなくなったのもまあいい思い出。

「こんなに採ってどうするんだ?」
 とはレイル。今日はみんなで森で果物狩り。

「干して保存食にしたり、パウンドケーキにいれてみたり。あとはジャム作ったり。コンポートもおいしいなぁ」

 四人だとすぐに籠が一杯になる。たまに木の精霊が果物をばさばさっと落としてくれたりもする。

「なるほど。リジーの手作りお菓子は俺も好きだ」
「わたしもー」
「僕もー」
 レイルの後に双子の声が続いた。

「褒めたって何にも出ないんだから」
「あ、照れてる」

 レイルの指摘にわたしは肩をぴくりとさせる。

 竜や精霊から褒められるのと、レイルから率直に言われるのとではちょっとだけ気持ちが違う。男性に褒められることってこれまでの人生であんまりなかったから、どうしていいのか分からなくなる。

「今日は結構採れたから……干してフリュゲン村に持って行こうかしら」

 こういう森で採れた果物って売れるのかしら。物々交換より、現金に替えてもらったほうがわたしとしては嬉しいんだけどな。
 完全おひとり様スローライフIN森の中だったら、物々交換もありがたいんだろうけど。

「フリュゲン村?」
「むぅ……」
「リジーまた一人で人里に行くつもりだぁ」

 腰のあたりから不服気な声が聞こえてくる。

「リジー、このあたりの人里に降りているのか?」
 双子たちの言葉から色々と察したのかレイルが質問してきた。
「え、まあね。今後のことも考えて、採取した薬草を売りに行ったのよ、この間」

「僕たちを置いてね」
「わたしたちを置いてね」

 あ、まだ根に持ってる。双子の声が恨みがましいものになる。

「それで不貞腐れているのか」
 ぽんっとレイルがフェイルの頭の上に手のひらを載せる。
「にしても、独り立ちってまた急だな」
「べつに今すぐにってわけでもないわよ」
「じゃあ具体的にいつ頃?」
「え、それは……」

 わたしは言葉を濁した。この話題、双子の前ではかなりセンシティブ。

「この冬はここにいるつもり」
「じゃあまだ先なんだな」
 なぜだかレイルまでがホッとした声を出す。

「でもリジー一人で村に行って大丈夫なのか?」
「ティティも一緒よ」
「世間知らずな精霊は数に入らない」

 と、レイルはティティが聞いたら炎を振りまきそうなセリフを吐いた。よかった、ティティはお留守番で。

「あなた、ティティが聞いていたら怒るようなことを平然と……」
「ここに彼女はいないからな」

 レイルは開き直った。
 それから少し黙り込んでから「よし。俺もそのフリュゲン村に行く」などと言い出した。

 なぜにそうなる?

 わたしが目を見開くと「ずるいっ! 僕も」「わたしも」と合唱が始まった。

「ずるくないだろ。俺は双子たちとはちがって大人だしれっきとした人間だ」
 胸を張る台詞でもないなあ。大人の典型的なずるい台詞だよ。まったく。

「ずーるーいー」
「大人ってずーるーいー」

 ほら始まった。

 ずるーいと駄々をこね始めた双子をどうしろと。わたしはキッとレイルを睨みつける。

 レイルはなぜだか「なんか、こういうのって将来の予行演習みたいだよな」とか言い始めた。そういう予行演習はわたしじゃないところでやってほしい。

「あーもぅっ。ドルムント、なんとかしてー」
 目の前の男は頼りにならないのでわたしはドルムントを頼ることにした。
「フェイル様もファーナ様も駄々をこねないでください。リジー様が困っていますよぉ」

 どこからともなく現れたドルムントは困った声を出して双子を宥めるが、効果は無い。
 ドルムントはフェイルとファーナを交互に慰める。

「ドルムントには関係ないもん」
「僕たちいい子にしているのに。大人は卑怯だ。ずるいんだ」
「わたしだっていい子にしているもん」

 あ、これはまずいかも。
 わたしは天を仰いで、それから決意を固めた。

「とにかく、わたし一人の判断じゃ駄目だから。いいこと? はじめてのおつかいっていうのはね、お父さんとお母さんの了承をちゃんと得るものよ」
 わたしは息を吸ってはっきりきっぱり言い放った。

「でもお父様は……」

 目をうるうるさせたファーナ。言いたいことは分かる。ミゼルは判断をわたしに丸投げしたってね。

「はいはい。でもね、あなたたちの保護者はレイアとミゼルなんだから。まずは二人の許可をもらうこと。ここで駄々をこねていても無駄よ。とりあえず戻りましょう」
「はぁい」

 二人は今度は素直に頷いた。

 それからわたしたちは住まいに戻ってレイアたちを探した。
 レイアとミゼルは日中住まいを開けていることがある。
 ティティ曰く「ちょっとお出かけですぅ」とのことだった。

 待っている間わたしは採ってきた桃に似た果物を使ってタルトを作った。生地は昨日準備していたから簡単だった。カスタードクリームをつくって、レイルが魔法で冷やすのを手伝ってくれたから。「こういうとき魔法使いが一人いると便利よね」とわたしが言うと「そうか」とまんざらでもなさそうに頬を緩めた。小娘にいいように使われているのに、それでいいんだろうか。ってわたしが言えたことでもないけれど。

 タルトを食べ終わってもレイアたちは戻ってこなかった。

 結局レイルが帰る時間となり、彼は帰り際「次フリュゲン村に行くのは俺と一緒の時だからな。それまでリジーが一人で行くのは駄目」と訳の分からないことを言ってきた。

「何言っているのよ。あなたいつくるか分からないじゃない」
 わたしの反論に「いやたしかにそうだけど……」とレイルは口ごもる。

「まあまあ。リジー様、ここはとりあえず頷いてあげるのもやさしさの内です」
「うーん?」

 ドルムントの助言は分かるような分からないような。

「とにかく。そういうことだから」

 レイルはもう一度念を押して帰っていった。
 うーん……あのお年頃の男ってわからない。
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