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第3章 ダンジョン編

囚われの侍女

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「……そうか。工作は成功したか」
「ええ。マルセイユ辺境伯が持つ私兵の半数が壊滅。立て直しにはかなりの時間がかかるため、こちらに手を回している余裕はないでしょう」

 エドモンドの執務室で、人影はマルセイユ領で行った工作の結果を報告していく。

「よくやった、と褒めてやる」
「ありがとうございます」

 エドモンドは、手に持った資料に目を通しながら、人影を見ようともせず形だけの褒め言葉を渡す。
 だが、傍若無人なエドモンドの態度に、人影はむしろ隠されたベールの中で嬉しそうに笑って見ている。

「……ふぅ」

 資料に目を通し終えたエドモンドは、彼にしては珍しくため息という弱みを見せた。

「おや? なにか問題がおありですか?」
「問題……問題か。ああ、確かに問題だ。最近はアージス家が五月蠅かったせいで反乱分子のあぶり出しもできていなかったのだ」
「アージス家……ああ、あのドマとかいう小僧の家ですか」
「そうだ。いい加減目障りだからと、汚職を理由に降格処分をくだした途端に騒ぎ始めた。あんなクズでも裏との繋がりは深いせいで、厄介事ばかり起こしていたのだ」
「ふむ、潰しますか?」

 まるで虫かなにかと同じような感覚で人影が提案すると、エドモンドは首を振った。

「必要ない」
「では、のさばらせておくと?」
「いや、文字通り必要ないのだ。アージス家は昨夜、夜襲を受けた。屋敷は跡形もなく消え去り、家の者は全滅したらしい」
「……一体誰がそのようなことを?」
「さあな。箒に乗った女を見ただとか、王宮を破壊するほどの魔法が放たれただとか、そういう世迷言ばかりの証言はあるが、犯人はわからない。だが、俺の面倒事を片づけてくれた相手だ。余計な捜索は不要だ」
「わかりました」
「だからな、お前にはしばらく王都で反乱分子の始末を任せる。俺は表から、お前は裏からだ」
「御意に」

 必要な命令が終わったエドモンドは、新しい書類に取り掛かり始め、人影の存在を忘れる。
 その姿を確認してから、人影は暗闇に溶けていき、真の主がいる場所へと転移する。
 
「主様、ご報告に参りました」

 不要なベールを脱ぎ捨て、人影は平伏する。
 その部屋は異様な場所だった。壁一面ビッシリと囲まれた本に、幾つもの実験器具が所狭しと置いてある。
 三メートルほどのフラスコは、十個前後が規則正しく部屋の奥に並べられており、その中には勇人が落とし子と呼んだものが身体を丸めて培養液に浸かっていた。
 人影が平伏している男は、椅子に座りながら人影のことを見下ろしていた。
 ロープを羽織り、顔はフードで隠しているその男が、ゆっくりと口を開く。

「――幻が死んだようだね」
「はい。まさかあの場所に彼を討ち取る者がいるとは思いませんでした」
「あれは傲慢な男だ。他人を見下さねば生きていられぬ生き物だからこそ、足をすくわれる」
「その通りでございます」

 かつての同僚が侮辱されているにも関わらず、人影には同情など湧いてこない。
 主の言葉こそが絶対である。彼が白を黒と言ったのなら、人影の中でも黒になる。

「まあいいさ。それで、クレスティン家の娘は?」
「……残念ながら、まだその所在は掴めていません。他の者にも探させていますが、足取りはまだ……」
「彼女を見つけ、私の前に連れてくるは最優先事項だよ。急がせてね」
「かしこまりました」
「期待しているよ」

 主に期待されている。その言葉だけで人影は全身を歓喜で震わせる。
 エドモンドから受けている依頼など、忘却の遥か彼方である。

「ああ、それと」

 いつもならここで会話が終わり、人影は仕事に戻るのだがこの日は違った。

「魔女が王都に訪れていたようだ」
「魔女、ですか?」 

 魔女と言う言葉に、エドモンドが話していたアージス家の襲撃を思い出す。

「そう。いまはもういないみたいだけど、魔女が動いていたんだ。念のため、その理由を調べておいて」
「わかりました。では、なにかわかり次第お伝えにあがります」
「うん、頼んだよ」

 今度こそロープの男は人影に背中を向けた。
 その姿に一礼をした人影は、主の命令に従い動き始める。

 ******

(もう、何日経ったのかしら)

 目を覚ますと、薄汚い地下牢の中と言う相変わらず変わらない光景に嫌気がさした。
 鎖に繋がれ、固まった精液で汚された身体を見下ろしながら、エルフの侍女――クレハは考える。
 リリアを逃がすために囮になったクレハはアージス家に捕えられた。
 クレスティン家の者はみな殺されていたので、クレハも死を覚悟したのだが、彼女に訪れたのは死よりもおぞましいものだった。
 クレハ、エルフの中でもかなり容姿がよかった。
 光を浴びて輝く新緑のようなサイドテールに、平均よりも大き目な乳房。安産型のお尻の揉み心地は胸にも劣らない。
 そんな彼女だからこそ、男たちの欲望に穢されることになる。
 一日目にこの家の息子だと名乗る豚に処女を奪われた。泣き叫ぶクレハを嘲笑いながら犯してきた豚は、自分の行為が終わると男たちに命令して代わる代わるクレハを犯させた。
 数日経つ頃には、不浄の穴も性器のように扱われるようになった。
 それから数日の間は、他の男たちに犯されることはあっても豚の姿を見なくなった頃に、更に巨大な豚が現れて、「なぜこの俺が」、「ありえない」、「殿下は乱心された」と豚が叫びながら手加減もなにもなく犯してきた。
 それからは媚薬や薬物といった薬を使われ、意識も尊厳もぐちゃぐちゃにされて、ただ男のちんぽを加えて精液を吐き出すことに喜びを見出す奴隷にするように調教が始まった。
 普通の人間ならば、とっくに心が壊れていてもおかしくない状況でありながら、それでもクレアはまだ正気を保っていた。
 一重に、リリアのことを思ってのことだったが、それもそろそろ限界に達しようとしている。

(また、きた)

 エルフの聴力が、カツカツと複数の足音が階段を下りてくることを告げる。
 ガチャリと地下牢の扉が開かれ、現れたのは女を食い物としかみていない下種な連中だ。
 口元に張り付けたような見下した笑みを浮かべながらクレハに近づくと、気軽に声をかけてくる。

「よう、クレハちゃん。今日も楽しい楽しいお薬と調教のお時間がきたぜ」
「……はっ、なにが楽しいよ。拘束して、薬を使わないと女一人自由にできないくせに」

 身体はボロボロで、心も折れかけている。
 だからこそ、絶対に弱みは見せないようきつく睨み付けると、男たちはゲラゲラと笑いだす。

「がっはは! これだけヤられてもまだそんなこという元気があるとはな! ま、それでこそヤりがいがあるってもんだ」

 男たちは、牢屋を開けてクレハに近づくと、懐から包みを取り出し、薬を飲ませようとしてくる。
 それが高純度の媚薬だと知っているクレハは、顔を逸らして口を閉じる。

「おい! 抵抗するな」
「んぐっ!」

 鼻を押さえつけられ、苦しくなって口を開けた所に無理矢理流し込まれる。

「ほら、吐き出すなよ」
「んく、んく、けほっ」
(ああ、飲んじゃった)

 身体の中に入った薬は喉を伝い、胃の中へと滑り落ちていく。
 少し経つと、身体の奥が溶けるような熱さを持ち、秘部が疼いてくる。

「さすが高い媚薬だな。もう効果が出てきやがった。どうだ? これが欲しくなってきただろ?」

 ズボンをズリ下げ、一斉に固くなったペニスをクレハに見せつけてくる。 

「くぅ、っつ、ふ、ふふ。だ、誰がそんな粗末なものを欲しがるものですか」

 思わず生唾を飲み込んでしまうのを堪え、必死に鼻で笑おうとする。だが、そんな強がりはお見通しのようだった。

「ああ、そうか。俺たちのモノは小さいみたいだな」
「え、ええ、そうよ。そんなモノで満足する女がいるわけないわ」
「じゃあ、突っ込んでも喘いだりしないよな?」
「へ? あひぃん!」

 男の一人が正面からクレハの身体を持ち上げて抱きしめると、前戯もなしに突き入れた。

「おやぁ? 前戯もしていないのにクレハちゃんのマンコはもうドロドロだな! まさか期待していたのか? 俺たちのチンポじゃ感じないんだろ?」
「ち、ちが、いひぃっ! これは、あへ、媚薬の、せいで!」
「いくら高い媚薬を使ったからってこんな短時間でチンポがすんなり入るほど濡れるかよ。これはな、お前が俺たちに犯されたくて仕方ないからこうなっているんだよ」
「そんなわけっ!」
「信じられないか? なら、信じさせてやる。おい! だれか後ろに突っ込んでやれ!」
「へへ、じゃあ俺が」
「ちょ、ちょっと、やめ、おほぉ!」

 後ろに回り込まれたかと思えば、クレハの尻の穴に肉棒がつきいれられ、腸が圧迫される。

「んっ、んぐ、ん゛ん゛っ゛っ゛!!」
(交互に動かれて、声が、漏れちゃう!)

 必死に唇を噛んで声を押し殺そうとするが、どうしても堪えきれない分が零れてしまう。

「感じてないフリをして、可愛いなおい」
「まったくだ。何度やってもマンコは緩くならねえし、エルフってのはサキュバスの親戚だったりしてな」
「違いねえ。がはははは!」

 好き勝手いいながら笑う男たちの会話を聞き、自分たちの種族が馬鹿にされていることが悔しくなる。

「おごぉ、かひゅっ、おほぉ!」
「ほらほら! もっと腰を振れ!」
「いぎっ、お尻、叩く、な、あひぃ!」
「お、クレハちゃんはお尻を叩かれるとマンコの締め付けがよくなるな」
「叩かれて感じてるのか? 雌豚の才能あるな」
(こ、こんな奴らに! せめて身体が自由ならば、魔法が使えるのならば、こんな男どもなど数秒もあれば惨殺できるというのに!)

 だが、いまのクレハは身体の自由もなければ魔力もない。
 クレハにできることは、男たちの言葉に心が折れないようにしながら、ひたすらに陵辱が終わるのを待つだけである。

「あー本当に最高だわクレハちゃんの雌マンコ」
「乳首もこんなに赤くなって可哀想に」
「いぎっ!?」

 ぷっくりと切なそうに膨らんだ乳首に男が噛み付くと、鈍器で殴られたような衝撃が全身を駆け抜けて、わずかだが絶頂してしまう。

「お、イっちまったか?」
「だ、だりぇが……イッってなんかっ」
「強情だな。そんな甘い声を出しておきながらまだ否定するのか」
「あまいこひぇにゃんか、らひてなひっ!」

 何度も頭を振って否定するが、その度に男の肉棒がクレアの弱い部分を突き、芯の部分から湧き上がってくる快感に声が漏れてしまう。

(駄目! 駄目! この、ままじゃっ!)

 一突きされるごとい、どうしようもないほどに気持ちがいいのだ。
 媚薬で高まった身体が、心が男たちに屈服したがる。雌として媚びて、男に支配されたいと疼く。
 地下牢に捕えられてきてから、何度もその誘惑には抗ってきた。どれだけ身体を汚されても、心だけは絶対に差し出さないと誓っていた。
 だが、どうしようもないほどに弱ってきたクレハの心に、快楽の魔の手が忍び寄ってくる。

「ほらほら! 自分は雌豚ですっていえ!」
「いひゃだっ! わらひはっ!」

 媚薬の毒が頭にまで周ってきているせいか、もう何に耐えているのかわからなくなってくる。

(……リリアお嬢様。クレハは、もう)

 心の中で諦めが鎌首をもたげた。
 クレハのエルフとしての、従者として矜持がボロボロと崩れていく。もう少し、あと一押しで完全に壊れてしまう所で――屋敷から爆音が響いてきた。

「な、なんだ!?」

 地下牢にまで響くその音に、男たちも動きを止めて慌てだす。次の瞬間、一度目よりも激しい音と揺れが襲う。
 流石に尋常ではない事態に、クレハからチンポを抜いて男たちが上の様子を確認しに行こうとすると、空間が歪み、一人の女性が姿を現した。
 
「こんな所に地下牢があったのね。ほんと、隠すのだけは上手いんだから」

 現れた女性は、黒のとんがり帽子に、黒のローブ。黒の三つ編みに、瑠璃のような青い瞳をしていた。

「えーっと、ここにいるはずだけど……って、誰よアンタたち」
「それはこっちの台詞だ! なんだお前は! ここをアージス家の敷地だと知って来たのか!」
「アージス? ああ、あの喋る豚のこと? それならもういないわよ」
「は? いない?」
「うん。下品な視線を向けてきたから骨も残さなかったわよ。アイツの手下ってことは、私の敵よね?」

 女性が杖の代わりに手に持った箒の先を男たちに向けると、空気が淀む。

(こ、これ、は……)

 媚薬の毒が周ったクレハの頭が、冷や水でも浴びせられたように一瞬で冷める。
 エルフは、人間よりも遥かに多く魔力を持っている。そんなクレハが、思わず気を失ってしまうほどの魔力が一瞬でこの場に充満されたのだ。

(私の、数十倍? いえ、もしかしたら数百倍はくだらない……!)

 クレハでさえそうなのだから、男たちに耐えられるはずもなく、その場で白目を剥いて気絶した。

「あれ? なにもやってないのに倒れた。まあいいか。ばいばーい」

 女性が箒で地面を掃く動作をすると、男たちの身体は文字通り塵となって消えていった。
 なにをやったのか、どんな魔法を使ったのか。クレハには認識すらできなかった。

「これでよしっと。あとはえーっと、うわ、胸デカ! こ、コホンッ。ねえそこのエルフ」
「は、はい! なんですか!」

 目の前に現れた化け物に声をかけられたクレハが、委縮しながら返事をする。

「あーそんなかしこまらなくていいか。見た所、この地下牢には貴女しかいないみたいだけど、他に女の子とかいなかった?」
「い、いえ。かなり前からここにいますが、私以外の女性は見たことがありません」
「そっかー。ここもハズレかぁ。仕方ないか。うん、怖がらせてごめんね?」

 魔女が指を鳴らすと、クレハを拘束していた鎖が砕けて消えた。

「じゃ、私は行くから。貴女もさっさと逃げてね」
「ま、待ってください!」

 現れた時と同じように消えようとする女性を、クレハは咄嗟に呼び止めてしまう。

「ん? どったの?」
「あ、えっと、その。お、お礼をいわせてください」
「ああ、そういうのは別にいいよ」
「いけません! それではクレスティン家に勤めるメイド失格です!」
「……クレスティン家? 貴女、クレスティン家のメイドなの?」
「え? そうですが、それがなにか?」

 妙な所に食いつかれたことに、クレハは首を傾げる。

「んーじゃあさ。リリア・クレスティン・フェミルナって知ってる? 私、その子を探しているんだけど」
「リリアお嬢様を知っているのですか!」
「向こうは知らないけど、こっちが一方的に知っているのよ。んで、私は彼女を保護するために探し回っているわけ。それで、クレスティン家のメイドってことは、彼女が行きそうな場所を知っているんじゃないの? もし知っていたら教えてほしいな」

 女性の言葉を聞いたリリアは、このタイミングで彼女が現れのを天啓だと思った。この好機を絶対に逃がすわけにはいかない。

「……教えるのは構いませんが、条件があります」
「えー。あんまり面倒なのは嫌だよ?」
「いえ、簡単なことです。私も連れて行ってください」
「貴女を?」
「ええ。私はリリアお嬢様お付きの侍女をしていました。仮に貴女が一人でリリアお嬢様見つけられたとしても、信用されるかはわかりません。ですが、そこに私がいれば話は違います」
「なるほど。確かにそうね。……いいわ、連れて行ってあげる」
「ありがとうございます。私はクレハ・エーデルワイスといいます」
「私はフィア・ローゼスミント。昔は勇者パーティで魔法使いをしていて、いまは魔女って呼ばれているわ。よろしくね」
「へ? 魔女?」

 クレハは今日一番ともいえる間抜けな表情を晒し、フィアは、悪戯に成功した子供のように意地悪く笑った。
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