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始まりの唄

第二話 星雲

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「こっ、壊すって……。もっ、もう少し説明してよ」
「…そうですね……。時間はあまりありませんが、準備している間に少し説明しておきましょうか…」
「うん…」
「……まず…この世界はゲームではありません。似て非なるものです…」
 女の子は宙にフワフワと浮かび、ヒラヒラとした服を靡かせていた。しばらくすると、彼女の周りにはキラキラとした光が白い雪のように舞い始めた。
「……でも…僕がやろうとしてたスマホのゲームとよく似てるんだけど…」
「似ているからこそ…この世界とつながってしまったのでしょう…。このまま…放って置くと貴方の世界とも繋がってしまい…そうなれば……わかりますよね?」
「…僕の世界が異世界風になるの?」
「…まっ、まぁ、そうですね……」
「…って事は、学校で魔法の授業したり、街にはモンスターとかいっぱいでるの!?」
「なんだか…嬉しそうですね…」
「そっ、そんな事ないけど…」
 彼女はガクッと肩を落としていたが、僕は手を左右に振りながらあんな事やこんな事を考えていた。
「はぁ…。まず…よく考えてください…。例えば寝て起きた時、あなたの隣にモンスターがいるかもしれない世界ですよ…」
「でっ、でもっ、魔法とか剣とかで戦えばいいじゃ…」
「…まあ…貴方には今からそういう事をしてもらわなければならないので強くは言えませんが…。幸せとは案外身近にあるもの…。…そう思いませんか?」
「…はぁ……」
「……はぁ……。……話を続けます…。……まずは変異した世界を少しずつ破壊して元に戻さなければなりません」
「…そうなんだ……」
 彼女の手には小さな青い光が現れて、球体のように輝き始めていた。僕はその綺麗な輝きを宝石を見るように見つめていた。
「……この世界は元々私が管理していたのです…。ところが…ある日……」
 僕はそれを見ていたので少し反応が遅れてしまったが、彼女はとんでもない人物だった。
「……まっ…待って…。君が管理って……。じゃあ…君が神様って事?」
「…貴方の認識が現時点で世界を管理している者を指すなら違いますが、管理していた者を指しているなら…そういう事です」 
「へぇ……。……君が………」
 …大丈夫かな…この子が神様って……。でも…神様って言うくらいだから、結構な年なんだよな…。この子…見た目は子供でも中身は……。
「ふぅ……少し前にでてきてください。先に渡しておきたいものがあるので……」
「…少し前に? ……ん? 手が光って…」
「…ふぅ……。……おらぁあああ!」
 僕が怪しそうな表情を浮かべて彼女の顔をジロジロ見ていると、呆気なくクリーンヒットを決められて、お腹を抑えながら沈んだ。僕は呼吸を何とか整えた後に起き上がった。

「…なっ、何するんですか!」
「…私をバカにするからです! 謝らないと、もう説明は終わりです!」
 …なんて…ヒステリックな神様なんだ。何も言ってないのに…。まあ…なんとか誤魔化さないと…。
「いや…その…見かけが凄く可愛かったから、ちょっと驚いたというか…」
「…へぇ…そうですか……」
「そうそう…。それなのに急に殴るなんて…」
「…ヒステリックな神様で…悪かったですね……。……あと…ロリババァで…」
「いっ、いや…その……。ははははっ…」
「……」
 こっ、この子、心が読めるのか……。なら…素直に謝ろう…。
「……ごめんなさい…」
 僕が頭を下げて謝ると、彼女は僕の体に魔法らしきものをかけて立ち上がらせた。
「まあ…今回だけはこのくらいで許してあげましょう…。宇宙一可愛いと思った件に関しては本当のようですし…」
「……」
 そこまでは思ってないんだけど…。
「……」
 僕は彼女が無言になったので、話題を変えることにした。彼女は少し不機嫌そうだったが話を聞いてくれた。
「そっ、そういえば、さっき…今は管理してないみたいなこと言ってたけど、どういう意味なの?」
「まあ…貴方は難しい事は考えず、ゲームをするようにこの世界を楽しんでてください。今は説明してもわからないでしょうから…」
「いや…それでも…もう少し詳しく……」
 急に耳を壊す程の爆発音が聞こえ、辺りは黒色に染まり始めると同時に揺れ始めた。僕は不穏な空気を感じて、迫りくる何かに警戒した。
「…なっ、何!?」 
「予想より早い…! …もう来たようですね」
「来たって何が!?」
「このゲームのラスボスだったものです…」
「ラッ、ラスボス!? たっ、戦うの!?」
「今、戦って勝てる相手ではありません…。逃げてください。私は時間を稼ぎますから…頼みましたよ!」
「頼むって…。どっ、どうしろっていうんですか…!?」
「私にもわかりませんよ! 困ったことがあったら、ステータスさんに聞いてください! 追手が何匹か行くかもしれませんが…。…では…幸運を祈ります!」
「追手って…!? ちょっと、まっ…」
 僕は掃除機に吸い込まれたように急に後ろに引っ張られ、僕は過ぎ去っていく水色の雲をただ眺めていた。

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