母を探して(完結)

しぎょく

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出発前

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母が姿を消した。
 捜しても多分見つからないだろう。
 母は極度の方向音痴。
 信じられないかもしれないけれど、母は今自分がいる場所から一歩でも動いてしまうと一瞬で迷う事ができる。その為、常に誰か一緒にいなければ一生かかっても目的の場所にたどり着く事は出来ないだろう。
 だからそうならない為に、母には何人もの付き人をつけていて、片時も母から離れず、注意して見ておくようにと言っているはずだったのだが、それでも母はいなくなってしまった。
 無駄だとは思うけれど、一応念のためにと言う事で、捜せる範囲で母を捜した。
 母の付き人はもちろんだが、母を知るものは母の捜索に手を貸してくれたけれど、やはり母は見つからなかった。
 母の捜索は父が定めた範囲内で見つけることができなければ自然に打ち切ることになっている。
 かと言って、いなくなってしまった母を見過ごす事など父が出来るはずないので、一定の範囲を超えて母の捜索をするとなると、今まで母の捜索に手を貸してくれていたものではなく、別の人物が母を捜すことに決まっている。
 「・・・・・・・・すまないがウィル・・・・・また、お前に頼む事になってしまうが、頼めるか?」
 母の失踪に頭を抱える父は、俺に頼み込んできた。
 父が定めた範囲を超えて母の捜索を任されるのは、息子である俺の仕事。
 何処に行ってしまったのか分からない母の捜索に何時までも他人の手を借りて捜索するのは気が引ける、相手に何時までも迷惑をかけることができないと言って、一定の範囲で母を見つけることが出来なければ、その先の捜索は家族内で行うと父は決めた。
 それから俺は、母がいなくなるたび、一定の範囲で見つけられなければ母を捜しにいく事になった。
 長い旅になるだろう。
 以前母を捜しに旅に出たとき、半年掛かって母を見つけだすことができた。そしてその前は一年、またその前は約三ヶ月と、旅に出るたび、捜索に掛かる日数が変わる。
 「まかせてください父様。この俺が絶対に母様を見つけ出して連れて帰ってきます」
 「頼みましたよウィル。ですか、今回ばかりはいつもと違い時間が限られています。何が何でも限られた時間内にお母様を見つけ出してください」
 「分かっています兄さま。絶対に二ヶ月以内に母様を捜し出して見ます!」
 母の事を心配するのは父だけではない。
俺には年の離れた兄がいるけれど、兄も母の事をかなり心配している。
 本当なら、長男である兄が旅に出て母を探す予定であったが、生まれつき体の弱い兄は旅に出たくても出ることが出来ない。だからそんな兄に代わって俺が旅に出ることになっているが、俺は旅に出るのは嫌いじゃない。むしろ大好きだ。
 旅をしていれば色々な事を見ることができるし、今まで知らなかったことだって知ることが出来た。
 今回、諸事情があって、二ヶ月以内に母を捜し出さなければならないけれど、旅を楽しみながら、母を捜せればいいと思っていた。
 「それでは父様、兄さま、俺は部屋に戻って旅の準備をしてきますので、失礼します。ユーイ、トーレス、マイル、今回もヨロシクね」
 ユーイ、トーレス、マイルは俺がもっとも信頼する人物達。
 三人は性格は違えど、お互い年が近いためなのか、とっても仲が良かったりする。それに三人はいつも俺の側にいてくれる。護衛の為にいつも俺の側にいてくれるのは分かっているけれど、俺にとって三人は友達だと思っている。
 だから俺は旅に出るとき、父から旅は危険がつきものだと言われていて、一人では旅をさせてもらえないので、旅に行くときはいつも三人に同行してもらっている。
 「あ・・・あのー・・・そのことなのですが・・・・・・ウィルウィア王子・・・・」
 「王子って呼ばないでっていつも言っているよねトーレス。それにウィアもいらない。ウィルでいいってこれも俺いつも言っているよね?」
 ウィルウィア・ウォール・ウォーリア。
 これが俺の名前だけど、昔から回りにウィルと言われていたせいなのか、ウィルウィアと呼ばれるのがあまり好きじゃない。
 それなのに、少し控えめな性格をしているトーレスはいつも俺の事をウィルウィアと呼び、おまけに王子と呼んでくる。
そりゃあ俺は、この国、水の国と言われている、水の大精霊・アクアプリズムの加護を受け無限の水によって守られ続けているアクアリーテ国の国王であるウォーリア王の第二王子でトーレスの言うとおり王子には間違いないけれど、他の者ならまだ良しも、俺はどうしても三人から王子だとか、ウィルウィアとか畏まった言い方をしてほしくない。だからいつもウィルって呼ぶように言っているのだけど、何度俺が言ってもトーレスだけは治らない。
「ウィル。あまりトーレス殿を責めてはいけませんよ。トーレス殿はいつもウィルの事を思ってそう言ってくれているのではないのですか?」
 「に・・・・兄さま・・・・・・」
 反論できなかった。
 俺は昔からそうだ。実の兄であるのに、兄に何を言われても言い返せない。
 基本気性の優しい兄は滅多なことがない限り人に怒るようなことはしない。俺が知っている限り兄が誰かに怒っている姿など一度も見たことがない。
 俺はいつも悪さばかりして、父や口うるさい大臣達に怒られてばかりいるけれど、兄はそんな俺でも、怒った事がない。
 むしろ頭を優しく撫でて落ち着いた口調で「あまり人に迷惑をかけてはいけませんよ」を言うだけだった。
 だた、それだけなのに、俺は兄がすごく怖いと思うことがよくある。
 兄が基本人に怒らないのは、体のせいもある。
 生まれつき体が弱い兄は、ちょっとした事でもすぐに体調を崩してしまい、何日も寝込んでしまうことがある。
 以前俺が兄に酷く心配をさせてしまったせいで、体調を崩して寝込ませてしまった事があった。だから俺はあまり兄に心配させたくないと思い、いつからか兄に何を言われても反論することもなく、兄の言う事は素直に聞き入れるようにしたが、俺が兄を怖いと思うのはそういうことがあるからではなかった。
 「そういえば、貴方に言わなければならないことがあるのですが・・・・ウィル?」
 「は・・・・はい?なんですか兄さま?」
 「今回の旅のことなのですが、この三人は貴方に同行いたしません。それでよろしかったですよねお父様?」
兄は確かめるように父に聞き、その言葉に父は頷いていた。
「ど・・・・どうしてですか兄さま、父様!なぜ三人は俺と一緒に旅に行けないのですか?」
 今まで三人が旅に同行しなかったことは一度もない。
 俺が何を言わずとも三人は当たり前のように旅支度をして俺を待ち、一緒に着いてきてくれた。それなのに、突然三人が旅に同行しないなどありえなかった。絶対今回の旅も当たり前のように俺についてきてくれるとばかり思っていた。
 三人が旅についてこれない理由を知りたい。
 俺が納得する事が出来る理由がなければ、旅になど行くことが出来るはずがなかった。
「・・・・・・ウィル。わしがお前を呼ぶまでの間、お前は何処にいたのだ?」
 「そ・・・・それは・・・・・」
 答えることが出来なかった。
 「答えなさいウィル。貴方はお父様に言いつけられたお勉強の時間から逃げ出して何処に行っていたのですか?」
 二人は俺を問い詰めるようにジッと見つめた。
 視線が痛い。
 答えなければ、何をされるのか分からないけれど、答えたら答えたで、何かされそうな気がする。
 素直に答えたほうが良いのか、それともこのまま黙っていたほうが良いのか、どっちが正解なのかまったく分からない。
 「早く答えなさいウィル。何処に行っていたのです?」
 怒られているわけではないのに、やはり兄が怖い。
 言わないでいようと思っていても、どうしてか兄に逆らう事が出来ず、自分の意思と関係なく、答えてしまう自分がいる。
 「・・・・・丘・・・・・・真逆の丘にいました・・・・・・」
 真逆の丘というのは王都・アクアウォーリアから少し離れた場所にある丘のこと。
 水の国・アクアリーテは水の大精霊・アクアプリズムの加護を受けている事により、国土の殆どが水に覆われている。その為、人が住む場所などといった限られた場所以外に陸地が殆ど存在しない。
 真逆の丘はそんな限られた陸地の一つ。
 俺は大の勉強嫌いで、勉強の時間が近づくと城から抜け出し、よくこの丘に逃げ込む。
 丘からは王都・アクアウォーリアの城でもあり、巨大な噴水でもある王都のシンボル、ウォーリア城から噴出される水柱を一番綺麗に見ることが出来、そんなこの場所が俺はすごく気に入っている。
 こんな良い場所があるのに、人々はこの場所に近寄ろうとはしない。
 元々真逆の丘は、人々を襲う魔物から守るための非難場所とされていて、何一つ危険な場所ではない。魔物から人々を守るため、この丘は少し特殊な場所ではあるが、この場所が避難場所とされているため緊急時以外、この場所は立ち入りを禁止されているわけでもなく、日常から解放されている場所にも関わらず、人は近寄ろうとはしない。だから別の意味でここは逃げ場として最適な場所でもあったりする。
 「貴方って人は、城を抜け出すだけではなく、この王都から出て、そんな危険な所に言っていたのですか?」
 「真逆の丘は兄さまが思うほど危険な場所じゃありません!魔よけの結界が張られていて、とっても安全な場所です!」
 兄は体が弱いためほとんど城から出ることがない。だから、いくら俺が真逆の丘が安全な場所だと言っても分かってもらえず、危険な場所だと思い込んでいる。
 勉強は大嫌いだけど、自分が行く場所のことはちゃんと調べて、安全な場所だと言う事は知っていた。
 「ウォルフ、あの丘は大丈夫じゃ。わしも今のウィルと同じ年の頃だったかな、勉強が嫌いであの丘に逃げ込んでいたが、危険はない。あの丘に向かうまでの道も安全じゃ。だから、そんな心配する事はない」
 父はよく俺に言っていた。俺は父の子どもの頃によく似ている。そして、する行動もまったく一緒だと言われた。
 「お父様がそんな事を言うからウィルはどんどん駄目になるのです。いつまでも勉強から逃げていては、人の上に立つことなど出来ません」
「それはわしも思うが、そんなことが出来るの今の間だけじゃ。だが、いままでわしは何も言ってこなかったが、流石にお前は勉強から逃げすぎている。だから、今回の旅はこの三人ではなく、お前の為に別の者を付けることにした」
 俺は人の上に立とうなどこれっぽっちも思ったことがない。しかし兄は俺をどうしても人の上に立たそうとしたがる。
 兄は王位継承権第一位でありながら、その資格を自ら辞退した。
自体の理由は、体が弱い事により、王位を継いだとしても兄の体は王としての激務に耐えられないということだった。
 だから王位継承権第二位である俺が一位に上げられ、王位を継ぐための教育をさせられるようになった。
 それからかもしれない。俺が王位継承権第一位に上げられてから兄の事が怖くなったのは。それまで兄は、俺と年が離れているためなのか、俺の事をすごく可愛がろうとする。そしてすごく甘やかしてくれた。今も俺の事を可愛がってはくれるけど、もう、殆ど甘やかしてはくれなくなった。優しさの中に厳しさを感じるようになった。だから俺は兄が急に怖くなったのかも知れない。
 「いい加減少しは勉強しなさい。私が教えられるのであれば幾らでも教えしますが、貴方の場合、この方に教えられるほうがずっといいでしょう。お父様、あの方を通していただけますか?」
兄がそういうと父は俺がいく旅に同行させるであろう人物を謁見の間に通した。
 「う・・・・・・うそですよね父様・・・・兄さま・・・・・・」
 謁見の間に通され、中に入ってきた人物を見たとたん、俺は今すぐその場から逃げ出したいと思い、気づかれないよう少しずつ後ずさりし、逃げようとした。
「・・・・・・何処に行こうとしているのですかウィル。話はまだ終わっていませんよ」
「・・・・・・・・はい・・・・・・」
 逃げ出す事が出来なかった。
 逃げようとする前に兄が不審な行動をする俺に気がつき、止められてしまった。
 謁見の間に通された男は父と兄に挨拶を済ませ、俺の所までやって来た。
 「ウィルウィア王子、本日も私に与えられた時間いっぱい逃げてくれましたね。本日だけではなく、昨日も一昨日もその前の日も逃げましたよね?」
 「え・・・・あ・・・・・・いや・・・・だから・・・・そのー・・・・・」
 男は俺の顔をジッと見て問うが、俺は男と目を合わせようとはせず、キョロキョロと目を泳がせ、頬を掻いていた。
 俺はこいつが嫌いだ。勉強以上にこいつのことが大嫌い。
 今、俺の前にいるこいつは、セルビオ・マーククラインという、俺に王としての教育をさせるために父が俺につけた教育係。
ただでさえ 俺は勉強が大嫌いで、王位継承権を上げられる前から父と兄から課せられている勉強からも逃げ出していたのに、王位継承権が上げられ、今までさせられていた勉強以上に勉強をさせられることになり、こいつが俺の教育係になったことで、さらに俺は勉強から、いや、勉強からではなく、こいつから逃げるようになった。
こいつは数ヶ月前まで他の国で今はなき古代の様々な魔法を研究するため、とある研究機関にいたらしい。
魔法は古くから存在し、今も魔法は形を変え残っている。
 魔法は魔法力がなければ使う事が出来ないが、魔法力は誰もが持っている。
 昔は今と違い、殆どの人が魔法を使うだけの魔法力を持っていたらしいが、今は、魔法具という道具を扱う事が出来るだけの魔法力しか持っている者が殆どで、魔法を使う事が出来るだけの魔法力を持っている者は限られているらしい。
 王族は国を守る為なのか普通に魔法は使う事が出来る。当然俺も魔法を使う事が出来るし、それに、確かこいつも魔法を使えたはずだ。だから他の国で魔法の研究をしたのに、俺の教育係をするためだけにわざわざ研究所をやめ、俺の元にやって来た。
 普通他の国の者なら教育係にはしないが、こいつは元々水の国の住人。そして両親が伯爵の位を持つ貴族だと言っていたような気がするが、俺はそんなものどうでもいい。
 ただ俺が気に入らないのは、こいつが兄の幼馴染だという事。だから俺は今よりもずっと子どもの頃からこいつの事を知っている。
 後、こいつは兄の前で自分を隠しているが、本当はこいつの性格がとんでもなく悪いという事を俺は知っている。何故かこいつは俺の前では隠そうとはせず素の自分で俺に接する。だから、俺はこいつが嫌いだ。
幾ら父に呼ばれたからといって、わざわざ止めてまで戻ってくるなど、ありえなかった。ずっとその場所にいて、戻ってきたほしくなかったのに、教育係だけでもありえないのに、さらに俺の旅にまでこいつがついて来るなどさらにありえなかった。
「セルビオ。旅の間ウィルの事をどうか頼みます。貴方だけが頼りなのです」
「お任せてくださいウォルフラム様。今まではウィルウィア王子の逃走を見逃してあげていましがたそれは今回まで。次からはこの私がウィルウィア王子とご一緒に旅をさせていただくからには、ウォルフラム様のご期待に副えられるように頑張りさせていただきます」
そういえばこいつは俺を捕まえようと思えば、簡単に捕まえられる。こいつが父に呼ばれこっちに戻ってきて俺の教育係となってから結構日が経つと言うのに
 「ウィルではありませんが、また昔みたいに私の事をウォルフと呼んでくださいセルビオ・・・・・・ウィル、旅の間、セルビオの事を私だと思って言う事を聞くのですよ?」
 こいつを兄だと思えるはずがない。だから、言う事など聞けるはずがない。
叶えられるなら俺は今すぐここから逃げ出して、三人が連れて行くことが出来ないなら一人でも旅に出て母を捜しにいきたい。
「聞いているのですかウィル?聞いているのでしたら返事をしなさい」
 「・・・・・・は・・・はい・・・・・兄さま・・・・・・・」
 やはり兄が怖い。本当は返事などしたくはなかったのに、怖さのあまり返事をしてしまった。
 「それでは陛下、ウォルフ、私どもはこれにて失礼させていただきます。行きますよウィルウィア王子」
 抵抗する暇もなく俺は、こいつに、セルビオに腕を引っ張られ自分の意思と関係なく無理矢理謁見の間を後にすることになった。
 謁見の間を出るまで抵抗しないでいたが、部屋を出た瞬間、俺は腕を振り解き、
 「お前なんか大嫌いだ!俺は絶対にお前となんか旅に出ないからな!」
 と叫んで、逃げるように自室に戻った。
 「なんだよくっそ!」
 部屋に戻るなり俺は八つ当たりをするように、近くにあった物を思いっきり投げつけた。
 パリーンと割れる音が聞こえたけれど、きっと誰か掃除するだろうと思い、気にも留めなかった。
 イライラが止まらない。部屋にあるものを全て投げ壊してもきっとこのイライラは収まらない気がする。
 どうしてこんなにもあいつの事を考えるとこんなにもイライラして、気持ちがムシャクシャするのだろう。
 明日は朝早い。夜明け前にここを出発する予定なので、夕食までに旅の支度をして、夕食を済ませ、明日に備え早めに体を休めさせたほうが良いだろうと思うけど、こんな気持ちではきっと早めに寝るのは無理だろう。
 それなら、これがばれたら父や兄に大目玉食らうと思うけど、それを覚悟で気分転換に城を抜けて城下町に行こうと思い、水差しを手に取り、中に入っている水を床にばら撒いた。
 「我に司り水の力よ、今ここでその力を解放せよ!」
 誰にも見つかることなく城を抜け出すのは魔法が一番。
 魔法を使うにはある程度呪文を言わなければ発動してくれないのがめんどくさい。実際魔法を使うと魔法力が消費されるので疲れるけど、今誰かに見つかってそれが父や兄に伝わり説教を食らうよりずっとましだ。
 呪文を唱えたことにより、床にばら撒いた水がキラキラを眩い光を出して輝きだした。そして俺は、その光の中に飛び込むように床にばら撒いた水に足を踏み入れ、その場から消えた。
 これは水の国だからできる方法。
 俺は水さえあれば水と水の間に空間を作ることが出来、何処にだって行くことが出来る。
 実は俺、魔法が使えても、あまり魔法が得意ではない。その為、空間を繋げられる範囲は限られるけど、城から抜け出すことが出来れば俺はどうでも良かった。

 「ここは・・・・よし、成功成功!」
 自分の部屋に会った水差しの水を使って、城下町にある人気のない水溜り場に出た。
 俺の使う魔法は気まぐれなので、いつも何処に出るのかは分からない。
 ごくたまに、魔法を使って俺が城を抜け出す事を城にいる誰かが予想し、予防線を張られていることがあり、城から抜け出すことに成功したと思えば即捕まって城に連れ戻された事が過去に何度かあった。
 そんなことがあり、俺は魔法を使って城を抜け出すときは慎重になってしまい、キョロキョロと周囲を見渡し、誰もいない事を確かめた。そして誰もいない事を確かめると失敗はないとは思うけど、服が濡れていないかという事を確かめ、何事もないかのように自然に人ごみの中に紛れ込み、街中を歩き出した。
 「あれ・・・?何か今日、やけに人多くないか?」
 町はいつもより人が多く、水の国に住む住人だけではなく、他の国からやって来た人も多くおり、かなり賑わっていた。
 「あっ、そういえば今日って・・・・・」
 今日は二年に一度開催される夜市がある事を思い出した。
 普通の夜市は毎週開かれているが、今日開かれる夜市は少し特別。様々な国の商人達が今日この日の為に自慢の品を売るために、この王都・アクアウォーリアまでやって来て争う。
この夜市は水の国だけに開かれるというわけではなく、他の国でも開かれる。
 なぜ二年に一度かというのは、星が関係しているらしい。
 この国と限らず他の国も同じ条件らしいのだが、二年に一度しか見ることが出来ない星があるらしく、商人はその星が見られるときに特別な夜市を各国で開くという決まりがあるらしい。
 そして今日、その星がこの国の王都で見られるため、町はこんなに賑わっていた。
 俺は、去年母を捜しに行った時、別の国でこの夜市に遭遇した事があったが、すごく面白かった。
 普段では見ることが出来ないような物を見ることが出来る。
 貴族向けの高価な宝石だとか、衣類も売っているけれど、平民が買うことが出来るような低価格ではあるけど高品質な宝石や衣類なども沢山売っている。
 そんな中でも一番多く売られているのが魔道具だ。
 魔道具は魔法力が込められた道具の事。
 生活用品もあれば子どもが遊ぶような玩具もある。そして武器や防具も当然ある。たまにどうしてこういう物が魔道具になっているのだろうと思うような物もあるけど、それが魔道具の面白い所ではないかと俺は思う。
 元々魔道具は魔法が使えない者の為に作られた道具。
 魔法を使う事ができる者はたとえ災害が起きたとしても自分の身は自分で守る事が出来るけれど、魔法を使えない者はそれができない。魔道具はその災害などから身を守るために作られたのだが、いつの間にか魔道具は魔法が使えない者が身を守るための道具だけではなくなり、魔道具は様々な進化や変化を遂げ、今に至っている。
 「何か良い魔道具ねーかな・・・・」
 ほしい魔道具があった。片っ端から魔道具を売っている店を見回り、収納袋という魔法力で編まれた魔道具を探していた。
 収納袋は見た目ただの小さな袋にしか見えないが、その収納量は底知れない。だから旅の必需品として使っているのだけど、今俺が使ってる収納袋がそろそろ限界を感じ、新しいものが欲しいと思っていた。
 だからこうして魔道具を売っている店で収納袋を探しているのだけど、何処にも売っていなかった。収納袋がないのなら収納玉という魔道具を探してみたのだがそれすらなかった。探してあったのは収納棚という家に置く魔道具だけで何処も期待はずれだった。
 今回の旅は二ヶ月と限られているのでそれぐらいは持つだろうと思い収納袋を探すのはやめ、他のものを見て回る事にした。
 買うつもりはないけれど、日持ちしそうな野菜や果実、干し肉などを売っている店を見てみたり、武器や防具など売っている店も見て回った。
 そんな中、ふと俺の目に留まったのはとある本屋だった。
 世界中の様々な本を扱っているらしく、夜市に出店している店でも一番大きいのではないかと思うぐらい店の中が広かった。
 店内は各国ごとに本を分けてられており、さらにそれだけではなく本も種類ごとに分けられていてとっても見やすかった。
 何か良い本が置いていないかと店内を見回っていたとき、すっごく気になる本を見つけた。
 「おっ、いいもんみっけ!」
 どんなことが書かれているのだろうと思い、手に取って中をパラパラと見てみた。
 「こ・・・これは・・・うん、つかえるかも・・・・おじさん、これいくらですか?」
 気分転換をするために城を抜け出したため高価なものを買えるほどお金は持っていないので、値段を聞いてから買う事を決めようと思った。
 「おい坊主、見たところ水の力が強いみたいだが、水の魔法書ではなく、そんな地の魔法書で本当にいいのか?」
 店主は俺の腕に付けてあるリングをじろじろと見て言った。
 俺の左腕には涙の形をした赤、青、黄、緑、桃、水色、白、黒、透明の九つの色が違う宝石がはめられた腕輪を着けていた。
 腕輪にはめているそれぞれ色の違う九つの宝石は精霊の涙といい、赤には火の、青には水の、黄には地の、緑には風の、桃には花の、水色には氷の、白には光の、黒に闇の、そして透明には無の九つの属性が違う魔法力が秘められている。
 そして、魔法を使える者は九つの属性の魔法力を持ち、全ての属性魔法を使う事ができるが、魔法が使えない者は何故か無の属性の魔法力しか持っておらず、魔法が使える者が持つ事ができる精霊の涙の数は九つ全てであるが、魔法が使えない者は無の精霊の涙一つしか持つ事が出来ないとされている。
 「まぁ、水の力は強いけど、別に地の魔法書を買ったって変じゃないでしょ?」
 「それは・・・そうだが・・・・」
 「おじさんが心配しているのって、もしかして俺が持つ地の魔法力の強さ?それともこの地の書のこと?」
 精霊の涙には、その人の持つ魔法力の強さが色に表れる。色が濃ければ濃いほど魔法力が強いとされ、薄いと弱い。
 無以外の八つの魔法力の強さは人によってそれぞれ違う。
 たとえば水の国に住んでいれば水の大精霊・アクアプリズムの加護を受けているため、その加護の影響を受け水の力が強くなり、青い精霊の涙の色が濃くなる。
 俺は水の国に住んでいるし、水の国の王子でもあるため、他の人に比べ受けている加護の影響が誰よりも強いため水の力はとても強く、水の精霊の涙もかなり濃い色をしている。
 だが俺は、水の力が強いだけではなく、地の力も強くて地の精霊の涙も濃い色をしている。しかしその他の精霊の涙は二つの精霊の涙に比べると半分ぐらいの薄さしかない。
 「それよりもおじさん、この地の魔法書っていくらなの?もしかして、俺にこの魔法書は売れないって言うんじゃないよね?」
 魔法というのは、魔法を使えるだけの魔法力があれば誰にでも使う事が出来るけれど、魔法の事を知らなければ魔法を使うことはできない。
魔法書というのはそんな魔法の事が色々と書かれた専門書。属性ごとに初級、中級、上級と大きく三つに分けられおり、そこからさらに補助・回復、攻撃といった魔法に細かく分けられていて、自分が持つ魔法力の強さや特性にあった魔法の事を知る事が出来る本が多くある。
「そんな三流の魔法書でいいなら、値段は500βだが、本当にそれでいいのか坊主」
 再度店主は確認してくるが、俺は店主に向かって大きく頷いた。
 俺が買おうとしている魔法書は『いたずらに適した魔法書(地の書)』と書かれていて、魔法が使える者は普通使わないような、馬鹿げた魔法の事ばかり書かれた物。地の魔法の事が書かれた魔法書ではあるけれど、どの魔法がどういった魔法で、どれだけの魔法力を必要とするのかそういったことが書物には書かれていないため、魔法を使った本人しか分からない為、分類されずに置かれていた。
 あえて俺はそんな本を選び買おうとしていた。
 500βという値段はかなり安い。
 魔法書というのは一番安いとされている値段でも2000から3000βはするのだけど、俺が買おうとしているこの本はそれだけ必要ともされない、俺みたいな馬鹿が買うようなくだらない魔法書というわけだった。
 一応俺は魔法を使うことはできるけど、あまり魔法自体得意ではない。
 魔法が使える者は、誰にだって魔法力の属性の強さや特性によって、得意や、不得意の魔法があるだろうけど、それに関係なく魔法が使える者は、誰もが使えて当たり前の、無以外の全属性の基礎魔法を使えてなければならない。
 魔法を使う事が出来る者の中には、色の付いていない精霊の涙をいくつか持っている人もいて、その者は色の付いていない属性の基礎魔法を使うことはできないけれど、色が付いている属性の基礎魔法は使えることはできるという。
 色が付いていない属性なら基礎魔法が使えないのは当たり前だけど、俺が持っている精霊の涙には色が薄いのもあるけれど、無の属性を除く全ての精霊の涙にちゃんと色は付いているはずなのに、どうしてか俺はどの属性の基礎魔法を使うことができない。
 基礎魔法が使えないということは、その属性を持っていないという事を意味するか、魔法力が安定していない小さな子どもだけというが、俺はもう魔法力が安定していない小さな事もではない。ちゃんと魔法を使うことはできる。ただ、基礎魔法だけが使うことだけができないだけで、それ以外の魔法は使える。
 といっても、俺が使う事が出来るのは、今買おうとしている馬鹿げた魔法ばかり。
 城を抜け出すときに使った魔法は、大きく分ければ上級魔法に部類されるかなり高度な魔法なのだけど、たとえ俺が使った魔法がどんな高度な魔法であっても俺が使った魔法は普通なら魔法が使える者は使わないような馬鹿げた魔法だった。
 「じゃあ、おじさんこれ500βわた・・・・・うわっ!・・え・・・え?」
 財布からお金を出し、店主に渡そうとしたときだった。何が起こったの一瞬分からなかったけれど、まるで俺が店主にお金を払う事を避けさせるために、誰かがいきなり俺の腕を後ろから掴みあげた。
 「よ・・・・ようやく見つけましたよウィル・・・・・貴方って人は・・・・どうしてこんな・・・・・」
 息が上がり途切れ途切れになって聞き取りにくいけれど、この声は、俺がもっとも嫌いな人物の声だということが、顔見なくてもすぐに分かった。
 「せ・・・・・セルビオ・・・・・・・・」
 そろそろ夕食時なので、いつか城を抜け出した事がバレるだろうと覚悟していたけれど、まさか俺を見つけに来るのがこいつだとは思っていなかった。てっきりいつものようにあの三人が俺を見つけに来るだろうと思い込んでいた。
 「店主、すいませんがこの魔法書を買うのは止めさせていただいてもよろしいでしょうか?」
 「それはもちろんかまわんが・・・」
 どうやら店主はセルビオが突然やってきた事に驚いている様子だったけれど、俺が買おうとしていた本を売らなくてほっとしている感じが何処かした。
「さぁ、帰りますよ。貴方って人はどれだけ人に迷惑をかけるのですか?帰ったらたっぷりとおしおきさせていただきますねウィル」
 「誰がお前と帰るか!離せよ!離せって言ってるだろ!俺は誰の指図もうけね!」
 謁見の間の時と続き、またもや俺は掴まれたどうにか手を振り解いて、セルビオから全力で逃げだした。
 あいつには捕まりたくない、何がなんでもあいつだけは、俺はあいつだけには捕まりたくなかった。
 だから俺は走って走りまくって、あいつから逃げた。
 
 なるべく人ごみを避け、やがて人が殆どいない所にやって来た俺は、逃げる事に疲れ、走るのをやめ、ここなら誰にも見つからないだろうと思う路地裏に入り、座り込んだ。
 「くっそ!どうしてあいつなんだよ!」
 まるで八つ当たりのように力いっぱい壁を叩いた。
 いくら壁を叩いてもこのムシャクシャする気持ちは治まらないだろう。すごく何かに当りたい気持ちだけど、これ以上壁を叩くと頑丈な壁は壊れないだろうけど、俺の手が壊れてしまうので、壁は叩くのは止めたけれど、何をしたら、どうしたらこのムシャクシャする気持ちは治まるのだろう。
 「つ・・・・疲れた・・・・」
 逃げ回る事は何時も誰かから逃げ回っているので得意といえば得意なのだけど、こんな走って逃げ回るの始めてかもしれないけど、旅をしていたおかげで体力が付いたのか、あれだけ走ったと思ったのに、肉体的に疲れたとは思わないのだけど、何故かすごく疲れてしまった。
 全てあいつが戻ってきてからだ。あいつが俺の前に現れるまでこんなムシャクシャするような気持ちになるような事は一度もなかった。
 「何故だよ・・・・・どうして迎えにきてくれないんだよよユーイ、トーレス、マイル。俺は、あいつじゃなくお前らに迎えにきてほしいんだよ・・・・・」
 旅の時も俺ばっかりつっぱしってばかりで、三人の言う事など一度も聞いたことない。それなのに三人は俺に文句一ついうことなく、俺に付いてきてくれる。
 それが当たり前だと思っていた俺は、三人が俺の事をどう思っているのか考えた事もなかった。今思うと本当は俺と旅をするのは嫌だったんじゃないかと思う。
 でも、どうしてだろう。三人がいつものように俺を迎えに来てくれないのだと思うと、すごく寂しかった。
 「こんな所にいたのですか王子・・・・・・どうしたのですか?泣きそうな顔をなさっていますよ。もしかして私が迎えに来ないと思ったのですか?」
 「マ・・・・・・マイル・・・・・・」
 ここにいれば絶対に見つけられないだろうと思っていたのに、あっさり見つかってしまった。
 昔からマイルは城から抜け出した俺を見つけるのが得意だった。俺が何処にいようが、どんな場所にいようが絶対といっていいほどの高確率でマイルに見つけ出される。
 別に俺は見つけ出される事が嫌いではない。ただ、あいつだけに見つけられたくないだけで、あの三人に見つけられる事は、嫌だと思ったことは一度もなかった。
 あいつらに見つけられると俺は何故かほっとする。他の誰かに見つけられるよりもずっと安心する事が出来た。
 「お・・・王子?」
 「・・・っていうな・・・・王子って言うなよって何時も言ってんだろ、バカマイル」
俺はがっしりとした大きな体をしているマイルの体に抱き顔を埋めた。
 「そうでしたね、すいませんウィル様」
 小さな子どもをあやすようにマイルはごつごつとした大きな手で俺の頭を優しく撫でてくれた。俺はどうしてだかマイルに頭を撫でられるのは好きだった。
 どうしてそんな大きな体をしているのに、見た目と違ってこんなにこいつは優しいのだろう。でも、そんなマイルのことが俺は好きだった。
 もう一人父親がいるみたいな感じだった。
 「マイル・・・・」
 「どうしいたしましたか?」
 「なんでもねーよ・・・・」
 迎えに来てくれてありがとうと一言お礼を言おうと思ったけれど、そんなこと恥ずかしくて言えなかった。
 「さぁ、お城に帰りましょうウィル様。ウォフル王子も陛下も大変ご心配なさっていますよ」
 そんな軽くはずのない俺の体をマイルは軽々と抱きかかえ、そのままの状態で、俺はマイルと共に城に戻ることにした。
 
 「ば・・・ばかもの!お前は、どれだけ人に迷惑をかければ済むのじゃ!」
 マイルに連れられ、城に戻った俺は、俺が帰った事を知るなり、俺の事を父の私室に呼びつけられ、早速と父に大目玉をくらい怒られてしまった。
 怒られることは覚悟して城を抜け出したので、この程度の怒りでめげるような俺ではないが、俺を怒りつけた父の声は廊下にまで響き渡っていた。
 「まぁまぁお父様、ウィルを怒るのはその辺になされませんか?ウィルは明日朝早いのですから・・・・今回は多めに見ますが、次、このような事を今日のようにはいきませんよ。分かりましたね?」
力いっぱい俺に怒鳴りつける父を、兄は静めようとしてくれている。
まだ父の怒りは静まったわけではないけれど、父は兄にはとても甘く、兄の言う事をすんなりと聞き入れる。だから俺は国王である父よりも兄が実権を握っているのではないかと思うことがたまにある。
「は・・・・はい・・・申し訳ありません兄さま・・・・父様・・・・」
 とりあえず、反省はしていないけど、反省しているような態度をみせ、謝った。
 「・・・・・ウィル。悪い事をしたと思うなら、あとで貴方を捜してくれた三人と、セルビオに謝るのですよ?」
 「は・・・・・はい・・・・」
 返事はしたけれど、正直言って俺が素直に謝るつもりなどなかった。
 「では、もう行きなさい。早く食事を済ませて明日に備え早くお休みなさい。それでよろしいですよねお父様?」
 「では、失礼いたします」
 父が頷くのを確認してから俺は部屋を出て、まだ食べてない夕食を食べてから、取り合えず自室に戻ることにした。
 三人に迷惑を掛けることはいつもの事なので、謝らなくても、なんとでも父や兄に言ってくれるとは思っている。
 しかし、セルビオはどうだろう。
 セルビオはこの国に戻ってきてから、ずっと城に住んでいる。
 理由は簡単だ。セルビオが俺の教育係だということでここに住んでいたほうがいいだろうと兄がいい、それでセルビオに部屋を与えた。
 別に俺は、実家がこの城から近い場所にあるのだから、実家から通えばいいと今も思っている。
 城には沢山の使用人達が住み込みでいるけれど、それでも俺はあいつと一つ屋根の下にいると思うと嫌気をさしてくるし、本音を言えばここにいるどころたりか、通っても欲しくない。
 今頃、俺が謝りに来るのを部屋で待っているのだろうか。いくら待っていても俺はあいつになんか謝るつもりなどない。
 しかし、三人はともかく、セルビオに謝りに行かなければきっとそのことは兄の耳に届くかもしれない。
 父に怒られるのはいつもの事なのでいくら怒られても怖いとは思わないのだけど、兄だけは優しいはずなのにとても怖いと持ってしまう。
 だから、俺がいくらセルビオに誤りたくないと思っても、兄が怖いので謝りに行かなければならなかった。

 足に鉛の枷が付いているのではないかと思うほど、重たい足取りで、セルビオに部屋の前にやって来た。
 ここまで来る途中、運がいいのか分からないけど、マイルとユーリに出合った。
 三人は何時も一緒にいるというわけではない。三人が一緒にいるときは俺の護衛(おもり)をしている時か、俺を探してくれている時ぐらいで、それ以外の時は三人とも配属している所が違う為、それぞれ違う場所にいて仕事をしている。
 取り合えず俺は、謝らなくていいと思ったが、やっぱり謝ったほうがいいのかと思い、二人に後で話があるからと、トレースも連れ、三人で俺の部屋に来て欲しいと言って二人と分かれた。
 さて、いつまでもこんな所に立っていても、何も意味はない。何のために重たい足を引きずってここまで来たのだろう。あいつに謝るのは今でも逃げ出したいほど嫌だけど、兄が怖い為に、頑張って勇気を振り絞ってここに来た。
 「・・・・いつまでそんな所に立っているのですか?そんな所にいつまでも立っていないで入ってきたらいいではありませんかウィル?」
 既に俺が部屋の前にいる事を知っていたかのようにセルビオは部屋の扉を開けて出てきた。
 「さぁお入りなさい。あなたの好きな物を用意して、貴方が私に今日の事を謝りに来るのを待っていたのですよ」
 誰も謝りに来るとは言っていない。だからこんな事をせず、ずっと俺が来る事を待たないで欲しかった。
 「誰がお前なんかに謝るか!お前なんて嫌いだ!ずっと研究所にいて研究でも何でも帰ってこず、してればよかったんだよ!」
 「待ちなさいウィル。貴方は一体ここに何をしに来たのですか?ただ、私に暴言を言いに来たわけではないですよね?」
 謝りにここに来たはずなのに、何一つ謝る事はせず、言うだけの事を言って俺は、すぐにこの場を去ろうとした。しかしセルビオは俺の腕を掴み、俺を引き止めた。
 「私の目を見なさい。貴方はここに何をしに来たのですか?どうしても謝りたくないのであれば来なければいいのに、どうして貴方はここに来たのですか?」
 「そ・・・・それは・・・・」
 「それは、ウォルフが怖いからですよね?私に謝りにいかなければ、私がウォルフに言いつけると思ったから、それを恐れここに来たのですよね?」
 きっと兄が怖いと思わなければ俺はここにはこないだろうけど、こいつの言うとおり俺は兄が怖いからここに来た。
 「別に私は貴方が謝りに来ないからと、ウォルフに言いつけたりはいたしませんよ。だから安心いたしなさい」
 安心しろと言われても、俺はこいつを信用しない。絶対に信用しない。
 「なんていう顔をしているのですか。仮にでも貴方はこの国の第二王子。そして次期国王となるべく方なのですから、そういった顔をしてはいけませんと、何度言わせるのですか?いつまでもそういった顔をしているのでしたら、お仕置きが必要のようですね?」
 国王になるつもりなど俺はまったくない。もし俺が国王になったらとんでもない国になってしまうかも知れないのに、兄は体が弱い理由で王位継承権を自ら辞退し、一位の座を俺に譲った。周りだってそうだ。皆俺の事をこの国の国王にしようとする。別に俺が国王にならなくても俺や兄以外にもまだこの国には王子がいる。でも、その王子は生まれた時から王位継承権を持たされてはいないので、次期国王になる事が出来るのは俺だけだった。
 何故その王子が王位継承権を持たされていないかというのは、その者の出世問題だった。
 兄や俺にとってその者は弟。正真正銘ちゃんと血も繋がった兄弟だけど、繋がっているのは片方だけだった。
 弟は父は一緒でも母親が俺たちと違う。母親が違うせいで王位継承権を持たされないわけではなく、たとえ母親が違っても、弟は現国王である父の息子なので王子には違いなかった。だから父は弟が生まれた時、弟に王位継承権を持たせようとしたらしいのだけど、弟の母親は、弟を王位争いに巻き込ませず、のびのび育てたいと言い、弟が持つはずだった王位継承権を、弟の意思に関係なく、母親のわがままで持たせようとしなかった。
 弟の母親にその事を言われた父は、どうしようか少し考えたらしいのだけど、俺が王位継承権一位を持っている限り、弟はたとえ継承権を持っていても兄みたいな特別な事情があって王位を譲ることにならない限り、王になる事はないし、それに弟はまだ四歳になったばかりなので、別にこのままでいいと父は思っているらしい。
 できるなら俺は弟に一位の座を渡したいけれど、四歳になったばかりの弟に俺はそんな事が出来なかったので、王になるのは嫌だけど、何を言ってもこれはもう変わる事がないので諦めるしかなかった。
 「・・・・・ウィル?どうかしたのですか?急に黙り込んだりして、気分でも悪いのですか?」
 「・・・・しいんだよ・・・・・・馴れ馴れしく俺の名前を呼ぶんじゃねーよ!俺はお前にウィルって呼ぶ事を許してねー!」
 昔からこいつは俺の事を愛称で呼ぶ。
 俺が王子だと知っている城の者の前や、父や兄の前ではウィルウィア(王子)と呼ぶくせに、誰も見ていないところになると絶対に俺の愛称を呼んでくる。でも、俺はこいつに愛称で呼ばせる事を許可したわけじゃないのに、こいつは俺の事を愛称で呼ぶ。
 「貴方って言う人は、なんと言う口の利き方をしているのですか。この口ですか?この口が、貴方をそんな風に言わせているのですか?」
 口を手でグッと掴まれ、話せなくされた。
 口を掴むセルビオの手をどうにか離そうとしたのだけど、何故か引き離す事が出来なかった。
 力が違いすぎる。俺が非力というわけではないとは思うけれど、何故か分からないけれどどんなに俺が力を入れて引き離そうとしても引き離せなかった。
 「そんな事をしても無駄ですよ。貴方がどれだけしようとしても、貴方の口を掴む私の手は貴方には絶対引き離す事は出来ません。私がこの手を放す時はおしおきが終わったあとですわかりましたね?」
 「んんんんーん!(わからねーよ!)」
 「そうですか。分かってもらえないのでしたら、わかってもらうままでです。明日、王妃様を探しに行くまでの間、じっくり分からしてあげますから、覚悟してくださいねウィルウィア王子」
 抵抗する事も出来ず、セルビオの部屋の中に連れ込まれ、朝までずっとセルビオから今まで逃げていた分の勉強をひたすらさせられることとなってしまった。


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