母を探して(完結)

しぎょく

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出発

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 地獄の勉強からようやく解放されたのは、夜が明けようとするほんの少し前だった。
 一睡もさせてもらえず、ずっと勉強をさせられ続けていたため、かなり眠たい。
 寝たい。出来るのであれば少しでもいいから寝たいのだけど、今の俺に、そんな暇はもうなかった。
 後、一時間ほどしたら俺は母を捜しに行くための旅に出なければならない。
 出発時刻を遅らせれば少し眠ることは出来るのだけど、その為だけに出発を遅らせるのは無理だった。
 水の国に母はいない事は既に調査をして分かっている。母がこの国の何処かにいれば俺が旅に出ることはない。国の外に出てしまったからこそ俺が旅に出なければならない。
 俺がこの国を出るまでは、城の者の誰かが港まで送ってくれる事になっているのだけど、明日の朝までに港に着かなければ、手配している船に乗ることができない。だから寝ている暇などなく、急いで旅支度をしなければならなかった。

 コンコン・・・・

 部屋を叩くノックの音。
 こんな忙しい時に誰がやって来たのだろう。
「誰か知らないけど、鍵開いてるから勝手に入って!」
 自分で扉を開けて出ている暇が惜しい。
 「失礼いたします。王子、馬車の用意が整いましたので、いつでも出発する事はかのうですが・・・忙しそうですね」
 「そう思うなら手伝ってくれよマイル。それから王子って呼ぶなって言っただろう?」
 今回旅に三人は同行する事が出来ないため、その代わり三人が港まで送ってくれることになっている。
 「申し訳ありませんウィル様。それで、私は一体何をすればいいのですか?」
 「えーっと、そこの引き出しの中から水マントと保温マントを出して!それから、それから・・・・・」
 もう何を用意して、何を用意していないのか頭の中が混乱して分からなくなっていた。
 「落ち着いてください。王子のことですから、こうなっているかと思いました。昨日、二人から王子が私達に部屋に来るように仰っていると聞き、お部屋に伺ったのですが、いくらお部屋を訪ねても王子はお部屋にいらっしゃらないので、私どもが勝手に用意をさせていただきました。王子の許可を取らず勝手にした事、まことに申し訳ございません」
 「・・・・・・へ?」
 予想外の言葉に驚きはしたけれど、三人は俺の事を思ってしてくれた行動なので、怒る気などなかった。むしろ感謝したいぐらいだった。
 三人は俺の事をよく知っている。俺が物心ついた頃には既にマイルは城にいて、よく俺と遊んでくれたし、他の二人はマイルよりずっと後に城に雇われてはいるけど、それでも俺との付き合いは長く、親や兄よりも俺の事をよく知ってくれていると思う。
 「・・・・あり・・・がと・・・・・」
 「・・・え・・・あ・・・・あのー・・・何か申されましたか王子?」
 「ふざけるな・・・・なんだよその態度、絶対聞こえていただろ。それに王子っていうな!」
 聞こえていなかった素振りを見せるけど、その嬉しそうな顔をしているのを見れば、ちゃんと俺が言った事を聞こえていたということはすぐに分かった。
 「・・・冗談ですよ。ウィル様の気持ち、ちゃんと聞こえていましたよ。すっごく嬉しかったです。ありがとうございますウィル様」
 お礼を言ったのはこっちなのに、逆にお礼を言われてしまった。俺にありがとうと言われ、お礼をするぐらいマイルはその言葉が嬉しかったのだろう。
 「なんだよ、気持ちわりーな・・・・・旅の準備できてんなら、さっさと行くぞマイル!」
 用意された荷物を持ち、俺たちは馬車を待たせている城の裏門に向かった。
 俺が旅に出ることは国民も知っている。父が公表して国民に知らせているから。
 国民に知らせるのは、俺の為ではなく国の為。
 まだ俺は国の政治に深く関わっていないので、国民の前に姿を現す事は少ない。兄は体が弱いと言っても、王位継承を辞退し俺に譲るまでの間、ずっと兄が父の側で政治にかかわっていた。王位継承の座を俺に譲った後も兄は、父と共に政治をしているのだが、兄が未だ政治と関わっているのは全て俺の為らしい。
 俺は第二王子だけど、王位継承権第一位であるけど、実際俺しか王になる権利を持っていないので、一位も何も関係ないし、既に俺が王になる事は決まっている。
 いずれ俺は、王になってこの国と国民を護らなければならない。その為には政治をしていなければならないのだけど、良き王になるには、国や国民の事を知らなければならないし、自分の国だけではなく他の国のこともよく知らなければならない。
 俺が旅に出るのは母を捜しに行くということだけど、母を捜しに行くという以外にもう一つ目的があった。
 俺が母を捜しに旅に出ている事は国民は知らない。この事は城の者以外知る事も出来ない極秘事項。だから俺が旅に出る目的は王になる為の勉強の一環ということにされているのだけど、それも間違いではい。
 実際今まで母を捜しに旅に出て、俺はこれまで知らなかった事をいろいろ知ることができた。だから、結果的によかったと思う。
 兄は兄で、このまま父と政治をし、俺が王になった時にサポートできるようにと言う事らしいけど、絶対俺は王になっても、めんどくさい政治に関わるつもりなどないので、このまま政治の事は兄に任せたいと思っていた。
 そもそも俺は王になどなるつもりはないし、今のままでいいのではないかと思っている。
 「遅かったですねウィルウィア王子。一体今まで何をいたしていたのですか?」
 裏門に行くと既に旅の用意を済ませたセルビオが待っていた。
 「うるせー・・・何をしようが俺の勝手だ!」
 遅いと言われても、出発の時刻には間に合っている。それなのに、何故遅いと言われなければならないのだろう。それもこんな奴に。
 「なんと言う口の効き方をしているのですかウィル!」
 「に・・・・兄さま・・・・それに父様も・・・・・」
 振り向けば後ろには兄と父が立っていた。
 二人がここにいると言う事は、俺たちを見送りに来てくれたのだろう。
 「にーしゃま・・・いる(ウィル)にーしゃま」
 まだ寝ているはずの弟が兄に抱きかかえられていた。
 「あれ、お前も俺の見送りに来てくれたのかウィリィ」
 「うん!にーしゃま」
 無邪気で愛らしい笑顔を向けてくれる弟のウィリアム。
 半分しか血が繋がっていなくても、弟は可愛い。目に入れても痛くないほど弟は可愛い。世界一といってもいいかも知れない。
 毎日構いたく手仕方がないのだけど、母を見つけて帰ってくるまで、暫く遊んであげる事もできない。
 「ありがとなウィリィ。にーちゃんいって来るけど、いい子で待っているんだぞ。お土産いっぱい買ってきてあげるからな」
 ウィリアムの頭をぐしゃっとなで、それから力いっぱい抱きしめた。
 「ウィリィにお土産を買ってくるのはいいですが、程ほどにしなさいよウィル。貴方は何時も買いすぎるのですから」
 わざわざ俺がお土産など買ってこなくても、ウィリアムが望めば父や兄はウィリアムに甘いので、買い与えるだろうけど、ウィリアムにお土産を買ってくるのは俺の楽しみだった。
 俺がわざわざお金を出して買おうと思うのは、昨日買おうと思って買えなかった魔法書を買うか、ウィリアムのお土産を買うかぐらい。旅に必要なものも買う事もあるけれど、その二つがメイン。
 「そろそろ出発いたしませんと明日の朝までに港に着きませんよウィルウィア王子」
 「え、あ・・・・分かった」
 弟と別れるのはすごく名残惜しいけど、出発の時刻となってしまったので仕方がなかった。
 「それでは兄さま、父様行ってまいります」
 「旅の道中気を付けるのですよ。変なものを口にするのではないですよ。セルビオ、どうぞウィルの事を頼みますね」
 「お任せくださいウォルフ。それでは陛下失礼いたします」
 馬車に乗り込み、ゆっくりと動き出す馬車の中から顔を出した。
 思ったとおりだった、ゆっくり城を離れる俺を見て、泣いていた。
 俺が旅に出ると何時もそうだ。普段俺の姿を見なくても泣かないのだけど、何かを悟ってなのか分からないけど、俺が馬車の中から顔を出すと絶対に泣き出す。
 後で兄に話を聞くと、暫くすれば泣きやんで元気に遊んでいるらしいが弟はまだ四歳なので、俺がいなくなると言う事がよく分かっていないと言っていた。
 「泣かれていましたか、ウィリアム様は?」
 「ウィリィが泣こうが泣かまいがお前にはかんけーねーよ!」
 ついに始まってしまった。こいつとの旅がついに。
 顔も見たくない、声も聞きたくないのに、どうしてこいつが俺の隣でいて当たり前のように座っているのだろう。
 嫌だ。こいつとなど旅をしたくない。でも、こいつと旅をしなければ父はともかく兄に何を言われるか分からない。兄が怖い。決して怒っていないと分かっていても、俺は兄の事がすごく怖い。だから、いくら俺がこいつと旅をしたくないといっても兄が怖いので仕方がなかった。
 こいつと旅をするのは二ヶ月間のみ。母の見つかり次第で旅をする期間が短くなる事はあっても、長くなることはない。二ヶ月という期限が付いている限り。
 「ウィル様、港に着くまでの間、少しお休みになられてはどうですか?昨夜寝られていないのでしょう?こちらに来られますか?」
 「う・・・・うん・・・・・」
 俺の向かいに座っているマイルとユーイ。ユーイは俺と席を移動し、セルビオの隣に、そして俺をマイルの隣へと座り、あまりの眠たさに、セルビオが目の前にいるにも関わらず、そのままマイルの肩に寄りかかりいつの間に眠ってしまった。
 「貴方の隣では、そんな無防備な顔で安心したように眠られるのですね。ウィルウィア様って何時も貴方の前ではこうなのですか?」
 「我々の前ではよくこうして眠られる事はあります。しかし、何故か我々以外の人がウィル様の側にいられると、ウィル様はいくら眠たくとも寝ません」
 「そう・・・ですか・・・」
 「不思議ですね。ウィル様が我々以外の人が側にいても、こうして眠っていらっしゃるという事が・・・よほど、セルビオ様のことを信頼されているのでしょうか・・・」
 自分でもよく分からなかった。マイルやユーイが言うように俺は、自分が信頼している者の前でしかこうやって寝ることが出来ない。自分が信頼している者以外の者が近づくと何故か不思議と目が覚めてしまい、そのまま寝られなくなってしまう。
 だから、眠たくてもどうしても寝られない時は、三人を呼びつけ、寝ることもしばしばあった。
 何故、自分が信頼できる者の前でしか眠る事が出来ないのか、理由は分かっている。
 今の俺は、認めたくないけれど、この国の、アクアリーテの次期国王という立場だけど、兄から王位継承権第一位の座を譲り受ける前から、俺は王族と言うことだけで、様々な者達から命を狙われていた。それは俺だけではなく兄もそうだったらしいが、特に俺は酷かったと父は言っていた。
 食事に毒を入れられたり、寝込みを襲われたりと、何度も何度もそういうことがあった。そういうことがあったから俺は、人を簡単に信じる事が出来なくなってしまい、いつまたこんな事が起こるのか分からなく、信頼する事が出来る者の前でしか俺は眠る事が出来なくなってしまった。
「これでも、昔に比べずいぶんましになられましたよねマイル殿。昔は誰か側にいないと眠る事すらできなかったですし・・・・」
「眠る事が出来ない?それはどういうことなのですか?」
どうやらセルビオは俺の昔の事を知らなかったようだった。
「この事を知っているのは我々三人と、陛下並びに王妃さまとウォルフラム王子しか知りませんが、これからウィル様とご一緒に旅をされるセルビオ様にはこの事を知っていてもらったほうがよろしいかと思われますのでお話させていただきます」
 「王子は、今でこそ一人で眠られるようになったのですが、昔は、常に我ら三人の誰かが側にいてさしあげなければ、恐怖で眠ることができませんでした」
 「恐怖・・・ですか?」
 「セルビオさまは、ウィル様のお命が狙われていることはご存知でしょうか?」
 「ウォルフから聞いた事はありましたが・・・・それほどとは・・・」
 思っていないだろうな。
 今でこそ俺は一人で眠ることが出来るようになったけれど、昔は一人で眠る事が出来なかった。立て続けに俺は命を狙われていたせいで、いつまた命を狙われ、今度こそ殺され、もう二度と目を覚まさないのではないかという恐怖で俺は眠ることが出来なかった。
 そんな中、そんな俺を何時も支えてくれたのが三人だった。

 三人が俺の護衛となったのは、俺が二度三度か寝込みを襲われた後だった。
 今まで俺は幾度もなく命を狙われることはあったけれど、食事に毒を盛られる事が大半で、寝込みを襲われるようなことはなかった。食事だけなら、誰かが気をつけていれば、未然に防ぐ事は出来るが、寝込みを襲われるとなれば、常に護衛の者をつかせてなければならなかった。でも、何故か俺の護衛をついた者は、ある日突然姿を消したり、命を狙うものばかりだった。だから、父は俺の護衛を付かせるのはトーレス、ユーイ、マイルの三人に決めた。
 三人は俺が小さい頃から俺の遊び役となってくれていた。父も三人の事は信頼していたので、俺の護衛を三人に任せたのだろう。
 三人が俺の護衛となってくれたのはいいのだけど、三人はそれぞれ付いている役職が違う。俺の護衛が最優先となっているけれど、付いている役職の仕事もしなければならなかった。
 トーレスは九つの精霊の涙がどれも均等に色づくほどの強い魔法力の持つ主で、攻撃魔法もそれなりに使う事が出来るが、特に補助魔法が得意とする城付きの魔道師でユーイは風や水、地といった魔法力が強く攻撃系の魔法が苦手とし、補助回復系の魔法が得意と知る神官。マイルは魔法力こそ持っていないが、並外れた力の持ち主で、城の兵士を率いる隊長でもあった。
 二人はともかく、マイルは常に忙しい。隊長と言うこともあって、入隊したばかりの若い兵士の育成などする事がいくらでもあった。
 マイルは俺の護衛役となってからも、毎日忙しそうにしていた。あまりに忙しい為俺の護衛をする出来ない日が続いた。
 ある日のことだった。三人は三人とも自分が持つ仕事が忙しく、俺の護衛をすることが出来ない日があり、こういう時に限って、俺は運悪く、俺を殺そうとする者に、寝込みを襲われることになった。その時の俺は、自分の力ではまだ何もする事が出来ず、怯えるしか出来なかった。
 三人はたとえ忙しくても一人は俺の護衛についているだとうと思っていたらしいのだけど、誰も俺に護衛が付いていないと知ると、慌てて俺の元に駆けつけてくれた。
 三人が駆けつけてくれた事によって、間一髪一命を取り留めることが出来たが、俺は大怪我を負う事になってしまい、生死をさまよう事となった。
 回復魔法が得意とする神官のユーイは、魔法で俺が負った怪我を治そうとするが、いくら回復魔法をかけても俺の怪我は治らなかった。
 その時の俺は、体中に毒が回っており、回復魔法が効かなくなっていた。そのことに気が付いたユーイは、すぐに毒を消す、魔法を俺にかけ、どうにか負った怪我を治すことが出来たのだけど、そのことが原因で、またこのようなことが起こるのではないかという恐怖のあまり、一人で居る事も、寝ることも出来なくなってしまった。
 三人も俺がこんな事になってから、どんなに忙しくても、俺の護衛を最優先することになった。俺は三人を信頼していた。だから、どんなに怖くても三人がいれば安心する事ができ、三人の誰か一人でも俺の側にいてくれると、怖さを忘れ眠ることができるようになった。

 今の俺がこうしていられるのは三人がいてくれるから。三人がいてくれたからこそ俺はこうして今も生きていることが出来ていた。
 「そのような事があったのですか・・・・・・それなら、この旅は貴方方三人にもきていただいたほうが・・・・・」
 「それは駄目ですセルビオ様。我々もウィル様とご一緒に旅をする事が出来ればよかったと思いいたしますが、我々が旅にご同行いたしたところで、ウィル様のためにはなりません。ウィル様は国王になられるお方。少しは我々の元を離れるという事を知ってもらわなければなりません」
 親離れはとっくにしているが、いつまでも俺は三人から離れる事ができずにいた。
 いいかげん自分でも離れなければならないと思うのだけど、三人がいるという安心感があり、三人がいないというだけで寂しさを覚え、離れられられずにいた。
 父も兄も、母がいなくなったこの機会に、俺を三人から離れる事をさせようと思い、今回の旅は三人ではなく、兄が信頼できる人物であるセルビオに任せたのかもしれない。
 「セルビオ様、どうかこの旅の間、我らに代わりウィル様の事をよろしくお願いします」
 「王子は未だあの事を思い出され、お一人で眠れない時があります。その時はどうか、ウィル様の側にいて差し上げてください。酷い時は熱を出される事もありますので」
 二人はセルビオに頭を下げ、俺の事を頼み込んでいた。本当ならトーレスも俺の事をセルビオに頼みたいのかもしれないけど、トーレスは馬車を引く馬の手綱を握っているので、いう事の出来なかった。


 「ウィル様・・・ウィル様、そろそろ起きてください。もうすぐ港に着きますよ」
 マイルに起され、深い眠りから目を覚ますことになった。
 俺が寝ている間に馬車を引く馬の手綱を握るのが、トーレスではなく、ユーイに分かっていた。
 俺はいったいどれだけ眠っていたのだろう。窓の外を見ると空は暗い。朝から今まで俺はマイルの肩ではなく、いつの間にか横になって膝の上で眠っていた。
 「ようやく起きられたのですかウィルウィア様。一体貴方はいつまで寝ているつもりなのですか。そんな暇があるなら少しは勉強をしていただきたかったのですが?」
 こいつの言うことは嫌味にしか聞こえない。
 「るせー・・・誰が勉強なんかするか!俺は勉強なんか嫌いだ!それにお前も嫌いだ」
 「そんな事を言っていますと、また昨日のようにしなければなりませんね?」
 昨日結局俺の口からこいつの手を放されたのは、何問かこいつの出した問題をしてからだった。出題した問題を間違えればまた口を掴まれるし、俺が逃げないよう、部屋に結界を張るし、散々な目に遭わされた。勉強するのは嫌だけどまた昨日のようにされるのはさらに嫌だった。
 「ウィルウィア王子・・・・何かお飲みになられますか?」
 「・・・・何でもいいから飲む、けど・・・・ウィルウィアって言うなトーレス!それに王子もつけるな!」
 何度言ってもトーレスだけは直らない。もうあきらめているのだけど、せめて王子はつけないで欲しかった。
 「おかわり・・・・」
 「おかわりもいいですが、何かお食べになりますか?」
 朝から今までずっと寝ていた為、何も口にしていなかった。
 「たべる・・・・」
 今まで空腹感など感じなかったけれど、食べ物を目にすると急に空腹になり、グーグーとお腹がなった。
 「あまり食べられますと、港に着いたとき何も食べられなくなりますから、考えて食べてくださいね?」
 港に着けば、その日は港にある宿に一泊し、明日の朝船に乗ることになっている。
 三人も今日は俺と一緒に宿に一泊し、明日俺たちを見送ってから城に戻るらしい。
 「じゃあ、これだけでいいや」
 パンにやさいや肉を挟んだものを一つだけ取り、後は止める事にした。
 誰かにストッパーをかけてもらわないと俺は食べたいだけ食べてしまい、後で後悔するタイプだったりする。
 「もう少し食べても大丈夫ですよ。港に着くまでまだ一時間ほど掛かりますし」
 「でも、もういい・・・・・後でいっぱい食べる」
 「分かりました。これはここに入れて置きますので、食べたいと思うときに食べてくださいね?」
 どんな食べ物でも傷ませることなく、数日間だけなら保存ずる事が出来る食べ物専用の小さな袋をしている収納魔道具。そんなに量は入らないけれど、便利な魔道具だと俺は思う。
 「ウィルウィア王子、港に着くまでまだ一時間ほどあるようですから、少しでもいいので、勉強いたしませんか?」
 「べ・・・・べんきょう?嫌だ!絶対に嫌だ!」
 昨日みたいなことはされたくないけれど、勉強するのは心の底から嫌だった。
 「一問だけでもいいので、いたしましょう?もしされないのであれば、宿でどんなおしおきがまっているでしょうね・・・・・」
 おしおきする事をこいつは楽しんでいる。
 「マイル・・・ユーイ・・・・・」
 「無駄ですよウィルウィア様」
 「申し訳ありませんウィル様。いくらウィル様の頼みでもそれだけは聞くことはできません」
 といって二人は頑張ってとエールを送るだけだった。
 「・・・・一問だけだな・・・・本当に一問だけだな。お前は一問だけって言ったんだからそれ以上俺はしないからな!」
 そういって俺は出された問題を一問だけすることにした。
 たった一問だからと思い、すぐ終わるだろうと思ってなめていた。問題はすぐに解く事が出来ないほど難しくされており、結局出された問題を解く事が出来たのは、港に着く直前だった。
 「もう嫌だ・・・・字を見るもの嫌だ・・・・」
 「お疲れ様ですウィルウィア様。今日はこれで勘弁して差し上げます」
 「本当だな?本当に本当だな?」
 「本当です。これ以上言われますと、本当が嘘になりますよ」
 それはどうしても嫌なので、真に受ける事にした。
 「よかったですねウィル様」

 港に着いた俺たちは、早速宿に向かった。
 「王子、私はこの水馬を裏の小屋に預けて参りますので、先に宿に入っていてください」
 水馬というのは、この水の国にだけいる馬のことで、水の上を陸地と同じように歩く事が出来る馬の事。馬車は魔道具なので馬車に水馬を繋げて、馬につけている手綱に魔法力を注ぐと、馬車は水の上や陸地から少し浮きあがり、普通の馬車と同じように走る事が出来る。
 「王子って言うなユーイ!」
 言った時だけユーイは訂正してくれるのだけど、暫くするとまた王子に戻ってしまう。
 城の中とかならまだいいけれど、せめて城のそとに出たときぐらい王子ではなく普通に呼んで欲しいと思うけど、何度言ってもこうなので、無理なのかも知れない。
 「さぁ、中に入りましょうウィル様。我々と一緒にいることが出来るのは今夜だけなので、少々の我ままなら、いくらでも聞きますよ」
 と言っておきながら、どんな我ままでも聞いてくれるのが三人だったりするのだけど、こういう時に限って、いいたいと思うことが何もない。
 「部屋割りどうされますか?セルビオ様とご一緒になられますが?それともお一人がいいですか?」
 「一人は嫌だ!絶対に嫌だ!でもセルビオと一緒の部屋も嫌だ。だから俺はマイルと一緒がいい」
 自分の部屋で一人でいたり、勉強から逃げ出して真逆の丘に一人でいることはできるけれど、こういう所で一人でいるのは未だ無理だった。
 信頼する事が出来る者が側にいなければ俺は耐えられない。下手すれば昔に戻ってしまうのではないかと思ってしまう。
 明日から最長二ヶ月間、俺はこいつと二人で過ごすことになる。その事を思うだけでも嫌気がさす。せっかく今日は三人がいるので、今からこいつの一緒に居るのは嫌だった。
 本当は三人と一緒にいたかったのだけど、宿の部屋は基本一人から二人部屋となっている為、それならマイルと一緒の部屋だと決めていた。
 「またマイル殿と一緒になられるのですがウィルウィア王子・・・たまには私とご一緒してくださいよ」
 「嫌だ!だって、トーレス寝相悪いし、それに・・・いびきが五月蝿い。だからユーイと二人は嫌だ!」
 いびきは嘘だけど、寝相が悪いのは本当のことだ。隣のベッドで寝ているはずなのに、朝起きるとどうしてか床の上で寝ているのではなく、俺のベッドで寝ていることがこれまで何度もあった。だから俺はマイルと一緒の部屋になると決めていた。
 「ひ・・・・ひどい・・・・それはないじゃないですかーウィルウィア王子・・・」
 「だ・か・ら、王子って言うな!それにウィアも付けるなって言ってるだろ!」
 諦めているけれど、やっぱり諦められなかった。
 なんだかかんだとしているうちに、水馬を小屋に預けてきたトーレスが戻ってきて、俺たちは、一度部屋に荷物を置き、それから町に出て、皆で食事をしたりして、三人で過ごすことが出来る最後の夜をめいいっぱい楽しんだ。

 翌日、俺たちは手配している船に乗るため、船のもとに向かったが、船は出港することが出来ないといわれてしまった。
 船を出すことが出来ない原因は、海の状況が船を出すことが出来ないほど悪いということだった。
 「ここはウィルウィア様の出番ですね。私が何を言いたいのか分かっていますよね。これは魔法の勉強だと思ってやってみて下さい」
 「はぁ?ふざけんじゃねーよ。何故俺がそんな事をしなくちゃいけねーんだよ!」
 こいつが言っていることは分かるけど、どうして俺がそんな事をしなければならないのかが意味わからなった。
 「何を言っているのですか。こんなことを出来るのはここには貴方しかできないことなのですよ?」
 「俺がンなもん出来るわけねーだろ!」
 俺しか出来ないことも分かっているが、俺にそんな事が出来るはずがなかった。
 こいつが俺にさせようとしていることは、俺が持つ水の力で荒れた海を穏やかにし、船を出航することが出来る状態にすることだった。
 普通、魔法で荒れた海を穏やかにする事は出来ない。どれだけ強い魔法力を持っている人であっても魔法を使って自然に起きた現象をどうにかする事は許されない事だ。だが、俺の場合は違う。
 俺が持つ水の魔法力は、他の人が持つ水の魔法力とは少し質が違う。
 魔法力というのは、精霊が授けた力だと言われているが、王族が持つ力は大精霊が授けた力だと言われ、王族にしか持たされていない特別な魔法があり、その魔法を使う事が出来る強い魔法力を持たされている。
 その魔法を使うこと以外なら、強い魔法力を持つ者と実力は分かりないのだが、いくら俺が王族で、特別な魔法を使う事が出来る強い魔法力を持っているからといっても、俺は魔法が使えない。
 「私は言いましたよね。これは貴方しか出来ないことだと・・・いつまでたっても出来ない出来ないとおっしゃっているから、基礎魔法を使う事が出来ないのですよ?」
 王族だけが使う事が出来る魔法と言うのは、自然に起きた現象をどうにか抑えることが出来る魔法の事。水の国の王族であれば、水に関する自然現象、その他の国であればその国に関する力の自然現象をどうにかすることが、王族には許されていた。
 「ウィル様、頑張ってください。今日こちらを発たれないと、予定されている日にあちらには着く事が出来ませんよ?」
 あちらと言うのは、水の国に一番近い国のこと。近いといっても一番早い船を使ってもここから三日はかかり、そこから目的としている場所まで馬車を使っても一日はかかる。
 今回、二ヶ月という短い期間に母を捜し出さないとならないので、自然に海が穏やかになるのをいつまでも待っているわけにはいかなかった。
 「・・・・・でも・・・・」
 俺には出来ない。普通の魔法すら使う事が出来ないのに、王族だけが使える魔法など使えるはずがない。
 「大丈夫です。ウィルウィア様なら出来ますよ。私が保証いたします。貴方はやろうと思えば出来る方なのです」
 「そうですよ王子。まだ何もしてもいらっしゃらないというのに、出来ないと言わないでください」
 「頑張ってくださいウィルウィア王子!」
 「・・・・やればいいんだろ・・・・やれば・・・・・でも、お前ら、何度も言うが、王子って言うな!」
 試してもいないのに、やる前から出来ないと言っていれば何も出来はしない。一度でも挑戦してそれから出来ないのであればでき出来ないのかも知れないけれど、やって出来ないのと、やらないで出来ないというのではまったく意味が違う。
 「何か我々にお手伝いする事はありますがウィル様」
 「・・・・・別ねーよ・・・ただ、もし俺が倒れたらよろしく頼むな?」
 王族だけが使う事が出来る魔法は、どれだけ高度な魔法なのかが分からないため、どれだけ魔法力を使うのかが想像つかない。高度な魔法を使えば使うほど魔法力の消費は大きく、酷ければ倒れることもある。
 「倒れられて、そのまま熱をださないでくださいね王子」
 いくらユーイが回復魔法を得意とする神官で、怪我や毒といったものは魔法で治す事が出来ても、病気といったものは魔法では直す事が出来ない。だから、出発前に俺が大きな力を使って倒れ、熱でも出されたら、出発を遅らせることとなってしまう。
 成功するか分からないけれど、やってみるしかなかった。
 「・・・・・・我に司り大いなる水の力よ・・・・・」
 俺は荒れた海を穏やかにするため、海に向かって手を差し出し、呪文を唱え始めた。まだ唱え始めたばかりだというのに、魔法力の消費は激しく、そのうえ体に掛かる負担が大きかった。
 魔法は使う魔法が高度であれば高度であるほど、魔法力の消費が大きいが、魔法力の消費が大きいのと、体に掛かる負担は別だったりする。魔法力の消費が大きくても、体に掛かる負担が少ないものもある。
 その為、どれだけ強い魔法力を持っていたとしても、耐えられる体でないと使う事が出来ない。
 だから体の弱い兄は、強い魔法力を持ってはいるが、回復系の魔法以外の魔法は大きく体に負担が掛かるため、耐えることが出来ず、負担の少ない簡単な魔法以外は使う事が出来ない。
 体は丈夫だけど、果たして俺はこの魔法に耐えることが出来るのだろうかと思いながら、呪文を唱えていた。
 「・・・・我はウィルウィア・ウォール・ウォーリア・・・かの水の大精霊アクアプリズムの代行として、今ここでその力を解放し、荒れた海を静めよ!」
 呪文を唱えれば唱えるほど体に掛かる負担は大きかった。
 どうにか体に掛かる負担に耐え、呪文を唱える事が出来たが、呪文を唱え終えた瞬間、体の力が抜け、意識がそこで失っていた。

 目が覚めると、俺は見知らぬ場所のベッドの上で寝かされていた。
 一瞬ここは何処だろうと思ったけれど、チャプチャプという水の音が聞こえるので、ここが船の船室だという事は分かった。
 一体俺は、どれ位眠っていたのだろう。呪文を唱え終わった後のことがまったく覚えていない。果たして俺は、荒れた海を無事静める事が出来、船は出港する事が出来たのだろうか、それすら分からない。
 船の甲板に出て、この目で確かめたいと思い、ベッドから体を起そうとしたのだけど、何故か体は言う事を聞いてくれず、動いてくれなかった。
 「おや、ようやくお目覚めになられたのですかウィルウィア様。ずいぶんとお寝坊さんですね・・・・・」
 水の入った桶を手に持ち、セルビオは部屋の中に入ってきた。
 「お体は大丈夫ですか?この二日間ずっと眠っておられたので、心配したのですよ。ご気分は悪くないですか?」
 「・・・・・・だ・・だい・・・丈夫だ・・・・」
 体は動かないけれど、気分は悪くない。何処かすっきりしているという感じだった。
 きっと嫌味を言うのだろうと思っていたのに、予想外にもこいつは、俺に嫌味を言うどころか、俺の事を心配していた。
 以外だった。こいつが俺と二人きりになっても、嫌味を言わない事が、すごく変に感じる。
 「熱も下がっているようですし、もう大丈夫みたいですね」
 どうやら俺は倒れた後、熱を出したらしく、この二日間、俺はこいつに看病されていたみたいだ。その証拠に、部屋に入ってきたときこいつが持っていた水の入った桶が机の上に置かれている。
 「・・・・・なぁ、あいつらは?」
 「何を言っておられるのですか貴方は。ここはもう海の上。貴方が使った魔法のおかげで荒れた海は穏やかになり、船は予定から少し遅れてではありますが、港を出港する事が出来ました。ですので、この旅にご同行されないお三方は私達を見送って、貴方の事を大変心配なさっていましたが、私に貴方を任せ、お城に帰られました。このようなこと少し考えれば分かる事ですよ。やはり貴方は少々おバカなようです・・・」
 どうやら俺は王族の者にしか使う事が出来ない魔法を使って、荒れた海を落ち着かせることができたらしいが、すぐに魔法の効果は出なかったといっていた。
 俺はかなり高度な魔法を使った為、魔法力の消費がかなり大きく、呪文を唱え終えた瞬間、その場で気を失い、倒れてしまったらしい。
 魔法の効果が現れたのは、俺が魔法を使ってから一時間ほど時間が経ってからだったらしい。倒れた俺を寝かす為、泊まっていた宿に船を出航させられるという連絡が入ったという。
 しかし、その連絡が宿に入ったときには、俺はもう熱を出していたといっていた。俺が使った魔法は魔法力の消費が大きいだけではなく、体に掛かる負担もかなり大きかったらしい。その為俺は熱を出したという。
 熱を出したのは久しぶりだった。昔の事を思い出し、熱を出す事はよくあったけれど、魔法を使って熱を出すことは殆どなかった。いや、あったかも知れない。城を抜け出すときに使う魔法は低俗ではあるけれど、高度な魔法ばかり俺は使っている。一度や二度高度な魔法を使うだけなら、人にもよるけど、すこしばかり疲れを感じるぐらいだけど、いくら強い魔法力を持っているからといって、何度も高度な魔法を使っていれば、疲れるどころではなく、今の俺みたいに倒れてしまう。だから、強い魔法力を持っている人は、本当に使わなければならない時以外、体に負担を掛けないため、あまり高度な魔法はつかないというが、俺はそんな事お構いなしで、高度な魔法ばかり使って倒れ、熱を出した事があった。
 「貴方が熱を出されたとき、出発を遅らせようかと考えたのですよ。ですが、貴方が嫌だと言ったのですよ。覚えていらっしゃらないかと思いますが」
 俺は多分、自分が熱を出した事で、母を捜すための旅を一日でも遅らせるのが嫌だったから、このような事を言ったのだと思うけど、熱に浮かされながら言った自分の言葉など覚えているはずがなかった。
 「ですが、よかったです。ユーイ様がお持ちになられていた、熱さましの薬が効いて。貴方用にユーイ様がお作りになられた薬は預かっていますので、何かありましたら遠慮なく言ってくださいねウィルウィア様」
 渡された薬を見せてくれるのはいいけど、いい加減うざいと思ったことがあった。
 こいつ自体の存在は今でもうざいと思うけど、こいつの存在以上にムカつくことがあった。それは俺の名前の呼び方だ。
 「もういい。俺の事をウィルウィアと言うな・・・ウィルでいい」
 「ですが、貴方がウィルと気安く呼ぶなといったのでは?」
 確かに俺はこいつに愛称で呼ぶなと言った。だからといって、いつまでもウィルウィアと呼ばれるのは尺に触る。俺は基本的に自分の名前が好きじゃない。親だって兄だってみんな俺の事をウィルと呼ぶし、そう呼ばれるほうが俺も好きだった。だから、もう、どうでも良かった。ウィルウィアと名前を強調してよばれるより、前みたいにウィルと呼ばれるほうが気が楽だった。だから、いくら嫌いな奴でも、好きなように俺の事を愛称で呼んでくれてもよかった。
 「ですが、貴方がいいと言うのでしたら、また貴方の事をウィルって呼ばせていただきますねウィル・・・・」
 改めて呼ばれるとやっぱりムカつくけど、自分が許可をしたのだから、もう何も言えなかった。
 「さぁ、おしゃべりもここまでです。もう少しお休みなさい。ここで無理をするとまた熱が出ますよ。本当なら、船に乗っている間、たっぷりお勉強をしてもらおうと思っていたのですが、大きな魔法を使っていただいたご褒美として、暫くの間、お勉強見逃してあげましょう。さぁウィル、おやすみなさい。地の国グレイアースに着いたら起してあげますから・・・・」
 何処からか甘い香りが漂ってくる。これは多分セルビオが花の魔法を俺に使ったからだ。花の魔法には癒しを与える魔法が多い。こいつが使った花の魔法は、中級より少し下の簡単な魔法だったと思うけど、効果は絶大だったはずだ。自分の意思と関係なく魔法で強制的に眠らせることになるのだけど、この花の魔法は、ただ人を強制的に眠らせるのではなく、この甘い香りで体をリラックスさせ、優しく包み込むような眠りに誘う。その為、体に無理をさせることなく、体を休めさせ、怪我などで弱った体や、病気によって弱った体を癒し、直りを早める事が出来る。

 翌日の早朝、船は予定通り、地の国・グレイアースの港に着いた。
 地の国・グレイアースは、地の大精霊サンドロックグレイスの加護を受けた国。一見、大きな岩と、砂ばかりある国に見えるけれど、緑だってちゃんとある。
 緑の生い茂る所には町がある。この国の土地は、雨が少なく、大きな岩と、根の張りにくい砂ばかりあるため基本植物が育ちにくくなっているので、人が住んでいる所には、少し特別な魔法を使って、植物を育てられるようにされている。だから、緑が生い茂る所に町がある。
 グレイアースにやって来た俺たちは、港町や、他の町に目も暮れず、手配した馬車に乗って、とある所に向かった。
 「ウィル、体はもう大丈夫ですか?何かありましたら、遠慮なく申してください。貴方に何かありましたら、陛下やウォルフに示しがつきませんので」
 「ん?あ・・・ああ」
 体はすっかりと回復していて、俺は元気だった。
 今でも、こいつと旅をするのは、すっごく嫌だけど、そんな事を言っても、どうする事も出来ないので、あれこれ言うのはあきらめた。
これから俺達が向かおうとしているのは、この国の王都・ロックグレイス。母の捜索のためにこの国に来たのではなく、この国の王に俺は用事があり、ここまで来た。
 「はぁ・・・・また、小言を言われるのかな・・・・・」
 「どうでしょうか・・・・ウィルしだいではないのですか?」
 「そうだといいけど・・・・・」
 何時も人に突っかかるほど強気でいるはずの俺が、弱気でいた。

 馬車に乗って一日がたった。
 ずっと何か言われるだろうと思っていたのに、セルビオは何一つ嫌味を言わず、ずっと俺の心配ばかりしていて、気持ちが悪かった。
 「ウィル、見えてまいりましたよ」
 ようやく目的の場所が見えてきた。
 地の国は、岩で作られた家が特徴と言えるが、城も例外ではない。この国の城も岩で作られている。真っ白な岩で作られた、真っ白い城。
 魔法で作られた岩ではなく、天然の岩を使ってこの城は作られたというが、本当の所は知らない。
 「着きましたよウィル。さぁ、降りてください」
 ついに、着いてしまった。
 今から俺は、この国の王に会うわけだけど、正直言って、俺はこの国の王とはあまり会いたくなかった。
 会うなら、現王よりも、前王のほうが俺は好きだ。すっごく優しいし、俺に何でもしてくれる。でも現王は、俺と会えば小言ばかり言われ、ここに来るたび、耳にたこが出来るぐらい、同じ事を何度も言われる。
 馬車から降りた俺は、セルビオと共に、城に向かった。
 すっかりと顔なじみとなった門番をしている兵士に挨拶を交わし、城の中に入り、謁見のまで、王が来るのを待った。
 「また、来たのかウィル」
 地の王は姿を現せるなり、開口がこれだった。だから俺は会いたくなかった。
 「またって言うけど、俺がここ来た理由、分かってますよね、伯父様?」
 実は地の国の王は、俺の実の伯父。そして、母はこの国の出身で、地の国の第一王女だった。
 母が失踪するたび、俺はここに来て、報告しに来る。そうすれば、母の捜索はこの国に任せることが出来、俺は別の国にいって母を捜索する事が出来るというわけだった。
 「伯父様、じい様はいる?」
 「いるにはいるが・・・会うなら、早く会えよ。またどこかに行こうとしているから、ぼさっとしてるといなくなるぞ?」
 「えっ、また・・・・でも、会えるならいいっか・・・」
 「それよりも、ウィル。その者は誰だ?見慣れないが・・・」
 今頃になって伯父は、セルビオの存在に気がついた。
 伯父は俺に紹介しろと言っているのだけど、俺がこいつを紹介するより、勝手にこいつが伯父に挨拶をするだろう。一応、セルビオは俺と違い常識人だから。
 「お初にお目にかかります地王陛下。僭越ながら私は、ウィルウィア王子の教育係を勤めさせていただいております、セルビオ・マーククラインと申します」
 「で?その教育係が、何ようにウィルと旅を?いつもの三人はどうした?」
 一から説明をしなければならなかった。
 めんどくさかったけれど、順を追ってはなした。
 そしたら、伯父は笑っていた。声を出して大笑いしていた。
 「・・・・おまえは、馬鹿だ・・・・本当に馬鹿だ・・・」
 「馬鹿で結構!もう、話は済んだんだから、じい様の所に行ってもいい?」
 「好きにしろ」
 好きにしろと言われたので、好きかってすることにした。
 俺は嬉しかった。ようやく祖父に会えると楽しみにしていた。
 祖父に会うのは久しぶりだった。
 祖父は王位を伯父に譲ってから、隠居生活が楽しめるとか何だとか言って、何人か付き人を連れ、放浪の旅に出る。
 歳も歳なのだから、皆心配するのだけど、今の祖父は旅が生きがいだといって、ジッとしていることがなく、誰にも祖父を止めることができない。
 前に、母のことでこっちに来た時、伯父とあった後、祖父に会おうとおもったら、祖父はいなかった。その前に来た時もいなかったので、ようやく、会えるのだと楽しみだった。
 「じ・・・じいさまーっ!」
 ノックもなし。祖父のいるであろう部屋に入り、祖父がいた事を確認すると俺は、大きくガッツポーズをした。
 「よっしゃー、ビンゴ!」
 「何がビンゴじゃ・・・ノックもなしで急に入ってきて、ビックリして心臓止まるかとおもったぞ」
 これしきの事で祖父の心臓は止まらない。祖父の心臓は年齢のわりに丈夫で、少々驚いたぐらいでは止まるわけがない。
 「その格好・・・・また何処か行くのじい様?」
 祖父の格好は、俺が知っている前国王が着るような格好ではなく、何も着飾らない、とてもシンプルな格好だった。
 祖父がよく旅に出るのは知っていたけれど、俺が母を捜すため、旅をしていても、旅先で祖父に会うことはこれまで一度もなかったので、祖父のこんな姿を見るのは初めてだった。
 「そうじゃ。ずっとこの国にいてもつまらんだけじゃ。なんらなお前も一緒に来るかウィル?」
 「一緒に来るかって・・・・じい様、俺がここにいる理由は知っているでしょ?」
 これまで何度か一緒に旅に出ないかと祖父に誘われた事がある。俺だって大好きな祖父と一緒に旅をしたいと思うけど、祖父が俺を誘うときは決まって俺が母を捜しにいっている時ばかり。
 一緒に旅をしてもいいのだけど、祖父は当てもなく旅をしているらしく、何処に行くのか分からない。俺は一応、母がいそうな所に目星をつけ旅をしているので、わざわざそれだけの為に、祖父の自由を奪いたくはないので、誘われても断ってる。しかし祖父はあきらめる事を知らないので、いつまでも同じ事を言ってくる。そして、俺は同じように断るのだけど、だんだんと本気で祖父が言っているのか、冗談で言っているのか分けが分からなくなってしまう。
 「そうじゃったな・・・またうちの馬鹿娘がいなくなったんじゃったな。我ながら娘の行動には恥ずかしいばかりじゃ・・・だがなウィル。安心せい。わしだって馬鹿娘のことは探してやる。もしウィルよりも先に見つけたら、水の国に連れて行けばいいんじゃろ?」
 祖父が協力してくれるのは嬉しい事なのだけど、いまいち俺は祖父の言う事が信じられなかった。
 祖父は方向音痴。母ほどとは言わないけれど、少々方向音痴なところがある。
 自分の国に居る限り、迷ったりするようなことはないらしいのだけど、自分の国から一歩外に出ると、自分が何処にいるのか分からなくなり、挙句の果て迷ってしまい、自分の国に帰られなくなるらしい。
 だから、旅に出るときはいつでも自分の国に帰ることが出来るようにということで付き人を何人も連れているらしいが、本当は、行きたい場所に行くことが出来るように付き人を連れていると伯父は言っていたが、本当の事は祖父と付き人のものしか分からなかったが、祖父は楽しそうにしているので、それで良いのではないかと思ってしまった。
 俺は別に方向音痴でもないし、伯父も方向音痴ではないと言っていた。血筋で方向音痴なのは、祖父と母だけならしい。
 「さてと、わしはそろそろ行こうかのう。わしの可愛いウィルの顔も見ることができたしの」
 「えー・・・もう行くのじい様・・・せっかく会えたのに、今日ぐらい一緒にいたかったのに・・・・」
 「済まんの。どうもわしは、ジッとしているのが嫌いみたいじゃ」
 ジッとしているのは俺も嫌いだし、母もジッとしているのが嫌いみたいで、そういうところは祖父の血筋なのかも知れない。
 「いってらっしゃいじい様。俺も明日は、ここを出るから、いずれどこかで会えるといいね」
 「そうじゃな、いつか会えるのを楽しみにしてるぞウィル。」
 そう言って祖父は俺の頭をひとなでしてから、付き人を引き連れて、旅に行くため部屋を出て行った。
 そういえば、祖父に会いたいいっしんでセルビオを置いてきてしまったけれど、どうしているのだろう。あいつの事だから伯父とよからぬ事を話していそうな気がするけれど、いい加減戻らないと伯父やセルビオに何を言われるか分からないので、急ぎ足で謁見の間に戻ったのだけど、謁見の間には居らず、使用人に聞けば、俺が祖父に会いに言った後、二人は食堂でお酒を交わしていると言っていたので、行ってみれば、二人は何故か上機嫌で話していて、すごく気味が悪かった。
 後で、セルビオに何を二人で話していたのか問いただしたのだけど、俺の事だとだけ言って、それ以上のことは話してもらえなかった。


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