母を探して(完結)

しぎょく

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転々と

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城で一泊した俺たちは、翌日の朝、伯父に見送られ城を出発した。
 次に俺たちが目的地としているのは、地の国の隣にある花の国。
 地の国と花の国は、一つの大陸に二つの国があり、大きな山を国境とするだけ。大きな山には、様々な人々が行き来する事が出来るようにということで、両国の了解の下、大きなトンネルが掘られている。
 いつもは国境まで歩いて行かされる事が多いのだけど、今回ばかりは、伯父も事情が事情なので、珍しく馬車を手配してくれ、国境まで連れて行ってもらう事となった。

 「昨日はよく眠れましたかウィル」
 「え・・・・あ・・・うん・・・・」
 昨日は普通に眠ることはできた。しかし、俺が三人がいない所でこうして普通に眠ることが出来るのは、伯父が気を使って、俺がいる部屋の近くに誰も近寄らせないようにしてくれたからだった。
 そのおかげで、俺はぐっすり朝まで寝ることができた。
 いつもの伯父なら、わざわざ気を使うようなことはしないけれど、今回ばかりは伯父に感謝してしまった。
 「それはよかったです。あまり無理はしないでくださいねウィル。今、無理をされますと、また勉強が出来なくなってしまいますから」
 こいつは何処まで俺に勉強をさせるつもりなのだろう。
 こいつが俺の教育係となってから俺はこいつの口から勉強という単語が一度も聞かない日はほとんどない。
「さぁもうすぐ国境ですよ。そろそろ降りる準備をしてください」
花の国・リフテクターは花の大精霊・フラワーリーフフェクターの加護を受けており、国境とされている山のトンネルを抜ければ、そこは一年を通して国中に様々な草花が咲き誇っていて、こんな俺でも綺麗だと思えるほどすごく綺麗で、これこそ花の国といえる国だ。
国境に着いた俺たちは、馬車を降り、トンネルの中に設けられている関所で通行書を見せ、花の国へと入った。
通行書は誰にでも発行される。入国する際に持っていなくても関所で簡単な手続きをすればその場でもらえる代物だったりするが、国によって違うため、事前に調べておかなければならないのだけど、俺達が持つ通行書は特別製なので、何処にでも通用する。
「・・・・・やっぱり・・・すっげー・・・・」
長いトンネルを抜けると、広がる世界は花畑。右を見ても左を見ても、花、花。何度来ても、花の国は見蕩れてしまうほど綺麗だった。
「何度来ても、花の国はとても綺麗な国ですよね・・・それはそうと、ウィル。貴方のするべきことは分かっていますか?」
「るせーっ!お前に言われなくても、んなこと分かってるつーんだよ!」
 わざわざこいつに言われなくても、自分のやるべき事はちゃんと分かっている。
「どうして貴方はいつもいつも私にそう突っかかってくるのですか?私が何かしましたか?」
何もしてないけれど、何故かこいつが居るというだけでムカついて暴言を吐いたりして、つい突っかかってしまう。
「まぁ、いいでしょ。さぁさぁ、早く始めてちゃってくださいねウィル」
これ以上突っかかっても、また同じ事の繰り返しとなるので、ここは突っかかりたい気持ちを堪えて、今俺がやるべき事をする事にした。
魔法が使える者なら誰でも基礎魔法は使う事が出来るけれど、俺は基礎魔法が使う事が出来ない。俺が使える魔法といえば、たとえ高度な魔法でも、低俗な魔法と呼べるものばかり。でも、そんな俺でも、たった一つだけ低俗ではない、誰もが認めてもらえるような魔法が使う事が出来るモノがある。
 それは、人探しの魔法。人探しの魔法は、補助や攻撃、回復にも分類されず、その他の項目として分類される少し特別な魔法。
 特別な魔法といっても、王族にしか使う事が出来ない魔法ではないのだけど、誰にでも使える魔法というものでもないらしい。
 どんな魔法にも、属性というものが存在する。でも不思議な事にこの魔法は、属性が存在しない。何故存在しないのか分からないけれど、無の属性というわけでもないらしいのだけど、全ての属性にも一致するという。
 どうして、俺がそんな魔法を使えるのか分からないけれど、いつの間にかこの魔法は普通に使えていた。
 古代の魔法を研究していたセルビオにもこの魔法の事は分からないらしい。それを知った時、俺はざまーみろという気分だったのを覚えている。
 「・・・・・どうですか?王妃様はこの国にいらっしゃりますか?」
 畏まった呪文を唱えなくても、この魔法は使える。なんと言うか、目を閉じて、魔法力を一点に集中させているだけで、知っている者の存在を感じ取ることが出来る。
 「・・・・いねー・・・・かあ様はこの国はいねーし、来てもねー・・・・」
 花の国に母の存在は感じ取る事が出来なかった。
 俺が使っている人探しの魔法は、便利だとは思う。人を探す事が出来る有効範囲は、広さに関係なく国一つ分。そして、おおよそではあるけれど、探している人が、どのような行動で何処に向かったのか分かる事が出来る。
 さらに、もっと便利だとおもうのが、探している人が、この国にいるのか、いないのかというだけではなく、その人が俺達が到着する前に、他の国に移動したとしても、その人が、俺達が来る前までこの国に居たという事も分かる事が出来る。
 国を離れられしまえば、魔法の有効範囲から出てしまうので、どれだけ魔法を使っても、その人が何処に行ったのか分からないけれど、最後にその人が何処にいたのか分かれば、その場所まで行って情報を収集する事ができるが、今回ばかりは、空振りだった。
 母はこの国には来てので、手がかりはまったくない状態だった。
 「どうしますか?私はどちらでもかまいませんよ?あなたが選んでください」
 選択権は俺にあった。
 セルビオが言っているのは、国境からそう遠くない場所に町があるのだけど、今日のところは町の宿に一泊して、翌日馬車を手配し、港に向かって、次の国に行くか、それとも、町に行って馬車を手配して、今日中に港に行って、港にある宿で一泊して明日の朝一番の船で次の国に行くかということだった。
 いつもの俺なら、このまま近くの町の宿で一泊してから次の町に行こうとするのだけど、今は、そんな暇も惜しい。だから、俺は今日中に港に向かって、明日の朝一番の船で次の国に向かう事を決めた。
 「では、早く町に行って、馬車を手配いたしましょう」
 流されるまま俺は、セルビオと共に近くの町に行き、馬車を手配し、港に向かった。
 
 夜、遅くに、港に着いた。
 港の宿で一泊する事になったのだけど、不幸なことに部屋は一室しか開いておらず、セルビオと一緒の部屋で寝ることになってしまった。
 「・・・・・・最悪だ・・・・・」
 「何が最悪なのですか。別にいいではないですか。部屋は一つしかなかったのですから。それとも、私が一緒だと眠れませんか?」
 聞かれてもそれは分からなかった。
 まだこいつと旅をしてから数日経つけれど、自分の意思でこいつの前で寝た事が一度もなかった。しかし、この数日、俺は二度もこいつがいると分かっていて眠っている。
 一度目は、馬車の中で。その時は三人も一緒にいたけど、三人がいるという安心感から七日知らないけれど、こいつがいるにもかかわらず、何故か俺はこいつの前で眠ってしまった。
 二度目は、俺が大きな魔法を使って、倒れた時。その時は自分の意思は関係なく、魔法を使って意識を失ってしまったので仕方がないと思っているけど、これまでこういうことは一度もなかった。
 今までの俺なら、どんなに熱があって倒れようが、自分が信頼している人物以外の者が近くにいれば、絶対に寝ることはなかった。どうしても眠れなかった。
 魔法を使って、自分の意思に関係なく、眠らされても、信頼している人物以外のが近くに来ただけで、どうしてか知らないけれど、起きてしまい、さらに辛い思いをする一方だった。
 そんな事があったにも関わらず、何故かは俺はこいつがいる前で寝ることができていた。
 だから、大丈夫かもしれない。
 確信はないけれど、多分俺はこいつと一緒の部屋でも、こいつのいる前で寝ることが出来ると思う。
 「ウィル・・・・お休みになる前に、簡単なお勉強を一つか二ついたしませんか?」
 机の上に何冊かぶ厚い本を置かれたので、こいつは俺に勉強をさせるつもりだ。
 「・・・・・・いやだ・・・・」
 「どうしてですか?本当に簡単なお勉強ですよ?まだ全快ではない、貴方に、また熱を出されるような難しい問題は出しません」
 簡単簡単だというので、どれほど簡単なものだろうと思い、本当はしたくない勉強だけど、結局することにした。
 出された問題は、本当に簡単なものだった。
 水と地の国の歴史をおさらいのように問題をだされ、その後、こいつの話を長々と聞くだけだった。
 流石に長々とこいつの話を聞くのはうんざりだった。これならもっと問題を出されるほうがずっと楽だった。
 「どうしました?私の話はまだ終わっていませんよ?」
 本当の本当に俺はうんざりしていた。
 今すぐここから逃げ出したい。こいつから逃げて、別の宿をさがして、そこで一人で泊まりたいと思ってしまうほど、だけど、それも嫌だった。
 宿を取ることは出来るけど、下手をすれば見知らぬ人と相部屋になる可能性だってある。それだけはどうしても避けたいし、万が一、一人部屋になったとしても、多分俺は一人で眠れないかもしれない。
 今までなら、知らぬ地で、知らぬ場所に寝泊りしても、近くに信頼できる人がいたから、俺は安心して寝ることができたけど、今俺がここを逃げ出して、宿を取っても、周りは見知らぬ人ばかり、一人でいられるはずがなかったので、ここは我慢するしかなかった。
 「・・・・・・はぁ・・・・仕方がありませんね。もう少し話したいところだったのですが、今日のところはこれで勘弁してあげます。感謝してくださいねウィル」
 という事で、ようやく解放された。
 「眠たそうですね・・・すいません、夜も遅いのに、長々と話をしてしまい、貴方の睡眠時間をずいぶん削ってしまいましたね・・・・」
 「べつに・・・・そんなこときにしてねーよ・・・・」
 どうも調子を狂わされる。
 調子が狂う理由は、分かっている。最近妙にこいつが俺に対して優しいせいだ。それで俺の調子が何処か狂ってしまう。
 朝一番の船に乗るには、早く起きなければならない。今から寝ていても十分といえる睡眠は取れないだろうけど、少しでも休めるときに休むことし、ベッドの中に入った。
 「おやすみなさいウィル」
 「ふん・・・・・・」
 こうして俺は、初めてセルビオがいると意識しながら、いつの間にか眠ってしまった。
 本当に俺は思っていたとおり、大嫌いなセルビオがいるにも関わらず、眠る事が出来た。何故こんなに安心して眠ることが出来るのか分からないけれど、不思議と三人と一緒にいるときと同じぐらい安心して眠りにつくことが出来た。

 「・・・・やだ・・・・こないで・・・・いや・・・・」
 夜が明けそうなころ、俺は夢を見てうなされていた。
 「いや・・・・こわい・・・・・ころ・・・ないで・・・」
 目を覚ますようなほど怖い夢を見ているはずなのに、俺はいつまでも目を覚ますことなく、夢の中に捕らわれ、逃げ出すことが出来なかった。
 「こないで・・・・こっちに・・・・・・」
 「うぃる・・・・ウィル・・・・」
 誰かが俺を呼ぶ。
 一体誰が俺を呼んでいるのだろう。
 「目を覚ましなさいウィル・・・・目を覚ますのです!」
 誰かが必死になって俺を呼び、起そうとするが、俺は中々夢の中から逃げ出す事ができずにいる。
 「ウィル・・・・ウィルウィア・・・起きなさい!起きなさいと言っているでしょ!」

 ぱーんっ!

 いつまでも目を覚ますことのない俺を見かねてなのか、誰かが俺の顔を力強く叩いた。
 「うぃる・・・ウィル?」
 顔を強く叩かれた衝撃によって、どうにか俺は夢の中から抜け出す事ができた。
 「ウィル?私の事が分かりますか?」
 まだ、頭の中がはっきりぜす、ボーっとしているけど、誰が俺をあの夢の中から抜け出さしてくれたのか、分かる事が出来た。
 「・・・・・せ・・・せる・・・・びお?」
 俺をあの夢の中から抜け出さしてくれたのはセルビオだった。
 セルビオはすごく心配そうな顔をしていた。
 俺は、セルビオに心配をかけてしまった。
 「だい・・・・丈夫ですか?ずいぶんうなされていたようですが・・・・」
 「夢を見た・・・・俺が殺されそうになった時の夢・・・・」
 怖かった。もう、二度と目が覚めないのではないかと、思い知らされるほど怖かった。
 もう、あんな思いはしたくないのに、忘れたいと思うのに、思い出してしまう。
 怖い。すごく怖い。
「・・・・・・俺・・・・いきてる・・・・よな?」
 夢から目覚めることが出来たけれど、何故か自分が生きているという実感がわかず、体の震えが止まらない。
 「何を言っているのですか?貴方は生きています。ちゃんと生きていますよ」
 セルビオは俺に生きているという実感を持たせる為なのか、ギュッと力強く抱きしめてくれた。
 「大丈夫・・・・大丈夫ですよ・・・貴方はちゃんと生きています」
 「うん・・・・」
 とても温かい体温が俺に伝わってくるし、ドクンドクンというセルビオの心臓の鼓動が聞こえる。
 とても安心する。何故こんなに安心するのか分からないけれど、セルビオの腕の中にいるとすごく安心する事が出来、生きているという実感が持つことが出来た。
 「セル・・・ビオ・・・・」
 「どうしましたか?」
 「・・・・なんでもねー・・・・」
 体の震えはいつの間にか止まっていたけれど、もう少しこうして痛かった。もうすこしだけ、もう少しだけでいいから、こうしていて欲しいと思ってしまい、セルビオの服をギュッと握りしてめいたが、セルビオは何を言わず、俺が完全に落ち着くまでずっと俺を抱きしめてくれた。

 「出発、明日に遅らせましょう?」
 「嫌だ・・・・俺は・・・大丈夫・・・だから・・・」
 「何が大丈夫なのですか?何が・・・」
 あんな夢を見たせいで、俺は高熱を出してしまった。
 朝一番の船が出発する時刻まで、もうそれほど時間がなく、俺は無理をしてでも、船に乗ろうとしようとしたのだけど、セルビオに反対されていた。
 いくらセルビオが反対しても、俺はどうしても嫌だった。
 次に俺達が行こうとしている国は、闇の国。闇の国は、花の国から船で一週間からい週間半ほどかかる場所にある。ただでさえ旅の期間が限られているのに、俺のせいで旅を遅らせるわけがなかった。
 「・・・・・分かりました。私の負けです」
 想いが通じたのか分からないけれど、どうにか予定している船に乗ることが出来そうだった。
 「ですが、一つだけ約束してください」
 「やく・・・そく?」
 「そうです。船に乗っている間、一切勉強のことは忘れていただいて構いませんが、体を休める事を優先して、大人しくしていてください。決して無理はしないと約束していただけるのであれば、乗る事を許しましょう」
 「・・・・・・分かった・・・・その条件・・・乗った」
 「では、さっそく船に向かいましょう」
 熱のせいで俺は動けない状態だったのだけど、セルビオは何故か嬉しそうな顔で軽々と俺を抱き抱え、宿を出た俺たちは間もなく出発しようとする船に急いで向かった。
 「大丈夫でしたかウィル。どうにか出発の時刻までに間に合いましたね」
 俺達が乗った船は、誰かが手配した船というわけではないけど、チケットは昨日夜、港に着いたその日にセルビオが買っていた。
 だから、チケットを見せれば出船ギリギリに乗っても、間に合えば乗ることは出来る。もし、出発時刻までに間に合わず乗ることが出来なくても、次に出発する船が満員になっていなければ乗ることも出来る。ただ、その場合、個室のチケットをとっていたとしても個室が開いていなければ相部屋となるので、その場合はたとえ急いでいても俺はそれを避ける。
 でも、無事船に乗ることは出来たので、それはどっちでもよかった。
 船員に案内され、セルビオが取った個室に案内された。
 もちろん俺は動く事が出来ないので、セルビオに抱かれたままでいるけど、抵抗するつもりなどない。むしろ今はこのままのほうが安心する事が出来るので、このほうがいいと思っている。
 「ここって・・・・とく・・・とう?」
 部屋を見てすぐに分かった。
 「分かっちゃいましたか・・・そうです。少し値は張りましたが、特等部屋にさせていただきました」
 個室ならどんな部屋でも構わないと思っていたけれど、まさかこいつが特等部屋のチケットを買っているとは思っていなかった。
 特等となれば少し値が張るどころか、その額で一般の部屋のチケットがいくつも買う事が出来る。
 「あっ、お金のことなら気にしないでください。この部屋のお金は私個人のお金ですので・・・・でも、よかったです、チケットが無駄にならなくて」
 無駄にならなくてよかったけれど、いくらセルビオが稼いだお金だと言っても、少し気が引けた。
 「本当に気にしないでください。私が好きでしたことなので、貴方はゆっくり休んでください」
 優しい声で、俺を優しくベッドの上におろし、寝かせようとした。
 「闇の国に着くまで時間はたっぷりあります。ゆっくりで構いませんので、体を直しましょう。安心してくれるのかわかりませんが、貴方が望むのでしたら、ずっと側にいて差し上げますよ」
「・・・・いて・・・・俺が寝るまでで・・・いいから」
 「寝るまでと言わず、ずっといて差し上げますよ」
 そっと頭を撫でてくれた。
 温かい。どうしてこんなに温かいのだろう。
 「おやすみなさい。私がずっといますので、怖がる事はありませんよ」
 「うん・・・・・」
 俺が寝るまで、セルビオは優しい声で俺に話しかけ、ずっと頭を撫でてくれていた。
 そのおかげなのか分からないけれど、眠ることに恐怖はない。安心して眠れる気がしていた。


 船に乗っている一週間、結局俺は寝込み続けた。
 たまに、夢を見て、うなされる事もあり、その度に俺は高熱を出していた。
 セルビオは旅を中止して、国に帰ろうと何度も俺に言うけど、母を見つけることもできていないし、まだ一ヶ月以上旅の期間は残っている。
 「こんな状態でも貴方は何処まで我ままなのですか?」
 今はもう殆ど熱は下がり、ある程度までなら動ける状態まで回復している。
 後二・三日すれば闇の国に船は到着する。それまでにどうにか旅が出来る状態まで回復したいと思うけど、今の調子では分からない。
 「うるせー・・・・それよりも、これ、教えてくれよ」
 珍しく俺は、自分から勉強をしようと思い、セルビオに勉強を教えてもらっていた。
 「何度も申し上げますが、ここは、この本に書かれているこの文を読むと理解出来ますと私はいいましたよ?」
 「だから、それがわかんねーって言ってんだろ」
 俺から勉強を教えてと言ったときセルビオはよっぽど嬉しかったのか、泣いていた。
 ずっと勉強から逃げ続けていた為、こいつの教え方がうまいのか、よく分からないけど、俺が理解するまでじっくり教えてくれるのだけど、何度教えてもらっても結局俺は全然理解していないのが事実。
 でも、こいつは、それでも俺に教えてくれた。俺の体調を確認しながらゆっくりと、できる範囲で。
 本当はこいつ、案外いいやつなのかも知れない。
 何時も俺が勉強を嫌がって、逃げていたから、こいつの嫌な所しか見えてなくて、嫌いだと思っていたのかもしれなと思えるようになっていた。
 「あーーーー、わかんねー・・・・・んなもん、俺がわかるわけねーだろ?」
 「何を言っているのですか。これぐらい分かってもらわないと、立派な国王になれませんよ?」
 「俺は王になるつもりなどない!何度言えばわかんだよ・・・もういい、終り終り。俺はもう寝る!」
 寝るといっても布団をかぶり、狸寝入りするだけ。
 「素直じゃありませんね。別に今の貴方に無理に勉強しろと申すつもりはありませんから、好きに止められても構いませんが、貴方を王にさせる事はあきらめたわけではありませんよ」
 「るせ!」
 結局何だかんだといって、俺はこいつに突っかかっているけど、以前ほど突っかかるつもりなどない。むしろ、今ぐらいの関係が丁度いいと思っていた。

 それから三日後。船は闇の国の港に着いた。
 闇の国は、闇の大精霊・ブラックシャドーアークの加護を受けた国で、一年中日の光が差すことのない、洞窟の中のように真っ暗な国。
 闇の国の住民は光球という光を作り出す魔道具を使って生活していて、この闇の国になくてはならない道具だ。
 どうにか俺は闇の国に着くまでに、全快ではないものの、旅を続けられるほどには体は回復していた。
 船を降り、早速力を使って母を捜したけれど、闇の国にも母はいなかった。
 でも、花の国とちがい、闇の国には収穫はあった。
 もうこの国に母の存在は感じられないけれど、母がこの国に来ていたということは分かった。
 「遠いな・・・・北・・・・最北?」
 はっきりとは分からなかったけれど、最後に母の存在を感じ取ることが出来たのは、この国の北にある何処かの町だった。
 「あっ・・・・やべ・・・・」
 力を使い終わった瞬間、軽いめまいが起きた。
 倒れるまではいかなかったけど、よろけた瞬間、セルビオが体を支えてくれた。
 「これは貴方にしか出来ないことだと分かっていますが、無理はしないでください。本当なら貴方を今すぐ国に連れて帰りたいのですが、貴方がどうしてもと言うので、旅を続けているのですよ?」
 「わーってるよ・・・・」
 「今しばらく様子を見るつもりでいますが、次はないと思ってください。次は貴方が何言っても私はあなたを連れて帰りますからね」
 それが旅を続ける条件だった。
 母を見つけるまでは倒れられない。
 兄と違い弱い分けではないのだけど、今の俺は夢を見たことが原因で、精神がどうも不安定になっていた。そのせいで、俺はこのざまだった。
 自分が情けない。
 たかが夢を見ただけで、こんなことになってしまい、こいつに迷惑をかけてしまうなど、自分が情けなくて仕方がなかった。
 「今日はこの港にある宿で一泊いたしまして、地図をみて何処に行くのか考えましょう。いいですよねウィル?」
 「好きにしろ・・・・」
 情けないけど、今の俺は、こいつに何もいい返す事ができなかった。言い返せる立場でもなかった。
 「それでは向かいましょう!」
 「ちょ・・・・おい、セルビオ!降ろせ!」
 「嫌です。落とされたくないのでしたら、大人しくしていてください」
 またしてもセルビオは俺を軽々と抱き抱えた。
 少し抵抗したのだけど、降ろしてもらえず、結局大人しく抱きかかえられる事なり、宿に向かう事になってしまった。
 宿に着くまで恥ずかしかった。
 花の国にいた時は、抱きかかえられても恥ずかしいと思わなかったけど、それは熱のせいで思考が鈍っていた為。でも今は、熱もなく頭はハッキリしているので、人に見られていると分かったら恥ずかしくてたまらなかった。
 しかし、人は気にしていないかもしれない。
 子どもが大人に抱きかかえられているというぐらいにしか見えないかもしれないという暗示を俺は自分にかけ、宿に着くまで恥ずかしさをどうにか紛らわせようとしていた。
 「もう降りていただいてもいいですよウィル。今日はここで一泊いたします」
 「ここって・・・・・」
 セルビオが来た場所は宿でも何でもなかった。
 辺りを見渡しても宿屋の看板はなく、何処からどう見ても、俺たちの目の前に建っている建物は民家にしか見えなかった。
 どうして、セルビオは宿屋ではなく、こんな所に連れてきたのだろう。
 そして、ここは一体何の建物なのだろう。
 「どうかいたしましたかウィル?入らないのですか?」
 「え・・・あ・・・」
 セルビオは当たり前のようにこの民家らしい建物の中に入ろうとしていた。
 「そんな顔をなさらなくても大丈夫ですよ。ここは私が研究所にいた頃に住んでいた家です。いつか来るかも知れないと思い、売らずに残していた家なのですが、まさか本当に来るとは思いませんでした。まぁ狭い所ですが、宿で寝泊りするよりはずっと安全だと思いますよ」
 そういえば忘れていたけど、セルビオは俺の教育係としてなる前は、古代魔法を研究していた機関にいた。そしてその研究所があるのは、この国だった。
 しかし、その研究所があるのは、港からずっと離れた場所にある町だったはず。それなのに、どうしてセルビオの家はこんな所にあるのだろう。
 「不思議そうな顔をしていらっしゃいますね。話して差し上げますから、まず中にお入りなさい」
 俺が思っている事を見抜かれてしまった。
 でも、こいつが話してくれるというなら、話を聞いてみようと思った。そしたら、この疑問は晴れる。
 「おじゃま・・・・します」
 ここは宿ではなく、人の家。たとえこいつの家であっても、人の家に入るときは、人の家に入るための礼儀というものがある。
 「どうぞ・・・・前もって手紙でこっちにいる知人に掃除を頼んでいましたので、綺麗だと思いますよ?」
 どういう知人かは知らないけど、家の中は隅々まで掃除されとても綺麗だった。
 必要最低限ではあるけど、家具などもちゃんと置かれていた。外から家を見るよりもずっと家の中は広く思った。
 こんな広い家にこいつは住んでいたのだと初めてこいつの事を知る事が出来た。
 「部屋はどうしたしますか?私の部屋以外にも部屋はありますので、一人で寝られても大丈夫ですよ?」
 俺は大きく首を振った。
 ここがセルビオの家で、宿で寝泊りするよりも安全だという事は分かる事が出来たけど、それでも、今の俺はどうしてか、一人で夜を過ごしたくなかった。
 いつの間にか俺は、一人でいることに臆病になってしまっていた。
 「そうですか、やっぱりそういうと思いましたよ・・・では、私と一緒に私の部屋で寝ましょうウィル」
 「う・・・うん・・・・・」
 今の俺はこいつなしではいられない状態まで陥っている。
 「素直な貴方も、可愛いものですね・・・・とりあえず、何か温かいものでも入れましょうか?私の話を聞きたいのでしょ?」
 疑問はすぐに解決する事はできた。
 花の国の特産品である花茶を飲みながら、俺はセルビオの話を聞いていた。
 セルビオがいた古代魔法を研究する研究所はこの港から離れた町にある。それは俺でも知っていた。
 すごく大きな研究所で、多くの人が働いているということも知っていたけど、世界各国に研究所があるということは話を聞くまで知らなかった。
 大きな本部と呼ばれているらしく、闇の国には本部以外に他の国にある国を結びつける為に三つの分室と言われる小さな研究所があるらしい。
 セルビオは本部の研究員として所属しながら、この港のどこかにある分室研究所の室長をしていたらしく、それでこの港町に家を買い住んでいたらしく、それがこの家だという。
 セルビオは伯爵の称号を持つ貴族の生まれで、俺の教育係になった時、子爵の称号を父から貰ったというけれど、研究員としていた時、セルビオは親の援助を受けることなく、一人で生活をしていたと言うけれど、俺は研究員ってそれほど儲かるのかと思ってしまった。
 どういう経緯でこの家を買ったのかは知らないけれど、俺はこいつの事がすごいと思ってしまった。
 「時間がもっとあれば、いろいろこの国を案内して差し上げたいと思ったのですが、出来なくてすいません」
 何年もこの国に住んでいたのだから、いろいろな所をこいつは知っているだろう。
 俺だって案内してもらいたいと思ってはいたけど、今の俺たちにはそんな悠長な事をしている暇などない。一日でも早く母を捜して、国につれて帰らなければならない。
 「その代わりといってはなんですが、私のお勧めのお店に案内させていただきますね」
 温かい食事を食べるの好きだ。
 城にいればこれまで色々な事があったため、冷めてしまった食べ物ばかり出される事が多かった。だから外に出たときぐらいは温かい食べ物を好きなだけ食べたかった。何も気にすることなく食べられるという事はすごく幸せな事だった。
 「今すぐ行きたいですか?それとも、少し町中を歩いてから行きますか?」
 「うーーーーーーーん」
 悩んだ。
 どうせ明日まで、する事はない。
 それなら、今日は思いっきり色々なところに行ってみたいという気もあるけど、ここで無茶をしてしまうと、倒れる可能性もあった。
 だったら、このまま大人しくして大好きな食べ物を食べるほうがいいような気がするけど、ずっと寝たきりでいたせいで、少しぐらい体を動かしたいとも思っていた。
 「町中ぐらいなら大丈夫ですよ。もし無理そうだと思うのであれば、私が貴方を抱いてこの港町を案内してあげます」
 こいつには恥じらいというものがないのだろうか。
 「じゃあ・・・・少しだけ・・・・いい?」
 その日は、セルビオに港町を色々と案内してもらった。
 港町とあって、色々な物があった。
 何だろうと思うような魔道具を売っている店や、見たことのない魚が売っている店もあった。
 当然そんなもの買うわけがないけれど、見ているだけで楽しかった。
 いままで母を捜すため色々な町に行ったけれど、ゆっくり町を見回ったことは殆どなかった。だから、こうして、今は何も気にすることなく、町を見回るということがすごく新鮮な気分だった。
 町中を色々見て回った後は、セルビオが勧める店に言って食事をすることにした。
 すごく落ち着いた雰囲気の店でとても高そうな店だと思ったのに、料理の値段の安さをみた時、俺は驚いた。
 安いだけではなかった。値段が安いだけではなく、料理はすごく美味しくて、量もそれなりにあった。
 「幸せそうに食べますね。いくら料理が美味しいからといって、食べ過ぎては駄目ですよ。ついこの間まで殆ど食事を取ることも出来ない状態だったのですからね」
 寝込んでいる間、ずっと何かを食べるという事ができなかった。
 お腹が空いているはずなのに、食べ物を何一つ見たいと思えず、食べられなかった。
 ようやく昨日から少しずつ何かを口にすることが出来るようになったばかりだというのに、俺は、目の前に並べられた料理を見た瞬間、すごく食欲がわいて、仕方がなかった。
 体の事を心配してセルビオは消化のいいものを注文してくれたけど、それでもその料理はすごく美味しかった。
 食べ過ぎないようにと思っていたけど、駄目だった。食べる事を止める事は出来ず、結局食べ過ぎてしまい、後々セルビオにつれて帰ってもらう破目となってしまった。
 「だから言ったのですよ?それを聞かなかった貴方が悪いです」
 「・・・・・・・」
 食べすぎで声も出せずにいた。
 「ですが、あれだけ食べられればもう、大丈夫そうですね。それを確認する事が出来て、よかったとは思います」
 消化にいいものばかり食べていたといっても、すぐに食べた食べ物が消化するわけではいので、結局、セルビオに消化を促進させる効能の持つお茶を渡され、飲まされる事となった。
 「・・・・にが・・・・」
 「全部飲まなければ意味はないですよ」
 すっごく苦かった。苦すぎて全部飲む自身がなかったけれど、頑張ってカップに入ったものだけでも飲み干した。
 「よく頑張りましたね。これはご褒美ですよ」
 口直しにと渡されたのは甘い飴だった。
 食べすぎでお腹がいっぱいだといっても、飴ぐらいなら食べられるし、何よりもこの口の中に広がった苦さを今すぐどうにかしたかった。
 飴を口にした瞬間、幸せが広がったように思った。あれだけ口の中が苦かったのに、一瞬でその苦さが消え、甘さだけになった。
 「百面相ですね・・・見ているだけでおもしろいです」
 「ほろーい!」
 酷いといったつもりが、言えていなかった。
 「そういえばウィル。この国の地図を用意したのですが、どうしますか?何処に向かうのか決めているのですか?」
 「・・・・・きた・・・・・最北の町って・・どれ?」
 広げた地図を見て俺は聞いた。
 母が北にある何処かの町に最後いたことまでは分かったのだけど、母が何処の町にいたまでかは分からなかった。
 近くまで行けばその場所で人探しの魔法を使えばもう少し明確になるのだけど、これだけ遠いと曖昧だった。
 「最北といいますと、ここでしょうか。ホルスの町。この町にはこことは違い小さいですが、火の国に行くため作られた港があります」
 「そこ以外に、北って、港はねーの?」
 「ありません。この国に港があるのはこの港町とホルスの町だけです」
 闇の国はすごく大きな国だけど、港は二つしかない。
 普通ここまで大きな国であれば、もっと港はあるのだけど、闇の大精霊は光を極度に嫌うため、加護する国に極力入らないようようにするため、真っ黒な結界らしいものを国全体に覆いつくしたが、人々のために、最低限の日の光を入れる事を許した。
 それは、生活で必要な光と、他の国と行き来する事が出来る船を置く為の港だけ。それ以外の光は許さなかった。
 人は最小限の光で済むように、生活で必要な光は魔道具で補った。そして、港も大きな港と、小さな港の二つだけを作り、国の中に日の光が入る事を最小限にしたとこの国の事を勉強した時に本に書いてあった。
 「ホルスの町で決定してもよろしいですか?」
 港がここ以外にそこしかないのだから、母が最後にいた町はその場所以外に考えられなかった。
 「では、私は少し出かけて参りますね。知人に暗馬を飼っている方がいるので借りることができますかすこし交渉してまいります」
 暗馬はこの闇の中を自由に駆け回ることが出来る馬の事だ。
 「・・・まって・・・借りるのはだめ・・・・」
 「どうしてですか?借りるといっても知人に、馬の綱を任せるつもりですよ?」
 「じゃあ・・・いい」
 それが心配だった。
 馬を手配するのと借りるのでは違う。借りたら俺達が返さなければならないから、俺はその事を心配したのだけど、セルビオその事をちゃんと考えて言っていた。
 「すぐに戻ってまいりますので、待っていてくださいね」
 顔が利くのはすごいことだと思いながら、セルビオを見送り、帰ってくるのを待った。
 セルビオはすぐに帰って来た。交渉は成功だといっていた。
 一日中真っ暗な国なので、寝て目が覚めても、朝という感覚が俺にはどうも分からないけど、とりあえず明朝迎えに来てくれるということだった。

 今まで一日もあれば目的の場所に行くことに出来たのだけど、今回だけは無理だった。
 この港町からホルスの町まで馬車をどれだけ飛ばしても二日はかかるという。
 セルビオその事を分かっていた。だからセルビオはこんな俺の為に気を使い、知人に馬車を頼んだらしいのだけど、それでも俺は不安だった。
 何も知らない人の馬車を乗るよりも、セルビオの知人という事だけである程度の安心感はあるけど、セルビオの知人という事だけ知っていても、俺はその人の事を知らない。何処まで信頼する事が出来るかもわからないので、そんな人がいるところで、俺はたとえ側にセルビオがいたとしても寝ることは出来ないと思う。
 「そうですよね・・・・・ですが、まだましでしょ?」
 「それは・・・そうだけど・・・・・」
 時間がないと言う旅はこんなにも酷だと思ってもいなかった。
 多少のことは我慢しなければならないとは思い、覚悟していたけれど、こんなにも大変な思いをするとは思っていなかった。
 やっぱりどうにかしてでもあの三人を連れてくることが出来ていれば、もう少し状況は変わっていたのかもしれないけど、いまさら何も言っても状況は変わらない。

 結局、二日間一睡もすることは出来なかった。
 一日ぐらい、睡眠をとらなくても平気だけど、やっぱり二日間一睡もすることが出来ないのは少し辛かった。
 セルビオは知人と馬車の操縦を交代して少し仮眠していたけど、セルビオもセルビオの知人もまったく寝ようとしない俺の事を酷く心配していた。
 どうにか最北の町であるホルスの町に着くことできた。
 ホルスの町についてすぐ、セルビオは俺を寝かせる為に宿をとって、俺を寝かしつけた。
 そのおかげで俺はようやく眠りにつくことが出来たのだけど、丸一日眠っていたらしい。
 翌日、セルビオの知人にお礼を言って、セルビオの知人はゆっくり馬車を走らせて帰っていった。
 「悪いこと・・・・しちゃったかな・・・」
 俺が寝ない事で、セルビオの知人に変な心配をかけたのではないかと思っていた。
 「別に貴方は何も悪い事をしていませんよ。別にあの方も何も言ってこなかったでしょ?」
 「でも・・・・・」
 「しつこいですよウィル」
 ペシっと額を叩かれてしまった。軽く叩かれたので痛みはなかった。
 「ウィル、もし大丈夫なようでしたら、お願いしても大丈夫ですか?」
 目を閉じて、母がこの町に来たのか、最終確認をした。
 思ったとおりだった。母はこの町に来ていた。
 それだけ分かる事が出来れば十分だった。
 母は次に向かったのは火の国だということも分かっていた。
 この町の港には、火の国に行くための船しか出ていないので、それ以外の国に行こうとするなら、俺達がこの間までいた港町に行って船に乗るか、それとも、ここから火の国に向かう船に乗って、火の国から他の国に行く方法しかない。
 「火の国はここから半日船に乗ったところです。確認が取れたのでしたら、船に乗りましょう」
 既にチケットは買っていた。
 この町にある船はそれほど大きくはない。
 半日しか人を乗せないので、個室が必要とする船を必要としないからだ。
 早速俺たちは船に乗った。
 朝とお昼に二隻ずつ船が出される。
 多くの人がこの船に乗るので、一度の航海に船を二隻出さなければ間に合わないらしいが、今日はまだ少ないほうだとセルビオは言っていた。
 「水マント出しておきますか?ぎりぎりに出しますと熱いですよ?」
 闇の国は日の光が入らないので、少し肌寒い国。でも国の外に出ると、火の国が近い為に気温は思っている以上に暑く、そのせいで急に体調を崩す人が多いらしく、体調を崩さない為には、早めに水マントを出していたほうがいいらしい。
 持っていた収納袋の中から、水マントを出し手に持っていた。今これを羽織るのはまだ早い。水マントを羽織るのは、船が出港して、闇の国に出てからでないと、寒い。
 「いい加減、新しいの買おうかな・・・・」
 買おうと思いながら、何時も買わない。そろそろ限界だと思っていても、中々欲しいデザインのマントが見つからず、いつまでも買えないでいた。
 デザインさえこだわらなければ、安くて丈夫なものをいくらでも買うことが出来るのだけど、何故か俺はデザインにこだわりがある。
 「そういえばずっと思っていたことなのですが、ウィリアム様のお土産は一つでも買われたのですか?」
 「え・・・あ・・・・忘れてた・・・・・」
 一度も忘れたことなどなかったはずなのに、俺が体調を崩したり、崩したりしていたせいで、すっかり大好きな弟のお土産を買う事を忘れていた。
 「どうします?出航までまだ時間ありますが、一度降りて、何か見てみます?」
 どうしようか考えた。
 しかし、船を降りるのは止めた。もしここで俺が船を降りたらもう一度船に乗る自身がない。
 俺達が乗った時よりも明らかに乗船する人が増えてきていたからだ。
 「正解です。もし何か買われるのでしたら、火の国をお勧めいたします。お勧めのお店が一軒ありますので、あとでそちらでウィリアム様に買われるお土産を探しましょう」
 弟のウィリィのお土産はセルビオがお勧めという火の国にある店で買うことが出来待った。
 間もなくして、満員となった船は出港し、ゆっくりと闇の国を離れていった。



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