【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

文字の大きさ
2 / 560
第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。

1 ここはどこですか?

しおりを挟む



「……」

 青い空が見える。
 すごく高くてきれいな青色の空。
 所々に白い雲が流れていて、優しい風が髪を揺らしていく。
 体の下は深い緑のようで、心地良い草の匂いがした。

「……えーと」

 なんで自分はここにいるんだろう。
 なんで自分はここに寝転んでいるんだろう。

 ……考えていても答えは出なくて。

「どうなってんの?」

 疑問のような独り言に、応える声は当然だけど無い。

 ため息をついた。
 わからない。
 何もかもわからない。

 ここに来る前、自分は何をしていたんだっけ?
 思い、出せない。

 視界に入る青い空には、時折、鳥の陰影が過ぎていく。

 …わからないけど、ここは気持ちがいい。
 こんなふうに草の上に寝るなんて、幼少の頃以来だ。…いや、もしかしたら、幼少の頃だってこんなふうには寝転ばなかったかもしれない。

 なんとなく、手を動かしてみた。
 …右も左も、ちゃんと動いてる。痛みはない。
 手を動かしながら、首も左右に向けてみた。…うん、こちらも特に痛みとかはない。
 どうやら怪我はしていないようだ。安心した。

 だとすると、やっぱり自分の状況が気になる。
 どうして俺はここで寝ているのか。

「夢とか」

 夢の中でも寝てるとか、ありえなくはない。
 確かめてみよう…と、なんとなくそっと、右の頬をつねってみた。
 ……痛い。けど、夢から覚める気配はない。

「ってことは、現実?」

 ここに来る直前のことは何も覚えていない。どうやってここに来たのかも覚えていない。ってことは、俺はどこかで気を失ってここまで運ばれた?だとしたら、何かの事件に巻き込まれた?
 もし、頭を打っていて、記憶の混乱があるとするなら?

「……俺は、杉原、瑛。す、ぎ、は、ら、あ、き、ら」

 大丈夫。名前はしっかりと覚えている。
 家族の名前も顔も…大丈夫だ。ちゃんと思い浮かべることができる。
 忘れているのはここに来る直前のことだけのようだ。

「……っと、とにかく、連絡」

 スマホで確認すれば、ここがどこなのかもわかるだろう。ありがとう、GPS。

「………ん?」

 ポケットを探っていた手には何も触れなかった。

「ん!?」

 思い切り飛び起きてしまった。
 服についているポケットというポケットを全部探った。
 不安が現実になる。

「な、なんでっ」

 軽くパニックだ。
 いつも持ち歩いていたスマホどころか、財布も、学生証もない。ついでにかばんも。
 ここがどこなのか確認することも、誰かに連絡することも、自分のことを証明できるものもない。大金は入っていなかったけど、財布もないということは何も買えない。……食べ物も、飲み物も。

「……うそ」

 呆然とした。
 俺はただの高校生だ。特別なサバイバル技術なんて持ち合わせてはいないし、野草の知識もない。

 …せめて、町が、あればいいのに。

「……そうだよ、町に行けば」

 黙ってここでうなだれていても仕方ない。
 立ち上がって周囲を確認してみた。
 ぐるりと見渡した限り、人影はない。
 草原が続き人工物は無く、奥の方には森らしき場所があった。
 その森の手前に、草の生えてない場所を見つけた。
 とりあえず歩き始めてから、自分の服装がいつもどおりの制服スタイルなことに気がついた。濃紺のブレザーに、学年カラーの赤のラインの入ったネクタイ。ワイシャツと、足元は履きなれたスニーカーだ。…ってことは、学校帰りだったんだろうか?

「ま、そのうち思い出すかな」

 うんうん頷きながら、土がむき出しの場所に到着した。

「道…?」

 街道と呼ぶにはあまりにも整備されていない。幅もそれほどないし、かなり凸凹している。
 それでも、もしかしたら、と、希望を抱く。
 道の両端を、交互に見比べた。
 …それから、ため息が。
 右も左も、道の先には何も見えない。

 せめて太陽の位置で大雑把な時間や方角を計ろうと、視線を空に向けたとき、大きく目を見開いてしまった。

「太陽が……2つ?」

 見間違いでもなんでもない。本当に、太陽が2つある。
 いや、でも、そんなはずはない。多分、俺は頭を打っているから、その影響で視力に異常が出てるんじゃないのかな。
 …太陽だけ2つに見えるなんて症状、聞いたこともないけど。
 しかも、今俺は太陽を直視した。なのに、目が痛くない。外は普通に明るいけれど、太陽の輝き方が鈍い気もする。

「……参った」

 太陽がおかしいとか、目がおかしいとか、もうそんなのはどうでもいい。

 道から少し離れた草地に腰を下ろした。
 水もない、食べ物もない。今の気温は快適だけど、今が朝なのか昼なのかもわからない。
 一か八かで道を歩き進めることはできる。
 でも、町にたどり着けるとは限らないし、誰かと出会うことができるかもわからない。
 そもそもこれは、道じゃないかもしれない。ただの獣道だとしたら?どうやったって、人里にはたどり着けないだろう。

「……詰んだ」

 よくわからない場所を移動するよりも、ここでじっとしていたほうがいいかもしれない。遭難したときの鉄則。現場から動くな、だ。闇雲に歩き続けるより、体力を残すことができる。

 ……あとは、誰かがここを通るように祈るだけ。祈りを聞いてくれる神様なんていないけど。でも、もしかしたら、気まぐれな神様だっているかもしれない。
 無事に家に帰ったら、ばあちゃんのとこの神棚にお供え物をしよう…そうしよう。

 ――――俺、どうなるんだろう?


しおりを挟む
感想 543

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

処理中です...