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第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。
14 応える舌が愛しい ◆クリストフ
しおりを挟む結婚を考えたことはなかった。
どうしても結婚しろと言われたら、将来的に陛下の益になる人物だろうと思っていた。
俺の世界は兄上を中心に回っていたと言っても過言ではない。事実、そうなのだ。
盲目的な敬愛ではない。彼ならば賢帝になれるから。その彼を支えていくのは自分の役目だとわかっていたから。
――――決して、亡き母の遺言に囚われているわけではない。
そんな思いを伝えると、兄上は時折困ったように笑った。
そして、いつも同じことを言われた。
俺が、本当にやりたいことを優先していいのだ、と。
けれど、そう言われても首を傾げるだけだった。
俺は自分がやりたいことをやっていると自負していたから。
そう伝えれば、兄上は更に困ったような笑みを浮かべていた。
今までもこれからも、変わらないと思っていた。何があっても、これが自分の唯一の希望なのだと。そう、思っていた。
「…思っていたんだけどな…」
腕の中で眠るアキの黒髪を、指先でなでた。
柔らかくて触り心地がいい。
「…アキ」
心から愛しいと感じる。
こんなことは今までになかったことだ。
まさか自分が一目惚れするなんて、夢にも思わなかった。
そばにいたい。
触れたい。
抱き締めたい。
口づけたい。
…ため息が出る。あまりにも執着しすぎだ。
深く口づければ、濡れた瞳で俺を見上げてくる。頬を上気させ、熱い吐息を漏らす。表情すべてが扇情的で、誘われてるとしか思えなくなる。
なのに、好きじゃない、惚れていないと言う。
そんなはずはないのに。
自惚れでもなんでもなく、アキは俺を想っている。俺と同じ熱量で俺を欲しがっている。
俺を焦らしたいのか、無自覚なのか。
それとも、納得できる何かが必要なのか。
「……何をしたら納得できる?」
頬をなでても起きる気配はない。
当然、か。慣れないことばかりで、疲れていただろうし。
どういう経緯でこの国に来たのか、どこから来たのか、家族はどうしたのか、どんな暮らしをしてたのか。俺は、何も聞いていない。聞こうともしていない。何を聞いたとしてももう手放す気はないのだから無意味だと思っていた。
けれど、アキは、知らないから納得できない、と言った。
つまり、俺のことを知りたい、ということなんだろう。
アキが知りたいというなら、教えていく。俺のことをすべて知ってもらいたい。
アキからそう言われたことで、俺の中にも知りたいという気持ちが生まれた。愛しているからこそ、そのすべてを知りたくなる。そういうものなのだろう。
「不思議だな…。俺の世界が変わっていくように思えるよ」
柔らかな黒髪をよけて、額に唇を落とした。それから目元に移す。
とまらなくなった。
穏やかな寝息を立てるアキの顔に、余すところなく唇を落とし、最後には唇に重ねた。
皆の前で口づけたら怒る。頬を上気させて唇を尖らせる。その表情が可愛らしくてまた口づけた。
「…反応がない」
眠っているのだから当然、反応なんてあるわけがない。
ため息が出た。
口づけたいが、応える舌がないのなら、楽しくない。
おどおど動く舌を吸い上げ、上顎を舐めれば吐息が深くなる。背中に回される手には力が込められ、体と体の間に隙間がなくなる。口づけだけで体の力が抜け落ち、全身で俺に縋る姿に、欲情しないわけがない。
無意識にアキの下肢に手を伸ばしかけ、またため息が出た。
「…だめだ」
起こさないように左腕を頭の下から抜いた。
揺らさないように寝台から降り、上着を羽織る。
「ん…」
身動ぐアキの頬を撫でる。
何度も撫でていると、アキの口元に笑みが浮かんだ。
「可愛いな」
頭をなでてから、静かに天幕を出た。
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