【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

文字の大きさ
33 / 560
第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。

32 帰る場所

しおりを挟む


 朝食のパン粥、美味しかった!
 甘くてトロトロで、いくらでも食べれそうだった。クリスの分の肉料理も美味しかったけど、早朝から重たいものを食べれるほど胃は丈夫ではないと自覚してるから丁度よかった。




「あ、俺の服って」
「ああ。アキは捨てたくないだろう?そこの麻の袋にまとめてあるから、城についたら綺麗にしてもらおう」
「…うん。ありがと」

 捨てられるわけがない。
 ちょっと焦げたり穴があいたりしたけど、俺と、日本を繋ぐもので。よかった。クリス、俺のことちゃんと、考えてくれたんだ。

 大きな手がベッドに座る俺の頭をなでた。
 ……ほんと。クリスって、大雑把に見えるのに、こういうところだけは細かい、というか、気づいてくれるというか……。

 …俺、もしも日本に戻れるとしたら…戻ることを望むんだろうか?

「どうした?」

 家族のことは忘れてない。
 相変わらず直前の出来事は思い出せないけど、家族のことも、ばあちゃんのことも、ばあちゃんのとこの神棚も、学校のことも、友達のことも忘れてない。

 会えるなら会いたい。

 ……けどそれは、クリスとは離れ離れになるということで。

「………」

 クリスを選ぶ、って、断言できたら、こんなに悩まないんだろうな。でも、俺にはそんな決断できないから。どちらも大切で、なくしたくないから。……俺、欲張りなのかな?

「……くりす」

 涙声になってしまった。
 こんな俺のこと、クリスはどう思うだろう。
 クリスを選ぶ!って、断言できないこんな俺のことを。
 やっぱり俺、情緒不安定なのかな……。こんなことで涙が落ち始めた。

「アキ?」

 クリスの声が優しい。
 涙が流れてしまった目元に、唇が触れてくる。

「何か心配か?」
「えっと……ホームシック?」

 家が恋しいわけじゃないとは思うけど、帰りたいとか、会いたいっていう気持ちは、この言葉が一番しっくりくる気がした。

「ほーむしっく、てのは、どういう意味だ?」

 あ、こっちにはなかった言葉か。

「えっと…家が恋しくなったり、帰りたくなって悲しくなったり寂しくなることかな?」

 そう説明すると、クリスの眉間にシワが寄った。……初めての表情だ。

「……帰りたいのか?」

 クリスの表情に胸の奥がチクリと痛んだ。

「…ちょっと、家族のこととか思い出しただけだから」
「……アキ」

 捨てられた仔犬のような、縋るような目。

「アキが、帰りたいと言うなら」
「ちょっと待って。そりゃ、ここに来た時は、帰れるなら帰りたい、戻りたいって思ったけど」
「それなら……」
「クリスは俺がいなくなってもいい、ってこと?」

 俺も困った様な顔をしてるんだろうな。ここまで深刻な雰囲気にする予定なかったんだけど。

「……アキと、離れたくないんだ。離さないと、決めている」
「最初からそう言ってたでしょ、クリス」
「だが……」
「『どうしても戻ると言うなら、俺も一緒に行く』くらいのこと言ってよ」

 クリスならそう言うかな、って。

「そもそも、俺、帰り方知らないしさ。クリスの傍にいたいけど、だめ?」

 元気のない目元に触れて、笑いかける。

「……傍に、いてくれ」

 クリスが弱気だ。あのクリスが。
 もう!!
 一度拗ね始めたら手に負えないな!

「っとにもう…」

 いつまでもらしくない顔をしているクリスの首に両腕を巻きつけて、そのまま強引にベッドに押し倒した。

 …まさか俺が、クリスを押し倒す日がこようとは…。

「クリス、好きだよ」

 特に抵抗もしないクリスに覆いかぶさって、自分からキスをする。
 おずおずと背中に腕が回ってきた。……なんだこれ。ほんっと、厄介な男だな!

「クリスっ」

 つい、声を荒げてしまった。

「今すぐにでもクリスが欲しいんだけどっ」
「アキ」
「いつまでもそんなうじうじしてるなら、俺、いい加減怒るよ!?」

 って言ったら、クリスが静かに笑い始めた。

「もう怒ってるだろ」
「そりゃね!!でも、もっと怒る!!」

 原因は俺だけどね!?そこは棚上げで!!

「怒ったらどうなる?」
「お兄さんの馬に乗せてもらう!!」

 ……所詮、この程度なんですけどっ!
 でもそれは、クリスには結構いいダメージが入ったらしく。

「それは駄目だ」

 …って、いつもの表情が戻ってきた。
 うんうん、それでいい。

「アキが俺の傍から離れることは許さない。アキの居場所も帰るところも全部ここだけだ。俺が、お前の全てだ」
「うん」

 嬉しくなる。

 クリスは俺を求めてくれて、傍にいろ、って言ってくれる。打算とか、そんなものなしに、俺を、愛してくれる。

 …戻る方法が見つかっても、きっと俺はクリスを選ぶんだろうな。どちらも選べない、って思ったけど、この人をどうにか出来るのは俺だけのような気がするし。

 ……やっぱり……離れたくないし。

 それなら、グダグダ考えるのはやめ。
 とにかく、クリスの傍にいる。それが、俺の選択なんだから。


しおりを挟む
感想 543

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

処理中です...