93 / 560
第2章 お城でも溺愛生活継続中です。
45 元婚約者候補が襲来しました。
しおりを挟む目が覚めたらクリスの部屋だった。
なんでここで寝てたんだ…って思いながら起き上がり、寝起きで働かない頭の中を整理する。
今日はクリスから、魔法について教えてもらって、午後からは魔物のことを教えてもらった。
魔物はどちらかというと、神話とかそっちがベースな感じだった。
魔物の本を見ながらクリスに意味不明な感心をされて……、なんでか仮眠室で抱かれて。
「あ」
思い出した途端顔が熱くなった。
この部屋でならまだしも、クリスの仕事場でしてしまうなんて。
「ううう」
最後の方なんて、自分から「もっと」って言ってた気がする。
だめすぎる。ちゃんと抵抗できるスキルを身に着けないと、恥ずかしさで死ねる…。
盛大なため息をついてから窓の方に視線を流した。空は暗くなってきている。
「どれくらい寝てたんだろ…」
夕方、なのかな。
テーブルの上のランプをつけた。部屋の中はすぐに明るくなる。
椅子にかけられていたベストを着なおして、ブーツを履いて部屋を出た。居間の方には誰もいなくて、廊下に出る扉を開けたとき、すぐ側に立っていた人が俺を見た。
「アキラさん」
その顔には見覚えがあって、尚かつ制服はよく知ってるクリスの直属の人たちのもの。
「えっと」
「ディックと言います。よろしくお願いします、アキラさん」
「ディックさん…ですね」
「はい。アキラさんはこれからどちらに?」
あまり深く考えないで部屋を出たけど、まずかっただろうか。
「えと…クリスのとこに行こうかな、って」
「ああ。では行きましょうか」
ディックさんはニコリと笑うと、俺を促してくれた。よかった。怒られなかった。
クリスの執務室までの道のりは覚えたけど、護衛さんってことだよね?ディックさんは俺と並んで歩き始めてくれた。本当なら後ろからとかなんだろうけど、話しやすくてこの方がいい。
「クリス、仕事終わったかな…?」
「そうですね…恐らく、そろそろ終わる頃ではないかと」
ディックさんは、そう答えながらも、周囲に素早く視線を流している。身体からは緊張感が漂っているのに、答える声は優しい。
「そういえば、団長から聞いたのですが」
「はい?」
「アキラさんはいずれ我々の団に所属されるとか」
「あ」
そんな話したなぁ。
どこかに所属するなら、絶対クリスのとこがいい。
「もしかしたら、かな」
「いつでも歓迎しますよ」
嘘かホントか。
ディックさんのニコニコ顔からは、本心はわからなかった。
「その時はよろしくお願いします」
まあ、いいや。素直に受け取ろう。
俺も笑って返すと、ディックさんも嬉しそうに頷いてくれた。
それから少し話して角を曲がったとき、廊下の少し先に見慣れた姿があった。
嬉しくなってかけだそうとしたとき、ドレスを着た綺麗な女性と話しているのに気づいた。
自然と、歩く速さが遅くなる。
ディックさんは何も言わずに、俺の一歩後ろについた。
よく見ると、女性は笑顔なのに、クリスの表情は……なんというか、見たことないもので。口元にだけ薄っすら笑みを浮かべていて、目は全く笑ってない。むしろ、怖くなる視線。
声をかけるべきかどうか悩んでしまったけど、迷ってるうちにクリスの後ろに控えていたオットーさんと目があってしまう。
オットーさんが頷くと、クリスも気づいたようで、俺を見た。
「アキ」
その途端、甘い笑顔を向けてくれる。さっきまでの表情は何だったの…って言いたくなるほどの変わりっぷり。
「えーと…ごめん。そろそろ仕事終わったかな、って、思って…」
「ああ。さっき終わったところだ。夕食にしよう」
クリスは自然に俺の肩を抱き、女性の方を向いた。
「ヘルミーネ嬢、こちらが私の婚約者であるアキラ・スギハラです」
一瞬、刺さるような視線を感じた。
「そう…この方が。父から伺っております。とても優秀な魔法師殿であると。――――ヘルミーネ・デリウスと申します。スギハラさま」
デリウス、って、宰相の娘さんってこと?
「あ、えと――――」
「本来であれば私が殿下の婚約者となるはずでしたのに…。貴重な魔法師を留置くためにこのような手段をとられるなんて」
え?
なに、どういうこと?
「ヘルミーネ嬢、何度もお伝えしていますが、貴女を婚約者にと望んだことはありません」
「そうでしょうか?何度も夜会にお連れくださったのに。殿下の手のぬくもりを私は忘れたことがございません。またいつでも私をお召くださいませ」
「ヘルミーネ嬢」
「……あら、私としたことが。申し訳ありません、殿下。このような場所でお話することではありませんでしたわね…。スギハラさま、どうかお許しくださいな」
ヘルミーネさんの口元が、笑みを形取る。
…背筋に、何か嫌なゾワっとしたものが走った。あ、あれだ。魔法師長が浮かべていた笑みに似てる。
「アキ、行こう」
「…ん」
俺の肩を抱くクリスの手に力が込められ、そのまま抱きあげられた。
「もう直、陽が落ちます。ヘルミーネ嬢、早く帰られたほうがいい」
「まあ…!私のことを案じてくださいますのね。お優しい殿下。ご心配をおかけしないよう戻らせていただきます。殿下。失礼いたします。またお伺いいたしますわ」
ヘルミーネさんは優雅に挨拶をした。
クリスはそれに答えずに、俺を抱きかかえたまま部屋へ向かって歩き始めた。
「オットー、ディック」
「はい」
「あとはいい。戻れ」
「……は」
クリスの声が硬い。
すごくイライラしてる。
二人もそれは感じているようで、特に反論することなく、立ち止まり頭を下げていた。
「クリス」
「早く二人になりたい」
「…ん」
クリスは宣言どおり早足で廊下を進んだ。
291
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる