【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。

32 黒い襲撃者

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 ギルマスの言葉を聞いて、大剣使いのディーさんが、角笛のようなものを吹いた。独特な音が響き渡る。すぐに、それに呼応するように、4つの音が森の中から聞こえた。

「まずいな」

 森の中から聞こえた音は、高いものもあれば低めの音もあって、ギルマスとディーさんの表情が曇った。
 オットーさんも笛を取り出して響かせる。冒険者さんたちの音とは全く違っていて、それほど時間をあけることなく同じ音が3つ返ってきた。
 ディーさんもオットーさんも、お互いの音が重ならないように、鳴らし続ける。
 間もなくして、隊員さんたちが戻ってきた。すぐに打ち合わせの机について、森の内部について照らし合わせていく。
 それからしばらくして、冒険者さんたちも森から出てきた。……3組。1組足りない。
 戻ってきた冒険者さんの一人が、酷く消耗しているようで、顔が青白くてがたがた震えていた。

「僕が!」

 ラルフィン君はすぐに反応した。駆け出した彼の後ろを、銀髪の幼馴染さんがついていく。
 ディーさんは、なおも、角笛を吹き続ける。音の長さを変えながら。呼応する音は、だんだん近づいてくる。
 ラルフィン君が多分癒やしをかけた冒険者さんは、同じ班の人の肩を借りて森から離れるように移動してた。あ、顔色はもう戻ってる。やっぱりすごい。
 そのあいだにも、呼応する角笛は近くなる。
 もう少しだ。もう少し。
 角笛の音が近づいているってことは、無事ってことだ。大丈夫、大丈夫……って思っていたら、背筋がゾクリと粟立った。少し遠くにいるヴェルも騒ぎ出した。それと同時に、クリスは俺を膝の上から降ろし、立ち上がる。

「ラル、回復準備。オットー、全員戦闘隊形に移れ」
「わかりました!」
「御意」

 情報のすり合わせをしていた隊員さんたちが、全員森を見据える。

「アキは、手を出すなよ」
「………うん」

 ……ああ、やっぱり、この『感覚』、魔物が来るんだ。
 ちょっと顔を下に向けた。俺、何もできない。足手まとい。異変とかが『わかって』も、自分じゃ対処できない。対処できる力を持ってない。悔しい。
 泣くもんか、って、唇を噛んでいたら、頭をポンポン撫でられた。

「ギルマス?」
「お手柄だ」
「っ」
「危うく有能な奴らを失うところだった。アキラはすごいな」
「っ、でも、俺、何もできない……」
「何もしなくていいから、俺と旦那を顎でこき使え。それを俺が許してやる」

 ニヤリと笑うギルマスは本気の顔。

「…俺、口だけだよ?」
「それに助けられてるんだよ。自覚しろって」
「アキ、ここにいる全員がお前に感謝してるよ。……無駄な命なんてないからな。いいか?絶対にここを動くな。何かあれば俺に指示を出せ。確実に実行してやる」

 クリスはそういうと、俺の目元に口付けて、剣を抜いて森に向かった。……昨日と同じだ。

「俺たちも動くぞ!」

 ギルマスも剣を抜いた。両手に。
 動ける冒険者さんたちと、隊員さんたちがクリスとギルマスのあとに続く。
 そのタイミングで遅れていた冒険者さんたちが戻ってきた。ただ、少し離れてる俺の目にも、彼らが酷く怪我を負っているのがわかる。
 3人組の冒険者さん班で、一人は意識がないのか背負われているし、背負ってる人もふらふらしてる。もう一人は左手がだらんと力なく揺れ、足を引きずってた。
 そして、彼らのすぐ後ろに、黒いなにか。木々の間も流れるように進んで来る。

「キラーアントだ…!!」

 ギルマスの声が響いた。
 満身創痍の冒険者さんたちに、向かっていた冒険者さんたちの手が届く。守るように背後に庇いながら、安心からかその場で倒れそうになる冒険者さんたちを、なんとか森から引き離していた。
 ラルフィン君が駆け寄る。多分、これでもう安心。だけど、森からは黒い波が押し寄せる。
 硬い甲羅を持つキラーアント……体長2メートルくらいの蟻の集団は、次々にクリスたちに襲いかかる。
 一匹ずつ相手にするなら、多分手こずることはない。けど、蟻だしね。集団行動が基本だよね。…とは思うけど、それにしては数が多すぎる。
 前線が下がってきてる。何匹も倒してるけど、次から次へと湧いてきて、きりがない。

「後退しろ、森から引き離せ!」

 クリスの指示に隊員さんたちが動く。背中を向けることなく、応戦しながら少しずつ後ずさる。

「使えるやつは魔法で応戦しろ!森から出たところで一掃する!」

 クリスと同じようにじりじり後退しながら、ギルマスの指示も飛ぶ。
 ギルマスはある程度後退したとき、両手に持つ剣を蟻たちに向けた。それで叩き斬るのではなく、薙ぐように剣を振るう。そしたら、何匹もの蟻が吹っ飛んだ。
 それを皮切りに、冒険者さんたちからは魔法が放たれる。蟻はみるみる内に数を減らした。すごい。
 双剣使いの銀髪の彼も魔法を使っていた。双剣の一振りであたりに稲妻が落ちまくってた。えげつなかったよ。うん。
 ここまでくれば、あとは一方的な掃討戦だった。
 最後の一匹と思われる蟻を仕留め、それ以上出てこないことを確認して、ようやく歓声が上がった。





***************

〘補足説明〙

■キラーアント
でっかい黒蟻さん。
E○Fの蟻さんサイズ。
基本は噛みつき攻撃。
たまに酸攻撃に特化した個体もいたりとか。
一体ずつなら然程驚異ではないが、集団になるとベテラン冒険者でも苦戦するとかしないとか。


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