133 / 560
第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。
32 黒い襲撃者
しおりを挟むギルマスの言葉を聞いて、大剣使いのディーさんが、角笛のようなものを吹いた。独特な音が響き渡る。すぐに、それに呼応するように、4つの音が森の中から聞こえた。
「まずいな」
森の中から聞こえた音は、高いものもあれば低めの音もあって、ギルマスとディーさんの表情が曇った。
オットーさんも笛を取り出して響かせる。冒険者さんたちの音とは全く違っていて、それほど時間をあけることなく同じ音が3つ返ってきた。
ディーさんもオットーさんも、お互いの音が重ならないように、鳴らし続ける。
間もなくして、隊員さんたちが戻ってきた。すぐに打ち合わせの机について、森の内部について照らし合わせていく。
それからしばらくして、冒険者さんたちも森から出てきた。……3組。1組足りない。
戻ってきた冒険者さんの一人が、酷く消耗しているようで、顔が青白くてがたがた震えていた。
「僕が!」
ラルフィン君はすぐに反応した。駆け出した彼の後ろを、銀髪の幼馴染さんがついていく。
ディーさんは、なおも、角笛を吹き続ける。音の長さを変えながら。呼応する音は、だんだん近づいてくる。
ラルフィン君が多分癒やしをかけた冒険者さんは、同じ班の人の肩を借りて森から離れるように移動してた。あ、顔色はもう戻ってる。やっぱりすごい。
そのあいだにも、呼応する角笛は近くなる。
もう少しだ。もう少し。
角笛の音が近づいているってことは、無事ってことだ。大丈夫、大丈夫……って思っていたら、背筋がゾクリと粟立った。少し遠くにいるヴェルも騒ぎ出した。それと同時に、クリスは俺を膝の上から降ろし、立ち上がる。
「ラル、回復準備。オットー、全員戦闘隊形に移れ」
「わかりました!」
「御意」
情報のすり合わせをしていた隊員さんたちが、全員森を見据える。
「アキは、手を出すなよ」
「………うん」
……ああ、やっぱり、この『感覚』、魔物が来るんだ。
ちょっと顔を下に向けた。俺、何もできない。足手まとい。異変とかが『わかって』も、自分じゃ対処できない。対処できる力を持ってない。悔しい。
泣くもんか、って、唇を噛んでいたら、頭をポンポン撫でられた。
「ギルマス?」
「お手柄だ」
「っ」
「危うく有能な奴らを失うところだった。アキラはすごいな」
「っ、でも、俺、何もできない……」
「何もしなくていいから、俺と旦那を顎でこき使え。それを俺が許してやる」
ニヤリと笑うギルマスは本気の顔。
「…俺、口だけだよ?」
「それに助けられてるんだよ。自覚しろって」
「アキ、ここにいる全員がお前に感謝してるよ。……無駄な命なんてないからな。いいか?絶対にここを動くな。何かあれば俺に指示を出せ。確実に実行してやる」
クリスはそういうと、俺の目元に口付けて、剣を抜いて森に向かった。……昨日と同じだ。
「俺たちも動くぞ!」
ギルマスも剣を抜いた。両手に。
動ける冒険者さんたちと、隊員さんたちがクリスとギルマスのあとに続く。
そのタイミングで遅れていた冒険者さんたちが戻ってきた。ただ、少し離れてる俺の目にも、彼らが酷く怪我を負っているのがわかる。
3人組の冒険者さん班で、一人は意識がないのか背負われているし、背負ってる人もふらふらしてる。もう一人は左手がだらんと力なく揺れ、足を引きずってた。
そして、彼らのすぐ後ろに、黒いなにか。木々の間も流れるように進んで来る。
「キラーアントだ…!!」
ギルマスの声が響いた。
満身創痍の冒険者さんたちに、向かっていた冒険者さんたちの手が届く。守るように背後に庇いながら、安心からかその場で倒れそうになる冒険者さんたちを、なんとか森から引き離していた。
ラルフィン君が駆け寄る。多分、これでもう安心。だけど、森からは黒い波が押し寄せる。
硬い甲羅を持つキラーアント……体長2メートルくらいの蟻の集団は、次々にクリスたちに襲いかかる。
一匹ずつ相手にするなら、多分手こずることはない。けど、蟻だしね。集団行動が基本だよね。…とは思うけど、それにしては数が多すぎる。
前線が下がってきてる。何匹も倒してるけど、次から次へと湧いてきて、きりがない。
「後退しろ、森から引き離せ!」
クリスの指示に隊員さんたちが動く。背中を向けることなく、応戦しながら少しずつ後ずさる。
「使えるやつは魔法で応戦しろ!森から出たところで一掃する!」
クリスと同じようにじりじり後退しながら、ギルマスの指示も飛ぶ。
ギルマスはある程度後退したとき、両手に持つ剣を蟻たちに向けた。それで叩き斬るのではなく、薙ぐように剣を振るう。そしたら、何匹もの蟻が吹っ飛んだ。
それを皮切りに、冒険者さんたちからは魔法が放たれる。蟻はみるみる内に数を減らした。すごい。
双剣使いの銀髪の彼も魔法を使っていた。双剣の一振りであたりに稲妻が落ちまくってた。えげつなかったよ。うん。
ここまでくれば、あとは一方的な掃討戦だった。
最後の一匹と思われる蟻を仕留め、それ以上出てこないことを確認して、ようやく歓声が上がった。
***************
〘補足説明〙
■キラーアント
でっかい黒蟻さん。
E○Fの蟻さんサイズ。
基本は噛みつき攻撃。
たまに酸攻撃に特化した個体もいたりとか。
一体ずつなら然程驚異ではないが、集団になるとベテラン冒険者でも苦戦するとかしないとか。
251
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる