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第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。
58 たゆたう
しおりを挟むそれは、とても、不思議な、不思議な、夢。
ピ ピ … ピ ピ
規則正しいとは言えない電子音。
消毒液の匂いがする小部屋。
プシュープシューっていう、ちょっと気の抜けた音。
ここは、どこだっただろうか。
頬を、ぬるい風がなでていく。
青い空。
緑の匂い。
頭上に輝くのは2つの太陽。
ここは、知ってる。
俺を見つめる碧い瞳。
大好き。
もっとたくさん触れていて。
赤い色。
これは、嫌い。
どこかに行って。
近づかないで。
空から、大きなものが飛来する。
………ああ、しってる。
ギラギラした、獲物を捉えた目。
大きな羽根。
鋭い鉤爪。
そして、俺を喰らう、口。
「嫌だあああああぁぁぁ!!!」
身体に激痛が走る。
ドクドクと血が流れていく。
身体が、千切れそう。
『アキ!!』
愛しい人の声。
頬に触れてくれる。
でも、何も感じない。
「ごめんね」
一緒に帰りたかったなぁ。
いっぱい、いっぱい、抱きしめてもらいたかったなぁ。
俺、死ぬんだ。
「瑛は死にたいのかい?」
「死にたくないよ。でも、死ぬんだよね?」
「瑛は諦めるのかい?」
「あきらめたくないよ。でも、死ぬんだよね?」
「瑛は生きたいと願わないのかい?」
「生きたいよ。でも、死ぬんだよね?」
「瑛は、あの人にもう会いたくないのかい?」
「………会いたいよ。会いたい。すごく、会いたい」
ばあちゃんみたいな手が俺の頭をなでた。
……てか、ばあちゃんだ。
ばあちゃんが、にこにこ笑って眼の前にいる。
「会いたいなら頑張らないとなぁ?」
「頑張るって、何を?」
「頑張って頑張って願い続けなきゃだめだろ。それでもつかれたんなら、瑛を連れて行ってやる」
「どこに?」
「痛みも苦しみもないところだ。私のところで傷が癒えるまでゆっくり休めばいい」
「ばあちゃんのところで?」
「そうだなぁ。……痛いだろ?苦しいだろ?」
そう言われたら、左肩に焼けるような激痛が走った。
左腕はだらりとさがり、血が溢れるように流れ落ちている。
「……やっぱり俺、死ぬんじゃ……」
「諦めたら楽だよ?」
「でも、ばあちゃん、俺」
あの人と、一緒にいたい。
『アキ!!!戻ってこい……!!!』
「ばあちゃん、俺、呼ばれた」
「そうかい…?」
「うん。……あの人が、呼んでる」
一瞬目を閉じた。
再び目を開けたら、あの人がいる。
『アキ……アキ………!!!』
その姿を見ていたら、悲しくなった。
俺の左手はもう動かない。
身体だって、ぼろぼろで。
望まれても、望んでも、願うものは手に入らないって、なんでか思った。
だから、笑った。
この人には、笑った姿を覚えていてほしくて。
二度と会えないから。
だから、一番キレイな自分を覚えていてほしくて。
「………ス、ごめんね。俺、もう、逝――――」
言葉にしかけた瞬間、頭の上から光が降り注いだ。
ああ、綺麗だな……って、見惚れた。
そしたら、その人に、抱きしめられていた。
『アキ…!!』
力強い腕と声に、涙が溢れた。
まだ動く右手を、なんとかその人の背中にまわす。
『アキ……アキっ、逝くな。俺を置いて逝くな…!俺の傍にいてくれ……!!』
望まれてる。
俺も、望んでいいの?
「……………た、い」
言葉は、言葉にならない。
『アキ』
でも、その人は待ってくれる。
「………そば、に、いた、い」
傍にいたい。一緒にいたい。
『アキ……!』
「クリスの、そばに、いたい……!!」
叫んだ。
そうだ。
この人はクリスだ。
俺が一番好きな、心から大好きな、俺の唯一の人。
涙がとまらない。
口付けが心地いい。
いつもと変わらない温度で、舌が絡む。
クリスの腕にもっと力が込められる。
もっと、もっと、きつく抱いて。
壊れてもいい。
クリスがいることを心に身体に刻みたい。
「クリスと一緒にいたい…。ずっと、ずっと、一緒に……!」
『ああ。ずっと、だ。俺はお前を手放さない。だから、アキ、どこにも行くな…!』
「クリス……」
……ああ。
俺、諦められないよ。
だって、クリスが待ってる。
クリスが、俺のこと待ってる。
俺、頑張るから。
とっても頑張るから。
クリスに会いたい。
お願い。
手を握っていて。
離れないで。
ずっと傍にいて。
「逝かないのかい?」
「ばあちゃん、俺ね、クリスのとこに戻りたい」
「それでいいのかい?もっと辛い目に合うかもしれないよ?」
「うん。でも、クリスがいるなら、きっと、大丈夫だから。きっと、乗り越えられるから」
「そうか」
「うん。ありがとう、ばあちゃん」
「それなら、瑛。お前に祝福をやろう」
「祝福?」
ばあちゃんだと思ってた姿が、ゆらゆら揺らめいた。
長くてほっそりした指が、俺の額に当たる。
「女神の祝福だ。お前が苦しくなって諦めたくなったら、いつでも私が迎えに行ってやろう」
それってどういう意味……って思っているうちに、酷く眠くなった。
意識が浮上してくる。
多分ベッドの上。
左の肩がやっぱり痛い。
あんなに動けていたのに、今は、全く身体を動かすことができない。
耳には、聞き慣れた声が入ってくる。
「……………ス」
小さく、声を出せた。
その瞬間。
俺の中から夢の中のような記憶はなくなった。
【第3章 完】
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