【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

文字の大きさ
186 / 560
第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。

26 春の二の月の十の日に ◆クリストフ

しおりを挟む



 神殿へ行った翌日から、他国の使者が到着し始めた。
 親交の深い国からは、兄上と知己の王子などの王族も我が国を訪れる。警備も慌ただしくなるが、そのあたりは抜かりなく手配済みだった。
 俺自身も部屋を空けることが多くなった。こればかりは仕方ない。警備体制の確認や見直し、生じた問題への対処。
 当然、アキの警備体制も見直した。俺自身が常に傍にいることができないのだから、警備体制を厳しくするのは当然の結果だ。
 この歓びの日を前に、些細な不安も与えたくないのだから。





「少し伸びましたから…、編み込んでハーフアップにしましょう」
「うう…女のコぽくないですか」
「そんなことないですよ。ねえ、坊っちゃん?」
「ああ。似合うよ」
「……今度切りたい……」
「綺麗な黒髪なのにハサミをいれるのは勿体ないな」
「ううう…っ、クリス、ズルい…っ!」

 顔を真っ赤にして口を尖らせる表情は可愛らしい。
 これでアキは髪を伸ばしてくれるだろうし。

 俺たちのやり取りを聞きながら、メリダは手を休めることなく、あっさりとアキの髪を整えた。編み込んだ髪をまとめてる位置に、白い花を飾っている。

「はい、できましたよ」

 メリダの手が離れ、アキはじっと俺を見る。

「綺麗だよ」
「っ」

 また、顔が赤くなる。
 そんなアキの右手を取り、椅子から立たせた。

 魔法師の正装。以前は間に合わなかった印が、胸元に刺繍されている。袖のたもとを飾っていたクリスタルは、今日は白い花に置き換えられている。左の手首にはブレスレット。右の耳には青い月長石のイヤリングが揺れている。

「……うん」
「えと…」
「閉じ込めたいくらいに綺麗だ。このまま俺と式をあげようか?」

 左手をゆっくりと持ち上げ、手の甲に唇を落とした。

「お式なら、ヴェールを用意しませんと」
「そうだな。今すぐ手配しよう」
「ちょっと!二人とも!!」

 くすくす笑うメリダ。
 俺もメリダも冗談で言っているわけではないんだけどね。

「け……結婚は、成人しないと駄目なんでしょ…っ」
「二人だけで挙げるなら、なんの問題もない」
「……それって、今と何が変わるの?」
「うん……気持ち?」

 俺の返答に、アキが笑い出した。

「それ、何にも変わらないよね…。気持ちだけなら、俺、もう婚約者なんかじゃないよ。クリスの傍にずっといるって、誓ったし。それに、多分、普通の婚約者同士は同じ部屋では寝起きしないよね?」
「それもそうだな。……なら、アキは、初めから俺の伴侶だったわけか」

 左手をゆっくりとおろし、顎の下に指を添えた。

「伴侶…って、なんか恥ずかしいね」

 ふふ…と笑う唇に、軽く自分のそれを押し当てる。

「俺、この世界での知り合いなんて、このお城にいるちょっとの人しかいないけど、やっぱり、ちゃんとお祝いしてもらいたいなぁって思うよ。そしたら、きっと幸せな思い出になると思うから。だから、式は、成人するまでとっておきたい」
「そうだな。……それなら、アキが成人するその日に婚姻式を挙げよう」
「え」
「アキの………、アキ、誕生日はいつだ」
「あ、えと、春の二の月の、十の日……?」
「わかった。メリダ、そういうことだから。準備は進めてくれ」
「ええ、承知しましたよ、坊っちゃん」
「あ、あのっ」
「結婚してくれるよな?」

 まっすぐ目を覗き込めば、顔を赤くしながらも、はにかみ、微笑んでくれる。

「はい。クリスと……クリストフ殿下と、結婚、します。……したいです!」

 その笑顔は、俺にだけ向けられたもの。
 誰よりも何よりも大切で、愛しい存在。

「アキ……愛してる」
「俺も……、クリスのこと、あい、してる…っ」

 右手を上げて抱きついてくる華奢な身体を、きつくならないよう気をつけながら抱きしめ返す。

 お互いに我慢できずに唇を貪りあった。
 舌を絡め唾液を交わし、ごく近くで互いの瞳を見つめ合う。
 アキの瞳が欲情に濡れていくのがわかった。
 ……もう、抱いてもいいだろうか。無理をさせない程度であれば、この甘い身体に己を沈めてもいいだろうか。

 もう少しもう少し…と、アキの唇を味わっていたとき、傍らから咳払いが聞こえてきた。

「お気持ちはわかりますけどね?坊っちゃん、アキラさん。もうお時間です。お化粧も直さなければなりませんし、離れていただけませんか。それとも、王太子殿下の婚姻式に、まさか遅刻したいとでもおっしゃりますか?」
「はぅっ」
「……くく」

 メリダの、それはそれは低い声。
 慌てて俺から離れたアキは、恐らく今日一番顔を赤く染めて、目が泳いでいた。

「アキラさん、もう一度座って……、はい、目を閉じて」

 素直にメリダに従う姿に、やはり愛しさがこみ上げる。
 それにしても、メリダの思いやりというか、心遣いなんだろうな。
 謁見のときは口付ける前に止められたのに。

「アキラさん…おめでとうございます」

 そう言葉にしたメリダの目尻に涙が滲んだ。

「幸せですか?」
「ありがとうございます…。俺、今すごく幸せですよ!」
「ようございました。私、アキラさんの婚礼姿を楽しみに頑張らせていただきますね」
「はい」
「――――さ、終わりましたよ。よいですか、坊っちゃん。くれぐれも、これ以上アキラさんに手を出しませんように」
「ああ。わかってるよ」

 いつものメリダだ。彼女らしい。

「アキ、行こう」
「うん」

 椅子に座ったアキを抱き上げた。
 アキの手は自然と俺の胸元に添えられる。

「いってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくる」
「行ってきます!」

 そして部屋を出て、いつもの二人に視線だけを向け、神殿へ向かった。


しおりを挟む
感想 543

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

処理中です...