【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

文字の大きさ
205 / 560
第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。

45 久しぶりの執務室

しおりを挟む



 制服に袖を通すのは、本当に久しぶりだった。
 ボタンを止めるのはまだできなくて、クリスにしてもらう。
 念の為、左手は三角巾で吊っておく。
 右耳には、いつものイヤリング。左手にはブレスレット。うん。通常装備、おっけ。

 俺を連れて執務室に行くと言うクリスに、難色を示したのはメリダさんだった。
 とにかく俺の心配をするメリダさんに、なんとか納得してもらった。……メリダさんも一緒に行くことを条件に。まあ、それは、いいよね。結構いつものことだ。

 執務室まで、クリスの片腕に抱かれていく。子供を抱くときのような感じ。歩くのは却下された。二人に。
 今日扉の前に立っていたのは、いつもの二人ではなかった。ミルドさんと、確か、ケインさんだったかな。
 クリスは二人に視線だけを向けると、すぐに執務室にむかって歩き始めた。二人も、無言のまま後ろをついてくる。でも、なんというか、気配が痛い。すごく警戒してる感じの。……当然か。護衛中なんだから。

 廊下を進んでいたら、いつもと違うことに気づいた。
 聞こえていた誹謗中傷が聞こえてこない。
 それどころか、行き交う人たち、みんな、頭を下げて礼を取ってる。
 ……何一つ悪意を感じなくて、逆に落ち着かない。

「……どゆこと?」

 俺の疑問に、笑って答えたのはクリス。

「昨日、陛下がお前を認めたからだよ」
「……ああ。なる」

 つまり、とんでもない掌返しってことか。……まあ、あれだね。礼を取るのは当然だよ。クリスが歩いてるんだから。

 そういえば、いずれお兄さんが即位するわけだけど、その後、クリスはどこで生活するんだろう。
 大概城を出るよな?貴族になる??うーん…、よくわからないから今度聞いてみよう。
 まあ、まだ先のことだろうし。

 いつもの道のりを進んで執務室に着く。クリスは室内に入り、ミルドさんとケインさんは扉の外で待機。

「「おはようございます」」

 中にいたいつもの二人が、すぐに声をかけてくれた。

「ああ、おはよう」
「おはようございます!」

 俺がクリスに抱かれたまま挨拶を返すと、二人は嬉しそうに笑ってくれた。

「アキラさん、今日は団員ですか?」
「えーと…、クリスの監視要員…?」

 オットーさんは楽しそうに笑った。
 ザイルさんも口元を手で隠してる。

「お茶を淹れてきますね」
「ああ。頼む」

 メリダさんが簡易台所に向かった。
 クリスは、俺を抱いたまま、執務机に。

「クリス、俺、ソファで……」
「いいから。ここにいろ」

 ……と。
 ちょっと豪華な椅子に座ったクリスの足の上に座らされた。
 いつものポジションと言えば、そうなんだけど。

「ザイル、店主とラルが来たらここに通すように伝達を」
「はい」

 ザイルさんが頭を下げて、部屋を出ていく。
 それを見届けて、クリスは少し顔をしかめながら、執務机の上に置かれていた書類の束から一枚取り出した。

「多すぎないか?」
「いえ。これでも優先度の低いものは避けてありますよ?」
「…………」

 ……オットーさんの完璧な微笑み。凄い。クリスが言い返せない圧を放つなんて……!

「兄上のところから回ってきた書類を優先させる」
「はい。優先できるよう上に積んでますよ。付箋がついてるところから、殿下ご自身の仕事です」
「…………」

 おお……。
 オットーさん、ほんと完璧…。付き合いの長い阿吽の呼吸?を、感じる…!!

 クリスがため息をついたタイミングで、メリダさんが紅茶を置いた。
 クリスはそれを無言で一口飲む。
 それから、また、ため息。

「クリス」
「ん?」
「がんば」

 ちゅ…って、頬にキスをした。
 そしたら、クリスの目が驚いたように見開かれて……、でも、すぐに、嬉しそうに破顔した。

「ありがとう、頑張れるよ」

 ちゅ……って、額にキスを返された。

 それからのクリスは嫌な顔ひとつ見せずに、書類に向き合っていた。
 時々、オットーさんや、戻ってきたザイルさんに指示を出しながら、書類をこなしていく。
 紅茶がなくなれば、メリダさんが別のものを出す。

 クリスの左手は俺の腰をがっちり掴んでいて、離してくれない。

 クリスの足の上で、俺も書類を眺めてる。機密事項とかないのかな。大丈夫かな。そして思う。書かれてること、大体わかる。俺すごい!

 元々お兄さんに回されていた仕事だから、どんな案件なのかと思ったけど、市井の生活に関することとか、街や街道の整備に関してとか、商人流入に関する確認調書とか……、そんな内容ばかりだ。
 クリスのもとには魔物関連の案件が回されてくるって言ってたけど、確かに魔物関連の案件はなさそう。いや、一部だろうから、他の案件がどんな内容かはわからないけど。

 クリスは、お兄さんと同じことはできない、って言ってたけど、そんなことないと思うんだよ。今だって、普段やらないことをテキパキこなしてるんだもん。きっと、「自分の役割は敵を排除すること」って思ってるから、他のことには手を付けないんだろうな。お兄さんとはっきり線を引くことで、自分の立場を周りに知らしめてるような。

 いずれ王になるお兄さんは、表から国民の生活を守ることを、クリスはその王のために影から国を守ることを。

 クリス……格好いいなぁ。陰ながら守る立場か。……って、完っ璧、俺の勝手な解釈だけどね!

 でも、そんなふうに思ってしまったから、ただひたすらクリスのことを見つめてしまってた。

「……アキ」
「なに?」
「そんなに熱い目で見つめられると、落ち着かない。いや、嬉しいんだが…、アキのことばかり構いたくなるから、少しは抑えてくれていいんだぞ?」
「ふぁ!?」

 ニヤッと笑ったクリスが、俺の体の向きを変えて、向かい合うように座らせてきた。

「ちょ」
「期待されてるのなら、応えないとな?」

 ……って言いながら、額や頬にキスをして、唇にも、キスしてきた。


しおりを挟む
感想 543

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

処理中です...