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第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。
45 久しぶりの執務室
しおりを挟む制服に袖を通すのは、本当に久しぶりだった。
ボタンを止めるのはまだできなくて、クリスにしてもらう。
念の為、左手は三角巾で吊っておく。
右耳には、いつものイヤリング。左手にはブレスレット。うん。通常装備、おっけ。
俺を連れて執務室に行くと言うクリスに、難色を示したのはメリダさんだった。
とにかく俺の心配をするメリダさんに、なんとか納得してもらった。……メリダさんも一緒に行くことを条件に。まあ、それは、いいよね。結構いつものことだ。
執務室まで、クリスの片腕に抱かれていく。子供を抱くときのような感じ。歩くのは却下された。二人に。
今日扉の前に立っていたのは、いつもの二人ではなかった。ミルドさんと、確か、ケインさんだったかな。
クリスは二人に視線だけを向けると、すぐに執務室にむかって歩き始めた。二人も、無言のまま後ろをついてくる。でも、なんというか、気配が痛い。すごく警戒してる感じの。……当然か。護衛中なんだから。
廊下を進んでいたら、いつもと違うことに気づいた。
聞こえていた誹謗中傷が聞こえてこない。
それどころか、行き交う人たち、みんな、頭を下げて礼を取ってる。
……何一つ悪意を感じなくて、逆に落ち着かない。
「……どゆこと?」
俺の疑問に、笑って答えたのはクリス。
「昨日、陛下がお前を認めたからだよ」
「……ああ。なる」
つまり、とんでもない掌返しってことか。……まあ、あれだね。礼を取るのは当然だよ。クリスが歩いてるんだから。
そういえば、いずれお兄さんが即位するわけだけど、その後、クリスはどこで生活するんだろう。
大概城を出るよな?貴族になる??うーん…、よくわからないから今度聞いてみよう。
まあ、まだ先のことだろうし。
いつもの道のりを進んで執務室に着く。クリスは室内に入り、ミルドさんとケインさんは扉の外で待機。
「「おはようございます」」
中にいたいつもの二人が、すぐに声をかけてくれた。
「ああ、おはよう」
「おはようございます!」
俺がクリスに抱かれたまま挨拶を返すと、二人は嬉しそうに笑ってくれた。
「アキラさん、今日は団員ですか?」
「えーと…、クリスの監視要員…?」
オットーさんは楽しそうに笑った。
ザイルさんも口元を手で隠してる。
「お茶を淹れてきますね」
「ああ。頼む」
メリダさんが簡易台所に向かった。
クリスは、俺を抱いたまま、執務机に。
「クリス、俺、ソファで……」
「いいから。ここにいろ」
……と。
ちょっと豪華な椅子に座ったクリスの足の上に座らされた。
いつものポジションと言えば、そうなんだけど。
「ザイル、店主とラルが来たらここに通すように伝達を」
「はい」
ザイルさんが頭を下げて、部屋を出ていく。
それを見届けて、クリスは少し顔をしかめながら、執務机の上に置かれていた書類の束から一枚取り出した。
「多すぎないか?」
「いえ。これでも優先度の低いものは避けてありますよ?」
「…………」
……オットーさんの完璧な微笑み。凄い。クリスが言い返せない圧を放つなんて……!
「兄上のところから回ってきた書類を優先させる」
「はい。優先できるよう上に積んでますよ。付箋がついてるところから、殿下ご自身の仕事です」
「…………」
おお……。
オットーさん、ほんと完璧…。付き合いの長い阿吽の呼吸?を、感じる…!!
クリスがため息をついたタイミングで、メリダさんが紅茶を置いた。
クリスはそれを無言で一口飲む。
それから、また、ため息。
「クリス」
「ん?」
「がんば」
ちゅ…って、頬にキスをした。
そしたら、クリスの目が驚いたように見開かれて……、でも、すぐに、嬉しそうに破顔した。
「ありがとう、頑張れるよ」
ちゅ……って、額にキスを返された。
それからのクリスは嫌な顔ひとつ見せずに、書類に向き合っていた。
時々、オットーさんや、戻ってきたザイルさんに指示を出しながら、書類をこなしていく。
紅茶がなくなれば、メリダさんが別のものを出す。
クリスの左手は俺の腰をがっちり掴んでいて、離してくれない。
クリスの足の上で、俺も書類を眺めてる。機密事項とかないのかな。大丈夫かな。そして思う。書かれてること、大体わかる。俺すごい!
元々お兄さんに回されていた仕事だから、どんな案件なのかと思ったけど、市井の生活に関することとか、街や街道の整備に関してとか、商人流入に関する確認調書とか……、そんな内容ばかりだ。
クリスのもとには魔物関連の案件が回されてくるって言ってたけど、確かに魔物関連の案件はなさそう。いや、一部だろうから、他の案件がどんな内容かはわからないけど。
クリスは、お兄さんと同じことはできない、って言ってたけど、そんなことないと思うんだよ。今だって、普段やらないことをテキパキこなしてるんだもん。きっと、「自分の役割は敵を排除すること」って思ってるから、他のことには手を付けないんだろうな。お兄さんとはっきり線を引くことで、自分の立場を周りに知らしめてるような。
いずれ王になるお兄さんは、表から国民の生活を守ることを、クリスはその王のために影から国を守ることを。
クリス……格好いいなぁ。陰ながら守る立場か。……って、完っ璧、俺の勝手な解釈だけどね!
でも、そんなふうに思ってしまったから、ただひたすらクリスのことを見つめてしまってた。
「……アキ」
「なに?」
「そんなに熱い目で見つめられると、落ち着かない。いや、嬉しいんだが…、アキのことばかり構いたくなるから、少しは抑えてくれていいんだぞ?」
「ふぁ!?」
ニヤッと笑ったクリスが、俺の体の向きを変えて、向かい合うように座らせてきた。
「ちょ」
「期待されてるのなら、応えないとな?」
……って言いながら、額や頬にキスをして、唇にも、キスしてきた。
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