175 / 560
第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。
15 大事な一歩
しおりを挟む「ごめん………なさい……っ」
「アキ」
クリスは後ろから右腕で抱きしめてくれていた。左手は、繋いだまま。少しでもクリスと繋がっていたくて、一生懸命左手に力を込めた。そしたら、ほんの少しだけ、指先が動く。
「動いたな」
「ん」
ほんの少しでも…嬉しかった。
「落ち着いたな?どうする?今日はもうやめるか?」
ギルマスが腰を落として俺と視線を合わせてきた。
俺は、クリスを見て、ラルフィン君を見て……、首を横に振る。
「もう少し……頑張りたい」
「おう」
ギルマスはニカっと笑って、俺の頭をがしがしなでてきた。ラルフィン君も笑って頷いてくれたし、クリスは右手に力を込めてくれた。
「さっきも言ったが、お前の関節自体が固まってるわけじゃない。動かせるくらい柔らかいし、筋肉もある。息は止めるな。俺が動かすのに合わせるように、お前自身も動かそうと意識するんだ」
「…わかりました」
「ラルは常に癒やしを流せ」
「はい」
「クリストフは少しでも坊主に変化があればすぐに止めろ」
「わかってる」
ギルマス主体で話がまとまった。それから、また、ギルマスの手が俺の左手に添えられた。
「ゆっくりいくからな。できるだけ目をそらすな。自分の腕が動くのをよく見とけ」
ギルマスの言葉にうなずき返した。
少し緊張する。
ゆっくり、ゆっくり、ギルマスが俺の左腕を上げていく。
「っ」
さっき上げたところまでは、まだそんなに痛みは強くなかった。ピリピリした痛みが続くだけ。
左肩には温かいものを感じる。
クリスは、俺の頭にずっとキスをしてくれてる。
「息止めるなよ」
軽く、深呼吸した。
大体45度くらい?そこから更に上げられていくけど、痛みが強くなる。喉が変な音を出した。
覚悟した……ん、だけど。
「は………は……っ、はっ」
叫ばない。
息を止めない。
痛くない、痛くない、痛くない――――
ぼろぼろ涙が出始めたとき、クリスが少し体をずらして、口を塞がれた。
見てろ、って言われたけど、目を閉じてしまった。でも、咎められない。
クリスの舌が、俺をなだめるように絡みついてくる。
左肩には動かされるたびに激痛が走る。その痛みはラルフィン君の癒やしや、クリスのキスだけじゃ紛れない。
涙が止まらない。
膝を立てたり伸したり、足の指先を伸ばしたり、ぐっと力を入れたり。色々してみてるけど、痛みは逃げてかない。
いくら自分に『痛くない』って言い聞かせようとしても、効果はない。
口の中に、甘く感じるものが流れ込む。
自由になる右手で、クリスの胸元にしがみついた。
喉のおくに溜まるものを、必死に飲み込む。
そしたら、少し、少しずつ、昂ぶっていた神経が落ち着いていく。
クリスの力は、誰よりも優しくて、温かい。
「――――アキラ、目を開けろ」
ギルマスの声に、クリスが離れた。それから、恐る恐る目を開ける。
「よく頑張ったな。もう強い痛みはないだろ?」
左の視界に、ギルマスに支えられて挙上した腕の影が映った。
それから、ギルマスは腕をゆっくり下ろすと、また、上にあげていく。
「……………ふ、ぅ、っ」
泣き叫びたくなる痛みはなかった。
涙で霞む視界の中で、みんな、笑顔を向けてくれていた。
「あり……がと………っ」
「まだまだ始まったばかりだぞ?ほら、泣きやめ」
「………はぃっ」
「今日はここまでにしましょう。一日置きに動かして…、アキラさまは指先や手首を、動かして見るように意識してみてくださいね」
「うん。やってみる」
泣き笑いでうなずく。
ギルマスは俺の腕をおろしてから、魔導具を止めて仕舞い込んだ。
クリスはベルを鳴らす。すぐに隣の部屋から顔を出したメリダさんに、お茶と果実水の準備を伝えると、なんとなくほっとした表情のメリダさんは退室していく。
ギルマスとラルフィン君は椅子に座り込んで、少しぐったりしていた。
「横になったほうがいい」
「え、でも」
クリスが俺の身体をベッドに倒した。
「熱がでてるから」
「……寝たくない」
「だーめ」
「……左肩、冷やしたほうがいいですね……。多分、そこが熱の原因かと……」
テーブルに突っ伏したままで、ラルフィン君に指摘された。
「あー…、タオルも頼めばよかったか…」
クリスまでうなだれてしまった。
……皆、なんだか、ものすごく疲れてるみたいで。
俺は、なんかスッキリしてて、逆に元気かも。
「……そろそろ今回の首謀者たちの情報が揃うな」
ギルマスがぼつりと言った言葉に、肩が震えた。
首謀者。
「……魔法師長じゃないんですか…?」
「あれは使われただけだろうな。まあ、罪は罪だ。どういい逃れするかだが…」
「神殿の方にも殴り込み……じゃなくて、僕に対しての苦情申立があったみたいです。神殿長さんが教えてくれました」
ラルフィン君の口から「殴り込み」とか聞くのはすごく違和感…。
…ん?でも、なんで?
「なんで、魔法師長が神殿に殴り込み?」
俺の疑問を、三人は、「ああ、そういえば」みたいな顔で受け止めた。
「アキがワイバーンに襲われた直前に、顔を爪で裂かれたんだ。あの男」
「え」
「…それで、僕に、癒やせ!って言ってきたんですけど、僕、あの人嫌いだし、アキラさまから離れるわけに行かなかったから、断ったんですよね」
「…………」
あっさりと簡単に、なんでもないような風に話すラルフィン君とは対象的に、クリスは苦笑しっぱなし。
「クリス?」
「いや……何でもない。あの時のラルは凄かったな。あれほど静かにキレた姿は見たことがなかった」
「え?僕、普通に対応したんですけど…」
「あの後すぐに逃げ帰ったな…あいつら」
「ラル、神殿の方は問題ないのか?」
「ありませんよ。神殿長もあの人の癒やしは断ったそうですし」
「……まあ、近々陛下の御前で会うことになるだろうから、それまでは放置しよう。レヴィとラルも呼ばれるかもしれないから、その時は」
「辞退するに決まってるだろ。やってらんねぇよ、そんな堅苦しい場所なんて」
「王様にお会いするなんて恐れ多いです。僕、ただの冒険者なので」
「……そう言うと思ったよ、二人とも」
三人のやり取りをなんとなくぼぅっと眺めてた。
ふっと意識が落ちかけたとき、部屋にノックの音がして、ワゴンを押したメリダさんが戻ってきた。
「殿下、お茶とお菓子と、果実水と……、氷水とタオルの他に、なにか必要なものはありますか?」
にこりと笑うメリダさん。
クリスは肩を竦め、「敵わないな」なんてぼやいてる。
「十分だ。ありがとう、メリダ」
「いいえ。では、一旦下がりますので」
みんなにお茶を淹れ終わったメリダさんは、ほっとした顔で寝室を出ていった。
クリスは氷水でタオルを冷やして、しっかり絞ったそれを、左肩に直に押し当ててきた。
「冷た……」
「温度がわかるのはいい傾向ですね。アキラさま、もう少しですから」
温度がわかるのはいい傾向。
…確かに、そうかもしれない。
「うん」
きっと、今日は大事な一歩になったはずだから。
なんとなく、クリスの袖を引っ張った。
そしたら、クリスは果実水を口に含んで、俺に口付けてくる。
流し込まれる果実水。
少しずつ、飲み込む。
そうやって何口か飲んでから、重くなる意識をそのまま手放した。
「おやすみ」
っていう、クリスの声を聞きながら。
261
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。
フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」
可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。
だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。
◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。
◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる