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第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。
36 クリスは何でもお見通し。
しおりを挟む「クリス……ねむい…」
「少しでも昼食を摂ろう」
クリスがそう言った直後、部屋にノックの音がする。
「入れ」
部屋に入ってきたのはやっぱりメリダさん。
「メリダ、すまないがこのまま」
「はい、坊っちゃん。ワゴンごとベッドにつけますので」
こころなしか、ワゴンがいつもより大きい。
「メリダ、先に果実水を」
「ええ、どうぞ」
クリスはメリダさんが果実水を注いだグラスを受け取ると、一口口に含み、躊躇いなく俺に口付け、流し込んできた。
……メリダさん、目の前にいるけど。
でも、果実水は嬉しい。喉、乾いてた。
もう甘えていいってことだよね。メリダさんに見られてたって、今更だよね?
「くりす……もっと」
「自分で飲む?」
「……右手も、今力入んない…」
だから、飲ませて。
俺がクリスに口移しで果実水を飲ませてもらってる間に、メリダさんはワゴンの上の料理にかぶせていたものをはずして、準備してくれた。
ふわりと、美味しそうな匂いがする。
「……ああ。祝宴の料理か」
「ええ。比較的食べやすいものをお願いしましたよ。これなら、アキラさんも大丈夫じゃないか、と」
「後で料理長に礼を伝えてくれ」
「はい、かしこまりました。きっと、料理長も喜ばれますね」
メリダさんが小さめの器に、料理を取り分けてくれた。それをクリスが受け取って、俺に一口分食べさせてくれる。
口の中でほろほろ崩れるほど、柔らかく煮込まれたお肉。ビーフシチューのような料理。
「美味しい」
「ああ、美味いな」
柔らかいパンに、ルー部分をつけて、俺の口の中に。…うん、この食べ方もいい。パンがもっと柔らかくて食べやすい。
野菜は、温野菜サラダだった。クリス用にだと思うけど、生野菜のサラダも少しある。
いつもと違う料理だけど、俺にとって食べやすいものばかりで、結構食べれたと思う。
デザートのゼリーまで食べたところで、俺の身体が揺れ始めた。
「眠い?」
「ん……、ねむい……」
「いいよ。そのまま寝て」
「ん……」
クリスの足の上のまま。
「メリダ、俺の分の紅茶を」
「かしこまりました。お食事の方はもう下げましょうか?」
「果物だけ残してくれ」
「ええ、わかりました。ちょっとでてきますね、坊っちゃん」
メリダさんが、ワゴンを押す音がする。
「アキ……愛してる」
俺も、大好きだよ。
それっきり、俺は眠りの中に落ちた。
それにしても、ご飯を食べてお腹いっぱいになったら眠くなったので寝る……って、小さな子供みたいじゃないですか。
「俺……子供並み」
「そもそも成人してないから子供だが……。目が覚めたのか」
「ふぇ?」
目の前に、笑うクリスがいた。
……ちょっと、頭、働いてないです…。
「くりす?」
「寝ぼけてるのか?あんまり可愛くしてたら閉じ込めるぞ」
「……くりすになら、とじこめられてもいい」
ぽやーっとする頭のままで答えたら、何故か盛大なため息が返ってきた。
「……閉じ込めない」
「なんで?」
「閉じ込めたら、どこにも連れていけないだろ。アキには俺の隣にいてもらいたいんだ」
左手を、とてもとても大事そうに持ち上げられて、甲にキスされた。その仕草がいかにも『王子サマ!』って感じで格好いい………。
なんとなく、頭の中がスッキリしてきて、窓の方に視線を向けると、もうカーテンがしてあった。
「俺、寝過ごした?」
「いや?そろそろ起こそうと思ってたんだ。……夕食は食べれそうか?」
んー、お昼結構食べたから…。
「それなりに食べれるとは思うけど…、お昼食べすぎたみたい」
「だな。無理はしなくていい。スープと果物だけでも」
「お肉がいい」
「……なぜ」
「体力付きそうじゃない?お肉食べたら」
「……柔らかく煮込んだものがあればな」
「うん」
そういえばクリスは何してたんだろうって思って手元を見たら、数枚の書類。ああ、仕事してたんだ。
…今クリスはベッドに座ってて、俺にすごく近いけど、ずっとここにいてくれたんだろうか。俺の、傍に、ずっと。
「いたよ」
「っ、なんで」
わかっちゃうのかな。
「アキの考えてることはすぐわかる。…アキの寝顔を見てたほうが、捗るんだ。幸い、今日は王太子の婚姻式だったから、これ以上の仕事は回ってこなかったし」
「そうなんだ…。……じゃあ、今は?」
「ん?」
「……俺、今何考えてるか……わかる?」
くい…っと袖を引っ張った。
クリスは書類をテーブルの上において、俺に微笑んでくれる。
「『口付けしてほしい』」
「うん、正解。それから?」
「…『クリスのことが好き』」
「ふふ」
「……『早く抱いてほしい』かな」
「正解!」
くすくす笑いながら、望み通りキスしてくれた。
「夕食を食べて、お風呂に入って……それから、だよね」
「アキの体調は?」
「今朝と同じくらい」
「……うん。それなら、抱いてもいいよな?」
「抱いてくれなきゃ拗ねる」
「……可愛い」
クリスが突っ伏してきた。
全身にかかる体重が心地良い。
早く、早く、時間が経たないかな。
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