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番外編:希望の光 (オットー昔語り)

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 念の為、大型の首を斬り落とした。
 そこまで終わらせてから改めて村を見回すと、残っている中型や小型の魔物を、『神官』の取り巻き数人が相手をしている。
 崩れかけた教会からは、満身創痍の取り巻きが二人、明らかに事切れた遺体になった一人の取り巻きを引き摺るように姿を現した。

「で、んか」
「もうし、わけ、ありません」
「……いい。後で聞く。できるだけの怪我の処置を」
「は……っ」

 『神官』は目を伏せたが、すぐに視線を村の中に戻す。

「片付けよう」
「ああ」

 剣を握り直し、俺は『神官』と共に、残党狩りに向かった。




 ――――そこからは、非常に早く事態は動いた。

 『神官』は中型の相手をしながら、未だ火の手の上がっている場所に、魔物避けを投げ入れていく。
 取り巻きたちは既に足元がふらつき、剣をまともに持てない状態だったが、それなりに深手を負わせていたらしく、中型も小型も、掃討するのにそれほど時間はかからなかった。
 村の敷地内に、おびただしい魔物の死骸が転がった頃には、太陽は傾きかけ、間もなく夜が訪れることを否応なしに認識した。
 村のあちこちに、無惨な亡骸が放置してある状態。
 ……ああ。このまま日が沈み、俺はまた、村の人達だったものを斬らなければならないのか――――

「動ける者は今すぐ村人の亡骸を集めろ!」

 『神官』の声に、現実に引き戻された。

 動ける取り巻きたちは、崩れかけた家屋の中や、教会の中から、大きめの布を持ち出し、亡骸を運んではその布をかけていた。

「――――なんで」
「送らなければならない」

 そう言い、『神官』も亡骸のもとに向かった。
 俺はその言葉の意味もまともに考えることができないまま、一人ずつ抱え上げ、中央の広場に安置した。
 西の空が橙色に染まりかけた頃、広場には、布がかけられた村人八人の亡骸と、大型との戦闘で亡くなった取り巻きの人が一人、頭部を噛み砕かれ事切れた元凶神官が揃った。

 夜になれば、この亡骸は別の存在になる。
 その前に、せめて、焼かなければ。

 そう思っていたら、取り巻きたちは亡骸の周囲に跪き、『神官』は亡骸の中央に立った。

 『神官』は無言で己の指の腹を噛み切り、赤い血を地面に滴らせる。




『願いを、聞き入れてくださるよう、祈ります』




 彼がそう『言葉』を発した瞬間、彼の血を吸い込んだ地面からぽわっとあたたかな光が舞い上がり始めた。

「……っ」





『我が力及ばず、蹂躙された哀れな命が、御下に還りますよう』



『その道を照らし、導いてくださるよう』



『アウラリーネ様の御下で全ての哀しみが癒やされますように』



『願い、祈ります』



『女神の加護を受けながら過ちを犯した我らの同胞により、悲しみに濡れたこの地に』



『穢れなき安息の時が与えられるよう』



『願い、祈ります』




 理解できるのに不思議な響きを持った『神官』の言葉。
 紡がれる度に、舞い上がる光は村の中に広がっていく。

 俺はそれを見上げながら、その場に腰を落としていた。
 光は亡骸にも降り注ぐ。
 降り注いだ光は、更に白く輝き、天に昇る。
 光は、俺が、両親を焼いたところにも降り注ぎ、ぽわりぽわりと白い光が舞い上がっていく。

「…………父さん、母さん」

 涙が溢れていく。
 説明されなくても、村人たちの魂が癒やされ、天に昇っていくのがわかった。
 そして、この場に遺体の残っていない俺の両親でさえも。天に昇る――――これが、女神に還るということなのか。
 そしてこれが、神官が行う鎮魂の――――祈り。

 中央に立つ『神官』は、酷く真剣な表情で、光を見つめている。彼の周りは特に光り輝いているように見える。よく見れば所々に青みがかった色を持つ銀髪は、束ねられているにも関わらず、ゆらりゆらりと光の中で揺れていた。
 ……ああ、綺麗だ。
 本当に、どうしてこの『神官』を、元凶あれと同じに考えていたんだろう。
 こんな光、今まで見たことがない。
 俺がまだ子供の頃。まだ村にもそれなりの余裕があった頃は、もしかしたらこんな祈りも施されていたんだろうか。
 俺が知らない間に、何人が谷に身を投じたのだろう。何人が焼かれていったのだろう。
 今、この地を覆うように舞っている光は、どこまで広がっているのだろうか。
 今亡くなった人ばかりでなく、俺の両親も癒やされた。亡くなった人の魂は祈りによって女神のもとに還ると言うなら、…魔物化した人の魂はどうなんだろう。魔物化した時点で『魂』という概念はなくなるのか、無くならないのか。俺にはわからない。きっと、この『神官』なら知っているはずだ。
 俺が知りたいことは、教えてくれるのだろう。知識を求めても、見返りを要求されることなく。それが、『当然』として。

 まとまりのない思考のまま、ただただ涙を流しながら光を見つめ。




『祈りを――――』




 その言葉に促されるように、自然と手を組んでいた。
 取り巻きたちは膝を付き、右手を胸の前に当てている。

 本当に最後のこの瞬間。
 俺が守ろうとしていた人たちが、俺を守っていてくれた人たちが、穏やかに逝くことができたのだと、信じたい――――



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