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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。
48 『望む褒美を取らせよう』からの、
しおりを挟むクリスもクリス隊も、ほんとにすごいんだなって、再認識した。
村に行けば、クリスを見なくても、制服だけでクリス隊ってわかるみたいで歓迎されるし、クリスに抱っこされてる俺にも好意的。
進路を若干西寄りにして、タリカ村にも寄ったから更にびっくりしたわ。
タリカ村、まだまだ完全に復興できたわけではないみたいだけど、前よりも笑顔に溢れてた。よかった。
途中、危なげなく魔物退治も絡めつつ、予定通りの五日後に、俺たちは西門から王都に入って帰城した。
それにしても何故西寄りに進路を取ったかって、ようは、『後続』と合流しない為という……なんとも言えない理由をあとから聞いて唖然としたけどね。
クリス隊の皆には、遠征の片付けと物資の補給、明後日に東に向けて出発するから、その準備の指示を出したけど、明日は一日静養日ってのも伝えてた。
うん。働きすぎはだめだね。
俺とクリスは久しぶりのメリダさんにただいまの挨拶をして、ざっと身なりを整えて、陛下のところに挨拶だ。
謁見室ではティーナさんも笑顔で待ってた。
流石にクリスの腕の中にいるわけにも行かず、ちゃんと部屋に入る前には降ろされていたので、陛下の前で礼儀作法に則ったお辞儀もできた。
「無事に戻り何よりだ」
「はい」
無事に。
や、ほんとに。
帰りにやばめの出来事に遭遇しないかヒヤヒヤしてたけど、ほんとに『無事に』帰ってこれたんだよ。
帰り道では熱も出さなかった。
俺がしみじみとしてる間に、クリスは南の川に迷い込んで巣を作っていた聖鳥について報告していた。
「聖鳥……」
「はい。私が神官位を得てからも、この目で見たのは初めてです。本物かどうか判断しかねましたが、アキに癒やしを与えてくださったので、本物だったと確信しております」
「そうか……。女神様の御使いとも言われている聖鳥が。無事、女神様の元へ戻れたのであればよいが」
「問題ないでしょう」
豊穣の国エルスター。
女神様への信仰が厚い国。
他の国では聖鳥は目撃されてないんだろうか。
「無事還せたのも、アキのお陰です」
「ふむ」
ちょっとぼんやりしてたら、俺の名前呼ばれて驚いたよね。
「アキがいなければ、あのまま卵は死んでいたかもしれませんから。それに、キマイラ討伐も成しました」
「キマイラが出たのか!」
「ええ。軽傷の者は出ましたが、アキと、今回同行した冒険者の魔法により、苦戦することなく倒すことが叶いました」
「なんと……」
同席してる貴族さんたちからも、どよめきがあがる。
「キマイラ討伐も、聖鳥の保護も、アキがいなければなし得なかったことです。特に聖鳥の件は、今後我が国に更なる恵みをもたらしてくれると思います」
「ああ。僥倖であった」
…………あー……、俺、部屋帰りたい。
こういうの、慣れないっていうか、何というか。
「アキラ殿」
「はい」
陛下、目元優しいなぁ。
この表情、あれだ。
お兄さんの結婚式のときとかに、『陛下』じゃなくて『父親』になる瞬間の顔。
「何か望みはないか?」
言われた内容は、あれか。
望む褒美を取らせよう――――的な。
「ないです」
即答したら、陛下は楽しそうに笑った。
同席してる貴族さんたちからは、またざわめきが起きてるけど。
「……なにかもらわなきゃだめなの?」
こっそり傍のクリスに聞いたら、微笑んで首を横に振られた。
ん。
なら、やっぱり何も要らない。
「何も要らないので――――あ」
「ん?」
「アキ?」
「えーと…何でもいいですか?」
「ああ、構わんよ」
「でしたら、クリス隊の皆に何か美味しいお酒とか振る舞ってほしいです」
「クリス隊?――――ああ。クリストフの直属の兵士団のことか」
「あ、はい」
ずっと心の中でそう呼んでたからなぁ。正式名称でもなんでもなかったわ。
「キマイラ討伐も聖鳥の件も、彼らがいなければ達成できなかったので」
俺、口だけだからなぁ。
そんな俺のお願い、聞いてくれるから余計嬉しいし。
大好きな手が、俺の頭をぽんぽんって叩いた。
傍らのクリスを見上げたら、嬉しそう。
「ではクリストフ。今宵は広間を使って宴にでもしようか」
「ええ。それは皆も喜ぶと思います。幸い、明日は静養日にしましたから」
「それはいい。では早速準備させよう」
何というか、陛下、相好を崩しまくりで、いいのかこれで。
緊張感もなにもない報告になってしまった。
…そういや、こういうとき大概陛下の傍に控えていた宰相さんがいなかった。
ま、いいか。俺が気にすることでもない。
「まずオットーを捕まえるか」
「だね!」
部屋を出たら、クリスはさっと俺を片腕抱っこした。
向かうのはとりあえずクリスの執務室。
「酒か…」
「あ、駄目だった?」
「いや…。暫く飲んでないと思って」
「……そういえば、クリス、部屋で飲まないね」
「酒が入ると箍が外れそうだからな」
ふふ…って笑って、俺と目線を合わせて額をつけられた。
何となくクリスが言いたいことを理解して、顔がどんどん熱くなる。
「お、れには、関係ないしっ」
「そうか?」
「うう」
「ほんとうに関係ないと思ってる?」
「………思って、ない」
ううう。恥ずかしいっ。
あまりクリスにお酒飲まさないようにしよう……。
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