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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。
54 花を手向けて①
しおりを挟む馬車が進むと、開けた場所に出た。
馬車が止まって、最初に降りたクリスが俺に手を差し出してくれて、その手を握って外に出た。
崩れた家だったと思われる木の残骸や、石造りの建物の残骸が残された場所。
馬車が止まったのは、背の低い草が生えた所で、もう少し先には大きい石が二つ、積み重なっていた。
オットーさんはぐるりと周りを見回して、積み重なった石の前で跪き、右手を胸に当てた
聖鳥の巣で見たときの姿勢そのままだったけれど、とても、長くて、声をかけられるような雰囲気ではなかった。
今日はこの場所で野営を組むのは予定してたみたいで、特に指示がなくてもみんな動き始めてた。
「クリス」
「ん?」
「むこう……行きたい」
崩れた家の向こう側。
クリスは周りを見渡してから、頷いてくれた。
エアハルトさんはザイルさんに手綱を握られてるから騒がないし。いい環境だ。
クリスに片腕抱っこされながら、村だったその場所を眺めた。
家の残骸があるから、「村でした」と言われたら「村だったのか」って納得するけども、何も言われなかったら村だったと気づけなかったかもしれない。
「あの石の下に、村人たちが眠ってる。……魔物化したオットーの両親の遺品も一緒に」
「お墓なんだね」
「ああ。……あのときは、時間がなくて個別に埋葬もできなかった」
「クリスが祈りを捧げたんでしょ」
「ああ。俺にはそれくらいしかできないから」
そんなことくらい、じゃないのに。それができるクリスがすごいのに。
さてどうしたもんかと思っていたら、何かとても甘くていい匂いがし始めた。
「なんか、いい匂い」
「そうだな」
匂いに釣られるように残骸を超えると、俺達の前にとてもきれいな花畑が現れた。
「……すごい」
手入れがされてきたわけじゃないだろうに、色とりどりのその花たちは、この一角だけを覆い尽くすように咲き乱れてた。
どこからか種が運ばれてきたんだろうか。風に乗って、それか、鳥が咥えて。
それにしたって、こんなに綺麗に咲くものかな。
「女神の加護がもともと強い土地ではあったから」
「実りが良くなるとかそういうこと?」
「ああ」
どうせなら、お墓の周りに咲いてくれればよかったのに。
「あ」
「アキ?」
「この花、摘んだら罰当たる?」
「そんなことないだろう」
って笑うから多分大丈夫。
「じゃあ、全部…ってわけにいかないけど、少し摘んで、お墓に持っていこう。お墓参りには花が付き物でしょ?」
そう言えば、クリスは目を細めて俺を見た。
「そうしよう」
クリスは俺を下ろすと、ポーチの中から小型のナイフを取り出した。
俺とクリスは花畑の中から、状態のいい花を選んで、都度、クリスがナイフで切っていった。
花畑の中を歩いていると、時々枯れかかった膨らみを見つけた。
もしかしてとそれを手の中で砕いてみると、種らしきものが出てくる。
これを撒いたら、お墓の周りも賑やかになるかな。誰かが訪れなくても、寂しくないように。
クリスがハンカチを出してくれたから、手の中の種はそれで包んだ。
花を摘んで、種ももらって。
気がついたときにはクリスの片腕分たっぷりの花束ができていて、二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
それを半分持って、種を包んだハンカチも、落とさないように手の中に大事に握り込んだ。
それからみんなのところに戻ると、俺たちが抱える花束に驚かれた。
天幕の設置は終わっていて、日は傾き始めている。
「殿下、アキラさん」
オットーさんはいつも通り、俺達の方に駆け寄ってきて、花束を受け取ってくれた。
「これは?」
「むこうにたくさん咲いてて。……お墓、草ばかりじゃ寂しいと思って」
日本なら菊の花かな。お線香と蝋燭が定番だけど、こっちじゃどうなんだろう。
こっちは女神様だから、いつものお祈りスタイルでいいのかな。
「…ありがとうございます。皆も喜びますよ」
って、オットーさんが微笑んで頷いてくれたから、きっと大丈夫。
俺が持ってた分はオットーさんが引き受けてくれたので、クリスと二人でお墓の前に花を手向けた。
それから、俺達だけじゃなくて、全員がお墓を向いて膝をついた。俺も、クリスも。
両手を胸の前で組んだとき、ハンカチに包んだ種を思い出した。
もし、俺の祈りが女神様に届いているのなら、亡くなった村の人達のために、村のために頑張ってきたオットーさんのために、……それから、ずっと後悔を抱いてきたクリスのために、お墓の周りだけじゃなくて、この村だったところ全体を、あの花畑のように花で埋め尽くしてください。
みんなの悲しみが癒えるように。
俺の最愛の人が苦しまないように。
手の中が突然熱くなって、驚いて開いたら、ハンカチは勝手に開いていて、包んでいた種は光の粒子みたいになって村の中に降り注いだ。
「わ……」
みんな、いつの間にか祈りをやめていて、光が降り注ぐ光景を見てる。
「アキ、なにかした?」
「魔法じゃないけど……、村の中いっぱいに花を咲かせてほしい…って祈ってたら、なんか、こうなった」
クリスは苦笑して俺の額に額を重ねてきて、「魔力は減ってないな」って確認してた。
俺、どんだけ信用ないんだ。
光が落ち着いた頃、いつもとは違って、皆で円形に座って夕食を食べた。
俺が、オットーさんに村の思い出とか聞いたから話してくれて、皆もそれを静かに聞いていた。
名前もないような村で貧しかったけれど、子供の頃は皆と一緒に笑ったり、遊んだり、喧嘩したり、楽しかったし幸せだったって。
「私の父と母は、とにかく優しい人でした。村のお年寄りに、野菜や料理を運んだり、畑を手伝ったり。毎日大変なのに、笑顔でしたよ」
でも、魔物化してしまった。
村に配属されていた神官が、欲に目がくらんだ人物だったから。
楽しい思い出はたくさんあるけど、それと同じくらい悲しくて辛い思い出がある。
聞いてるうちに、ザイルさんやリオさんが泣き出したり、その二人ほどではないにしろ、目元を抑えてる人がいたり、暗くなってきた空を仰ぎ見る人がいたり、反応は様々だった。
けど、話してるオットーさんは、すごく穏やかな表情だった。
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