【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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閑話 ②

断罪 ◆レイランド

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 地位が欲しかった。
 身分が欲しかった。
 誰にも屈しず、膝をつかず。
 敬われ、畏れられる。
 絶対的なものが。




 気がついたときには、両手を魔封じの枷で拘束され、牢の中に転がされていた。
 欲してやまなかったあの美しい身体に触れた。あの瞳を見ながら犯したかったが故に目覚めを待っていたのに、こんなことなら寝ている間に犯し尽くせばよかった。目覚めて胎内が私の精液で満たされ、且つ、まだ私に犯され続けていると知れば、あの瞳は絶望に染まっただろうに。
 全く、馬鹿なことをした。

 笑いがこみ上げる。
 突然笑いだした私に、牢番の兵士がギクリと反応する気配があったが、私には関係ない。

 前の魔法師長は私を排除しようと動いていた。
 私の瞳には狂気が混ざっているとか云々。
 だから、殺した。
 魔物との交戦中に、私が隠し通していた幻惑魔法に囚われ、魔物の前にその身を投げ出して。
 あれは愉快だった。
 その後、魔法師長の地位を手に入れることは造作もなく。
 軍属魔法師の権利を王から引き剥がすことも難なく成し。
 魔力の高い平民が軍属魔法師となれば、犯し犯し続け、魔物の前に晒すなり、好き者な貴族に下賜するなりしてきた。
 私こそが法であり、全ての頂点に立つ者なのだから、これは当然のことだ。平民は貴族の隣に立つべきではない。常に控え、足を舐めるのが丁度いいのだ。




 私が目覚めてすぐ、王太子と忌々しい魔力を持つ殿下が、二人揃って牢に現れた。

 これはこれは――――と高笑いをしながら迎えれば、明らかに不快な表情になる。ああ、愉快だ。

 だから教えてやった。

 私が至高の力を得たことも、この力は世界を統べる力であり、最早私は神同然の存在なのだ。それほどまでに尊き私を、たかが人間、たかが王族が、なんの権利を持って罰するというのか。

 お前の婚約者がいかに淫乱で、そのくせ、男を誘う肌は美しく滑らかで。手触りも舌触りも極上だったと。
 その淫乱な男に私は惑わされただけだ。
 いつも私を見る目は媚びるように誘うように揺れていた。だから、私はその誘いに乗っただけだ。私は惑わされただけ。なんの非もない。なのになぜ拘束されなければならないのか。
 全てはあの美しい男が悪い。
 あの男を手に入れるためならば、何をしてもいいと思わせる、あの妖艶な瞳が私を狂わせたのだ。
 至高の力を、至高の存在を手に入れることに使って何が悪い。
 東町で私の手足となった女はよくやってくれた。さぞ綺麗に燃えただろう。集まる魔物で誰が何人死のうと関係ない。私がほしいのは手薄になった城だけだ。その城の中で、私は本懐を果たすのだ。
 ああ、犯したかった。
 小さな口に私の男根をねじ込みたかった。
 押さえつけ、体を折り曲げ、私の男根が尻に入る様を見せつけたかった。

 近くで剣を抜く音がした。
 高笑いをやめてその方を見れば、忌々しい殿下のこめかみには青筋が浮かび、その手に抜き身の剣が握られている。
 殺すか?
 殺してみろ!
 お前の剣など、私には届かない。
 絶対の存在である私を害するなど、誰にもできないことなのだから!




 しかし、世の中使えない者が多くて困ったものだ。
 娘の失脚以来、ゲラルトは腑抜けになった。あれほど野心に燃えていたというのに、今では屋敷に閉じこもるだけ。
 宰相という地位が私にとって有益だった、それだけの関係だ。何人もの見目のいい者をあてがってやったというのに。
 恩を恩で返さない愚か者だ。
 我が家の者も同様だ。奴隷をもっと回せ?増やせ?……全く話にならない。努力もせずに甘い蜜だけすおうというのか。
 貴族の豚どもは管理がしやすい。愚か者の集まりだ。
 王太子よ。お前も大変だな。あんな、どうしようもない貴族を身の内に飼う王族の哀れなことよ。





 苦虫を噛み潰したような顔で戻っていく二人の姿に、また笑いがこみ上げる。
 気分がいい。
 笑いづかれてその日は眠った。
 夢の中で私は玉座についていた。






 数日経ったか。
 私は牢から連れ出された。
 鎖に繋がれ、兵士に囲まれたまま、廊下を進む。
 部屋に入り、私の他にも見知った顔がその場にいることにほくそ笑むと、兵士に背中を押され頭を床に押さえつけられた。

 『罪状』が読み上げられる。
 そのどれもが私の『功績』だ。私でなければ成せなかったことだ。
 だが、何故それが『罪』になる?
 私の周囲の者たちは、皆、息を呑み、身体をガタガタ震わせ、怯えているのが空気でわかる。
 私は裁かれる者ではない。裁く者だ。
 なのに、これはなんだ?
 私に関わった者たちは、全員が爵位の剥奪、財産の没収、領地の返上を言い渡された。
 関与した他の家人も含め、死ぬまで強制労働させられるらしい。

 そして私は、私より力を持たない国王陛下から、処刑を言い渡された。

 おかしい。
 何故私が、下の者から処刑などと言われなければならない。
 私が行ったことこそが、正義だというのに。





 それからまた数日。
 魔封じの枷が外されることはないまま。
 黒い布の袋を、頭に被せられた。
 音も聞こえない。
 周りも見えない。
 裸足の足の裏には、そのうちむき出しの地面を感じるようになった。
 階段のようなものをあがる。
 板張りの上に膝をつかせられる。
 頭を押さえつけられ、首を晒すように身体も拘束された。

 ――――ああ、私は死ぬのか。

 今日、今ここで、私は首を撥ねられ処刑されるのだ。
 一番欲したものは手に入らなかった。
 あの者こそ至高の存在だった。
 私はそれを辱め、穢すことで、己の欲を満たそうとした。
 私とは真逆の清い存在。
 血と罪でどろどろに濡れた私の手とは、まるで違うもの。
 はじめから、交わることなどできなかったのだ。
 私は、己の矮小さも気づかないほどに驕り高ぶり、手を出してはならないものに手を出した。
 気づけば、私は無数の手によって地に引きずり込まれようとしていた。
 藻掻くこともできない。
 ピクリとも体を動かせない。
 頭のどこかで動かしてはならないと考える。
 そして、暗闇の目の前に、老齢の男の姿が浮かび上がった。その男はよく知っている魔法師長のローブを着た男。

「――――」

 私の最初の罪。
 名を呼ぼうと口を開いた瞬間、首に鋭い痛みが走り、直後、己の思考を維持することができなくなった。

 薄れゆく意識の中、最後に見えたのは、赤子の手に愛おしげに触れる母の姿だった。















 ――――元魔法師長ブルーノ・レイランド。
 東町魔物襲撃等の大罪により、本日斬首刑が執行された――――










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