【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第6.5章 それでも俺は変わらない愛を誓う(side:クリストフ)

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 グリズリーが再び腕を振り上げたとき。





「………~~~、クリスのばかああぁぁ!!!」





 そんな、アキの叫びが聞こえてきた。
 アキの声。
 間違いなく、目の前にいる。存在している。
 身体中が歓喜で震えた。
 どれほど待ったか。待ち続けたか。

 アキの叫び声の直後、迷いなく放たれた矢は、一直線にグリズリーの目を捉えた。
 そしてすぐさま二本目の弓が放たれ、グリズリーの視界を奪った。
 ヴェルは足を止めることなく。
 もがき苦しむグリズリーは、前足を出鱈目に振り回す。
 駆けて、駆けて、上体を左側に寄せて低くし、欲してやまなかった身体を腕の中に掬い上げた。

「え」
「オットー、ザイル、とどめを刺せ。ミルドとエアハルトは森の確認を」
「「はいっ」」

 アキの華奢な身体。

「………クリス?」
「誰がばかだ。変なことを叫ぶな」
「クリス」

 左腕で荷物のように抱えていたが、グリズリーからある程度距離を取ったところでヴェルが止まった。
 改めてアキを馬上に引き上げ、向かい合うように座らせる。

「くりす」

 記憶の中のアキと、何も変わらない。
 ぼろぼろと、大粒の涙を流す大きな黒い瞳も。
 匂いも、声も、体温も。

「……おかえり、アキ」
「くりす……っ」

 願って、願って、ようやく、腕の中に帰ってきた。

「た、だい、ま…っ」
「アキ」

 唯一の最愛を、腕の中できつく抱きしめる。
 アキの両腕も、震えながら俺の背に回ってきた。

「アキ……っ」

 少し身体を離し、細さを増した首筋に指を這わせた。
 涙が流れ続ける頬に手を添えて、黒い瞳を間近に見ながら口付ける。
 唇の柔らかさも、同じ。

「くりす」

 口付けの合間に名を呼ばれる。
 聞きたかったアキの声。
 今、俺の目の前に、間違いなくアキがいる。

「アキ……よかった……っ、待っていたんだ…ずっと…っ。会いたかった……っ」
「俺も、……俺も、会いたかった…っ。ずっと、ずっと……会いたかったぁ…っ!!」

 アキの頬の上で、二人分の雫が混ざり合う。
 アキは微笑みながら俺の目元を指で撫で、涙をその細い指に絡めていく。

「もうどこにも行くな」
「…行かない。俺の居場所、クリスの傍だけだから……っ。クリスも俺のこと離さないで…っ」
「当然だ。もう、離さない」

 もう一度口付ける。
 今度は深く。
 薄く開く唇を舐めながら、舌を潜り込ませる。
 アキの腕に力が入る。
 離れたくない、その一心で。
 背を抱き、力を込め、柔らかな髪にも触れて頭を抑える。

「愛してる」
「ん……好き……っ」

 迎えに行きたかった。
 迎えに行くすべを知りたかった。
 何度も女神にアキを返してほしいと願った。
 何度もアキの世界に行く方法を尋ねた。

 結局、俺が世界を跨ぐことはできなかった。
 だが、今ようやく、アキが腕の中に帰ってきた。

「ん……んん……っ」

 舌の動きは少しぎこちない。夢の中で会ったときよりも、少し肉がついただろうか。
 腕の中に感じる身体は、アキを失くした頃と同じくらい。まだ元通りとは言い難いはず。

「ん……ぁ、くりす、くるし……っ」
「鼻で息をしろ。……忘れたのか?」
「……覚えてるよ……っ、知識だけなら……っ」

 赤らんだ頬。
 涙が流れたままの瞳。

「知識だけ?」
「……多分、前の身体と、違うから……。さっきのキスが初めてのキスで、今のが二回目……っ」
「――――どういう」
「よくわかんないけど、でも、そう、で」
「じゃあ」

 背中を抱いていた手を尻まで落とした。
 ビクンと跳ねるアキが可愛い。

も、初めて?」
「…っ、んっ、ぅんっ」

 服の上から蕾に触れれば、アキは首まで真っ赤にしながらもコクコクと小さく頷いた。

「そうか」

 恥ずかしくなったのか、背中に回っていた手は俺の胸元を握りしめ、顔もそこに埋めてしまった。
 一つ一つのしぐさも、変わらず可愛いままだ。

「それなら、二度目の初めてを、二人で重ねていこう」
「ん…っ」
「楽しみだな」
「も……はずかしぃっからっ」

 真っ赤なままのアキを上向かせた。
 よく見れば、羽織っている手触りのいい物は、俺の瞳の色に近いのか。
 首元の銀色の鎖を引き出すと、そこに二人の耳飾りがついていた。

「あ」
「…耳につけてもいいか?」
「うん」

 鎖を華奢な首から外し、耳飾りを引き抜いた。
 金具に破損はない。
 アキの右耳に触れ、柔らかさを指先で楽しみ、俺たちが一対の物だという証を耳につける。

「……嬉しい…っ。むこうじゃつけられなかったから……」
「アキ、左手を」
「ん?」

 俺も懐から皮袋を取り出し、最初に贈ったブレスレットを、細い手首に付けた。

「あ」

 アキの首元から外した鎖をその皮袋の中に入れ、また、懐に入れておく。

「……よかった……。これ……なくなってなくて……っ」
「アキと俺の色の物だ。失くすわけ無いだろ?」
「でも、俺のとこになくて……、よかった……嬉しい…っ、ありがと……クリス……っ」

 止まったように見えた涙は、またぽろぽろと流れ落ちていく。

「も……やだ……っ、なみだ、とまんない……っ」
「アキは泣き虫だから」
「クリスだって泣いたくせに」
「俺はもう泣いてない」

 アキは俺を見上げ、細い指で目元に触れてきた。

「……嘘つき。まだ、潤んでる」
「見間違いだ」

 笑いながらその手を握る。
 妙に冷たく感じ、背筋がざわりとした。

「アキ、寒いのか?」
「ん?……んー……、少し、かな。でも、クリスにくっついてるから、あったかい…」

 胸元に額をつけてくるアキを再び上向かせ、額を重ねた。

「アキ、熱が」
「え。……あー……、泣きすぎて、上っちゃった、のかな」

 とりあえず羽織っていたマントをアキの背にかけ、身体を更に抱き締めた。

「……あったかい」

 気持ちよさそうに口元を綻ばせる。

「アキ、このままヴェルを歩かせてもいいか?」
「ん……いいけど、流石に邪魔じゃない……?向き違うし、俺、しがみついてるし……」
「問題ない」

 改めてアキを抱き込み、放置していた皆に視線を流す。
 グリズリーの討伐も処理も終えたらしい。
 森にはこれ以上の脅威はなかったようで、皆、落ち着いて俺たちをを見守っていた。
















*****
皆の前でいちゃつきまくりな二人。
そりゃ見ますよね。
ガン見しますよね。
約一名、特に。

はぁ…久しぶりの二人の絡み、やっぱりほっとします……

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