【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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天使が舞い降りた《前》

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お気に入り3000突破、ありがとうございます!
お礼小話です。気楽にお読みくださいな^^

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 魔物退治に明け暮れた。
 それが俺の生きる意味で価値だから。
 少しでも多くの魔物を倒せば、それが国のためになる。魔物の毒牙にかかる国民が少なくなる。
 父上も兄上も、喜んでくれる。
 第二王子である俺の役割だ。

 王位は望まないと、成人と同時に王位継承権の返上と、陛下、兄上に対する生涯忠誠を誓った。
 二人は何故か酷く悲しげな顔をしていたが。

 そんな日々を過ごしている中、滅多に地上に現れない魔物が、一つの村を襲ったと報告があった。
 俺はすぐに装備を整え現場に向かった。

 魔物に襲われた村は酷い惨状だった。
 それでも避難が進んだのか、村人の被害者はごく少数に見えた。
 村を襲っていた魔物はスライムと呼ばれるものだった。まずいことに物理的な攻撃に関しては防御力が高く、どれほど斬りつけてもそれほど体力を削れない。
 ならば、と、自らの手を斬りつけ、血を剣に纏わせた。
 一時的に魔力を帯びた剣での攻撃は、なんとかスライムに通じるようになった。
 腐食液で俺の身体もボロボロだ。
 それでも俺は引かない。引く理由はない。
 効果が消えれば再度己の血を剣に纏わせ、スライムと対峙する。

 どれくらいの時間、繰り返したのか。
 村に到着し戦い始めたのは昼ごろだったと記憶していたが、今はすでに日が落ち始めている。
 その頃になってようやくスライムの動きが鈍くなり始めた。だが、同時に俺も限界が近い。
 血を失いすぎた。
 目の前が暗くなっていく。

 ここまでなのか。
 せめてスライムは道連れにしなければ…と思ったときだ。
 一瞬空が明るくなった。
 なんだとそちらに目をやれば、空からなにかが落ちてくる。…いや、降りて、くる。

「……は?」

 思わず手を出した。
 片手の平に収まるほどの大きさのそれは、小さいが人の形をしていた。子供体型、と言うんだろうか。妙に丸みを帯びた体に、短い黒髪、そして背中には真っ白な羽根をつけて。
 女神に仕えている天使に似たそれは、俺の手の中でぷるぷると体を震わせながら俺を見上げた。
 真っ黒な大きな瞳。
 それが俺を捉えた途端、嬉しそうに輝いた。
 どうしたらいいのかわからず立ち尽くしていたが、今は戦闘中だということを思い出した。
 小さな天使を手の中に包み込むように守りながらスライムに向き合ったが、直後、小さな天使から光が放たれ、スライムは粉々に散っていった。

「………は?」

 スライムを睨むように見ていたらしい小さな天使は、俺を振り返るとにこりと笑い、ぱたぱたと小さな羽根を動かして俺の顔まで飛んでくる。
 どこかに行くのかと思ったが、天使は俺の唇に、ちゅっと口付けてきた。
 いや、小さいから。
 口付けなのかどうか。顔半分くらいに俺の唇がついた気もしたけど。
 顔を離した天使は、真っ赤になりながら、フラフラと飛んで俺の襟元に必死にしがみついていた。
 ……なんだこれ。
 仕草も何もかもが可愛い。
 小さいから、だけじゃない。
 俺の顔を見て笑うのも、自分からしてきたのに照れまくってしがみつくところも。
 捕まえるのに羽根を掴むのは可哀想だ。首をつまみ上げるのも……痛そうだし。
 色々考えた結果、体全体を包み込むように持ち、襟元から引き離した。
 顔を俯かせ、手も足もだらんとしてる。
 ちらりと俺を見ては視線を落とす。

「……なんなんだ。可愛すぎだろ」

 よくよく見たら黒髪の天使は何も着てなかった。
 男女の区別はよくわからない。未分化、というやつだろうか。
 天使は俺の手から逃れると、また、俺の顔まで飛んできて、同じように口付けをしてきた。
 さっきと違うのは、小さな舌で一生懸命俺の唇を舐めてるところか。
 可愛すぎる……と悶ていたら、体が軽くなった。
 そういえば、スライム戦で感じていた眼の前の暗さやだるさがなくなっていく。傷つけた左手も動くし、何より傷が消えていた。

「癒し…?」

 天使は無言で俺を上から下まで見て回り、最後にとびきりの笑顔をみせてきた。

「……癒やしてくれたのか。ありがとう」

 笑って礼を言うと、天使は両手で頬を包み顔を真っ赤にさせた。
 その姿がまた可愛らしい。

「……いっしょに来るか?」

 聞いてみれば、天使はまた輝かんばかりの笑顔でこくこく頷き、俺の襟元に飛んできた。
 ボタンをいくつか開けて襟元を緩めると、そこにぽすんとはまり込み、満足げな顔を見せる。
 笑ってしまいそうなのを堪えて、村人たちに声をかけ、事後処理に回った。
 天使は他の者がいるときには、俺の服の中から出てこなかった。
 胸元のぬくもりが何故か愛しく感じる。

 城への帰還はいつも以上に慎重にした。
 すぐにでも失くしてしまいそうな儚げな生き物が胸元にいるんだ。慎重にならざるを得ない。
 いつもなら適当に野宿をするが、途中の街などで宿を取った。
 天使は何を食べるのだろうかと果物を出してみたが、ぺろりと舐めただけで顔をしかめてた。
 酸味が強かっただろうか。
 動物の乳を温め砂糖を入れたものを頼み、天使の前に出してみたが、天使は小さすぎた。
 自分より大きな器を見上げて、涙目で俺を見てくる。
 まあ、そりゃそうか。
 かと言ってスプーンですくっても飲もうとしない。だが、俺を見てくる目が、『これを飲みたい』と言っている。
 思案に思案を重ね、俺は小指に甘い乳を付け、天使の前に差し出した。天使は目を輝かせながら、俺の小指を舐め始めた。……小さな舌がくすぐったい。
 とりあえず、色々問題はありそうだが、食事問題は解決した。
 自分の食事も終え、天使を連れて風呂に入る。
 石鹸で全身を撫でるように洗ってやると、顔を真っ赤にしながらジタバタしていた。可愛い。
 眠るときは同じベッドで眠った。
 押しつぶさないようにある程度離れて眠ったのに、朝起きると俺の懐にいて驚いた。ついでに体の大きさも少し大きくなっていたことにも驚いた。相変わらず未分化らしく、男女の区別はなかったが。





 天使との短い旅路は楽しいものだった。
 少しずつ大きくなった身体は、もう両手に載せて丁度いい大きさにまでなったが、相変わらずスプーンから乳を飲むのを嫌がり、俺の指を舐めている。
 それまでの殺伐とした感情など何もないまま、穏やかな気分で城へ戻った。
 父上と兄上に報告したとき、かなり驚かれた。まるで別人のようだといわれた。

「何か良いことがあったのか?」

 父上に聞かれ、思いついたのは天使のことだ。今も服の中に隠れている。

「天使を見つけたんです」

 端的に事実を述べると、父上と兄上ばかりでなく、その場にいる他の貴族の者たちからも驚かれた。
 俺としては比喩表現でもなく正確に事実を述べたのだが、父上は破顔し、

「それはいい。是非私達に紹介してほしい。お前が伴侶にと望む者ができたことは、本当に喜ばしい」
「いえ――――」

 誰かを見初め、天使に例えたわけではなく……と言おうとしたら、上着の下で天使が俺のシャツを握りしめるのがわかった。

「――――いずれ、お気持ちにお応えしたいと思います」

 その答えに満足したのか、天使は大人しくなり、俺は思わず笑っていた。



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