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第7章 魔法が使える世界で王子サマに溺愛されてます。
41 歴史が変わる
しおりを挟む意味わからん。
なんなのギルマス。
俺を抱えてるのに、かるーく、かるーく、家の屋根を飛び越えていくんだよ。下手したら二軒飛ばしくらいで、ぴょんぴょん跳んでるんだよ…!!
上へ下へと揺らされて、久しぶりに感じたのは、内臓がせり上がってくるようなあの感覚。俺ね、絶叫マシーンは苦手なんだよ。超がつくくらい苦手なんだよ!?
「よし」
たん……って軽い音を立てて着地したギルマスだけど、俺はプルプル震えたままだった。
ううう。
地面が揺れてる気がする。気持ち悪い…っ。
先に出たはずの冒険者さんたちの姿も見えないし。
あんな無茶な移動してたら、確かにギルマスのほうが早いよね!
「大丈夫か」
「大丈夫……じゃないです……。ギルマス、いつもあんな無茶なことしてるんですか……」
「緊急時だけな」
ケラケラ笑ったギルマスは、呆気にとられてる門番さんの方に向かい、外の様子を見渡した。
俺も震える足を叩いて、なんとかギルマスの隣に立つ。
「どうだ」
「…見えます。先頭のは……えと、サンドワーム?でも、めちゃくちゃでかい……。多分、門の高さよりも高いです…っ」
「そりゃまた随分育ったな。空は?」
「………ワイバーン二体と、グリフォン……かな。二体」
「歩く魔物辞典だな、お前」
「なんですか、それ。……ギルマス、キラーアントもいる。なにこれ。因縁?」
「空は飛龍に幻獣…、地上は虫だらけ、ってか?人が何したっていうんだか。これが人に与えられた女神様の試練だっていうなら、俺は信仰を変えるな」
「女神様は――――」
「女神さまはそんなことされませんよ。店主さん」
女神様は魔物には関係ないって言おうとしたら、俺の声に声が被った。
振り返ったら、にこにこ笑うラルフィン君と、訓練のときよりもしっかりと装備を身に着けた幼馴染みズがいた。
「ラルフィン君!」
「非常事態だから、って、店主さんに呼び出されました」
呼び出された…って、どうやって。
ここに来るまでの間、オレの前からギルマスがいなくなったのって、部屋に装備を取りに行ってたあのタイミングだけのハズなんだけど。
「……ギルマスって、分身作れるの?」
「何言ってんだ。そんなの作れるなら普段から二、三体作っとるわ」
「店主さん、忙しいですもんね。それより、アキラさま、殿下は?」
「クリスは――――ん、今まだ城。兵士さんをまとめてから来るから」
クリスの魔力は動いてない。
「俺だけ先に来たんだ。……早く動かなきゃ、また沢山の人が犠牲になるから」
「そうですよね。……でも、よりによって西町だなんて……」
ラルフィン君の瞳が少し揺れた。
それに気づいたのは俺だけじゃないらしく、幼馴染みズがラルフィン君の頭を撫でる。
「フィー、俺たちはもう大丈夫だ」
「心配しないで。あの頃よりも強くなったし、何より傍にフィーがいるんだから」
「うん…」
何かあったんだろうな。ここで。
でもそれは、今聞くことじゃないよね。
「ラルフィン君がいてくれたら、本当に心強いよね」
俺も本心でそう思ってる。
そしたら、きょとんとした顔で、ラルフィン君が俺を見た。
「僕は怪我を治すことはできますけど、襲撃を防ぐことはできませんよ?」
「んぇ?」
「だって、こうして余裕を持って迎え撃つことができるのは、アキラさまがその力で事前に察知してくれたからでしょう?」
「違いないな。魔物の襲撃はいつも気づくのに時間がかかる。門番が視認できるようになってから鐘が鳴らされる。…俺たちが駆けつけたときには、犠牲者が何人も出ている状況ばかりだ」
ギルマスはラルフィン君の言葉に同意すると、門の向こう側を見続けながら言葉にした。
俺にとっては二度目。一度目は人為的に引き起こされたものだったけど。
けど、クリスやギルマスは、きっと何度もその辛さを味わって、何度も後悔を重ねてきたんだろう。
「俺、役に立った?」
「これで役に立ってないっていうなら、世の中の魔法師は全員廃業だ」
くく…って、喉の奥で笑うギルマス。
まだ少し距離はあるけれど、土煙のようなものが見え始めた。
「鐘を鳴らせ!」
「は、はい…!!」
門番さんはギルマスの声に、びくりとしながらも怪訝な顔で鐘を鳴らした。
あの日聞いた、低くて大きく響く鐘の音。
周囲の住人の人たちが、わらわらと家から出始めた。
中には「悪戯か!?」って怒る人もいたけれど、ギルマスの「避難しろ!」っていう大きな声に圧倒されてか、言葉を飲み込んでた。
まだほんの少しの距離があって、多分、普通の人には目視できてない。つまりは、魔物が近づいているのを知ることができないっていうこと。
人は目に見えないものは信じない。
でも、目に見えてからでは遅いんだ。
緊急事態を知らせる鐘は、王都中に響いたはず。他の宿の冒険者の人たちも駆けつけてくれるはず。
何人かいる門番の兵士さんたちも、眉間に皺を寄せながらも、住人さんたちに避難を呼びかけている。
「神殿へ向かってください。急いで…!」
神官としてのラルフィン君を知る人も多いようで、「神官様だ」って声をいくつも聞く。
そうしてるうちに、暁亭で見た冒険者さんたちが駆けつけてきた。
それから、クリスの魔力が動いたのを感じた。
同時に、確実に近づく多数の魔物。
「来ます」
俺が門から少し外に出ると、ギルマスとエルフィードさんが隣に並んだ。
「障壁を試せる」
「アキラ、お前は危険を感じたらすぐに旦那のところに跳べ」
「でも」
「自分の安全を第一に考えろ。……いいか。今後のためにも、絶対だ」
「……わかりました」
少し俯きながら答えたら、ギルマスの手が俺の頭をグリグリ撫でた。
「ギルマスっ」
「歴史が変わるぞ」
ギルマスは酷く嬉しそうにそう言うと、門の前方に障壁を張っていく。
エルフィードさんも、それに重ねるように障壁を張った。
肉眼で魔物の姿が見えるようになって始めて、門番の兵士さんたちの顔色が変わった。
……でかいな。サンドワーム。
「俺たちの町を守れ!!!」
ギルマスの声に、集まっていた冒険者さんたちの気合の声が呼応するように響いた。
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