魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜伴侶編〜

ゆずは

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新婚旅行は海辺の街へ

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「オクトパス……というのは、どういった魔物なのでしょうか」

 と、長男さんから聞かれて、こんなん?と、テーブルになんとなくの絵を描いてみたのだけど。

「え…と、は、い…?」

 うん。
 伝わらなかったー。
 絵心がほしいね。
 足が八本だったか十本だったか、そこからして曖昧だった。

「かなり大きくて、ですね。頭をあげると高さは大人の人の四人分以上があって、うねうねと動く触手のような足が沢山あります。その足には吸盤がついていて、一旦その足に絡まれると、抜け出すのが困難になって、そのまま海に引きずり込まれてしまったり、触手のような足に握り殺されたり……します」

 ……言葉にするとかなりやばい魔物だよね。
 たこ焼きは食べたいけど、誰にも犠牲にはなってほしくない。なんなら現れないほうがいいくらいたよね。
 複雑だ。

「なるほど…。海にはそういった魔物も潜んでいるのですね」
「可能性としては、いると思います。…いると思って警戒している方が正しいと思います」

 警戒していて太刀打ちできるかはわからないんだけど…。

 伯爵さんはやっぱり経験を積んでいるのか、俺の話を頷きながら聞いていて、質問をしてくるのは主に長男さんだった。
 長男さん自身はそれほど脅威ではない魔物くらいにしか、出くわしたことがないそうだ。
 でも、長男として、跡取りとして、領民の人たちを守るために鍛えてるんだって。うん、いい人だった。

 知識のすり合わせとか魔物関連の話し合いが終わると、伯爵さんは俺たちをお茶に誘ってくれた。
 クリスとしても今日は外に出るつもりがないらしく、すんなりと了承していたから、俺もついていく。
 クリスから予定を聞かされていたわけじゃないけど、クリスの行くところが俺の行くところだから、なんの問題もない。

 伯爵さんと長男さんに案内されたのは中庭らしき場所。潮の香りもするし、春らしい柔らかい色の花は咲いてるしで、綺麗な庭だった。
 その庭の中央辺りに、屋根付きの場所があって(ガゼボと言うらしい)、すでに伯爵夫人さんとニノンさんもいたから、そもそもそういう予定だったんだろうな。

「どうぞおかけください」

 丸いテーブルを囲むように用意されていた椅子は全部で六脚。俺はクリスの左隣は決定で、クリスの右隣に伯爵さんが座った。…ニノンさんじゃなくて、ちょっとホッとした俺は心がせまいことこの上ない。
 伯爵の隣は夫人さんで、その隣がニノンさん、それから長男さんで、俺。うん。俺の隣、長男さんだわ。

 私兵さんの護衛が数名と、護衛コンビも俺たちの後ろに控えている。
 給仕の侍女さんが紅茶を注いでくれた。初めての香りだった。

 お茶会の席だから、仕事の話はなし。クリスも比較的リラックスモードらしくて、街の様子とか人気のお店とか、そんなことを夫人さんやニノンさんから聞いて頷いてる。

「奥方様、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」

 俺の左隣に座った長男さん………フランツさんが、俺にお菓子を取り分けてくれた。それって侍女さんの仕事じゃないの?って思ったけど、まあ、頂いておく。
 小さなロールケーキみたいなものの上に、カットされた果実が飾られてる。うん。苺。苺でいい。こっちでの呼び名は知らないし。

「ん」

 クリーム甘いし苺甘酸っぱいし、これ美味しい。
 フォークで半分に切った残り半分を、クリスに向けた。

「クリス、これ美味しい」
「どれ」

 って、普通に俺の手元からクリスが食べて、目元を緩めた。

「美味いな」
「ね」
「でしたらこちらもどうぞ」

 …と、またフランツさん自ら俺にお菓子を取り分けてくれる。しかも、紅茶のおかわりまで淹れてくれるんだよね。

「アキ」

 クリスが小さな焼き菓子を食べさせてくれた。
 それを躊躇いなく食べたら、ついっと指で唇を撫でられて微笑まれて、顔が熱くなっていく。

「いやいや。お噂通りですな」

 っていう微笑ましそうな伯爵さんの言葉に、俺はもっと顔が熱くなっていった。






◆side:クリストフ

 妙に馴れ馴れしい。
 自然な動作でアキの隣の椅子に腰掛け、侍女がすべきことまで自分から手を出してくる。
 会議の場ではそれほど目立つ行動はなかったが、アキを見るその視線には少々苛立ちを覚えた。
 あの男はアキを見すぎている。
 王族の伴侶に対して気を遣っているにしても、あの目はアキを観察している目だ。事細かにアキを知ろうとする目。
 かつての魔法師長だったレイランドが、アキに向けていたような厭らしさを含んだ視線ではなく、エアハルトのような度が過ぎた敬愛の視線でもない。
 けれど、俺が不快になるくらい
 何を企んでいるのか。
 アキに懸想している目だとも思えない。
 さり気なく椅子を近づけアキの腰を抱き、口元に菓子を運び柔らかな唇をなでても、それをじっと見ていたその男は動じることも苛立ちも見せることもなく、ただニコニコと笑っている。
 ちらりと見た伯爵と夫人に変わった様子はない。…令嬢だけが表情を強張らせている。
 オットーとザイルも何かを感じ取っているのか、ピリピリとした緊張が伝わってきていた。

「クリス?」
「ん?」

 アキに呼ばれ目を合わせると、すぐにアキは笑顔になる。

「お菓子美味しいね」
「そうだな」
「明日、街の方にいらっしゃるのでしたら、私がご案内いたしますよ、奥方様。殿下とこちらで人気のある菓子店でお茶をするのはいかがですか?」
「行きたい」

 その男の案内、ということに不安がないわけではないが、アキのこの笑顔には逆らえるはずもなく。

「じゃあ頼もうか」
「うん……楽しみ!」
「ご満足頂けるよう務めさせていただきますね」

 後ろからも張り詰めた気配が消えた。
 結局、俺たちは誰もアキの笑顔には敵わないということだな。


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