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俺が魔法師である意味
46 ワルセ村に到着
しおりを挟む花びらを練り込んだクッキー。
クッキーを入れる保存用のガラスの瓶。
魔力暴走を起こしてるかもしれない妹ちゃんへの対処はとりあえずこれだけ。
マシロバッグには多分たくさんの花びら。
濃紺の制服にマントを羽織って、移動はおそらく必要ないからとお馬の準備はしない。
マシロをクリスが抱き上げる。
…あっという間に準備は整った。
まだオロオロしてるトビア君は、エアハルトさんに手を繋いでもらった。
「お気をつけて」
執務室から移動するから、ザイルさんはその場で見送ってくれる。
「はい。行ってきます!」
俺がそういうのと同時に、アルフィオさんの精霊魔法が発動する。
眩い光は一瞬のこと。
眼前の景色が執務室から外の景色に変わった。
「え、え…!?」
驚いているのはトビア君だけ。
移動魔法を何回も経験してるわけじゃないけど、クリスも、オットーさんもエアハルトさんもなんの動揺も見せない。
少し開けた場所で、木の柵で囲われた村が見える。ざっと感知を走らせてみたけれど、とりあえずの魔物の気配はない。
「あそこがトビア君の村であってる?」
「え、そ、そうだけど、でも、なんで」
「移動魔法だよ。……正確に言うなら精霊魔法だけど」
「移動……精霊……?」
そりゃ、困惑するのは仕方ない。
それより、とにかく村に行こう。
呆然気味のトビア君を連れて村に向かう。
村の入口には多分村の人が二人見張りに立っていて、トビア君を見ると驚いた顔をした。
「トビア、どうした!?王都に向かったんじゃないのか」
「あ、あの」
「途中で戻ってきたのか?あ、そうか。この人たちに保護されたのか?だから言っただろ。王都までひとりで行くなんて無謀だと…っ」
「え、と」
「こいつを保護してくださってありがとうございま、」
トビア君のことを心配してたらしい見張りの人が、改めて俺たちを見たんだけど、マシロを抱っこしたままのクリスを見ると不自然に言葉が途切れた。
「……!!で………殿下………!?」
「ひ!?」
声にならない悲鳴というか。
突然王族が訪ねてきたら、そんな反応になるのも仕方ないよね。クリス、あちこちに顔は知られてるはずだし。
あたふたと膝をつく見張りのお二人。ちらりとクリスを見上げたら、特に怒ったり不快な顔はしていない。普通顔。
「村に入りますね」
「は、はい…!!」
オットーさんがお二人に声をかけた。恐縮しきった見張りのお二人は、頭を下げたまま上ずった声で返事をする。
「……俺は怖いか?」
「へ?」
村の中に入ってからクリスが神妙な顔で聞いてきた。
なんのことと言いかけて、見張りさんの態度のことを思い出す。
ああ。確かに怖がってるようにも見えるよね。
「怖くはないと思うよ?無表情でマシロを抱っこしてる姿はちょっと不思議な感じがするけど」
クリスのこの表情は警戒してる仕事用だってよくわかってる。少し気を抜くといつもの笑顔になることも知ってる。
「ういす、おかお、こあい」
……と、マシロがクリスの顔をペチペチと叩いた。
吹き出したのはオットーさん。
「わかったから叩くな」
「うむぅ」
ふ…っと、クリスの表情が和んだ。緊張というか警戒を解いたような。
村の中を進んていくとあちこちから視線を感じた。
戸惑いは「殿下がどうして村に来たんだ?」ってものだろう。俺たちに付き添われてるトビア君にも興味津々な視線が注がれてる。
「あー……、もしかして、顔を隠してきたほうが良かった?」
「いや。この方が話が早い」
「そう?」
「私は先に村長宅へ向かいます」
「ああ」
オットーさんが離れた。
適当に村人さんに声をかけて案内してもらうようだ。
「……ねぇ」
「なに?」
相変わらずエアハルトさんと手を繋いでいるトビア君が、相変わらず困惑気味な声で尋ねてきた。
「……なんで、俺の家、知ってんの?……」
「ん?」
俺とクリスは先頭を歩いてる。
トビア君たちは俺たちの後ろ。
「知らないよ?」
「…は?」
「トビア君の家がどこにあるかは知らない。俺、この村に来るの初めてだし」
「じゃあ、なんで」
「だって、こっちでしょ?」
村の奥を指差すと、トビア君の表情がもっと困惑の色を濃くした。
「そう、だけど、でも、どうして」
「魔力が視えるからね」
不安定で大きな魔力のゆらぎが視えてる。……や、感じる、のかな。
トビア君はそれきり何も言わなかった。
本当ならすぐに跳んで行きたいくらいだ。けど、それだと目立ちすぎる。どういうふうに話の方向をつけるのかわからないけれど、子供が二人とも魔水晶持ちだということを隠しておきたいということなら、下手なことはできない。
現状だけなら、病に伏してる妹のためにトビア君が王都に行って、偶々クリスに会えた…ってことにはできるはずだ。かなり苦しいけど。
でも、ここで俺が派手に魔法を使ったら、それだけで何かを勘ぐられるかもしれないから。
……きっと、そこんとこはクリスが何か考えてくれてるはず。俺はその流れに乗るだけでいい。クリスが出した答えなんだから。俺にとってもそれが最善になる。
結局、一番面倒なところはクリスに丸投げ状態な思考の俺だけど、村の端にある家に着くと、そんな思考もどこかに行った。
「父さん、母さん――――」
トビア君が前に出て玄関の扉を開けたとき、家の中から突風のようなものが吹き付けた。
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