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自由の国『リーデンベルグ』
3 …俺は勉強好きじゃないけどね?
しおりを挟む頭の中がぐるぐるしてたときにクリスを補給できて、カオスだった頭の中が少しクリアになった。
どうクリアになったかって、この世界の理をすべてしっかり把握してるとは言い難い俺がうんうん悩むよりも、知ってる人に聞けばいいんだ、っていう、まあ、ぶっちゃけ開き直りだ。
「というわけで、相談役!」
対面のソファに座ったギルマスが、ぴくりと笑顔を引きつらせた。
「どうしたら魔法学院ができるのか教えてください!」
建物のことじゃなくて、中身のことね。
場所はこの間の北町お菓子会のときに検討できた。やっぱり中心部がいいからそのあたり。できれば近くに魔法師棟も作りたい。
具体的な場所は、これからお兄さんや陛下と要検討、要承認なんだけどね。
「何を教えたいんだ?」
逆に聞かれてしまった。
何を教えたいか。
…何、だろう。
「魔力の制御の仕方とか……」
「一応『学院』というからにはそれなりの年齢基準を作るんだろう?学院で学ぶような年齢のやつに制御できてないやつはいないな。坊主が考えてる制御ってのは、クレトみたいに小さな子供に対してだろ?『学院』の枠組みの中でやることじゃねぇ」
「じゃあ、それは学院の施設内に専用の場所を確保して、お菓子会が普通に開けるみたいなことをしたいです。…できれば、小さな子たちに遊びながら魔力を使う方法とかも教えてあげたい。そしたら、暴走事故も減ると思うし」
「それならそれでまとめておけ」
「はい」
学院を作りたい大前提が小さな魔法師たちへの指導と保護だから、そこだけは「こうしたい」ってはっきり言える。まだまだ具体的な肉付けはできてないけど。
「他には?」
小さな子どもたちにじゃなくて、それなりの年齢……トビア君とか、俺と同年代くらいの人に教えたいこと。
「魔法は攻撃にばかり使うものじゃないってことを教えたいです。ナディアさんもマウリオさんも、自分がいた環境の中で生活に溶け込むような魔法の使い方をしてました。…トビア君だって、家の修復とかを魔法でしてました。だから、そういう、生活にもちゃんと役立つんだよってことを知ってもらいたいです」
「坊主らしいな」
「だって、魔法はすごく楽しいことなのに、傷つけることばかりに使うのは悲しすぎるから」
魔法が使えるってすごくわくわくすることなんだよ。だから、せっかくの剣と魔法の世界に転生したのに魔力が少なくて魔法が使えないことにショックを受けたリアさんの気持ちはよくわかる。きっと、俺がそうでも泣く。
誰もが魔力を持っているのに、誰でも使えるわけじゃない魔法。
だから、自分は特別っていう気持ちを持ちやすいんだと思う。だけどそうじゃない。特別なことじゃない。たまたま、魔力が高かっただけ。
魔力至上主義みたいな考え方をする人がいてもおかしくない。それこそ、前の魔法師長のように。
逆に、少数は迫害の対象になることもある。自分と違う力を持つものを、人は恐れるという、あれだ。
「偏見も差別もいらない。魔法とは直接関係ないけど、倫理観とか大事だと思う」
そんな教育をしても、いじめも差別もなくならないことは、よく知っているけれど。でも、あがきたい。やれるだけのことはしたい。そのための教育機関のはずなんだ。
難しいと感じるのは、この国にある教育機関が士官学校しかないことだ。士官学校は主に貴族の子息子女が通う場所で、騎士、文官を育てる機関。
でも、入学の義務はない。なので、長男長女など後継ぎはあまり入学しない。将来騎士団に入りたい、文官として勤めたいという主に跡取りにならない次男次女より下の人が入学することが多い。
士官学校を卒業しても試験に合格できないと職につけないし、士官学校に入学しなくても実力が備わっていれば試験に合格できて職につける。
なんともまた微妙な立ち位置の士官学校だ。
そんな士官学校は俺が思う学校とはちょっと違う。だから参考にならない。
平民の学習に関しては、神殿や地方の教会がその役割を果たしてる。けど、多忙な神官だから、できることは文字の読み書きを教えることくらいっていうのを聞いた。
だから、これを期に平民が普通に通える学校設立とか計画してもいいと思う。
勉強嫌いな俺が言うのも何だけど、読み書きは基本として、国の歴史を知ったり、計算ができるようになったり、誰でも同じ教育が受けられるっていうのは絶対必要だと思う。その後の職にもつながるだろうし。
大事なことなので何度も言うけど。
こんなさも教育熱心で偉そうなことを言ってるけど、俺は勉強は好きではない。成績も中の中だった。うん。
「ーーーーまあ、そんな感じで」
平民の学校云々は置いといて、魔法学院にかける情熱的なもの(多分、異世界における学園モノなんか定番中の定番でしょ、というリアさんに毒されてそうな考え方が根底にある気もする)を、なんとか伝えきったと思う。
黙って聞いててくれたギルマスは、ふむ、と頷いたあと、真剣な顔で俺を見て、
「坊主、お前、リーデンベルグに行ってきたらどうだ?」
……と、至極大真面目な顔で言った。
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