あの日、あの場所、君に出逢えた奇跡

ゆずは

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君に出逢えた奇跡

1 俺という存在

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 自由の国リーデンベルグ。
 賢王と名高いテレーゼ・イリア・リーデンベルグ女王である。リーデンベルグの古い歴史の中でも、「女王」の地位を得た女性は片手で足りるほどしかない。彼女の才覚は並の男たちよりも秀でており、現在のリーデンベルグ国はかつてない平和の中にあった。

 女王が住まう国の中枢―――ヴェゼル王城は、小高い丘の上にそびえ立つ。王城の門から続く道の先には、活気に溢れた城下町コルドーがあり、高い城壁が王城と城下町を守護している。

 国土は平地と山が多く、海には面していない。その為、隣国の海産物と特産品である果物の等の貿易が盛んに行われていた。

 「自由」の名の元、国民は様々な商売を手掛け、生産者は品質の維持とともに改良までも行う。当然、「自由」にも制限はあり、法を侵すような行いや商売には厳しい罰則も設けられている。
 「自由の国」の象徴でもあるかのような城下町コルドー。様々な人種が行き交う交易の中心。女王のお膝元の城下町は、今日も活気に溢れていた。





 俺は、18歳の成人の儀を終えてからすぐに騎士団に入隊し、現在は城下町警護の任についている。
 騎士団に入隊してから既に7年が経った。

 伯爵家の嫡男として、それなりに体を鍛え、それなりに知の部分も磨き、騎士として皆を守れるよう剣の腕を磨いた。
 幸いなことに魔力にも恵まれ、胸元には常に魔水晶を下げている。
 最も、魔法を扱う繊細さは持ち合わせていない。以前この国にいた最高峰の魔術師から、魔法を使わずとも、剣に魔力を乗せるやり方を伝授してもらい、これと言って魔力が暴走することもなく今まで過ごしてきた。

 ライトブラウンの髪は戦闘に邪魔になるので、短く切りそろえている。
 母親譲りの深い緑色の瞳は、他者からは温和に捉えられることが多い。
 そのせいか、他家の令嬢などから声をかけられることが度々あり、正直瞳の色を変えたくなる。

 国を出たらしい最高峰の魔術師と、幼少の頃から懇意にしていたという事実があるためか、近衛騎士団にも誘われたが丁重に断った。あの気高い女王の近辺を護衛できるほどの実力は持ち合わせていない。
 現在所属している城下町警護騎士団の団長や、他の団長からも、副団長として任につかないかと打診されたことがあったが、全て断った。
 俺に実力が伴っていないのはわかっている。下手に目立てば、伯爵の位を授かる父に迷惑がかかる。
 明らかに自分の能力が足りない役職につくくらいならば、身近にいる国民のために剣を振るい、守りたいと思う。その方が皆のためになる。

 こんな俺でも、一応は伯爵家の嫡男という立場がある。
 普通であれば成人の義を受ける頃には婚約者がいてもおかしくはないが、どうにも俺は妻を迎えるということに何も感情が動かず、25歳の今まで、父が勧めてくれた婚約話も、申し込まれた物も、全て断ってきた。
 俺とは違い何事にも秀でた弟は、早々に妻を娶り、既に長男が誕生している。
 父は俺を見限り、弟を時期当主とした。
 それに対し、嫉妬や怒り、絶望感など、生まれるわけもない。
 弟のほうが相応しいと、俺自身も思っているからだ。
 それからは、結婚に関して父から何かを言われることはなくなった。
 いずれ家を出る俺に対して、父も母も今までどおり温かな家族として接してくれている。これほど優しい家族にに囲まれ、俺は本当に幸せだと感じていた。
 彼らが住まうこの城下町を、俺の手で守っていけること。それがなによりも誇らしかった。


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