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君に出逢えた奇跡
7 エメラルドグリーンの瞳
しおりを挟む「シエル?」
己の身体が震え始めたのを感じた。
客と思い笑顔を向けた彼の瞳は。
怯えた表情で俺を見た彼の瞳は。
力なく俺を見上げ涙を流した彼の瞳は。
――――エメラルドグリーン
あの日出会ったのは、人を魅了するアメジストの瞳。
忘れることのできない色。
容姿も、声も、髪色も、すべてが同じなのに、その瞳の色だけがかけ離れた色。
ゴクリ…と、喉がなる。嫌な汗が背中を流れ落ちた。
俺は、何ということを……っ!!
青ざめた顔色でぐったりした少年を抱き上げ、店の奥へと進む。案の定、店舗の奥は居住スペースになっていて、居間に少年を横たえた。
目元の涙を指で拭い、深い後悔に嘆息する。
「……すまなかった」
謝罪して済むものではない。
髪色も容姿も何もかも違いなどなかった。記憶の中に色濃く残るシエルそのものだった。けれど、この少年は別人なのだと、はっきりと意識する。
記憶の中のシエルを追い求め、瓜二つの少年にシエルを重ねた。「違う」という判断すらできないほど追い詰められ、シエルを欲していた。正常な判断を奪われるほどに。
どれほど後悔し謝罪を重ねたところで、自らの罪がなくなるわけではない。少年を犯した事実は変わらないのだ。
…逃げるつもりはない。
どんな罵りも受ける。
騎士として職も資格も失うだろうが、それだけのことを自分はしてしまった。
少年が望むだけの償いをしよう。
許されなくていい。
父上にも母上にも謝ろう。不安も負担もかけてしまう。
愚かな、俺の行いで。
嘆息し、頭を振る。
今考えることではない。
横たえた少年の身体は少し震えていた。
涙は流れたまま。
青白い顔色に、ずきりとまた胸が痛くなる。
上着を少年にかけてから店舗に戻り、出しっぱなしになっている看板を店舗内に戻し、扉を施錠した。カーテンを引き店舗内が更に暗くなる。店舗内に設置されているランプに明かりを灯し、改めて居間に戻った。
ざっと見渡し、勝手に室内を物色することに内心謝罪を繰り返しながらタオルと手桶を見つけ出した。桶に水を張り、魔力を使ってそれを温める。
「…華奢だな」
湯が跳ねないよう注意しながら、アルフレッドはタオルを濡らし、少年の頬に当てる。
「……ん」
微かな声に目を覚ましたかと覗き込むが、少年の瞳は開かない。
何度もタオルを濡らし、少年の身体を拭いていく。
一旦上着を取り、少年のシャツのボタンを留めてから上着をかけ直す。
少年の下肢を拭うときには、流石に手が止まった。
「……出血は……とまったか…?」
臀部から下肢に流れこびりついた精液と血液を丁寧に拭う。
中にはまだ精液が残っているだろう。裂けただろうから薬を塗ったほうがいいが…。
下肢を拭い終わり下着もズボンも整えてからも、逡巡し続けた。
手持ちの薬はない。薬を手に入れるためには一度店を出なければならない。その間に少年が目を覚ましたら、己を犯した者が逃げたのだと普通に思うだろう。これだけ傷つけた少年の中にまた指を挿れる行為も躊躇われる。
考えがまとまらない。
不甲斐ない己に嘆息し、少年の額にかかる前髪を指で流す。
「…どう償えばいい?」
少年が望むことをしよう。金が必要だというのなら、必要な分を。物であれば溢れるほどに。『首』を差出せというのなら、躊躇いなく。
「……」
涙の止まった目尻を撫で、室内をぐるりと見回した。
散々物色したあとだが、ふと違和感を覚えた。
「…住んで、いるんだよな?」
日用品があまりにも少ないように感じるのだ。ここはただ休憩するための空間で、自宅は他にあると言われれば納得できるほどに。
少年を改めて見つめると、頬には少し赤みが戻ってきていた。
そのことに、ほ…っと息をつく。
何度か頬をなでた。
「……ん」
少年が身動ぎ、薄っすらと瞳を開ける。
「…っ、シ」
名前を呼ぼうとした口を閉じた。
「っ!!」
少年は俺を見て、目を見開き、口元を震わせ上体を起こして後退った。
「触らないでください…っ」
震える声に、己の手を強く握りしめる。
「触れはしない。…申し訳なかった。謝って済むことではないが――――」
壁際まで後ずさり、少年は膝を抱えて縮こまった。時々、痛みに表情を歪め、震える身体をなんとか押さえつけていた。
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