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君に出逢えた奇跡
9 開かない扉
しおりを挟む罪を犯した翌日、俺は休みだった。
朝は毎日変わらない。
鍛錬をし、汗を流し、朝食を摂る。
今までなら、その直後から森に出向いていた。
日が沈むまで、ずっと探し続けた。
けれど今日は、そんな気分にはなれなかった。
朝食後自室に戻り、ソファに座り目を閉じる。
浮かぶのは泣き濡れたシエルの顔。
彼はどんな様子だろう。
寝込んではいないだろうか。
何ができることはないだろうか。
話してもらえるだろうか。
会ってもらえるだろうか。
「……会いたいのか?」
自嘲する。
彼は、俺に二度と会いたくないだろうから。
けれど、彼が無事であるか確認したい。
もし少しでも手伝うことがあれば手伝いたいし、助けになるなら助けたい。
身勝手な理由。
シエルは嫌がるだろう。
追い返されるならそれでいい。
罵詈雑言を浴びせられるならそれでもいい。
感情を、むけてくれたら。それだけで。
思考がまとまった。
なら、行動しなければ。
気づけば太陽は中天。
部屋を出れば侍女が昼食の時間を知らせてくるが、不要だと一言伝え屋敷を出た。
当然、目指すのは『シエル』だ。
様々な感情が押し寄せる。
『シエル』についたとき、思わずため息をついた。
看板はでていず、昨日は早朝でも飾られていた植木鉢も、店舗前から撤去されている。
昨日の今日だから、休んだのかもしれない。
店先にはゴミも何も落ちていない。
扉はしっかりと閉じられ、念の為…とドアノッカーを鳴らしても応答はない。
店の窓全てにカーテンが引かれ、店内を覗き見ることすらかなわない。
時間がまずいのかと思い、一旦屋敷へ戻った。
頭に全く内容が入らない読書をして過ごし、もうすぐ夕方という時間に、再び『シエル』を訪れる。
店舗は何も変わりなかった。
幾分躊躇しながら扉のノッカーを鳴らしてみたが、やはり中から反応はない。そもそも、人がいる気配すらしなかった。
「……シエル」
開かれない扉に額をつけた。
明日、また様子を見に来よう。
重い足取りで屋敷に向かう。
振り向いても店舗はひっそりとそこにあるだけだった。
店舗を引き払った…のか?
心の中に、焦燥感が広がる。
二度も『シエル』を失うのだろうか。
自分の思考に背筋が震えた。
失うも何も、何も手に入れていない。
紫の瞳のシエルは俺の手をすり抜け、緑の瞳のシエルは俺が汚し拒絶された。
いつの間にか、俺の頭の中は二人のシエルで埋め尽くされている。
重なる容姿。
瞳の色だけが異なる。
いつの間にか日は落ちていた。
もう一度ノッカーに手を伸ばしてから…、嘆息し、手を引き戻す。
落ち着こう。
とにかく明日だ……と、自分に言い聞かせ、家路についた。
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