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本編
友兄がいなくなりそうで
しおりを挟む呆然としたまま聞いていた俺の額に、おやすみのキスが降りてくる。
確かに、一緒に寝るのは嫌だって……思ったけど。
「やだ」
離れて行こうとする体にしがみついていた。
「理玖?」
「やだ…だったら、俺もそっちで寝る…っ」
「理玖……」
怖い。
なんだか、友兄がいなくなりそうだ。
折角、一方通行の想いじゃないってわかったのに。……大好き、なのに。
「やだ……やだよ……っ」
大きな手が背中をなでてくれる。
「一緒に…」
友兄が俺のことを気遣ってそう言ってるんだと思った。
…でも、もし、友兄が俺と同じベッドで眠ることを嫌がっているのだとしたら?
美鈴さんのために、俺と距離を置きたいと思っているのだとしたら…?
「……っ」
背筋を冷たいものが流れ落ちた。
自分の嫌な考えに、ゾクリと悪寒が走る。
そこに…友兄のため息が聞こえてきて、思考はますますどん底に落ちていく。
「…わかった」
拒絶の、言葉ではなかった、けれど。
「友兄……」
唇が震えた。
友兄が俺から離れていく、その恐怖に侵される。
「友兄…、俺を…、抱いてよ」
「理玖?」
「抱いて、俺のこと。………『抱きたい』って、言ってたじゃん…」
友兄に抱かれれば…この不安は少しはなくなるような気がした。
俺に縛り付けていられる…そう、思った。
けど、友兄の答えは「Yes」ではなくて。
「……今日は何もしません。そんなに焦らなくていいから」
「………」
言葉と同時に強く強く抱き締められた。
…涙が、出てしまう。
「まあ、抱き締めて眠るくらいのことはするけど」
少しおどけた言葉でも、心の中に温もりが生まれない。
胸がキリキリ痛む。
抱かれたいと願っているのに、抱いてくれない。
抱きたいと思えるような魅力がないからだろうか。…俺のような子供を相手にするんじゃなくて、やっぱり美鈴さんのような大人な女性がいいんだろうか。
顔が、上げられない。
「理玖、布団に入ろうか」
腕を解かれても、俺は動けないでいた。
どうしようもないほど足が竦んでいて。
逃げ出したい。
そう強く強く願っていた。
「体が冷えるから」
友兄はそう言うなり、俺を横抱きに抱きあげてきて、すとんとベッドに下ろしてしまった。
「…友兄」
涙声だった。
潤んでしまった目元から雫が落ちるのをなんとか堪えていたけれど、声までは隠せない。
「理玖」
友兄もこの間のように俺の隣に体を滑り込ませてきた。そしてすぐに、両腕に抱きこまれる。
「理玖……。もし、何かあっても、理玖は俺の言葉だけを信じていて」
友兄の思いがけない台詞に、胸に押し当てていた額を離して顔を仰ぎ見た。
「俺は貴方を愛している。他の誰でもない、貴方だけを」
…『好き』っていう言葉から、いつの間にか『愛してる』に変わったもの。
「だから…お願いです。俺が、理玖に直接話すことだけを、信じていてほしい」
「友兄…?」
「理玖が美鈴とのことを悲しんでいるのはわかってる。……俺が愛しているのは理玖だから」
友兄の腕が、より強く俺を抱きしめた。
「愛してる。……俺には、理玖だけいればいいから」
「…友兄…」
「信じてくれる…?」
いつもより早い胸の鼓動が、友兄らしくない緊張を伝えてくる。
「………………うん」
そうとしか、答えられなかった。
信じたい。信じたいんだよ、友兄。
でも、どうしても……、すぐに信じられるほどの大人でもないし、何より自分に自信がない。
これからどうなってしまうんだろう…って思いながら、友兄の背中にまわした腕に力を込めた。
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